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4話



 正気に戻って辺りを凝視すると、屈強な男が1人、小さな少女の手を無理やり握っていた。少女は恐怖に顔を歪め、目に涙を浮かべていながらも、必死に助けを求めている。……これは、守ってあげないと。


 能力発動! ……と、行きたいところだけど、僕の未完成の能力ではどうにもできない状況。


 それに、能力を使うためには、願いの力も足りていない。願いの力と思いのこもったアクセサリー、その両方が能力を発動するために必要。既に猫耳と猫の尻尾は身に着けているため、あとは自分の願いをイメージするだけなのだが……


 ……残念ながら、この状況願いの力を使うことが出来ないのだ。


 能力者は、願いと関係ない状況ではあまり力を発揮することが出来ない。


 僕の願い、それは決して出しゃばらず、それでいて大好きな推しーーー『異能管理学園』の生徒たちを見守りながら生きていきたい。その為、それに関する状況でしか力を使えない。



 ……絶対絶命のピンチ。


 このまま立ち去ってしまえば僕の身の安全は確保されるが、女の子が何をされるか分からない。


 かといって、能力無しで大人から女の子を助ける事が出来るほどの力は僕に無い。


 ここは、立ち去るべきだろう。そして、警察に通報するべきだろう。


「けへへ、お嬢ちゃん、助けて欲しいかい?」

「たっ、たすけてっ!」


 女の子は僕の方を見て必死に助けを求めてくる。彼女は僕に向かって手をのばす。……その手が救いを求めている事は確かだった。


 どうするべきか。僕には考える時間などなかった。……気がついたときには、既に僕の足が動いていた。


「なっ、歯向かうというのか!」

「困っている子がいるんでね」


 男は驚愕した。まさか、この場に立ち向かう人がいるとは思わなかったのだろう。


 無理もない。僕だって驚いているんだから。自分の事なのに他人事のようにそう考える。


 僕は目の前の屈強な男に向かって走る。女の子を掴んでいた男も、僕に向かって攻撃しようとしてきた。


 大の大人の男に立ち向かう。それはこの小さな体にとってあまりにも無謀な行為だ。


 ……でも、僕の体は自然と動いていたのだ。


 何故か、力を感じる。今は僕の願いとは関係ない状況のはず。なのに、力が湧いてくるんだ。


「……うなっ、ぎゃあああああっ!」

「よっとぉ」


 僕は一瞬で男の背後まで移動し、男の股間を思いっきり蹴り上げた。男はその場に蹲り、痛みで悶えている。


「ありがとう!」

「もう大丈夫だよ。怖かったね」


 僕は少女に微笑みかけ、少女の頭に手をのせる。そして、自分の胸に抱き寄せる。少女は安心したのか、僕の胸で大泣きした。


 僕は、少女をなだめながら、屈強な男の方を見る。股間の痛みから回復したのか、再びこちらを睨みつけてくる。


 そして、僕と女の子の前に立ち塞がった。……何故か、にやけ面を浮かべながら。


 これは、戦うしか無いか。


 僕の中で覚悟を決める。表情から察するに、彼には何か策があるのだろう。油断は禁物だ。


 ……そう考えた瞬間。僕の体に異常が起こった。


 体が、動かないのだ。


 全身から力が抜け、その場で崩れ落ちる。


 ……えっ!? 何で? さっきまで全然大丈夫だったのに。もしかして、力を無理に使ったから?


 でも、男の股間を蹴り上げた時は何ともなかったのに!


 考えても答えが出るはずもなく、僕はその場に倒される。


 どうしよう、このままじゃ……。


 僕の不安と裏腹に、男は余裕の表情だ。僕は男に取り押さえられた。


 そして、そのまま地面にうつ伏せの状態で押さえつけられる。力が出ないので抵抗すら出来ない。


「馬鹿め、そんな中途半端な能力でこの俺様に立ち向かうとは! お前のような貧弱なガキは俺様の敵ではない! よくも俺に恥をかかせてくれたな!」


 男が叫ぶ。



 ……この感覚は、能力!


 この男も、能力者なのか!? しかも、100%の力を引き出している。


「はははははっ。俺様の願いは、女の子を独占することだ! お前も俺の女にしてやる!」


 男は叫ぶ。


 ……うん、これは完全なロリコン。しかもかなり深めのやつ。


 この状況はかなりまずい。能力を使おうとしても、力が入らないし、体が言うことを聞かない。


 おそらく、この男の能力は自分の興味対象の動きを支配する能力だ。男の願いが、女の子を独占することなら、この能力は妥当だろう。この状況において、最強の能力だ。完全に詰んでいる。


「お、おねえちゃん!!!!!!」


 女の子は叫ぶ。


「無駄だ!お前たちは俺の物になるんだっ!」


 ……それらの声を聞き、僕の中で何かが目覚めた。さらなる力が、湧いてくる。


 そして、それに呼応するかのように 能力が強化されていく。身体能力強化に加え、体の変化が始まっていく。手足に肉球が出来、耳と尻尾のアクセサリーが体と結合する。そして、全身に獣毛が広がっていく。


 男はこの光景を見て、絶句する。おそらく、男の予想を大きく上回る僕の変化だったのだろう。……僕だって驚いているのだから無理もない。

だが、僕は自分の能力を最大限に活用し、男に突進した。そして、そのまま男を吹き飛ばした。


 男も突然のことに動揺していたが、すぐに冷静さを取り戻し反撃しようとした。しかし、その行動は余りにも遅すぎた。僕によって吹っ飛ばされた男は壁にぶつかり気絶してしまう。


「欲望全開の、男の能力。……それを上回る私を助けたいという願い。この人となら……」


 女の子が何かをつぶやいているのが聞こえた。


 路地裏に静寂が訪れる。女の子は気絶した男を見つめ、安堵しているようだった。僕も力が抜けてしまい、変身を解除してその場にへたり込む。……よかったぁ〜。


 ……ああ、これが僕の願いの力。猫になってパワーアップすることが僕に与えられた異能だったようだ。


 猫の力を得たおかげで、跳躍力が上がっていたようだ。これなら一瞬でちょっと離れた所へも簡単に行けるし、高速で移動することも可能だ。


 この力で猫に紛れ推し達を見守り続けられるのでは! ……と言いたいところだが、実は完全に猫には成れておらず、二足歩行で髪も生えている。


 この中途半端な状態、さすがに猫の振りをするのは無理がある。完全な猫になるにはまだまだ修行が必要そうだ。








「助けてくれて、ありがとう!」


 女の子が僕に近寄ってくる。そして、笑顔でお礼を言ってきた。


 彼女の笑顔はとても眩しかった。僕は、彼女に微笑み返した。


 何とか悪者を倒せて、女の子を助ける事が出来た。……でも、どうして倒すことが出来たんだろう?


 なんで、この女の子が助けを呼んでいるのに気づいた瞬間、強く助けようと思ったんだろう?


 どうして、僕はあんなにも強い力を発揮することが出来たのだろう?


 ……考えても答えは出てこない。でも、今は満足だった。助けることができたのだから。


「ねぇ!」


 女の子は笑顔で声をかけてくる。


 可愛らしい笑顔だ。その笑顔を見て、僕も自然と笑みがこぼた。


 改めて女の子を見てみる。


 神秘的な赤い瞳に、儚げな緑髪。肌は透き通るように白く、それでいてハリがある。だけど髪は乱れており、服も少し汚れている。しかし、それが逆に少女の儚げな雰囲気を際立たせている。


 ……ん? この表情、どこかで? なんか、この子とはどこかで会ったような……。いや、そんなはずないか。今日が初対面のはずだし。


 ……って、今はそれどころじゃない。女の子を家に帰さないと。


「あ、あ、お嬢さん。あなたのお家は……」

「お嬢さんじゃ、ない」


 えっ? 彼女は少し拗ねたような顔で僕を見ていた。可愛らしい顔が少し歪む。


 僕は慌てて、彼女を宥める。……もしかして、お嬢さん呼びが嫌だったのかな? でも、ほかになんて呼べば……。


 そう考えていると、彼女はさっきよりもムッとしていた。そして、僕のことを睨みつけてきた。


 やっぱり怒ってるよ! どうしよう!! 僕が慌てふためいているうちに、女の子は僕に近づいてきた。


 ……そうだ、彼女には立派な名前があるはず。ちゃんと名前で呼んで欲しいのかもしれない。


「僕の名前は、真壁望。……君の名前を、教えてくれるかな?」


 僕の言葉を受け、彼女は少し考えた後、口を開いた。


「けんざき、けん」


 真剣な表情で、そう口にする。


 ……彼女の言葉を聞いた瞬間、脳内に電流が流れた気がした。彼女は、もしかして……


 (『desire』の主人公剣君と同じ名前の女の子!?)


 僕は、心の中で叫んだ。


 そんな僕の様子を見て不思議に思ったのか、彼女は可愛らしい仕草で僕の顔を覗き込んでくる。


 ……と、いけない。ついついビックリしてしまった。この動揺を彼女に悟られないようにしないと。




 ……それにしても、どうして僕はあの男に勝てたんだろう? 彼の願いは本物だった。


 それに対して僕は、その場の衝動だけで戦っていた。そんな僕に、本当なら勝ち目なんて無いはずだ。


 どうしてあんな力を発揮することが出来たのだろう?


 確か、力が湧いてきたのは少女が叫んだ時だった。


 でも、僕の願いは『異能管理学園』の生徒たちを見守りたいと言う願い。


 あの状況で100%を超えるような力を出せるような願いではないはずだ。それこそ、剣崎さんが異能管理学園の生徒でもない限り。


 うーん、分からない。……でも、何故か、彼女を守らなければいけないと感じたんだ。


 

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