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それを魔法と呼ぶのなら


 ハイパーキャパリズムの果て。ショッピングモール・ニューヴェイパーシティ。


『アテンションは新しい酸素、絶え間なく現れるスペクタルが常にあなたを新しい世界へと誘います。ハイディフィニジョンな空間がもはやそれが現実なのか夢なのかを意識させる隙はありません。快適なアンビエントミュージックはあなたを理想的な精神状態へと導き、キャパニ食品館は新しいあなたへとターンオーバーするように助けてくれるでしょう。

それでは、快適で素敵なショッピングをお楽しみください。

ニューヴェイパーシティモールへようこそ <magia&co.>』


無機質な機械音声アナウンスが残響するホール。

銀色にピカピカ光る柱。ツルツルで照明を反射する一切の汚れのない白い床。

その上を黒い蝶々が一匹、瞬いていく・・・



「殺して」


交差する花子とルゥ。


花子の前に現れた黒い怪物エイカシア。

リンゴを齧る。万華鏡のように変化する味覚。


ショッピングモールを歩く人たちの中で、花子にだけある影。


ーーーもし私が本当に魔女なら、同じように殺さなきゃいけないのだろうか。あの怪物を・・・


花子はベッドの上で目を開ける。







「新商品の試食会。やるだで〜」

パリスが嬉しそうに言った。


花子とパリスとカサンドラの三人はキッチンに集まる。ちなみにヘレネは花子と入れ替わりでレジを今見ている。


「あれ、テテは?」

花子は気になって聞いてみた。


「新しいドリンク用のジョッキグラス取りに行ってる。もうすぐ戻ってくるでしょ」


「おいお前ら、きのこバターとチキンのデリサンドですよ」


きのことバターのソテーが芳醇な香りが広がる。クラムチャウダーもセットでついてくるので満足感は高い。

「うま〜」と感想を言いながら試食会を終えた花子は、レジのヘレネとバトンタッチする。


「めっちゃいい匂いするじゃん! きのこ系?」

「期間限定っていうのが勿体無いくらい美味しかった〜! 私補充しとくよ」

花子はヘレネがやっていたストローやスプーンなどの補充を引き継ぐ。

「ありがと〜」



 さて、それからしばらく経ってもテテがお店に戻ってこない。

少し心配になってきた花子たちだったが、双子のパリスだけはあまり気にしていないようだ。


「グラス運ぶカート、あれ足のタイヤが固まってるんだよね〜。それで苦戦してるんじゃないかな?」


猫耳付きアラーム携帯ウォッチニャで呼び出しても応答がない。

いよいよ呼びに行った方がいいということで、お昼のピーク前なので花子が探すことになった。


「そ! 3階。スタッフ用入り口を抜けて右手にぐるっと回ったとこにすぐ見えるスロープの先が倉庫! 大丈夫! なんかあったらウォッチニャして!」


お客さんがぽちぽちき始めたので、ヘレネは急いでメモ帳に道を書いて花子に渡す。


「えっと、うん・・・行ってきます」

花子はメモを見て、自信なさげにフラミンゴバーガーを出て行った。




 スタッフ用入り口の先は植物園のようになっていた。


中央の中庭は植物で覆い尽くされ、ガラス張りの天井からは空が見える。整備された園内は円形になっており、道は緩やかに弧を描く。赤煉瓦造りの壁際にはさらにいくつもの扉がある。


花子は渡された地図(フリーハンドの線と丸で書かれて雑すぎる)を見ながら、植物園を右手に回り、見えてきたスロープを下へと降る。手の方向矢印とフラミンゴバーガーのアイコンがネオンで光っていた。


「テテ〜!いる〜?」

無事に倉庫に辿り着いた花子はほっと息をついて声を出した。


そこまで大きくない倉庫だが、ラックなどで視界が遮られているので花子は中に入って一通り探してみる。照明がつけっぱなしで明るかった。しかしテテの姿はない。


「ん〜、入れ違いになったのかなあ」


花子は来た道を引き戻し、手の矢印アイコンとフラミンゴバーガーの看板があることをもう一度確認してもう一度倉庫を覗くがやはりテテの姿はない。


「えっと、右回りで来たから、・・・左!」

再び元の場所を引き返すま花子。危うく方向音痴が発動しかけたのをなんとか阻止する。


それにしても大きな植物園だ。

円形の作りっぽいが対岸が見えないほどいろんな花や木で溢れている。道の側には水が流れる側溝があり、近くには池かなんかがあるのかもしれない。


そう思った時、花子の視界の先で水が高く吹き出した。


「噴水?」


植物同士の隙間から噴水の建造物を探す花子。

そして、カートの側で噴水の水面を覗き込むテテがいた。


「テテ!? 何かあったの?」

花子は植物園の芝生に足を踏み入れてテテに話しかける。


「あえ? 花子」

少しぼーっとした様子のテテ。

テテはその水面をまたチラリとみる。そしてそばにやってきた花子に言った。


「ごめんね、もしかして心配かけちゃったかなぁ?」


「ううん大丈夫。・・・何かいるの?」

花子は噴水の池を覗き込む。植物園にしては枯れ草一枚落ちておらず、水もとても綺麗に済んでいた。生き物一匹見当たらない。


「・・・花子は、みんなに見えないものが、自分にだけ見えたりすることってある?」

魚を探していた花子のそばで、テテはそう溢した。


「それって、・・・?」


噴水が終わり、あたりに静けさが戻る。水面は鏡のように天上の空を写す。

しばらくの沈黙。テテに向き直り笑顔でいった。


「ううん、なんでもない! 行こ! 花子!」



キュルキュルキュルッ! と爆音の摩擦音を出しながら進むカート。



赤レンガの壁、ツルツルした石灰岩のタイル。緩やかにカーブしていく通路を歩く花子とテテ。

蝋燭型のライトの灯りが壁に等間隔に配置され、空間を照らす。


花子は一瞬、カートを引くテテの足元に彼女の影が見えた気がした。

立ち止まる花子。


「この感じ・・・」


ーーーもしかして、テテが魔女?







「ぬ〜!」

唸るテテ。

パリスは手を伸ばした先にあるカードを一枚、テテの手から引くと、そのパッと嬉しそうな表情をした。


「あははは! 私の勝ちーっ! だから言ったじゃん、テテのことは私が一番よくわかってるって!」

「うきゅ〜」


寝る前にトランプで息抜きをしていた女子たち。この勝敗で当番を決めたりする。ちなみに花子は三番だった。


「というわけで、明日のゴミ出しもテテでお願いね〜!」

「これで3日連続なんだけど!? なんか最近ついてない!!」

「がんばれー」


しばらくその調子で喋ったりしていたが、そろそろ寝る時間になってきた。

1番に上がったカサンドラは欠伸をしている。


「と言ってもほぼ勝率五分五分でしょ君たち・・・ほら、もう寝よ。明日も早いし」

「はーい」

「はーい」


明るい宿室。2段ベットが2つ。花子は新しく窓際に用意してもらったベッドを使っていた。

空は明るい翠色。星が黒く光り輝いている。


「・・・。」


ーーー見間違え、だったのかなあ。


植物園っぽい場所でカートを押すテテの足元に見えたのは、彼女の影だったように花子には見えた。しかしあれ以降、数日経ったが、他のみんなと同じようにテテの影が見えることはなかった。


木の影とか建物の柱とかだったかもしれないと、この時花子も思うようになった。


カーテンを閉めたとしても部屋は電気がつきっぱなしで明るい。


花子はアイマスク(片目がフラミンゴの目になっているデザイン)を付けて寝返りを打つ。

そこで何かの気配を感じて、花子はうっすらと話し声に耳を澄ませた。


「ごめん・・・パリス」

「ん? いいよ」


2段ベットの梯子を登る音。

下の段に寝ていたテテが、パリスの布団に入り込む。


「どしたの?」

「・・・蝶々がね。見えるの。黒いやつ」


「また? テレビの見過ぎじゃない?」

「ち、違うって! も〜」


小さな笑い声。そして沈黙。

花子はよく分からないまま、また襲ってきた眠気に身を任せた。






 次の日の朝。


歯ブラシを加えた花子は事務所にやってくる。

昨日用意していた靴下をロッカーに忘れてきたのだ。


ゴミ出し係で先に出勤したテテが、花子のロッカーの前に立っていた。

ロッカーの扉は開いている。


「どうしたの、テテ」


「あ、ごめん」

テテは焦ったように一歩下がると目線を逸らす。


「別にいいけど・・・あの、テテ。私がいうことじゃないんだけど、もし嫌なこととかあったら、言ってくれたら嬉しいよ。不満があれば、ちゃんと聞くから」


花子のロッカーはまだ他の四人に比べてだいぶ寂しい。花子が忘れていた靴下にタオル、仕事用の制服。そして最初に着ていたあの赤いエプロン服の衣装があるだけだ。


「ごめん、何でもない・・・」


「・・・テテ?」


今までテテはそんな言い方しなかったので、少し引っかかった。

テテは花子の脇を通り過ぎ、小走りで去っていった。


「何か、やっちゃったかなあ」


思い当たる点はないーーーとはいえないが(魔女のルゥと出かけたし)、それだったら怒るのはむしろファンのヘレネの方だろう。


うがいをして鏡を見る花子。そういえば、髪伸びてきたかも・・・






 水の入ったペットボトルを、床に置いた古い容器に注ぐテテ。

植物が茂っていた植物園も、前と違って随分と緑が減った。

葉は穴だらけで水は枯れ、天井のガラスは薄暗い赤い光が漏れる。


「ごめんね。今度はもっとたくさん持ってくるから」


テテの周りには黒い蝶々がパタパタと羽を瞬かせていた。テテは容器を地面に置くと、蝶々たちは水を飲みに容器の縁に降り立ち、羽を羽ばたかせながらその口のストローを伸ばして水を飲む。


蝶々は大きな閉じた瞼を持っていた。カールしたまつ毛、宝石の装飾がチカチカ光を煌めかせる。


「私もなれるのかな。ーーー魔女に」

テテは誰にいうでもなくつぶやいた。


それは願いか、あるいは呪いか。

声は空気に溶けることなく、ある一人の魔女の瞳に届く。


それに呼応するように、蝶々はゆっくり瞼を開く。





ーーー視線




事務所で着替えていた時、ヘレネのロッカーの中の魔女ルゥファラフトのポスターと目があって花子はビクッとした。


「そういえば、この前ルゥがエイカシア・・・? 倒してたでしょ? 魔法で」


「うん! あれ面白かったなあ〜! まさかゲストで花子が出るなんてびっくりしちゃった」


以前、花子がエイカシアと呼ばれる化け物に襲われてルゥに助けられた。

あの空間には二人だけしかいなかったと思っていたが、なぜかそれが後日、テレビで放送された。


ちょうど四人で夕食を食べていた時だったが、思わずびっくりして飲んでいたお水を咳き込んでしまった。

花子の喋っている場面やよくわからない演出は諸々カットされているとはいえ、普通に恥ずかしい。許可もとれや、と本気で怒っていたので、この話題はあまり蒸し返さないようにはしている。


「魔女って、魔法が使えるから魔女なのかな?」


「魔法? えっと、魔法って一応誰でも使えるよ?」


「??? 誰でも?」

花子はきょとんとした。



「はい! ドリンクサーバ〜!」

レジ横に設置される普段ドリンクメニューで使っているドリンクサーバーに手をヒラヒラさせるヘレネ。


「ん?」


「ソーダマシンとかもそう」

一緒にお手洗いへ行った時、歩道の脇に置いてあった自動販売機を指していうヘレネ。


「ソーダマシン」


「先生のpalm colaがめっちゃ人気じゃん。え!? 花子知らなかったの?!」


「え? そんな気軽に使えていいものなの? 魔法って」


「何言ってるの? 誰でも使えるから魔法でしょ?」


そんなこと言われても・・・と花子は困った。


「これとかも前飲んだけど、魔法、使ったのかなあ」


ちょうど深い赤色のソーダマシン(細長い円筒型タイプ)のソーダマシンの前を通りかかったので花子はつい反応してしまった。


「ブラッディ・スパーク?・・・えっと、花子。もしかしてそんなに無理させてた?」


ヘレネはやや心配そうに言った。


「う、ううん。笛吹カブトムシさんに偶然あったとき、奢ってもらったの。なんか変だった?」


「試験とか発表会とか、集中したいときに飲むエナジードリンクだけど・・・単純に美味しいから飲む人もいたりするけど、知らないで飲むのは危ないから気をつけてね」


「・・・うん」


「あと、広告とかコマーシャルとか邪魔ってときはオリエントビア! モールミュージックを変えたいならFuzzyとか、色々あるよね! ま、わかんなければ聞いてよ」


青色の四角いソーダマシン、オレンジ色のアプリコットのイラストレーションが描かれた丸っこいソーダマシンを通り過ぎながらヘレネは説明する。



「で、でもルゥってなんか、盾みたいなのいっぱい出してビーム撃ってたじゃん。あれは違うの?」


「花子・・・ルゥちゃんは魔女さんなんだから。テレビの中と現実の区別はつけないと!」

少し呆れた様子のヘレネ。


花子はますます分からなくなってきた。


「魔女って何だろ」


花子は頬杖をつきながら、テレビを見ながらpalm coleを片手に呟いた。









「カサンドラ〜、テテ見てない? なんかフロア片付いてないんだけど」


ヘレネがフロアから厨房に顔を出して言う。


「見てない。最近多いね」

「5回もゴミ出し係当たったから怒ってるのかも? 明日、私やろっかな?」

「花子〜それは甘いよ」


「あ、パリス!? テテ見てない〜?」


フラミンゴバーガーの店舗前の掃除から帰ってきたパリスにヘレネが言う。

双子の姉ならパリスは笑った。


「多分トイレでしょ。ちょっと見てくるね」


ちなみにトイレは従業員と客用は共通だ。パリスはトイレの中にテテがいないことを確認すると眉根を顰める。


「テテ〜? 」

パリスは事務所にも顔をだすが、やはり姿がない。

出勤していたのは朝確認したので、近くにいるとは思うが・・・最近、テテの口数が以前より少なくなっていたことはパリスも気になっていた。


「そういえばさっき、荷物の受け取りしてたような・・・」


事務所の通路をわたり、みんなが寝泊まりする宿室にやってくるパリス。


壁の隅には、見たこともない化粧台が置いてあった。

みんなが普段使っている姿見は横にどけられている。


化粧台に座るテテは鏡に向かって化粧をしていた。


「どうしたのテテ!! そんなもの一体どこから!」


「買ったの。全部私のお財布から出してるから、パリスは心配しなくていいよ」


3面鏡に映るテテは口紅を引きながら言った。


「買ったって・・・私聞いてない。なんでそんなこと・・・」


「私ね、魔女さんになるの」


「魔女さん・・・?」


「そ。これから忙しくなると思うの! ほら、先生にも報告しなきゃいけないでしょ? それに衣装も用意しなきゃ! やっぱルゥちゃんみたいにW/COLARの服がいいのかな〜」


パリスはテテの肩を掴む。テテは鏡の中の自分の顔しか見えていないようだ。


「テテは、魔女にはなれないでしょ?」


パリスは簡潔に言った。

その無邪気な言葉がテテの頭の中で乱反射する。


「・・・なんでそう言うこと言うの?? バカにして!! いつもそうよ!」


肩に置かれた手を振り払って、テテは立ち上がった。

目の前に立つ自分と瓜二つの顔。双子の姉はキョトンとしていた。


「簡単に言わないで・・・!」


「ご、ごめん」


「謝らないでよ!!」


テテは自分がわからなくなっていた、なんでこんなことを言うのか。考えるよりも先に言葉が出てくる。感情に流される。


「・・・私、比べちゃうの。花子と。こんな自分がイヤになる」


「花子? なんで、・・・テテ? 待ってよ!」


テテは宿室を飛び出し、トイレに駆け込んで鍵をかけた。



ーーー気持ち悪い。


なんでみんな分かってくれないの?

憧れるのがそんな悪いこと?


「私だって・・・私だって!!」


そうだ、花子が来てからだ。全部がおかしくなったのは。

胸が苦しいのも、最近仕事でうまくいかないのも、変な幻覚を見るのも全部。


ーーーあいつのせいで!!!






「私のエプロン、どこ行ったのかなぁ」


花子は首を傾げる。

仕事が終わり事務所に戻ってきてロッカーを開けると、お馴染みの花子の一張羅が無いのに気づいた。


「テテ、最近洗濯機入ってないみたい」

事務所に入ってくるカサンドラとパリス。パリスも元気がなさそうに見えた。

詳しいことは花子たちも聞いていないが、テテと喧嘩したと言うことだけは伝わっていた。



「ちょっと花子! 来て!!」

青ざめた様子のヘレネが事務所にかけてくる。



「ゴミがいっぱいになってたから捨てに来たら、その、見つけちゃって・・・」


ゴミ袋をまとめるダストボックスの中。ゴミ袋の中に入れられた花子の赤いエプロン服だった。






ーーーどこかへ吸い込まれていく感覚。


テテはそこが夢だと分かった。


黒い流れ星が降る空で一人、テテは目を閉じ、手を胸の前に合わせてお祈りをする。


「私だって魔女に・・・パリス、私、頑張るから・・・!」


誰にも邪魔させない。魔女になるためなら何だってやる。

負けたくない。私だって、できるんだってみんなに知ってほしい。


「できることなら、一緒に・・・」


テテは目を輝かせて黒い星を見上げる。

宝石みたいなチカチカした煌めき。どこかで見たような・・・


そしてテテは夢を見た。

それはテテにとっての地獄だった。








ーーー*ーーー








「・・・」


布団から起き上がるテテ。右目を抑えて俯く。



ーーーガシャンッッ!!!


何かを強く打ちつけたような大きな音が、フラミンゴバーガーの宿室に響く。


「テテ、・・・起きた?」

事務所で大きな音を聞いたパリスが、体調不良で宿室で休んでいるテテの様子を見に扉を開ける。

しかしそこには名前を呼んだ双子の姿はなかった。


窓のカーテンが揺れる。


側には割れた三面鏡の化粧台があった。






黄昏時トワイライトモードーーー


空は紺碧から藍色とオレンジのグラデーションに染まり、遊歩道や階段が移動して対岸へ切り替わったりトランスフォームを開始していた。


ソーダマシンが列をなして立ち並ぶ。

魔法、魔法、魔法。インスタントで時間が経てば消えてしまう限りあるもののラインナップの列の間をテテは歩く。


「違う! 私はそんなものが欲しいわけじゃない!」


<永久の友情>


暗闇で光る円筒のソーダマシン。ネオンの文字が怪しくテテを誘った。


そう。これ。


ーーガコン!


線を開けると、中から黒いドロドロした液体が泡と共に吹き出し、溢れる。

テテは躊躇なくそれを口に運ぶ。

ゴプッゴポッ!と粘り気のある炭酸が喉に張り付き、口の端から溢れるがかまわない。

テテはそれを全て飲み切った。


「えほっ! えほっえほっ!」

ツルツルした四角タイルの上に膝をつくテテは俯く。


噴水の泉に映る自分、揺れる水面。

カサンドラがフライヤーを持ちながら私にサムズアップしている。

ヘレネが調子に乗った私を怒っている。

ロッカーに入った花子の赤いエプロン服。

花子が、きのこが嫌いな私に対し同情している。

パリスが私に抱きつき、笑っている。


ーーー思い出。私の記憶。


いくつもの記憶が映像として再生される。

テテはひざまづいたまま顔を上げる。


そこには、三面鏡の化粧台があった。ガラスは黒く塗りつぶされ、鏡の中で閉じた瞳が涙を流していた。

テテは懺悔する。


「夢を見たの・・・四人がバラバラになる夢。みんな大嫌いで、吸う空気が重たくて吐きそうだった」


「そう、ただの夢。絶対そのはず・・・」


「だめ。こんの私じゃ、先生に嫌われちゃう・・・いい子でいなきゃ、私。

ーーー魔女、魔女になるの!! そうすれば私、仲直りできる!! みんな元通りに! 今までと同じようにだって!!」


自分がわからない。支離滅裂で今にも体が裂けて分裂してしまいそうだ。


「テテ・・・?」


自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。それが本当か幻聴かはテテには判別がつかなかったが、それは双子のパリスのものだと分かっていた。


分裂が引いていく感覚。


振り向こうとしたテテ。

しかし、それを黒い手が顔を覆い遮る。


「いや」


3面鏡から出てきたのは、花子の赤いエプロンドレスを着た自分だった。

鏡の中の瞼がゆっくり開く。


「パリス・・・助けて! 先生」


瞳が開く。黒いたくさんの腕がテテを鏡の中に引き入れる。空間を割く黒いひびがエクステンションする。








「花子! テテ見てない?!」


慌てた様子でパリスが厨房に現れる。

カサンドラは仕入れ業者さん対応中で外出、ヘレネはドライブスルー対応中だった。


メニューのオーダーが入ってあたふたしていた花子は、ハンバーガーの作り方がわからないので、なんとかフライドポテトをフライヤーであげて誤魔化していた。


「テテ? 宿室で休んでたんじゃないの?」

また〜? と言う感じで、やや怒った感じで花子は言う。花子のエプロン服がゴミに捨てられていた件で、まだテテが一度も話に来ていないからだった。


「多少遅れたくらいじゃお客さん怒らないよ!! お願い! 花子も探すの手伝って!」


ただならない様子のパリスにやや冷静になる花子。

しかし、だからと言って今からテテに割いてやる時間は無い。仕事中なんだから、お客さんほっとくわけにはいかないでしょ、と花子は思った。


「テテがあんなに苦しんでいるの、全然わからなかった。私、お姉さんなのに・・・探してくる!!」


「ちょっと?! パリス!? オーダーたくさん来てる! って・・・マジか」

取り残された花子は、ピコンピコンとオーダーの入る音の中、頭を抱えたくなった。レジにお客さんも来ている。絶体絶命だった。





 それから1時間後。結果として何とかはなったが、若干おこな花子はパリスとウォッチニャで連絡をとり、テテの行きそうな場所を手分けして探す。


パリスはモール内の食品館やデザートを取り扱っている店舗、花子にはわからなかったが壊れた化粧台を取り扱っているところなども見て回っているらしい。


『他に行きそうなところ・・・ごめんなさい。私、わかんない・・・』

絶望的な声音で話すパリス。


「いいよ大丈夫! パリスはそのまま探しといて。私、3F降りて探してみるよ」

励ますように花子は言って花子は通話を閉じた。


とはいえ、花子なんてここにきたのはつい1ヶ月前。

何だか長い間働いてきた気もするが、まだそれくらいの日にちしか経っていないのだ。


「私が迷子にならないようにしなくちゃ」


花子はエスカレーターを降りる。


その時、壁から垂れるわしゃわしゃのエアプラントから黒いものが飛び出して花子の目前を通りすぎる。


「蝶々・・・?」


花子の口の中で血が滲み出すようにジワリと、レモンスムース、アップルミント、カプチーノ、ミートスパゲティやブラックペッパーの風味の味が広がる。

それは以前感じたものと似たような質感。味が脳に染みる感覚。


「これ、もしかしてエイカシア・・・!?」


花子はエスカレータから降り立つ。



<→関係者以外立入禁止←>



「・・・。」


異様な気配を感じた花子は一歩後ずさる。


この先は以前、テテを探しに倉庫へ探しに行った場所だ。


ーーーもしそこにテテがいたら・・・


エイカシアについて花子が知っていることはほぼない。

人にどう影響を与えるかとかも、何で倒すことになっているのかも花子にはわからない。

でも、これ以上状況が悪くなってほしくなかった。引き返す道はもうない。


「お願いテテ。もう一度話をさせて・・・!」


花子はぐっと扉を押した。



ーーー鳴り響く拍手の音。

暗闇の中で瞬く幾つもの瞳。


逆光を受け進む花子。背後で扉が閉まる。



響き渡る拍手の中でダークレッドの幕が上がり劇場が開演する。


<ペンタクルの10(Ten of Pentacles)>



それはパタパタとはためく何千、何万匹の蝶のだった。拍手のように降りそそぐ音はきっと、誰の言葉も遮ってしまうだろう。


「テテ! いるの?!」


目の前で羽ばたく蝶を腕で遮りながら花子は進む。


以前この場所へやって来た時も、テテを探しきた時だ。赤煉瓦の壁とたくさんの植物が繁茂する植物園。

噴き上がる噴水の泉。そこにテテは立っていた。

視線は何もいない水面を見つめ、その時花子は意味を汲むことはできなかった。そして廊下を歩くテテの足元に見えた影・・・


ーーー「花子は、みんなに見えないものが、自分にだけ見えたりすることってある?」



魔女なんてものがいまだによくわからないけれど、テテが魔女になるのならば花子は純粋に嬉しかった。


「でも分かんないよ、私・・・何も見えない」


手を伸ばして進む花子。

それを嘲笑うように蝶々が花子の顔に突撃していく。


「ねえテテ。いるなら返事をして!」


その時、遠くに微かにぼんやりとした明かりが見えた。


ハッとした花子は、導かれるようにそこに辿り着く。

<泡curd>と表記された乳白色の四角い筐体のソーダマシーンがポツンと一台置かれていた。


花子は一瞬唖然とするが、キッと眉根に皺を寄せて歩き出す。

ポケットから取り出した硬貨。


以前ソーダマシンの下から拾ったもので、ヘレネたちに相談すると「一応もっときなよ」ということでポケットに入れるようにしていたのだ。


「それを魔法と呼ぶのなら、今は信じてみるから!」


硬貨をソーダマシンの硬貨投入口へと入れ、ボタンを押すと取り出し口から半分飛び出してきた缶を手にとる。


ーーープシュッ!


乳性炭酸飲料の滑らかな口当たりと、炭酸の刺激が口の中で弾ける。


【 installing 】の四角い画面と進捗バーが表示される。

リンゴのアイコンがくるくると回転し、進捗バーのパーセンテージが増えていく。


ごくごくと、のどを鳴らしながら花子はそれを一度に全て飲み切る。

花子は口元から垂れた液体を手の甲で払う。


「はぁ、はぁ・・・」


【 installation complete 】





この時、花子の観える世界は劇的に変化した。


地面を走る水路が青く発光する。

グリッド線が空間を走り、さっきまであれほどいた蝶々の姿も音も一切が消える。


藍色とピンクの暗い空。道は水路に沿ってまっすぐ。その道の先には噴水があり、噴水の上にはミラーボールがピカピカと光り輝いている。

花子はそこへ歩を進める。


「テテ・・・!?」


ミラーボールに映るのはテテの姿。

ミラーの一枚一枚に表示されるのは花子の知っているテテの思い出。


盆に溜まった乳白色と薄いブルーのキラキラ光る水が、緩く回転するミラーボールを伝い、下の泉へと落ちていく。

泉はブルーに輝き、それは美しく神秘的な光景だった。


大理石の柱が立ち並ぶ空間。

ミラーボールの中のテテの映像はノイズが入り、徐々に白け、乳白の霧に覆われていく。



「・・・こんなことでおしまいなの? 嘘だよ・・・おかしいよ、こんなの・・・」



『ーーー何が?』


誰かの声。


誰かはわからない。けど妙に聞き馴染みのある声だ。

ずっと前から一緒にいる気がするし、初めてあった気がする不思議な感覚が、花子のすぐそばにあった。しかし姿は見えない。


「私だって、仲直りしたいの。でもテテが、ちゃんと話してくれないから」


『そう?』


「・・・少しでも、話しかけてくれれば・・・挨拶さえ返してくれればいいのに。私・・・早く許したいの! 何でわかってくれないの?!」


『許せばいい』


「許してるよ! でもテテが!! ・・・謝ってくれないの」


『お前から謝ればいい』


「何でそうなるの? 私が悪いの・・・? 私が?」


ーーー傷つけてた・・・? 何で? そうなの? テテ・・・?



「テテっ! もし私が何か、その・・・傷つけちゃってたら、何が悪いか教えて欲しいの・・・!聞こえてないと思うけど・・・」


『はぁ・・・面倒なやつだな。お前は』


噴水の上のミラーボールに叫ぶ花子に、呆れた声が言う。


「・・・。」


『伝わるようにしろ。そのための魔法だろ?』


いちいち心に刺さってくる声に、花子は反論した。


「そんなもの、あるわけないよ。ただの炭酸飲料で、他人も世界も、何も変わるわけないじゃん」


『変えるのは世界じゃない』


声の方へ振り向く花子。

そこには噴水の光を背に地面に伸びる影があるだけだった。



花子は泉に足を踏み入れる。

靴も服も濡れるのなんて構やしない。


ーーーそっか・・・変わるのは。変えられるのは・・・


泉の中心にある盆まで歩く。いつの間にかミラーボールははるか頭上に行って手は届かないが、その柱の根本には小さな三面鏡が水に浸って鎮座していた。

鏡は割れているが、今なら届く。

花子はその結露して曇る鏡に触れる。


「私」


キュッ!! と手をスライドさせミラーの結露を拭き取ると、鏡の中で制服姿でフロア清掃をしていたテテがちょうどこちらに振り向き・・・・目が合った。



ライトブルーの泉の上で花子のシルエットが黒く染まり、空間へと亀裂がエクステンションする。

亀裂に触れた水は水蒸気(vapor)に変わり、あたり一面を真っ白に染め上げる。



『ターンプリモルファ・アテンション』


花子の口から発せられる声。意識は深い霧の中に沈んでいくようだった。

しかし不安はない。花子は受け入れるように目を閉じた。


『メイクアップ』


ーー変身。





ドドドド!!という機械的な轟音。

ゴポゴポ!っと、汚泥か何かが詰まっていたものが吐き出されるような音と共に噴水の水が爆発する。


次に花子が目を開けた時、彼女は再び黒い蝶の溢れる暗闇の中にいた。

蝶々の密度はより上がり、花子はあらゆる方向からの圧迫で身動きが取れない。


「え?! え?!」


何が何だかわからない今の状況に絶望感を覚えたが、しかしそれは長く続かなかった。


蝶々は割れたガラスの天井から外へと次々に飛び出していく。

次第に周りは明るくなり、そこには以前来た時と同じような植物園が広がっていた。


ただ、噴水が狂ったように水を吐き出すので、あたりは雨が降っているような状況になっていた。



ーーー誰?!


人の気配。

振り返ると、マネキンが一体、焼けて炭みたいになって芝生の上に転がっていた。


「・・・。」


何やらとても怪しい感じがしたが、今は気にしている場合じゃない。



「テテ・・・っ!」


花子は噴水のそばで倒れこむテテの姿を見つけ、走って駆け寄り、その体を抱き起こした。



「先・・・生?」

うすら目を開けるテテ。



「花子・・・」

テテは目を見開き茫然とすると、次の瞬間、両目から涙がとどめなくこぼれ落ちた。


「ごめん、ごめんね花子!! 私、とんでもないことしちゃった。私が、やったの・・・私が・・・!」


「私のほうこそ、ごめんなさい・・・本当は気づいてたの、テテの気持ち。でも気づかないふりしてた。私、嫌味ったらしいから」


花子は涙を滲ませテテを抱きしめる。


「何で! 花子が! 謝るの!?」

テテは声をあげて泣いた。


割れた天井から風が吹く。

噴水は次第に勢いを失っていき、やがて正常運転に落ち着いていく。



「花子には大切な思い出がなくて・・・お洋服しかなかったのに私、花子は恵まれてるって。 勘違いしちゃった・・・本当にごめんなさい」


テテは鼻を啜りながらテテはポツリと話す。


「魔女さんみたいになりたいのは本当だけど、今はみんなといるのがずっと大事。きっと夢みたいなことだけど、でも・・・いつか。私ね・・・頑張るから。花子」


「うん」


「「くしゅん!」」


不意に二人から飛び出すくしゃみ。


「早く帰ろ。風邪ひいちゃうかもだし・・・それに、パリスもまだ探してかも!」


「ひえ〜! なんかほんと、私何やってんだろ・・・」


「大丈夫だよ! ほら、急ご!」


空から差し込む光。噴水の水飛沫は虹をかける。

水浸しで服は重いし何が何だかわからないし、まだ不安要素は残っているけれど、今の二人の心は晴れやかだった。







「今日は嬉しい給料日♫ いやささっ!」

「はいやっ!」

パリスとテテが掃除道具を持ちながら歌って踊っている。


「遊んでないで! もうお店始まるよ!!」

ヘレネが真面目に怒りながら二人を戒めている。


「花子は欲しいものあるの?」


「んー、そう言われると困るけど・・・」


カサンドラの仕込みを手伝う花子は考える。


衣食住は足りているので、正直、ものを買いたいと思ったことはなかった。

話を聞くと、ヘレネはアパレル関連グッズ(魔女ルゥのオタ)。パリスとテテは変なぬいぐるみとかお菓子とか。カサンドラは何故か包丁や調理道具を自前で用意しているらしい。経費で出るのにね。




あの事件以来、テテもすっかり回復しいつも通りの日常が戻っていた。

ただ一点を除いては・・・


「花子、背伸びた?」


「そ、そう?」


「本当! 私より大きくなってる!!(泣」

「右目が青くなってるのかっこいい」

「魔女さんって不思議〜」


「青・・・?」

花子は鏡を見て驚いたが、自分の目の色が片方変わっているのに気づいた。


時系列的に、テテを追ってあの黒い蝶々の群れと対峙して以降の変化だ。いつ変わったのか花子は気がついていなかった。


「これ、元に戻るのかなあ・・・」


「魔法だと思う・・・長く体に影響は出ないはずだけど、今度先生に聞いてみたほうがいいかもね」


ヘレネもよく知らないらしい。

花子は鏡を見ながら何だか色々憂鬱になってきた。




「え〜こほん! 私が先生の代わりに今月の給料を、皆さんにお渡ししたいと思います」


ヘレネが仰々しくそう言ってみんなに給料の入った紙袋を渡し、花子の番になる。


「はい、花子の分ですよ」

「あ、ありがと!」


ヘレネがレイチェルの真似をしようとしているのがなんとなくわかって吹き出しそうになるが、真面目そうだったので茶化さないことにした。


花子は給料の使い道を決めていた。ここで働いて1ヶ月になるが、実はずっとみんなに言いたかったことがあった。花子は受け取った給料を持って1Fのキャパニ食品館へ向かった。



「たまには野菜食べたほうがいいよ。絶対」


「これがお豆腐? 初めて実物見た〜」

「うぐぐ・・・これ白菜?」

「きのこ、しめじ。いやん」

「あばばばば」


「肉も買ってるから・・・カサンドラ、トングで威嚇しないで」


テテはあれから特に問題なくみんなと仲良く過ごしている。

その日のうちにみんなに謝って、みんなはそれを快く受け入れてくれた。


新しく買ってきた鍋とガスコンロ。ぐつぐつ煮えている野菜多めの鍋。


「ポテトもハンバーガーも野菜だろん」

と文句を言っていたカサンドラも、なんだかんだ、白滝を好んで食べていた。



「最初はびっくりしたけど、美味しかった〜。たまにはいいね、こういう料理も」

「次は、私も買い出し同行するからね!」

「それな! 今度は私だってお金出すから!」

「じゃ、肉選ぶ係やります」



花子は楽しかった。

何だか、本当にみんなに受け入れられた気がして嬉しかった。

言葉にすると軽く受け取られてしまったけど、みんなには感謝してもし尽くせない。


もしまた流れ星を見ることがあったら、花子は何を願うのか。もう決めていた。




「そろそろ洗濯機行こー?」

「さんせー」

「さんせー」



「・・・あの、行かなくていいんじゃないかな!? 洗濯機」


反射的に花子はそんなことを言ってしまった。

それには自分にも驚いたが、しかしそれを言葉にすることで、前々から感じていたある違和感を改めて意識した。



「そりゃ花子は、入らなくても問題ないかもしれないけど・・・」

「そうそう! 洗濯って生きる楽しみの一つなんだよ?!」

「花子のお願いでも、ねえ・・・?」

「無理無理のカタツムリ」


みんなは口々にそういった。

テテも当然だと言うふうに口を尖らせる。


花子は攻める。


「ねえテテ・・・魔女になりたいって気持ち、まだ変わらない?」


「え? えっと・・・できれば、なってみたいな〜って言う・・・そんな、感じ。

ん〜? もしかして花子、洗濯機に入ると魔女になれないよ〜って脅す気でしょさては」


テテは記憶が消えているわけじゃない。ただ、びっくりするくらい以前と元通りなのだ。

何がとは具体的に言葉にできないけれど、花子の目には何だか不自然に映るのだ。


結局簡単に誘惑に負けて「私は!! 入るの!!」と言って洗濯機インしたテテと、?マークを頭に浮かべたほか三人。


「ーーー先生は・・・レイチェルさんはこのことを知っているの?」


お風呂で湯船に浸かる花子は、神妙な表情で口元までぶくぶく沈んだ。




 次の日の朝、開店前の時間にフラミンゴバーガーに厚着をした一人の女性が入店する。

ちょうど花子がフロアの物販品を補充していたときだった。


「レイチェルさん・・・?!」


「あ、先生だ!」

「先生!」

「先生!」

「先生・・・!」


みんなが彼女を取り囲む。

レイチェルはサングラスを取ると、みんなを見て嬉しそうに笑った。


先の一件の話は、パリスとテテがあらかじめ連絡して伝えている。

テテのメンタルがおかしくなって、花子のエプロンドレスをゴミに捨てたのも含めてだ。


一歩離れた場所で見守る花子へ、レイチェルは視線を向ける。


「花子さん、ちょっと大切な話があるの。いいかしら?」


「・・・はい」


歩く花子とレイチェルの後をついていこうとする四人に「ほら、みんなは開店準備、進めてね!」とレイチェルは追っ払う。



「みんなを守ってくれてありがとうね」

事務所の席へ腰掛けたレイチェルは花子にそう言った。


「いえ、運が良かっただけです・・・パリスも、みんなもテテのこと探してて、私が偶然先に見つけただけで・・・」


「ふふ、謙遜はいいのよ。花子さんにとても感謝しているの。本当に」


レイチェルはいつもの調子で優しく花子に話しかける。

しかし花子の表情は晴れない。


聞かずにはいられなかった。


「あの、レイチェルさんは・・・どこまで知ってるんですか? 魔女や、エイカシアについて」


「?」



「あ・・・いえ、なんでもありません!」


レイチェルは困ったように首を傾げたので、急いで切り上げた花子。

済ました顔で振る舞っていたが、内心ドキドキが止まらなかった。


ーーーしまった! レイチェルさんも、みんなと”同じ”なんだから・・・間違えてるのは、むしろ私の方。最近、私、よくないなあ・・・


花子は胸に手を当てて、自分のその考えを胸の奥にしまい込んだ。


さて、花子がそんなことをうだうだ考えていた時だった。

レイチェルは突然思わぬことを言った。



「花子さん、一つ提案なんだけど、・・・フラミンゴ・バーガー専属の魔女になってみない?」



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