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15話 姉妹視点前半



 藤宮照美ちゃん。


 私たちと同じく、大切な剣君を失い意気消沈している子。今までも仲が良かったが、剣君がいなくなってからは特に私たちと仲良くしてくれている。自分も心が限界であるのにもかかわらず、私達の痛みを分かち合おうとしてくれている。


 そんな彼女と一緒に居て、私たちは……



 照美ちゃんの深い愛情に包まれ、心が満ち足りていくのを感じていた。




 ……愛。


 生きていくために必要なもの。


 社会を回していくために、どうしても必要なもの。


 心の充足を与えてくれ、それを実感させてくれるもの。


 ……私たちは縛られている。『愛』という名の呪縛に。




 お母さん。


 愛情を注ぎながら、大切な子供を教育して導いていく存在。


 やがて子供は成長していき、お母さんから離れて学校という名の社会の縮図の中で成長していくようになる。


 ……私たちは、とても遅かった。お母さんから離れることが出来るようになるまで。




 能力者は、とても壊れやすい。強い思いと、凄い力を持っていることによって生じる反動によって。特に『愛』のすれ違いによって生まれる反動はとてつもなく大きく、深い傷を負った能力者が暴走してしまうことなんてよくある。


 当然その問題を放置するわけにはいかない。だから、多くの対策が行われた。異能力研究もそのうちの一つ。


 異能力者と、『愛』の関係性についての研究。それは成功をおさめ、能力による事故率の大幅減少を達成した。その結果、能力者が普通に社会で生きていくことができるようになった。能力者と非能力者の軋轢も、最小限に抑えることが出来た。


 しかし、その研究の裏には悲しい出来事があった。


 お母さんから聞いた話。昔々、能力がまだ世間一般によく知られていなかった頃。特別な力を持つ女性がいたという。私たちのご先祖様だ。……普通の人にとって、普通ではなかった力を持つ彼女。村のみんなから異物とみなされ、迫害を受けていた。


 やがて彼女はその地にはいられなくなり……別の場所で生きていくことを余儀なくされ、一族は離散することとなった。


 みんなと違うものを排除する。それは、恐怖心が生み出した自然な行動。恐怖による排斥は、ほとんどの人間に共通する本能。


 だけど、全ての人が怖いものを排斥して生きていこうとするわけではない。中には、その原理を追求しようとする者も現れる。


 ……研究によって力の原理を解明することによって、恐怖を乗り越えようとする者が現れるのは必然だった。


 彼女の噂を聞いた研究者達は彼女を拘束し、能力に関して問いただす。そして、彼女の力の原点を特定することに成功した。


 『愛』によって能力に目覚め『愛』によって力を発揮する。それが、彼女の能力の原理だった。


 研究者達は彼女を拘束したまま長い時間研究した。主に、愛と力の関係を知るための実験を。


 精神に作用する薬によって、彼女の愛を調整した。 愛が強い人ほど強力な力を発揮するのではないか?  愛が弱ければ、その分力は発揮されないのではないか? そのような仮説に基づき、様々な実験を行った。


 実験は成功し、愛と能力の関係性が明らかとなっていく。その時のデータが役に立ち後の異能力者と、『愛』の関係性についての研究が進み、能力者の社会での生活が守られることに繋がるのであった。


 ……でも、実験台となった彼女は薬によって何度も愛の感情をコントロールされていた。薬の副作用で、彼女は人間らしさを失っていった。愛が何なのか分からなくなっていき、心が壊れていく彼女。


 やがて、『愛』に関しての独特な考え方を持つに至った。愛は人間にとって必要なものであり、愛があるからこそ人は充実することができる。だから、人間はお互いの命よりも、お互いの『愛』を大切にしあうべきである……というような考え方だった。


 研究者たちは、そんな彼女を愚かで狂っていると言い『原初の母』と呼ぶようになった。


 それが私たちのご先祖様であり、私たちの原点。


 彼女の『愛』に対する価値観のゆがみは、世代が進むにつれ変化しつつも強まっていった。歪みは子供たちに受け継がれ……現在にまで続いている。


 ……そして、私達の代になったところで、異常が現れるようになった。









「アミちゃん、アミちゃん。私たち宛てに手紙が届いたよ」


 放課後に家でぼんやりとしていたところ、妹のエミちゃんが手紙をもってこちらにやってきた。


「……手紙? 誰からだろう」


 私たちは手紙の差出人を確認する。


「あ……剣君! 剣君からだよ、この手紙!」


 差出人を確認したところ、エミちゃんがはしゃぎながら飛び跳ね始めた。


 ……剣君からの手紙、かぁ。本当に、剣君から来たものなのかなぁ?


 あの日以来、剣君は私たちの前に表れなかった。家を訪ねても、彼はいない。どこを探してみても、彼は見つからなかった。


 もし、彼が無事なら私たちの元に姿を現しているはずだ。……この手紙は、偽物なのかもしれない。


「本当に、剣君が書いてくれた手紙なの、それ?」

「……剣君からの手紙に間違いないよ」


 疑う様子も見せず、剣君からの手紙に舞い上がるエミちゃん。


「例え……」


 いつの間にか、彼女の目の色が変わっていた。その様子は、どこかおかしく見える。


「もしこの手紙が剣君からの物じゃなかったとしても、剣君のフリをして手紙を送ってくれた人がいるもの」


 怪しげな笑みを浮かべながら、頬を染めるエミちゃん。


「剣君のフリをして手紙を送ってくれた人。……もはや、それも剣君の一部だよね」


 彼女は怪しい表情を崩さずに言葉を続ける。


「やったね、アミちゃん。剣君は生きているよ! また、一緒にいられるよ! これからは、照美ちゃんなしでも生きていけるよ!」


 大喜びのエミちゃん。


「あはっ、はは。あははははははははははははははははははははははははははははは」


 彼女は笑いまくる。


「愛だよ、アミちゃん。また、私たちは剣君から愛を貰うことが出来るんだよ。もう、絶対に離さないんだから。あははははっ!」


 完全に壊れている。


 あーあ。エミちゃんが壊れちゃった。まぁ、いつもの事か。


 ……私たちは縛られている。『愛』という名の呪縛に。

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