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5話

 路地裏で女の子を救った翌日。


 数日後に学園への初登校を控えていた僕は、異能力について考えながら、通学への準備を進めていた。


 ……自分の願いって、一体何なんだろうか。自分の能力の源はどこにあるのだろうか?


 自分の能力には、いくつかの疑問点がみつかった。


 願いと関係ない状態で力を使えたこと。そして、その状況下で最大限の力を発揮したこと。


 また、逆に初めて異能の予兆が現れた時にははほとんど力を発揮しなかった。


 異能を身に着け学園に入学することが願いと直結していたのにも関わらず。


 将来異能力者と関わって生きていこうとしている僕には、この問題を見過ごすことは出来ない。


 この問題点を究明しなければ、類似する状況下の生徒と出会ったとき、対処が困難になるだろう。


 そもそも異能力は、謎が多すぎる。科学で説明出来ない現象を引き起こしているし、願いを元に発動する理由もハッキリとしていない。


 ……それでも、発動の条件を知ることによって危険を回避する事が出来る。なんとしても、知ることが重要だ。


 その為、僕は研究所に行って調べて貰うことにした。


 異能力研究所。それはこの世界にとって重要な役割を持つ機関である。


 異能力の発生と原理から、異能力者への対策など、多くのことを研究している。


 原作でも何度か登場しており、そこを訪れる事によって重要な情報を貰えるという場面があった。


 能力の不可解な点を知るために、僕は研究所を訪れる事にした。


 そこは、学園から少し離れた位置にある、独特な外観の建物。


 中に入ると、異能力研究所の所長が出迎えてくれた。


 所長は70代くらいの男性。白衣を着ており、研究者という風貌を醸し出している。片眼鏡が特徴的だ。


「ふぉ、ふぉ、ふぉ。可愛らしいお客さんがきたのぅ」


 年寄りのような口調。しかし、その喋りには妙な若々しさを感じる。


 ……彼は、原作で独特な立ち位置にいる登場人物であった。一方では能力者や、彼らと共存する一般人達の幸せを願う善人である。だが、もう一方では人体実験を好み、異能力者の可能性に異常な執着を見せるマッドサイエンティストでもある。


 この人は、研究者としては優秀だが人間としては歪な感情の持ち主である。


 しかし、僕はこの所長を嫌いになれないでいた。


 人体実験を好みながら人類のことを大切に思っている矛盾した彼の在り方は、善悪では語れない独特の魅力がある。


 倫理的にちょっとよろしくない事をしているのは確かだが、彼の研究によって能力者達との関わり合い方において重要なヒントが明らかになり、異能力社会の安定化に一役買っているのだから、彼を憎みきれない。


 素直に好きとは言いにくいものの、魅力的ではある。それが、異能力研究所の所長なのである。



「うーむ、なるほど。自分の願いとは関係ない状況で最大限の力を発揮したと。それに……」


 彼に自分の能力をつたえ、その疑問を打ち明けた所、彼は僕の能力について考え込み始めた。


 そして、しばらくの沈黙の後、口を開いた。


「うむ、実に興味深いのぅ!」


 目をキラキラ輝かせながら、彼は僕の手を優しく握る。なんだか子どもが新しいオモチャを貰った時のようなリアクションだった。


 そして、興奮を隠しきれない様子で彼は語り出した。


「やはり、異能力は面白い。未知の部分が多すぎる! あぁ、楽しいなぁ!」


 子供のような無邪気さ、狂気を感じる興奮、年不相応な無邪気さ。それらが入り交じった、不思議なテンションで語り続ける。


「暴走、覚醒、代償。異能力には様々な可能性が存在する。……特に代償には様々な伝説が存在するのぅ。有名な所では、力を失う、寿命が削れる、などか。中には代償によって身長や性別が変化してしまうなんていう伝説もあり。実に興味深い。やはり、未知の部分が多く、研究してもしきれない」


 興奮がおさまらないのか、ブツブツと独り言を呟き続ける所長。


「おっと、済まない。脱線してしまったね。……君の能力についてだったね。」


 彼はコホンと咳払いをし、興奮した自分を律するように姿勢を正した。


 そして、少しトーンを落として話し始める。彼の中で切り替えが完了したのだろう。


「君の能力の本質、それは……」

「それは……」


 僕はゴクリと唾を飲み込み、彼の言葉を待つ。


 ……やがて、所長は口を開いた。


「まだハッキリと断言することが出来んのぅ。申し訳ないが、もうちっとだけ待っててくれ」


 そう言って、彼は頭を下げた。


 ……肩透かしをくらったような気分だ。だけど、時間がかかるならしょうが無いか。大人しく待つことにしよう。


「あと二、三十分程度必要なのじゃが、どうするかの? もしここで待つようならば、そこのテーブルで待っててくれ。お茶とお菓子を用意させよう。すぐ近くにあるトイレも自由に使って構わんよ」


 そう言って、彼は僕を近くのテーブルに案内してくれた。


 ……所長が去ってから少し経った後、職員がお菓子とお茶を持ってきてくれた。お茶を飲んで一息ついた後、僕は彼が戻ってくるまでぼんやりと待つことにした。


 僕の能力の本質。それはなんなのだろうか? 自分の願いと関係はしているのだろうか? 色々と想像しながら、僕は考え込んでいった。


 ……おおよそ10分後。僕はいつの間にか、眠っていたことに気づいた。どうやら思考の途中で眠ってしまったようだ。重たいまぶたをこすりながら、ぼんやりとした意識を取り戻す。


 そして、軽く尿意を感じたのでトイレに向かおうとしたのだが……


「……」


 どうやら先客がいたようだ。物音がするので、中に誰かいるのだろう。


 その存在に気付いて間もなく、ドアの先から一人の人物が出てきた。


 僕はその人物を見て驚愕した。何故ならその子は……


「あっ、真壁さん……」


 神秘的な赤い瞳に、儚げな緑髪。透き通るような白い肌。……数日前に、路地裏で出会った少女だったからである。


「……どうして、君がここに?」


 このような研究所に似付かわしくない彼女の存在に、僕は驚きを隠せない。


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