表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】異世界移住パッケージ~保証付きスローライフだと思っていたら拾った男が訳アリ王族でした  作者: 水月A / miz
事端編*暁の境界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/90

087 THUS このように、したがって~

 王都の長い夜が間もなく明けようとしていた。


 薄い霧の向こうで、昨夜の炎がまだ赤く燻っている。

 石畳には煤が黒くこびりつき、焦げた木片が転がり、街全体が火と魔力の残り香をまとっていた。


 ユウは、負傷者の手当てに追われていた。

 夜明け前から休む暇もない。

 つい先日も災難に見舞われた王都の民たちの動きは、いっそ連携がとれている。


「この薬草、煎じて飲んでください。痛みが和らぎますから」

「ありがとうございます……」


 衛兵が震える手で湯飲みを受け取る。

 胃へと流れ込むのは、ただの暖かさではなく、取り戻せそうな日常の気配だ。


 少し離れた場所では、ルクスとシェルダンが、リーグベルたち研究所の術師に交じって、焦げ落ちた魔導結界の修復作業を続けていた。

 結界痕はまだ赤く脈打ち、火の魔力が残っている。


「シェルダンさん、この術式、どう思います?」

「ええ……カーネリア式ですね。でも、少し古い。おそらく十年以上前の様式です」

「ということは、魔導院のジジィ共が関わっているのか……」

 

 二人は無言で頷き合い、刻まれた魔術痕を慎重に読み解いた。


 王宮の私室では、オレリアス、ロシュディ、グレイド、ゼルキオンが顔を揃えていた。


「まずは礼を言わせてくれ、ゼルキオン殿」

 オレリアスが深く頭を下げた。

「貴公がいなければ、この王宮は今頃、灰になっていた」

「いえ。ただ、なすべきことをしただけです」

 ゼルキオンの顔には、疲労の色が濃かったが、瞳は凛として揺るがない。

「それよりも、カーネリアの動きが気がかりです」

「撤退したとはいえ、諦めたわけではないということか」

 グレイドが険しい表情で言う。

「ええ。魔導院はフェルギスの資源を欲している。おそらく再び――」


「いや」

 ロシュディの声が、静かに空気を切った。

「しばらくの間、襲撃はないと予測している」


「何故言い切れる?」


「──神獣を見たからだ」

 ロシュディは、遠く窓向こうに視線をやった。

「カーネリアは、神獣を宿す国に手出ししないだろう。少なくとも、軽挙は避けるはずだ」


「だが、魔導院は……」


「彼らの暴走を、止めます」

 ゼルキオンが立ち上がった。

「真実を公表します。アーディナ王女殿下と共に。──そして政権を奪還します」


 翌朝。

 王宮の謁見室で、アーディナはソルディアと共にオレリアス王の前に立っていた。

 彼女の瞳には、昨夜までの影がなかった。

 あるのは、確固たる意志だけ。


「我が弟ともども、大変お世話になりました。私もまた、我が国を正さなければなりません。父上や兄上を屠り国を操る魔導院……これ以上放置はできません。貴国にも多大な損害を負わせてしまい、いかようにして償えば良いか、今はまだ考えが及びませんが……いつか叶うなら、両国の間に友好を築きたいと考えています」


「すぐの貴国は危険ではないのか?」

「ゼルキオン様がついてくださいます。そして……弟も、います」


 アーディナの隣で、ソルディアは迷いなく頷いた。

 オレリアスは、静かに微笑む。


「そうか。ならば、せめて護衛を――」


「いえ、大丈夫です」


 アーディナは自分の胸に手を当てる。


「私は魔女の血を引く者。この力を正しき方向に用い、カーネリアを救います」


 カーネリア使節団出発の朝、ユウはアーディナに薬草の包みを渡した。


「これ、旅の間に使ってください。傷薬と、疲労回復の薬草です。あとお弁当、じゃなくて、携帯糧食。甘くてお腹もいっぱいになるし結構、自信作です」

「ありがとうございます、ユウ様」

「様なんて、やめてください。私はただの――」

「いえ」

 アーディナは、優しく微笑んだ。

「貴女もまた、――魔女です。そして、私の命の恩人です」

 ユウは、少し照れくさそうに一度俯いてそれから顔を上げた。

「じゃあ……魔女ともだち、ですね」


 ゼルキオンは、ロシュディにこそりと耳打ちをした。


「神獣を宿しいつか王となられる貴方に、一つ忠告を」

「何でしょうか」

「王冠は、重い。だが、一人で背負う必要はないと存じます」

 その言葉に、ロシュディは小さく微笑んだ。

「肝に銘じます」


 それから三日後。

 オレリアスは、新議会を招集。

 大臣たち、貴族たち、軍の幹部たちが集まる中、静かに王が立ち上がる。


「皆に、伝えたいことがある」

 謁見の間が、静まり返る。

「私は、王位を退こうと思う」


 その短くも譲らない言葉に、場が騒然となった。


「陛下! 何を仰るのですか!」

「まだお若いのに!」


「――此度の混乱は、私にも罪科があると思う」

 彼は、ロシュディを見た。

「愚王を廃し、新しき時代を迎えるにあたって、この国には、新しい力が必要だ。神獣を宿し、始祖の血を継ぐ、若き力が」


 ロシュディは、視線を伏せたまま微動だにしない。


「ロシュディよ。お前なくしては、解決に至らなかったと思う」

 オレリアスは、月水晶で設えられた王冠をゆっくりと外した。

「この重さを、今度はお前が背負う番だ。頼めるか」


◇◇◇


 その夜、ロシュディは王宮の庭園で、一人月を見上げていた。


「さすがに……重いな」


 呟く声は、どこか寂しげだった。


 不意に足音がして、振り返ると、ユウが立っていた。


「ロシュディさん……様?」

「おい、やめてくれ、その呼び方は」


 ロシュディは苦笑した。


「俺は、まだ何も変わっていない」


「でも、もうすぐ王様になるんだよね」

 ユウは、隣に並んだ。

「……怖い?」


「怖い」

 ロシュディは、正直に答えた。

「この国を、人々を、守れるのか。失敗したら、どうなるのか」


「でも、ロシュディさんならきっと大丈夫な気がする」

「何故、そう言える?」


「だって」

 ユウは、微笑んだ。

「いつも正しいことをしようとする人だから」


 ロシュディは、ユウを見つめた。

 月明かりに照らされた彼女の横顔が、あまりにも美しくて、言葉を失う。


「……ユウ、君は、この先どうするつもりだ?」


 ユウは、少し考えてから答えた。


「うーん、エオルトリアに戻ろうかなって。一応、あの……高地の魔女ですし……掃除とか全部中途半端にしてきちゃってるし、地下室の謎もまだ全然解けてないのばっかりだし」

「そうか……」


「でも」

 ユウは、ロシュディを見上げた。

「時々、王都に遊びに来たいかも」


「――ああ、いつでも」


 二人の手が、そっと触れ合う。

 握手ではなく、恋人の繋ぎ方でもなく、ただ確かな繋がりを確認するように。


「俺は――」

 言葉を探すが、見つからない。


「えーっと、また、お茶しましょう!」


 言葉にならない想いが、夜空に溶けていく。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ