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12話 ヒロイン視点

「だ、誰か彼女を保健室に……」

「私が行きます!」

「照美ちゃ……藤宮さん、よろしくお願いします」


 先生からのお願いに、私は即座に手を上げる。


 ……自己紹介中に、転校生が突然倒れてしまった。教室中に不安と心配が渦巻く。そんな重苦しい空気の中、私は彼女の手を取り教室を飛び出した。こう見えても、力には自信がある。小さな子を抱えるくらい造作もない。



 真壁望ちゃん。彼女の存在を最初に知ったのは、重谷姉妹から話を聞いた時だった。自分達より小さい子を学園で見た、と。もしかしたら彼女が転校生かもしれないという事を。


 それを聞いたとき、私は凄く心配に思った。ただでさえ背の低い重谷姉妹より一回り小さい子が異能力に目覚めているかもしれないなんて。


 異能管理学園は特別な学校の為、生徒の年齢にはバラつきがある。しかし、小さすぎる子はいない。例外を除けば、基本的に異能はある程度大きくなってから発現するものだから。彼女は普通よりも早く異能に目覚めた子だといえるだろう。


 ……それは、非常に危うい状況である。ただでさえ異能は人の精神に大きな影響を与えるというのに、幼いうちから異能力なんて持っていたら……。


「……ううっ」


 背中から望ちゃんの口から苦しそうな声が漏れる。……考え事をしていたら、歩くスピードが速くなりすぎてしまっていたようだ。


 一旦立ち止まり、抱えている彼女の顔を覗き込む。顔にかかった髪をよけて、閉じていた目をうっすらと開いていた。


 ……きれいな青色の瞳。海のように見える青色の輝きの中に、薄く輝く白い光が見える。神秘的な美しさを放っていた。


 まじまじと見つめていた所為だろうか。彼女の目が、こちらを向く。


 ……そして、その瞳の中に私の顔が映る。すると彼女は口をぱくぱくとさせたあと、目を見開いた。


「あれ?照美ちゃ…………あああああっ!」


 どういうわけか彼女は私の顔を見て声を上げ、悲鳴のような声を上げる。……しかし、それも一瞬の事で、彼女はすぐにまた目を閉じた。そして、まるで気絶したかのように、力なくぶらりと腕が下がる。一体、どうしたんだろう?


 ……程よいスピードで保健室に運び込み、ベッドへ寝かせた。先生はどこに行ったのか姿が見えなかったけれど、勝手に使わせてもらうことにした。


 彼女の顔をのぞき込み、頰に触れながら様子を見る。……最初はとても苦しそうだったけれど、今は落ち着いているみたいだ。


(早く目を覚ましてくれるといいんだけど……)


 そう祈りながら、彼女を見守り続ける。


「その髪飾り……」


 私は彼女の頭に着いた白い髪飾りに目が行った。


 白い花を模したキレイな髪飾り。彼女の艶やかな黒髪に良く映える飾りだ。


 ……でも、確かこの髪飾りは剣崎家に伝わるもの。どうして望ちゃんが持っているんだろう? 彼女は剣崎家と関係ある子なのかな?


 そんな事を考えていると、小さく呻く声が聞こえた。彼女が目を覚ます予兆だ。私はベッドから少し離れ、様子を見守る。……そしてしばらくの間、彼女は横たわったままぼーっと天井を見つめていた。


 やがて、ぎこちない仕草で上体を起こした。そして、ゆっくりと体を動かし私の方を見る。


 ……私の顔を見るなり、彼女の表情は青ざめていった。


「あ、あ、あのごめんなさい藤宮さん。急に名前呼びしてしまって……しかも何度も気を失って迷惑をかけて……不快な思いをさせてしまって申し訳ありません」


 震える声でそう言い、深々と頭を下げる望ちゃん。その様子は酷く怯えているように見えた。背中を優しく撫でてあげる。そしてゆっくりと顔を上げた彼女に微笑みかけた。


 ……うーん、それにしても様子がおかしい。急に倒れたりするし、凄くぎこちない様子だし、それに名乗ってもないのに私の名字と名前を知ってるみたいだし……。


 でも、なんとなく彼女の事を知っているような気がする。どこかで出会ったことがあるのかな……


 色々と考えながら、私は望ちゃんの顔をじっくりと眺める。


 ……青色の瞳、透明感のある白い肌、整った目鼻立ち……。その瞳の動きから、動揺していることが見て取れる。


 怯えた様子、定まらない視野、突然の失神……


 ……あっ、そうか。


 分かった。


 なぜ、彼女を知っているように感じたのか。それは……


 今の彼女の姿が、過去の私と重なって見えたからだ。





 

 まだ私が小さかった時の話。


 ……私は、運がなかった。悪い能力者に捕まってしまったのだ。どうしてそうなったのか、どんなことをされたのかはもう覚えていない。心の防衛反応だろうか、記憶に霞がかかったようにぼやけている。


 ……でも、私の体に刻まれた恐怖心だけは鮮明に覚えている。今でも時々、何かの拍子に当時の恐怖を思い出して失神してしまう事があるほどだ。


 剣君によって私は救出されたけれど、心に負った傷は深く治るのに時間が掛かった。能力者に対して恐怖を抱くようになってしまい、しばらくの間はまともに外にも出られなかったほどだ。


 15歳の時私は異能に目覚め、学園に通う事になった。でも、能力者への恐怖心は克服できず、人付き合いも避けていた。……恩人である剣君と再会した際も、まるで化け物を見るような目を向けて冷たく接してしまった。本当はとっても感謝しているのに、それを素直に口にできなかった。


 能力者の能力によって、抵抗できぬまま何かされた経験が能力者への恐怖心を生み出し、私を蝕んでいった。クラスメイトに対してビクビクと怯えることしか出来なかった私の様子が、今の望ちゃんと重なる。


「……もしかして、能力者が怖いの?」

「え、ええっと……」


 私の質問に、彼女は戸惑いを見せる。……ちょっと答えにくい質問だったかな。聞き方を変えてみよう。


「異能力者に対して、特別な感情がある?」

「……」


 彼女は私の言葉を聞いた後、暫く押し黙ってしまう。そして、意を決したように大きく頷く。


 ……やっぱりそうみたい。彼女が私に怯えているのは異能力者に対して恐怖心を持っているからだ。私と同じような事があったのだろう。


 少しでも彼女の不安を和らげようと笑顔を作る。そして、ゆっくりと落ち着いた口調で話し始めた。


「あなたも、悪い能力者に出会ってしまったのね」


 望ちゃんと目線を合わせ、安心させるように微笑む。そして、頭を優しく撫でてあげた。それに対し、彼女は動揺した様子を見せる。


「な、なんでその事を……」

「私も、過去に似たような事があって……だから、あなたの気持ちが分かるの」


 私は頷く。……やっぱり、悪い能力者に酷いことをされたのが強いトラウマになっているんだ。


 私は、自分の過去の話をすることにした。同じ経験を持つ仲間がいることを知ってもらいたかったからだ。


「実はね、私も小さい時に……」


 それから私は彼女に自身の経験を話した。まるで懺悔でもするかのように訥々と、淡々と語っていく。……思い返すと、かなり恥ずかしい内容だ。


 それでも彼女は真剣に聞いていた。時折相槌を打ちながら、私の言葉を聞いてくれた。


 私と同じ、悪い能力者に心を傷つけられた者同士。彼女の気持ちが分かり、親近感を抱く。……だけど、それと同時に強い庇護欲が私の中で生まれていった。


 ……私は、この子の力になりたい。


 異能力者が怖いと怯えながら過ごす毎日は、とても辛かった。だから、教えてあげたいと思った。能力者にも優しくて良い人はたくさんいることを。そして……私も素敵な人に助けてもらったことを。あなたも、いつか素敵な人に助けてもらえるってことを。


 この子の事は、放っておけない。私が守らなくちゃ。

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