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プロローグ

BGMのように、頭の中にうっすらと声が聞こえるようになったのは、いつからだっただろう。

転職先の会社で人間関係や仕事にもまれながらも、なんとか日々を送っている芽衣。大人しく素直で、人とのもめごとを苦手な彼女の頭の中には、いつも口の悪い声が聞こえる。

声が聞こえるようになったのは、いつからだっただろう。


(あ~、まだ会議終わらんの?もう昼になるて。はよ終わろうや)


10時から始まった会議は、1時間の予定をしていたがすでに11時18分。まだ最後の議題にも行きついていない。


「確かに2つ目の案もいいけど、でも今までのお付き合いの中でお客さんにとっては1つ目の案の方が受け入れやすいんちゃうかな?」


(もうどっちでもええて、さして変わらんやん。ちゅーかお客さんに選んでもろたらええやん)


1つ目の案は今までの型に則った案で、2つ目が新しく考えた案になるのはわかる。2つ目の方が効率よく現場の人たちも勧められるだろうってことも。けどうちの会社は1つ目の案みたいな型をお客さんに提案してたから、1つ目を推しているんだろう。その方が、提案する方も楽だと思うし──でも今までの流れがはっきりとわかってないからなんとも言えないし、私が口を出す場ではないんだろう。

そっと会議で意見を出し合う人たちの意見に、私は耳を傾け、頷き続けた。


(それあんま意味なくない?誰に対してアピールしてるん?意見言わんのやったら一緒やって)


ホワイトボードの前で話すファシリテーターが、壁にかかっている時計を見上げた。


「えー、会議時間も大幅に過ぎているので、今日ここで終わりましょう。結論はまだ出ていないので、各自もう一度考えて、今週中に改めて話し合うということで!お疲れ様でした~」


それを合図に、会議室のあちこちから、お疲れ様でーす、と少し気の抜けるような返事が上がった。


(いや、すぐ決められんようなことなら事前に話共有しとこうや。また会議とか、だっるっ)


頭の中でBGMのようにとめどなく流れる声を遮るように、ノートパソコンをパタンと閉じた。




(はぁ~、もう昼やん。お腹減ったわぁ。はよ昼休み来んかな)


ハンハハーン♪とでたらめな歌がうっすらと響く中会議室を出ると、さっきまで会議室に入っていた人たちのすでに電話対応や業務にかかっていたりと忙しそうな背中が見えた。私がひとり会議室の椅子や机の配置を整えている間に。

自席に戻りつつ、頭の中で今日の会議を反芻した。

議事録当番だったけど、まだ全然書けていない。ほとんど議論してただけで、決定したことが少ない。どこまで書いたらいいのか悩む。

議事録は苦手だ、いつも半角全角の表記から、言葉遣いまで赤ペンが入る。入れてもらえるだけありがたいのかもしれないけれど、緊張する。

はぁ、と小さなため息を漏らしつつ、席についた。


「お疲れ~、もう会議めっちゃ長かったよなぁ」

「お疲れ様です~」


隣の席の相川さんがどうぞ、と小さなチョコレートをくれた。ありがとうございます、と恐縮しながらいただいた。


(いや、これ給湯室に置いてあるチョコやん)


もうすぐお昼だからお菓子は避けたいところだったけれど、せっかくいただいたからフィルムを剥がして口に入れた。


「今日芽衣ちゃん議事録やろ、書くの難儀やなぁ」

「そうなんですよ~、まだ全然書けてなくて」

「あー、どこらへん書こうかなって感じ?」


えへへ、と変な笑い声を出しつつ、この話はもう終わりかな、と思ったが相川さんは私が続きを話すのを待っている。ように見えた。


(いや、もうええて。気のせぇやわ。はいはいもう終わりー)


「私流れを知らない部分があって、1つ目の案の方がいいみたいなんですけど、なんでそっちがいいんかなって」

「あ~、それはなぁ…」


相川さんが席から身を乗り出し、私の方へと近づいてきた。


(せやからもう終わりや言うたやんけ)


うっすら聞こえるこの声は、たまに聞いていた方がいいときがある。

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