╋夜の住人╋
Dear…est.
「親愛なる友人へ」
誰もが僕よりも
先にいってしまう
今まで何人
大切な人を
見送ってきただろう
僕はきっとそういう
星の元に生まれたのだろう
だから誰とも繋がりを
持たないことにした
大切なひとに
去られるのが
辛かったから
だからかつての
あの日も同じように
深い眠りについた
けれど君は僕を
起こしてしまったね
そして君は僕の
大切な人に
なってしまった
愛おしい君へ
君と出会えて嬉しい
こんな気持ちは
どんな言葉にも
できないだろう
君にわかるだろうか
僕が感じている恐怖が
今から世界が
混乱に満ちて
壊れることより
君がいなくなっても
やってくる
平和な明日が怖い
この手紙は
読んでもらえるだろうか
君に会えなくなって
どれだけの月日が
経ったのだろうか
早く君に会いたい
それだけを願っている
オレンジを片手に
君が僕を
起こしてくれるまで
ずっと夢で待っているね
親愛なる友人へ
夜の住人、グレイより
1750-LONDON
僕は、
絶望から逃げる為に
走って走って
疲れ果てて
何一つ掴めない
手のひらに失望して
すべてを諦めた
「何処へも
行けないんだ、僕は」
餓えや病や怪我
何が自分を
蝕んでいるのか
何が自分を
「そこ」へ導こうと
しているのか
そんなことは
どうでも良かった
指先や呼吸の感覚が
柔らかく無くなっていく
とうとう
連れていかれるのだ
痛みや苦しみが
遠ざかって
不思議と
救われるような
気持ちになった
あれだけ「生」に
しがみついていたのに
もうどうでも
よくなっていた
パン一つ
奪うことに
命をかけることも
人目を忍んで
裏路地を
駆け抜けることも
理不尽な
大人の暴力に
抗えず苦しむことも
もうないのだ
僕は柔らかい眠気に
包まれていくのがわかった
それが死へ
向かっていることも
わかった上で
体を預けた
不快な痛みが
遠ざかって
心地の良い
静けさが訪れた
失うものなども何もない
だから惜しいものもない
強いて言うなら
苦しいだけの「生」に
さよならするのだ
そして僕は
「死んだ」
…-はず、だった
目が覚めたら
そこは薄暗い場所だった
そこには
細い唇で、哂う
真っ白な肌
真っ白な髪
真っ黒なコートを着た
知らない男がいた
男は僕を見下ろして
少し驚いたように
けれど愉快そうに
微笑んでいた
そして、知らない部屋
薄暗くてよく見えない
ちらちらと燃える
細い蝋燭がぼんやりと
辺りを照らしている
はっとした
僕は棺の中に横たわっていた
「やあ、ご機嫌いかが?」
男は、「葬儀屋」と名乗った
「ようこそ、アンダ-ホ-ムの葬儀屋へ」
その風貌はまるで魂を刈り取る「死神」
そう思った瞬間
まるで胸中を読み取るかのように
「私が不気味かい?」
男はにやにや、と面白がるかのように哂って
この仕事のせいか、よく不気味がられるのさ、おどけた声で言った
「人は「死神」とか「闇葬儀屋」とか呼ぶけどね、君は「主人」とでも呼んでくれよ」
「主人…僕は、何故ここに?」
「私の出張先で倒れていたのさ。幸運だったね、通りかかった主役の母親が君も、一緒に、と拾ってくれたのさ」
「「主役」…?劇団か、何かですか?」
「いんやぁ?…「お葬式をした子供」のことさぁ」
主人の愉しそうに哂う瞳
一瞬、背筋に冷たいものが走った
「いやぁ、あの子は実に状態の良い子でねぇ。母親はずっと眠っているみたいだって泣いてたよぉ。頭の打ち所が悪いだけだったからね、実に美しい式だったんだよぉ」
葬儀屋の主人は高揚した気持ちを抑えきれない様子で、嬉しそうに喋っていた
薄気味悪い。と言いそうになるのを、不気味な恐怖から堪えた
「その…亡くなった子のお母さんが…?僕を見つけて、助けてくれたのですか?…でも、なぜ、僕はここに…?」
「君は道端に、仮死状態で倒れていたところを見つけてられてねぇ」
死へ導く優しい眠りを思い出す
手のひらを握り締めて、体が動くことに少し驚いた
「私もてっきり死んでると思ってたんだけどねぇ。
主役の母親が不憫に思ったらしくてねぇ、君の埋葬もお願いされたのさ。で、ここへお連れしたわけだよ」
よく見ると体や服が綺麗だ
葬儀屋の主人が埋葬するために綺麗にしてくれたのだろうか
有り難いような、気色悪いような複雑な気持ちになる
「貧民街の路地裏だったなら、見向きもされずに溝の屁泥か、野良犬の餌だっただろうね。君も良いところに倒れたよねぇ」
「僕は…埋葬される為に、ここへ…。そうですか、僕は死ねなかったのですね…」
「おや、死にたかったのかぃ?」
少し考え込む
ためらったが、意味のないことだと気付いた
失うものなどもうないのだ
「そうです、ね。帰る家もないし生きて行く術もないし、僕はもう、死んでしまいたかった」
ぼやけてしまった幸せな思い出
もう届かない幸せな日々
比べてはいけないとわかっていながら辛いことがあると思い出しては苦しくなった
「家」が「家族」があったあの日
消えてしまったあの日
「じゃあここで働くかい」
葬儀屋の声で我に返る
主人はさして感情を込めていない様子で淡々と言った
「丁度、子供の助手が欲しかったのさ」
「…は?い、いや、…え?」
あまりに急な申し出に困惑を隠せない
驚いて瞳がいっぱいに拡がって口が間抜けに開いたまま塞がらなかった
「ヒッヒッ…」
葬儀屋の主人はそんな僕の様子を見て愉しそうに笑っている
僕は困った
諦めた命だ
これからまた生きていくなんてできるだろうか
また絶望が訪れたとき
苦しい思いをするだろう
苦しいのは怖い
1人は怖い
けれど命を救われてしまった今、また死ぬ気になれるだろうか
僕はとても宙ぶらりんだ
仮に生きることにして
こんな得体の知れない人に
ついてって大丈夫だろうか
「ぼうや、魂は1人にひとつきりさぁ」
葬儀屋の主人が言った
真っ白な手袋をはめた手の平で僕の頭を撫でて
「せっかく拾われた命なんだ。大事にしなくちゃだめだよぉ。いつか死ねるときはまた来るさぁ」
僕へ向けられた
主人の瞳は決して
優しくなかった
たくさんの死を
見届けて見送って
それを悦んできた瞳
まるでゲームをする僕へ
「そっちへ行くと敵が強いよ」
と忠告するように
きっとそれは
負けてほしくないからじゃない
気紛れな親切
知っているから
告げている
ただ、それだけ
僕は口をきゅっと
結んだ
生きる覚悟ができたわけじゃない
拓けた道へ進んでみる気になっただけ
僕は頷いた
主人は歪んだ微笑みで
僕に笑いかけた
「じゃあ、君の名前を教えてもらおうか」
名前…
本当の名前は知られてはまずかった
とっさに出たのは
「宙ぶらりんな僕」
というイメージ
「…グレイ」
「グレイねぇ。ヒッヒッ…」
主人と僕は握手を交わした
布ごしに主人の手の平がほのかに暖かかった
「改めて自己紹介しようねぇ。葬儀屋アンダ-ホ-ムの主人こと、アンダ-ホ-ム・ホーマックだよ。どうぞ、よろしくねぇ…ヒッヒッ…」
それが、僕と葬儀屋の
アンダ-ホ-ム・ホ-マックとの出会いだった
「確かに、3日間心臓が止まってたんだけどねぇ…。不思議な子だねぇ…ヒッヒッ… 」
主人の小さな呟きに、僕は気付かなかった
目を通していただき
ありがとうございます!
現在19歳のかなめですが
Dear…estは
12歳のときから
温めてきた作品です
上手く表現できずに
何度も諦めては
書き直しています
これからも
試行錯誤しながら
最良を目指して
精進してまいりますので
温かい目で
見守ってくださいませ★
(_´Д`)ノ~~
では★
またお会いしましょう★