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最後の復讐







Ψ


Ψ

Ψ*Ψ

Ψ*

ΨΨΨ

20o9

Ψ

ΨΨ

ΨΨΨ

ΨΨ*

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Ψ*Ψ

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ΨΨ*

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ΨΨΨ

ΨΨΨ  *

ΨΨΨ Ψ                            

ΨΨΨΨΨ

ΨΨΨΨΨ      *

Ψ*ΨΨΨ** *


ーーーーーーーーーーーーーーー








<20o9*(トゥエンティーオーナイン)Ψ TRANQUILT 銀京シティΨ

_________MAKE UP GINKYO>







煌びやかでラメの質感で輝く曲線を意識した造形の銀色の巨大なタワー。その街路には木の代わりに大きな黒猫の像が並びライトアップされる。


この<20o9*>のタワー地下空間では、GINKYOブランドの商品を中心とした大規模なショッピングモールが展開され、GINKYO意匠の水族館・博物館やプラネタリウムなどの美麗な施設も併設される。




ーーーーーーーーーーーー


『Ψ SILVER CLOWN 』パウダーファンデーション・コレクション

ー No.001 pearl dream ー


ーーーーーーーーーーーー



シルバーのケースに入った滑らかな質感のパウダー。そのパールのような輝きが、光が少ない場所でも常にストロボに当てたような肌の仕上がりにしてくれる。



銀と白と黒の織りなす光の演出空間の中、カダリィは買い物袋を手に歩く。

カダリィは商品を選び、会計に回す。


支払いはいつもグリッダープラチナ・カードで。

会計をしている間、カダリィは自分の姿と商品を一緒の画面に収めてカメラのシャッターを押した。




ーーーカシャッ!




薄暗い紫色の光。カタカタと鳴り響くキーボード音。

ジラジラしたパソコン画面の中にあるのは、世界革命前夜のパースペクティブ・フィスティバル。

黒背景の中でピンク色の象がグリッド線の床を歩いているのが特徴的なロゴデザインだ。


そこのページにはカダリィの日々の生活が写真と共にありありと綴られている。



『はなまる! はなまる!』



投稿に反応する、顔の見えないたくさんの人たちからの通知。




「あれカダリィちゃんじゃない!? インターネットで最近話題の!」

「ほんとだかわいい〜! 魔女さんって言われても違和感ないよね!」



すれ違う人たちの視線、言葉。

顔も合わせたことのない人からの通知、反応、返信・・・



”価値”とはいわば、<美にして善きモノ(カロカガティア)>。

”美”は私たちの不浄を常に洗いエスカレーションしてくれる。

”善”は私たちの肉体をあるべき至高へと導いて(エスカレーション)くれる。



だから私たちは消費を通して世界につながるのだ。

円観(エスカレーター)とピラミッド(消費欲求構造)を通じ、肉体を通さず私たちを新たな世界ステージへと誘って(アセンション)くれる。


<約束の夜>が来るまで。





ーーーー<Thankyou for visiting ψ銀亰シティψ>






『お父様、わたくし、今度専属魔女の採用試験を受けることになったの』



暗闇の誰の気配もしない部屋。

留守電になった電話機のスピーカーから、カダリィの話す声が流れる。



「そんなに心配なさらなくても大丈夫だから。私だってもう子供じゃないの。」



電話ボックスのガラス面を雨水が垂れて流れる。


カダリィは視線を上げる。

ガラス越しに見る世界は、車の赤いテールランプや街灯とビルの灯りが淡くキラキラとぼやけたシャボン玉の世界だ。



カダリィは話しながら分厚い電話帳のページをめくる。

めくる。

めくる。

めくる・・・


本の中身がくり抜かれており、その窪みには真っ赤な”こぶしだい”の鉱石が収められていた。



『わかってる。週末には帰る・・・。うんーーー。大好き。好き』


声に熱が籠る。


深い血のような赤。鉱石を透かす光が、怪しく黒々とキラキラと光る。


電話の先から、「ガンッ! ガンッ!」と何かを叩きつけるような危険な音が何度も繰り返される。


それは愛だった。

雨が激しく降り注ぐ。

水の玉が激しくガラスの表面をつたい落ちていく・・・




「好き・・・」







ーーガチャン



緑色の受話器が置かれる。

雨が止む。


すでに、電話ボックスの中にカダリィの姿はない。

電話ボックスの緑色の灯りと遠いビル灯りが、濡れた石畳に反射する。



挿絵(By みてみん)










ーーーーーーーーー












プルルルルル、プルルルルルル・・・


カチャッ!





『お電話ありがとうございます。ジアノイア・コーポレーション・コールセンターでございます』




凹凸のない顔の白いマネキンたちがデスクに腰掛け電話を取る。

さまざまな問い合わせ、困りごとに電話で対応する24h年中無休のサポートセンター。


軽快なBGMが流れるフロアで、電話対応する人たちの列の中。



花子はおずおずと電話をとった。



『あ、もしもし! 弊社でございます! 購入したプリンターで赤い線が入ってしまうと・・・すぐに来て欲しいと・・・。すみません、私、機械のことあまり詳しくなくて、上司に相談しま』


・・・プププ


『あ、もしも・・・失礼しました。ありがとうございます、ジアノイヤコーポレートです・・・あ、トナーの発注の依頼ですね。え、リボン?? あのリボンでしょうか? 消耗品? ですか??? はあ・・・』


・・・プププ


『ジアノーヤコーポです・・・はい・・・はい・・・申し訳ありません。弊社の担当者でございますか? 少々お待ちください確認します・・・すみません』



電話をとるたびに、声の覇気がなくなっていく。

電話相手が言っていることが何一つ分からない。なのに、周りの同僚たちは何やらスムーズにことをなしているようで、花子はなんだかとてもいたたまれない気持ちになる。



「花子さん、書類のコピーをお願いしてもよろしいですか? 15部、モノクロで両面集約、ステープルもお願いします」


「わっ!!」


気づくと、スレッダが花子のデスクのすぐそばまでやってきていた。

花子は驚いて、つい大声を上げる。椅子から転げ落ち、床にへたり込む花子。


「スレッダさん? あれ・・・?? 人間に戻ったんですね!」


「? そうですね。・・・14時の会議で使いますので、頼みましたよ」


そう言ってスレッダは花子に背を向けて、スタスタとデスクの列を歩いていく。

あまりにも冷たい対応。

花子はその背中を追いかける。


「まっ! 待ってください・・・! す、ステープルってなんですか〜〜???」








プルルルルル、プルルルルルル・・・


カチャッ!



『お電話ありがとうございます。ジアノイア・コーポレーション・コールセンターでございます』




真っ白いフロアでは、白い顔のマネキンたちがひっきりなしに電話対応をしている、

永遠に続くかのように見えるそのデスクの列。

スレッダの姿は地平線に吸い込まれ、見えなくなってしまった。


花子は息を切らし、スレッダから渡された書類を見て途方にくれる。




『ピッ・・・ピッ・・・』




複合機の前にやってきたはいいものの、花子はこの機械を使ったことがない。

よく分からないまま画面を操作していくが、そこに書かれている文字の内容が何一つ理解できない。


時計の秒針の速度が異常に速い。

約束の14時が徐々に迫ってくる。





プルルルルル、プルルルルルル・・・


カチャッ!



『お電話ありがとうございます。ジアノイア・コーポレーション・コールセンターでございます』







ガーーーー!


フィーリングであちこち押しているうちに、セットしていた原稿が機械に吸い込まれていく。

「やったか?!」と花子は嬉しくなり心の中でガッツポーズをしたその時。



ゴポッ!!ごぽぽぽ



なんか複合機からはしてはいけない音がした・・・気がする。

とはいえ花子は機械に詳しいわけじゃないので、冷や汗ながらも涼しげな表情で華麗に排紙部に手をかざし、複合機から出力されてくる印刷物を待つ。



「えっ! 何これ!?」


花子の手に排出されたのは紙ではなく、真っ黒い液体だった。




ガーーージョバババババ(異常な音)!!!



複合機から排出される止まることを知らない黒い液体が、真っ白いオフィスを、デスクの列の間を流れていく。


インクなのかなんなのかよく分からない液体は床の上を流れ、集結し、やがてどこかで見覚えのある形を取り始める。




<ソードの8番>




現れたエイカシア一匹だけじゃかった。同じようなのが何匹も、コピー機から次々と出力されている。

いつの間にかオフィスには誰もいない。さっきまで響いていた話し声も電話一つなっていない。



「あわわわ・・・」


腰を抜かした花子は地面を這う。


「誰か助け・・・っ「!」


うまく立って走ることができない。デスクの列の間を這うように花子は逃げ続け、その後をタコとかクラゲみたいなエイカシアがウニョウニョと腕を伸ばして追いかけてくる。






「くっ、苦しい・・・苦しい・・・」






うわごとのような声。


それが自分の口から出ていることに気づいて、花子はそれが夢だったことに気づいた。





「・・・はぁ」


花子はペットボトルの水を飲み干すと、再びテーブルに突っ伏した。

テーブルの上にはたくさんの本や教材が積み上げられ、教科書にはあちこちに付箋が貼られている。



「ノイローゼになりそ・・・」


もう教材なんか見たくないと払いのけて腕に顔を埋めた。

不貞寝したい気分だが、心臓がドキドキしてしばらく寝られそうにない。



「あら? もうお休みですか?」


「わっ!! びっくりした!」


唐突な呼びかけに花子は飛び上がった。



振り返ると、縦型の洗濯機の上で照らされる一匹の黒猫。

猫になってしまった<ジアノイア・コーポレーションの魔女>ことスレッダニヴァーシュが天井からの灯に照らされて座っていた。


「失礼・・・他人が私の部屋にいる感覚にまだ慣れていなくて」


「い、いえ! こんな素敵なお部屋に泊めさせていただいて・・・いつも本当にありがとうございます!」


花子は手をブンブン振って自分でもよくわからない事を言った。





 暗い暗緑色の空。コンピューター摩天楼のビル群は輝かしい光を放つ。電子基板のように網目上に張り巡らされる金色の道路と、走る車の赤いランプの群れ。巨大な扇風機ファンが地平線でぐるぐると周り、この<コグニタム電機SQUΛRΣ>の街から発せられる茹だるような熱気を静かに冷ましている。


そんな街のビルの一棟、高層マンションの一室の中に花子たちはいた。



「お水持ってきますね! あと、私お昼にカエルサンドイッチを作ったんです! いかがですか?」


花子は何かから逃げるように、立ち上がって台所へ向かう。青白い光が充す冷蔵庫の中には青野菜、加工肉食品ベーコンやハムや缶コーラが数本入っていた。

花子はラップに包まれた皿に乗ったサンドイッチを手に取る。



「ありがとうございます。ちなみに花子さん。今から模擬テストってできますか?」


「は、はいー・・・」


花子は曖昧に返事をする。


テスト、嫌な響きだ。

夢からは覚めても、現実からは逃げられそうになかった。








ジジジジジーーー

#######################################################






天井まで伸びたホワイトボードに、PC画面がプロジェクターによって投影される。コマンドプロンプト画面に自動的に文字が続く。


黒猫が横を通り過ぎ、小さな影が映像に落ちる。



「”<magia&co.>が定める規定に認められた場合、その者は魔女応募資格を有したものとみなし<プリモルファの魔法>のライセンスを有する専属魔女オーディションへの参加が認められます。”・・・ここでクエスションです」


Q!



「”<magia&co>が定める規定”の中で、間違っているものは以下のどれでしょう。

1.magia.co.が認める所定の実務経歴を有するもの。

2.第2マルシェ機関から推薦書式を発行されたもの。

3.<magia&co.>が認定した教育機関において、教育課程を修了したもの。



「・・・。」

花子はプロジェクターに映る問題文を目で追いながら、真剣な表情で考える。




ーーーー魔女だけが使える対エイカシア用戦闘魔法、<プリモルファの魔法>。



テレビ画面の向こう側で使われる魔法は、とにかく派手で攻撃力がある。

それはエイカシアに対して有効性を示すとともに、”視聴率”を上げる工夫でもある。

数は力、力は資本。<プリモルファの魔法>はテレビを見る人が多いほどより強力で、より自由に魔法を使うことが可能になる。



(今回私はスレッダさんの推薦を受けて専属魔女に応募する。私が該当するのは2番目だけど、でも第2マルシェ機関って名前だっけ・・・? 3番の学校は、確か広告代理店の<プレゲトン>っていう企業の経営する学校・・・。1番の実務経験は教科書に書いてた気もするしなかった気もするけど・・・なんか怪しい感じがする)


花子は数秒考え込んだ後、意を決して応えた。


「1番、ですか?」



「ーーー不正解。間違っているのは2番ですね。第2マルシェ委員会ではなく、第3マルシェ委員会になります」


スレッダは淡々と告げた。


「結構簡単な問題なんですけど・・・あれですかね、実はあんまりやる気ない感じでしょうか?」


「う”」


「私としては、花子さんには”しばらくの間だけ”ジアノイアの専属魔女になって欲しい。”私の身体”を取り返すためには、花子さんの協力が必要です。この話は花子さんにとっても経験と実績を積めるメリットがあると思っていたんですが」


「すみません・・・」


「過去問から出題傾向もある程度絞れていますし、全部の単語を記憶しなくても推理していけばある程度選択は絞れます。”今まで”お勉強してこなかった分、花子さんに必要なのは問題を解く物量。それさえこなせれば誰でも合格できます。・・・やはり、花子さんには荷が重ーーー」


スレッダはそこまで言うと途中で言葉をピタッとやめる。


「っと・・・こういうのもハラスメントになるらしいのでこれくらいに。私はこれから用事があるので、そろそろ出かけますね」


「・・・。」



花子は俯く。



ーーースレッダさんが戻ってくる少しの間だけでも魔女の仕事をしてみたい。正直、このチャンスは逃したくない



魔女になりたいと思ったらすぐにでもなれると思っていた。

素質があると言ってくれた人もいた。その言葉を疑わず今まで信じてきた。

でもそれだけじゃないことを最近になってようやく感じ始めてきた。


知識に倫理の知識全般。会社に雇われる以上、押さえていなければならないことは多い。

テーブルの上に積まれる教本の山が、自信のなさと不安のあらわれみたいに見えて、気分もどんより落ち込んでくる。


だから今はフラミンゴバーガーのみんなのことは心の深くへと沈めておく・・・。

今は目の前のことに集中しなくちゃ・・・!





「・・・。スレッダさん。明日も帰ってこないんですか?」


「ええ。少し遠出します。明後日までは考えなくていいですよ。帰る時は連絡入れます」


スレッダそう言いながら洗濯機の上に飛び乗る

洗濯機は縦型で、中はピカピカのLEDが輝いて回転しまるでミラーボールのようだ。



「試験!」


花子は呼び止めるように言った。


「合格できるように頑張ります・・・! スレッダさんのためだけじゃないです。自分のために、魔女になりたいんです!」




「ええ、期待しています・・・では。ご武運を」


それだけいうと、スレッダは洗濯機の中へ吸い込まれていった。





「・・・。」


プロジェクターに映し出されるコマンドプロンプトの文字がジラジラと揺れる。

花子はボールペンを手に取り、過去問題集のページをめくった。



「よーし!」

















<  \\Windows23区_コグニタム電機SQUΛRΣ

  ジアノイア・コーポレーション 本社ビル      >

 




 立ち並ぶ摩天楼のビル群は、巨大なデスクトップパソコン。横置き型、タワー型、本体ディスプレイ一体型など様々なバリエーションがあります。

ブラウン管モニターディスプレイには商品やサービスのコマーシャルがいつでも流れ、信号機に従って活動する車両の列はピンク色のテールランプを引き、暗い空に覆われるこの街を光で満たし、くっきり彩っています。






『<ジアノイア・コーポレーション>は複合機・ファクシミリ、プロジェクター、パソコンなどのオフィスオートメーション(OA)機器の製造から販売・保守まで幅広く提供しております。導入いただいたエッジデバイスを弊社データセンターへ繋ぎ、専門的な知識を持ったtechサポートと連携。急なトラブルもすぐに解決、お客様が快適に業務ができるようお手伝いをさせていただきます』




ビル(コンピューター)の上に設置されたブラウン管モニターには、魔女スレッダの姿が映っていた。首にスカーフを巻いたスーツ姿で淡々と事務用品・OA機器のコマーシャルを流している。


ちょうどその上を、飛行船がビルの上空を通過した。





「あれ、なんか飛んでる。鳥さん?」



「何してんの? 朝礼始まるよ〜!」



首から社員証を下げる社員がソーダマシンの前で駄弁っていた時、背後から慌ただしく誰かから声をかけられる。



「す、すみません! 魔女の採用試験を受けにきたんですけど、ここってA棟で当たってますでしょうか?!」








//TMTMTMTMTMTMTM











「ごきげんよう」


「ごきげんよう」



人の往来する巨大な吹き抜けの大広間。

天井は高く、巨大なガラスの窓からは摩天楼のコンピュータービル群が見渡せる。


広間の一角、窓際には今教室机が等間隔に並べられていた。


そこにはカダリィの他にもたくさんの応募者がすでに着席していた。

教室机が等間隔に30ほど並べられ各々着席し、正面にはホワイトボードが配置される。

皆緊張しているように見えるが、カダリィは悠然とした態度を崩さない。『魔法主義における主体と客体について』を読みながら時間が過ぎるのを待つ。



ーーーそろそろ時間・・・


カダリィはエンディミオ・ブランドの腕時計に目を伏せ本を片付ける。

静まり返る会場の中、ブラックボードの前に立つ面接官が席から立ち上がる。





「すっすみません!! 遅くなりました!!」




「・・・。」


視線を上げたカダリィの目線の先で、フラミンゴカラーの髪が目に入る。



紺系のセットアップ。ショートボブの髪、フォーマルな服装はむしろ、面接官と被ってこの場では浮いていた。

息を切らし、それから会場の中を見渡し驚いたような表情を浮かべる。



「時間ギリギリですね。事前に連絡はいただいてましたが、遅刻した時点で不合格になります。お気をつけください」


「はい・・・すみません」


顔を熱らせながらその子は、わたわたとカダリィの後ろの空いている席に着席した。




「本日はジアノイア・コーポレーションへお越しいただきありがとうございます。面接官のフォルコーププと申します」



ホワイトボードの前で、スーツ姿のメガネをかけた人物はそう言った。


「今回は30名の専属魔女応募者がこの場にいらっしゃるとのことで、未来の新星ニュースターが皆様の中から生まれると弊社としても大変期待しております。・・・さて、オーディションに入る前に」



フォルコーププと名乗った人物はブラックボード前の机の上に置いてあるプロジェクター装置の電源を入れた。ぽちっとな。



ペカーーーッ!!



応募者たちにプロジェクターの謎の光が照射される。


「わっ?! 眩し!」



目を瞑る応募者たち。手を目の前にかざし、恐る恐る目を開けたカダリィはハッとする。

自分を含め全員の体が光り輝いており、やがて光が終わると皆同じ制服へと変化していた。


パキッとしたスーツにスカート、首にはスカーフを巻く。フォーマルなジアノイア・コーポレーションの制服に少し花を加え、それでいてオリジナルと並んでも主張しすぎない絶妙なデザイン。胸元には天秤の企業アイコンが刺繍されていた。



「我々ジアノイア・コーポレーションの企業理念。”規律と公平。天秤は我々が世界において果たすべき役目(role)を表しています。ゆえに、あなたたちにも平等の機会を与えられ、ただ魔女としての”結果”のみを考慮して判断していただきます」



「・・・Q!」


「どうぞ」

”Q”と書かれたプラカードを掲げた応募者に、フォルコーププは発言を促す。


「それはつまり、今までの実績を問わず、この”採用試験”の結果だけを鑑みる、ということでしょうか?」


「ウィ。みなさんが持つアイテムをこちらでお預かりしました。アイテムは無用な差異を生みます。差異はこの空間より排除されます」


みんな各々自分の荷物を確認しようとゴソゴソする。

カバン、ピアス、万年筆や腕時計などが消えていて、「うそ〜」「高かったのにー」と悲鳴が聞こえてくる(髪留めなどのヘアアクセサリーは別商品に変更されている)。



「ご安心を、試験が終了しましたら全てご返却します・・・。さて、皆様にはこれから本物の魔女を一人、皆さんの中から”炙り出して”いただきます。お配りしているケースを開けてみてください」


パチン!


席に着く応募者たちは、机の上に置いてある弁当箱くらいの大きさのケースを手に取る。ピンクと黄色をメインカラーにしたかわいらしい趣味のあるキラキラしたケースだ。

中には赤いお花の形にカットされた小さな鉱石が一つ、きらりと光る。



「皆さんにひとつづつお渡ししています。それはあなたの”はなまる”です。あなたが魔女だと思う方に推薦したい場合はこれをお渡しください。受け取った方は自身のケースの中へ大切にしまいましょう」



ケースには30個の宝石がセットできるようになっている。

カダリィは済ました表情でケースを閉じる。

誰にも渡す気はない。この時、カダリィだけではなく、他の応募者たちも同じ疑問が浮かんでいた。


応募者の一人が手をあげる。



「Q。自分以外に推薦したい人がいない時は、どうしたらいいんでしょうか?」


最もな疑問だったので、皆の視線が「そうだそうだ」と言いたげに頷く。



「ご自身以外にこの場に魔女はいない・・・という確信があるのなら、あなたは魔女です。あなたの”はなまる”はご自分に渡してあげてください」



「Q。それではずっと決着がつかないのじゃないでしょうか? 誰かに渡するメリットがないですよね?」


「もちろん。弊社が採用する魔女は一人だけ。我々は魔女である皆さんの意見に従います。誰よりも多くの”はなまる”を獲得し、弊社の専属魔女を目指してください。」


会場がざわつく。

つまり、自分を除く29人から誰よりも多くの”はなまる”を集めないと魔女になれないということ。同じ”魔女”を目指すもの同士から・・・



「我々は、皆さんが魔女を見つけやすいよう、各種プログラムを用意させていただいております。ご自身の選考の参考にしてみて下さい。何か質問のある方はいらっしゃいますか?」


「Q!」


手をあげる応募者の一人”Q”のプラカードを机に叩きつけ、席から立ち上がる。



「私は、魔女です!」

即座に二人目、3人目と次々に立ち上がる。


「いいえ、私です!」

「魔女は、私なんです・・・! 信じてください!!」

「ちょっと席の前で立たないでくれない? お尻で前が見えないんだけど?」

「みんな順番守って! 一番前の席の私から順番に発言をしましょう!」



皆が自分が魔女だと主張する。会場は恐慌状態に陥ってしまった。




「馬鹿馬鹿しい・・・」



喧騒の中で、カダリィは席につきながら小さく呟いた。

誰にも聞こえないくらいに呟いたはずだったが、


「えっ・・・!」


後ろの席から驚いたような反応。


カダリィは振り向くと、そこにはフラミンゴカラーの髪の子が驚いたように周りを見回し、それからカダリィと目があった。


カダリィはニコリと笑って、再び前に向き直った。



ーーーぼんやりしてると置いてかれちゃうよ・・・?



嫌味っぽく心の中でわらった。











「みんな〜仲良くしようね〜!」

イミシアン。


「こういう場ってなんだか緊張しちゃいますよね〜!」

ヴィイッツ。


「えっと、よろしくー」

トンデモニューム。


「ななな那由多なゆたです。よよよろしくお願いします!!」

那由多。


「良いディスカッションにしましょ」

カダリィ。



「カダリィさんってあの有名な!?」

「私知ってるー。最近投稿してたイヤリング、<δvτ>のフェアリースフィア、めっちゃ可愛かった〜!」

「え、あ、あのフェアリースフィアですか!? <δvτ>の長期δ(デルタ)プラチナメンバーにのみ購入できるって噂のあの!!」

「へーすごーい!」



何やら盛り上がる面々の中。

6人の中で一人だけポカンとしている子が一人いた。



「カダリィと申します。自己紹介をお願いしてよろしいでしょうか?」

カダリィはその子に発言を促す。



「はっ、花子です・・・わっ私が御社を志望した理由は、以前から専属魔女として働いてみたいと思っており、これまでいろいろな活動を通して魔女について学んできました。この度、御社が専属魔女を募集しているとのことを伺い、応募させていただきました!」



「「・・・。」」

場が一瞬静まり返る。



「「面接???」」


5人同時に突っ込まれた・・・。







ホワイトボードに描かれる文字。

お題は「理想の魔女とは?」について。ストップウォッチの合図で、ディスカッション・タイムが始まる。

四角い教室机を互いに向かい合わせ、それぞれ5人ずつ6個の島に分かれて意見を交え合う。



「つまり、イミシアンさんの話を要約すると、”個性があって魅力がある。世の中に対するアンテナの感度が高い”、と。言葉合ってる? イミシアンさん!?」


「そうそう〜! その通りだよ〜! ヴィイッツちゃんは賢いね〜!! はなまる上げちゃう〜!! はなまる!!(空中に指で、はなまるを描きながら」


「ありがと〜! イミシアンちゃんの意見がとても良かったからだよ〜汗汗」


イミシアンとヴィイッツがイチャイチャしているのをよそに、”こほん”と咳払いをしてカダリィは続ける。


「確かに、魔女と呼ばれる方達には目にわかりやすい魅力以上に、繊細でいながら凛と立つ力強さを感じますわ・・・”アンテナの感度”が高いという表現は的を得ていると思います」


その言葉に慌てて那由多が返す。


「あっ! わ、わかります〜確かに確かに! 波長の調節が上手いというか認知能力が高いというか!」


挿絵(By みてみん)


グループで発言をしないのは二人。

トンデモニュームは書記。発言するのは得意じゃないとのことなので、真っ先に書記に立候補した。


アイデア出し担当の花子は、一言も何も発せないまま議論はどんどん進んでいく。



「花子さんは何か意見はありますか?」

司会のカダリィは何度目かの投げかけを花子に振った。



「い、意見は・・・その、考え中で」


「焦らなくてもよろしいですよ。考えが纏まりましたらいつでもおっしゃってくださいね」




ーーー理想の、魔女・・・?



花子はお題について考える。

かっこいい? かわいい? 歩き方が、綺麗・・・?


考えを巡らせるが、いちいちルゥファラフトとかいうツインテールの人でなしが脳裏にチラつく。



ーーーなんかイライラしてきた。。。


というわけで結局花子は何も言語化できず発言できなかった。




(え? もしかして私、やばい???)



模造紙(あの発表する時のでかい紙)に発表内容を書き込んで完成させ、満足げにダブルピースするトンデモニューム。


黒板の前でまとめた内容を発表するイミシアン。

5人の一番端っこで立つ花子は結局何もできなくて、魂が抜けたように頭が真っ白になっていた。









「あれ? なんか飛んでる? お魚?」


「何してんの〜? 昼食行くよ〜」



ソーダマシンの前でジアノイアの社員がそんなやりとりをしている。

空には白い飛行船が飛び、ジアノイアコーポの本社ビルの上空を通過する。





ビル中腹の空中庭園。空を飛ぶ飛行機の影が、昼食をとる魔女を目指す応募者たちの上を通過し、巨大な影を落とす。


ビュッフェ形式のランチ。シーツを被せたテーブルの上で、銀色の鍋や皿に食事が盛り付けられて、それをお盆に乗せたお皿に盛って席について食事をとる。

花子は3角形のサンドイッチをお皿に乗せる。ツナサンド、卵マヨネーズ、キュウリ、カエル肉、ブラックチェリーなど、いろんな種類があったので花子は全種類取っていた。



「な、、、那由多さん。で合ってましたっけ。ごめんなさい・・・まだ皆さんの名前をしっかり覚え切れてなくて・・・」



花子は空いてる席の関係上、なんとなく一緒になった同じグループの那由多と食事をとっていた。



「ええ! 那由多です! 私、魔女のオーディションを受けるの初めてで・・・もしかして花子さんもですか?」


「は、はい・・・! 筆記試験と面接って聞いてたので、まさかこんなにたくさんの方がいると思わなくて、びっくりしてます・・・」


「うふふ、まあ、花子さん以外全員<プレゲトン学校>の修了学生ですから・・・。私たちには合同オーディションになるって情報は通達あったんです。まさか、同じ魔女志望の方から票を集める蠱毒(こどく)みたいなことになるなんて・・・」


あるいはサメの胎内! となんか変なテンションで喋る那由多。

花子は困りながらも笑う。


二人は話をやめて食事を進める。


花子はストローで瓶に入った炭酸牛乳を飲む。

怪訝な表情で瓶のラベルを見て、一緒に持ってきたお水で口直しをした。



「私、スレッダニヴァーシュさんに憧れてるんです」


「・・・えっ。スレッダさんですか?」


いきなり出された名前に、花子は驚いて咳が出そうになったのを抑えた。



「私、普段は根暗であまり人の前に立つのが好みではない人間種なのですが、スレッダニヴァーシュさんの魔女としての活動を拝見し、こういう働き方ができるんだと思いすごく感銘を受けた次第です!」


ぽかんとする花子に那由多は続ける。


「志望理由、お互い知ってた方がイーブンですから・・・それにしても私、どこかで花子さんを見たような気がするんですが、どうにも、うーんゴニョゴニョ」


首を傾げながら唸る那由多。

親しくしてくれるのはありがたいが、距離感がやや近い。花子はとりあえず一旦離れたくて会話に距離をとった。


「うーん、ショッピングモールとかはよく行来くな〜・・・もしかしたらその時すれ違ったこととかあるかもしれないですね〜・・・」


「そうでしょうか? うーむ思い出せない・・・でも、花子さんとはなんだか波長が合う気がします。一緒に頑張りましょうね!」









「みんなー。聞いて欲しいんだけどー」



花子と那由多がランチから大広間に戻ってきた時、すでに昼食を終えていた応募者たちが何やらざわついている。


その中心には先ほどの声の主、イミシアンが複数の応募者を取り巻きに全体へと呼びかけていたところだった。



「提案なんだけど先にうちらで決めとかない? 気づいてると思うけど、この中に魔女じゃない子いるでしょ?」



ーーーめんどくさい空気になってる・・・



と花子は内心関わりたくなかったけど、かといってお手洗いも済ませたし、自分の席に着こうと足を進める。

しかし、隣で歩いていた那由多がついてこない。

那由多は顔を伏せ、蒼白な顔で立ち尽くしていた。




「魔女じゃないのに魔女って嘘ついてる人はさ、自分のことも客観視できてないみたいだから、うちらが教えてあげるの。現実を。ーーーどうかな?!」



今はランチタイムなので人の往来が少ない大広間。省エネのため照明も所々切られているので少し暗い。この場には応募者たちしかいない。

場がしんと静まり返っている。



イミシアンは得意げに机の上にもたれかかるように座る。

取り巻きの子達(同じグループのヴィイッツもいる)はイミシアンの発言を理解し、


「確かに! 先にそういうの事前に分かってた方”色々”やりやすいよね〜!」

「うんうん! 私、イミシアンちゃんに賛成だよ〜!!」

「え〜じゃあどうする? 一回みんな集合させた方がいい?笑」


と便乗して煽っている。




「あっ待ってたよ、那由多ちゃん〜!」



イミシアンは嬉しそうに呼びかける。



「戻ってきたところごめんね? 同じ学校の者同士、ちょっと那由多ちゃんにも協力してもらいたいんだけど、準備手伝ってもらえない?」


そういうと、どこから持ってきたのか、A4用紙の束を机の上に置く。



「この紙を使って、”魔女じゃないと思う人”に投票してもらう。順位を”見える化”するの。那由多ちゃん細かいこと得意でしょ? 投票用紙を作る係をしてもらいたいの。いいでしょ? 同じ<プレゲトン学校>の友達じゃん? うちら」


こんこん、と机を指で叩く。こっちに来い、と。



那由多は返事をしない。

表情は青ざめ、花子の後ろに隠れるように・・・花子の袖を小さくつまんだ。




「あの。そういうのあまり良くないと思うんですけど」



花子は前に出て言った。



「んっと、お名前なんだっけ? ・・・ごめん」



イミシアンはやや困惑気味にそういった。

まさかあのディスカッションで何もしてなかった花子に言い返されるとは思っていなかったのだろう。



「花子です・・・。試験管のフォロコーププさんの指示を待っておいた方がいいんじゃないでしょうか?」


「は?」


ざわざわ、と取り巻きたちが「何あの子」「遅刻してきた子でしょ」「初めて会ったのに言い返すなんてことある?笑」と陰口みたいに言っているが全部聞こえる。


一瞬困惑していたイミシアンだが、すぐに平静を取り戻す。



「あ、ごめんね? 確かに〜? 休み時間とはいえ勝手にこんなことしたら運営に支障が出ちゃうかもしれないと。今は静かにしてた方がいいってことね、うんうん!」


イミシアンは物分かりがいいというように頷いて言った。

花子がほっとしたのも束の間。



「花子さんはさ、なんか自慢できることとかあるの?」



「・・・自慢ですか?」


「試験管も言ってたでしょ? この場から差異を排除する。私なんか、<エンディミオ>の時計取り上げられちゃったから自慢できることあんまりなくて、現在進行形で困ってるの」


そんなそんなあの優秀で最強おしゃれ可愛いイミシアンちゃんが〜、と取り巻きがフォローしている。



「花子さんのこと、色々知りたいなー」



「私・・・」


皆の目線がこちらを見ている。

値踏みされてる嫌な空気だ。一人、窓際で本を読んでいるカダリィは我関せずといった態度だが。


花子は無言でいると、イミシアンは”もう十分”というふうに言った。



「・・・あっ! なんかごめんね〜? 初対面なのに困らせちゃった!? 私も花子さんみたいに静かにしといた方がいい?」



くすくす、と鼻で笑われる。


花子はぷいと顔を背け、自分の席へ向かう。

嫌な気分にはなったが、あまり突っかかったり気にしな方がいいと判断した。



「あっ」


花子の後を那由多が追いかける。




「・・・大丈夫?」


席についてタイミングを見計らい、落ち着いたところで花子は那由多に話しかける。



「イミシアンさんたち、学校のクラスメイトで・・・いつもあんなふうに絡んでくるんです」


「そ それは、、大変だね・・・」

花子はなんともいえないような表情で言った。


その時ちょうど、試験管のフォロコーププが広場にやってきた。



「でも助かりました・・・ありがとうございます」


花子が視線を前に移した時、那由多はもう一度言った。

花子が「?」と思って那由多を振り返ったときには、花子と目が合わなかった







 それからのスケジュールについても、花子に関してはあまりパッとしない印象だった。


”<ジアノイアの魔女>として何を実現したいか”というディスカッションタイムがもう一度入り、ここでも花子はあまり喋れず、次の時間の50問筆記試験では60点台。ワンツートップがカダリィとイミシアンだった(カダリィは満点だ)。




「夕礼始まるよ〜」


「足痛い〜やっと帰れる〜!」


ソーダマシンの前で首から社員証を下げた社員がそんな会話をしている。

空もぼんやり暗緑色に暗くなり、街の灯りがキラキラとし始める。






「就寝でーす。点呼とります」



非常出口のピクトグラムの緑色の光が通路を照らす。

通路の脇には冷蔵庫が設置されており、自分の寝るベッドがその中に収納されている。


初日なこともあってみんな割とヘロヘロのようだ。トンデモニュームは立ったまま目を閉じフラフラしている。


「最後に花子さん・・・と。全員いますね。」



冷蔵庫の上の段のベッドはカダリィだ。

カダリィは納得がいっていないような怖い顔をしているので、花子は冷蔵庫の中から梯子を引き出すのを手伝いながら恐る恐る聞く。



「あの、交換しますか?」


「そういう問題じゃありません」


わたくしがなぜこんな・・・とぐちぐちいっていたが、とりあえず腹は決めたようでカダリィが入った後花子も冷蔵庫に入る。



ーーー鏡に映る花子は、耳元に手を当てる。

クロムハートからもらったピアスを取り上げられているので、いつもつけているピアスは今手元にない。小さな穴が空いているだけ。


さっきシャワーを浴びたときの光景。

ベッドの上で同じように手で耳たぶを撫でる。



「・・・。」




「別に。一人はもう慣れた・・・」



「・・・。」



「おやすみ・・・」



花子はベッドに仰向けに横になり、天井に向かって小さく呟く。

聞こえてはいないはずだが、なんとなく上の段のカダリィの動く気配は伝わってきた。

それだけでも寂しさはまぎれた。








*********








「じゃーーん!」


教室机の真ん中でイミシアンはピンク色の宝石ケースを開けて取り巻きに見せていた。


「え!? すごい! イミシアンちゃんもう”はなまる”を7個持ってるの?!」

「7個も!?」

「すごーい! どうやったの〜!」


「えー知りたい〜? ひ・み・つ」


全員の視線と耳がイミシアンたちに集まる。

普段反応しないカダリィも、イミシアンに視線を向ける。




「Q! ”はなまる”の件で質問ですが、すでに誰かに渡してる人、受け取っている人がいます! それっていいんでしょうか?」



「ウィ。構いませんよ?」


フォロコーププが広場にやってくるなり質問が飛び交うが・・・


「逆にまだそんな質問が出ることに驚きなんですが・・・その点においては、イミシアンさんはまさに”はなまる”です。この場で唯一すでに誰かから”はなまる”をもらっている。結果を出すのは魔女として当然の仕事ですよ?」






ーーー困った・・・本当どうしよう。


花子はお手洗い室で鏡を見ながらつぶやく。

算段がない。このままじゃ本当に”魔女”になれない。



ーーースレッダさんに連絡しようにも、ウォッチニャも取られちゃったし・・・電話ボックス探す? でもそれじゃ不公平? いやでもなあ・・・うーん



「どうしよう花子さん・・・!」


「本当どうしよ・・・ん?」


花子は鏡の中にもう一人誰か写っているのに気づく。

那由多だ。


「私、魔女になれなくなっちゃう・・・!」


突然そんな事を言ってきた。






「イミシアンさんにその・・・取られたというか。。。貸して欲しいって言われて、少しだけって言って・・・」


昼休み。社内のフリースペースの観葉植物に隠れて奥まった場所に花子と那由多はベンチに腰掛ける。那由多が「内密な相談がある」というので自分の席ではなくここにやってきた。



「イミシアンさん、”はなまる”たくさん持ってびっくりしましたよね? アレって、取り巻きの子たちからも借りてて、他の子達、特にカダリィさんを牽制したいって。それであんなに多かったんです。あの後、他の子には返してたけど、私だけ、その・・・まだ返してもらえてなくて」


「・・・。それ、ひどい」


花子は怒って言った。

思わず、阿頼耶亭の魔女、夜鈴(いーりんに習ってキツめの言い方をする。


「那由多さんは返して欲しいって思ってるんですよね? 言わなかったんですか?」


那由多はこくりと頷く。


「私、いつもイミシアンさんに巻き込まれて。だって、仲間から外されたら何されるかわかんないし・・・あの人たちいつも一緒にいて、だから私も合わせるしかなくて・・・でも本当は嫌で・・・」



「受け取って」


「え・・・?」


花子はケースを開け、差し出したのは真紅の赤い宝石。

花子は”はなまる”半をば押し付けるように渡す。


「那由多さんの分ってことにしといて。私の分は私で取り返します」


「え! でも・・・そんな、つもりじゃ」


「嫌だったら嫌って言わなきゃ。でも、相談してくれてありがと」


こうなった花子は強情だ。まるでいう事を聞きそうにない。

那由多は恐る恐る”はなまる”を受け取った。










「那由多さんから取った分、返して・・・!」


差し出される手はイミシアンに伸びる。

取り巻きや周りの人たちは驚いて”まじか”という表情で花子とイミシアンを交互に見守る。


「なんで花子さんが来るの? なんかそう言う義理でもあるの?」


イミシアンは顔も綺麗で強いが、何より髪型のセットやメイクへの理解が深い。

服装に合わせてきているイミシアンに対し、花子はあくまで我流なので、思わず向かい合うだけでも気圧されそうになるが、花子はグッと止まる。


「特にない。けど、無理やり取るのはよくないと思います」


「・・・あのねえ」


イミシアンはなんて言おうかいい悩むように呆れた表情をする。

一方の花子は真剣だ。



「魔女になれるのは一人だけ・・・その意味、わかんない?」


「分かります」


「那由多からは”借りてるだけ”。そんなひどいことしないし。返して欲しいならちゃんと言ってくれればいいのにな〜。なんか私が悪いやつみたいじゃん? 

・・・それに、返してもいいけど、花子さんには渡せないよ〜」


「な、なんでっ!?」



「だってそうでしょ? 花子さんが今受け取って、後から”そんなの知りませーんっ!”ってされちゃったら困るでしょ? 那由多が自分で来なきゃ」


「・・・うん、そうかも」


完全に言いくるめられている。

イミシアンは頭がいい。二日目にして誰よりも”はなまる”を集めた行動力がある。

花子は自分の考えなしさに恥ずかしくなる。



「花子さんさー、私心配だよー」


人当たりのいい笑顔で距離を縮めるイミシアン。


「魔女目指すならさー、もっと地に足つけて考えなきゃ。他の魔女に騙されちゃうんだよ〜?」


それも最もだ、と花子は自分に言い聞かせる。

感情でどうこう言っても話が通じる場面ではない。


花子は冷静に言葉を紡ぐ。


「・・・那由多さんと一緒に明日、イミシアンさんに話しかけます。明日、必ず返すって約束してください!」


「うん。私はいつでもいいけど。那由多がそういうなら返す。約束する」







「うん。大丈夫。明日一緒にイミシアンさんと話そ? 那由多さんが言ったら返してくれるって」


「は、花子さん・・・! あ、ありがとうございます〜〜!!」


終業時刻ごろ。また昼食時に話した時と同じ場所で会話する花子と那由多。


挿絵(By みてみん)


那由多は感極まって花子の両肩に手を置いて距離を縮めたので焦る花子。

窓の向こうでは魚みたいな飛行船が飛んでいる。



そしてこの場にはもう一人。

ソーダマシンの陰でその会話を聞いていた人物、カダリィは小さく鼻で笑った。







ーー次の日、事件は起きた。





「えっと、ごめん・・・」


表情が暗いイミシアンが花子たちに話す。


「昨日までは確かにあったのに、今日起きた時には、全部、無くなってたの・・・」





「感心しませんね。ジアノイアの魔女に求めるのは気品。名乗りあげる方がいらっしゃらないので、”はなまる”の数を確認させていただきます」


フォロコーププの言葉にざわめきが起きる。


みんなそれぞれ、ケースの中の”はなまる”の数を確認することになってしまった。

数人、ケースの中を見られたくない人が拒否したがっていたが、とはいえ疑われるので背に腹は変えられない。


一人一つづつの”はなまる”。

イミシアンが紛失したのは計2個。本人と那由多の分だ(現在は花子の分が無い)。


ほとんどが一人一つづで現状に変化はない。

そう思われた時、カダリィが3つ持っている事が判明する。



「私、あげちゃった・・・カダリィさんに///」

「うそ〜?! 大切なものなのになんで?! もしかして好きだった?」


同時に、こんな感じの応募者が二人発覚し、疑いを逃れる。



となれば、誰かが盗んで隠している。もしくは、イミシアン本人の自作自演。

普段の言動から後者じゃないかという空気がうっすらと流れていたが、



「悲しいけど、泣かない!!!」


「ほんと、人のもの取るとか許せなーい!(二枚舌外交」

「イミシアンちゃんなら大丈夫だよ! 絶対カダリィに逆転できるって!(私のはあげられないけど」

「実はイミシアンちゃんが隠し持ってるってんじゃないかって思ってる人もいると思うけど、私は信じてる! イミシアンちゃんはそういうダサい嘘つかないもんね!(嘘はつかないとは言ってない」


「ぽまいら〜〜愛(ずびー」



と言う感じで徒党を組んでコントみたいなことをやっているのでなかなか誰も突っ込めない。




ーーーー話かけづらいな〜・・・


とはいえ、話し合わない訳にはいかない。



「一応詳しく聞かなきゃだし、イミシアンさんたちにお昼一緒に食べようって話しつけてくるね・・・那由多さん、その時でいい? ・・・那由多さん?」


「え、ええ! そうですね!」


那由多はぼーっとしていて、慌てて返事をした。

挙動が少しおかしい、と花子は感じたが、特に今聞くことはしなかった。





ーーーーエイカシアの気配。少しだけど・・・




エイカシア。黒い影。魔女が倒すべき、敵。


花子は意識を集中するため、会場の雑音を排除するように、窓の外に意識を逸らすが結局気配はすぐに消えてしまった。

空には赤い「罪 どこの木やしの木 多機能電話機新登場 罪」という謎の文字が書かれたアドバルーンが何本か浮かんでいた。









「あの試験官も食わせもの感あるよね〜」


グラスの中の氷が音を立てる。

イミシアンは続けて言う。



「だって、魔女の応募者同士で票を食い合わせるなんてルール、普通に考えて変でしょ? 魔女になりたい人が他人に推薦するわけないじゃん! それに”差異を排除する”とか言って腕時計とか持ち物を預かってるけど、例えば”はなまる”を譲ってくれたらあとで融資するとか、後で商談の約束をとるとかして票を集めるのが一番効率がいいよね? こんなの資本キャピタルゲームじゃん! それは魔女の仕事じゃなくて、営・業・の・仕事!!! カダリィ、絶対その手使って”はなまる”取ってくるって思った〜〜」


「確かに」

「わかる」

「イミシアンちゃん慧眼ですわ〜!!」


「昨日時点で7個持ってる私に対抗して、焦って下手打つと思ったのに、なんかケースの個数全員分確認されちゃったし私0個だし・・・カダリィに内心絶対バカにされてる!! ・・・はー鬱」


イミシアンといつもの取り巻きとその他の子、合計7人、それと花子は広めの席に座ってランチをとる。

花子とイミシアンはいわゆる”お誕生日席”に座っていた。



「・・・魔女は夢を売るの。正しさと利権でがんじがらめの世の中で、夢だけは自由で、不可能なことなんてない。指を振れば部屋が一瞬で片付く、箒に跨がれば空だって飛べる! 魔女はもっと演出に力を入れるべき!! 雑なキャラ売りとか御涙頂戴のシャバい商売するくらいなら全部私に投資しろよ〜〜〜って感じ!!!!」



「ん、ん〜・・・」


イミシアンは喋りながらだんだんヒートアップして来た。

炭酸牛乳、何杯飲む気だろ、と気になっていたところに上の発言。

花子はなんかこの空間に疲れてきていた。



「私が魔女になるならコマーシャルに出てみたい。額縁をお花で飾って、その中心でミュージカルを踊るの!」

と、ヴィッイッツ。


「・・・お姉ちゃんが、その。私が魔女になって魔法を使って戦ってるのがみてみたいって・・・!」

これはトンデモニューム。


他にも、

「私はーーー」

「こんなことしてみたら楽しそう!」

「声のお仕事してみたいな〜なんて!」

と言う声。


「でもやっぱり一番はーーー」



「「<プレゲトンの魔女>、”ドゥッヘルメイス様”にお近づきできたら〜〜なんて!!(キャー」」」



と、各々思い思いに魔女についての感情を語っている(最後のは何?って感じ)。



「ごめんね花子さん。内輪だけで盛り上がっちゃって!」

と隣の席のヴィイッツが花子に気を利かせる。


「ううん。学校って感じ・・・楽しそう」

正直にそう言った。



「あれ、花子ちゃん。そういえば那由多は?」

イミシアンは今更ながらに気が付いて花子に話しかける。


「お腹痛くてこれないって・・・今冷蔵庫で休んでる」


「えーそっか。でも今来たって”はなまる”返せないんだから気まずいだけだし、その方がいいのかも」


イミシアンの発言に苦笑いする花子。



「・・・ところで、花子ちゃんはなんで”はなまる”持ってないの? 誰かに渡したの?」


この質問が本題、というふうにイミシアンが花子に詰める。

やっぱ聞いてくるよね、、、。花子は大人しく答えることにした。



「那由多さんに渡してて・・・その、私の分はイミシアンさんから取り戻すから、って・・・」


「・・・魔女には私がなる。正々堂々、とはいかないけど、でもダサい嘘はつかない。信じられないかもだけど、私、隠してない」


イミシアは花子の目を見て言った。

演技しているようには見えないが、ここにいるのは魔女を目指す応募者だ。演技力も試される環境、これが嘘でも驚かない。


今イミシアをつついても、あまり成果は出ない気がする。

それに、”はなまる”を誰よりも集めなきゃいけないのが1番の目的だ。


カダリィが3個。イミシアンが0個・・・隠し持っていたら3個。

花子は0個だ。那由多から「ごめんやっぱ返して」と話しつけるのなら別だけど。。。



「”はなまる”、頑張って探す・・・見つかんなかったらごめん。でも、そういう考え方、ちょっと危ないと思う」


イミシアンは続ける。


「正直私、あの子のこと苦手。何考えてるかわかんないし、自分から”はなまる”返さなくていいって言っといて、花子ちゃんに取りに返させるなんて意味わかんない」


「えっ・・・」

聞いていた話と違う。花子は怪訝な表情をする。



「確かに、”はなまる”を集めてカダリィに先に牽制したいから協力してって仲良い子に声はかけた。那由多ちゃんも協力してくれた。でもあの子、返そうとしても受け取らないって」



「そうなんだ・・・」


花子は目を伏して答える。

今まで花子に接してきた人は優しかった。これからだって多分、優しい人はたくさんいる。



ーーー決めつけは良くない。でも、



相手は魔女だ。










********







カタタタターン!!


キーボードの上を踊るように素早い指が駆け巡る。



「わからないことはネットで調べてみるのも手ですね。使いこなせばすごい便利なんですよ、コンピューター」


花子は那由多と一緒にコンピュータールームに入っていた。

部屋というより、電話ボックスの中にパソコンが一台置いてあるボックスで、同じフロアに同じボックスが幾つもある。


画面にはジアノイア・コーポレーションのホームページなるものが表示されていた。


「へ〜すごい! 私、機械はちょっと苦手で・・・」


花子はフラミンゴバーガーで業務の一環でパソコンを触ったことはあるが、全く操作がわからなくて仕事ができなかったのを思い出した。


「花子さん・・・それは早めに慣れといた方がいいですよ。ジアノイアって、OA機器の会社なので、分からないじゃ済まされないです」


「あはは、そうですよね・・・」


花子は曖昧に笑った。割と確信を突かれたのが痛い。


「で、これが花子さんが知りたがってる”髪型のセットアップHow tow”のページですね。他にも何か気になってることとかあればコンピューターでサーチングしてみるといいですよ。外でインターネットボックス使う時はお金とかプリペイドカードが必要ですけど、会社の中だと無料みたいですから」


「は、はい・・・色々、調べてみます!(なぜか顔が火照る花子」


恥を忍んで聞いてみてよかった。

ウォッチニャを取り上げられた応募者たちが外と連絡を取る手段として、パソコンの使用を許可されたが花子には使い方がわからない。

那由多とは距離感が近いこともあって、こうしてパソコンの使い方を教えてもらっている。



「でも似合ってると思う。那由多さん、こういうお仕事好きそうですよね」


「はい! スレッダニヴァーシュさんみたいな魔女に憧れてやってきたんです! 魔女の仕事をしながら、会社のエンジニアも担当する。すごくかっこいいと思うんです!」


那由多は笑顔でそう言った。

いつもオーディション中や、イミシアンたちが視界に入るところではオドオドして話にならないが、たまに好きなことやこういう話をするとめちゃくちゃ早口になる。

花子も那由多の勝手がようやくわかってきた。



「・・・最初は利用しようと思って近づいたんです。花子さんに」


カチカチ、とマウスをクリックしながら那由多は突然そんなことを言った。


「花子さんは私たちの関係を知らない。踏み台にしてでも魔女になるためなら利用してやろうって思ったんです。花子さんちょっと世間知らずだから」


「・・・。」


「ごめんなさい。変ですよね、こんなこと言うつもりじゃないのに・・・」


「正直疑ってました。もしかして私、馬鹿にされてるのかな、って」


花子は同じように言い返す。


「でもわかります。どうしても比べられる環境だし・・・みんな必死なんだってわかったんです。那由多さんもイミシアンさんも。みなさんいい人なのに、誰かを悪者にするしかない。そうしないと、誰も魔女になれない・・・」


花子は言いながら、自分の考えに気分が沈む。



「ーーー私にはやっぱ無理・・・こんなの、耐えられない」


そう発言したのは那由多だ。那由多は手で顔を覆う。

さっきまで明るかったのに、何だかまた調子が悪そうな様子に心配になる。


「・・・那由多さん?」


心配そうに呼びかける花子に、那由多は”はなまる”を差し出す。

真紅の、血のような黒黒しい赤。その宝石は、まるで澱んだ影を湛えているように見えた。



「これは花子さんの”はなまる”。今すぐにでもお返ししたいですけど、もう少しだけ・・・お借りします」










ジジジジジーーー

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コンピュータービル群の光。遠方に眩しく輝く銀色の<銀亰タワー>のライトが明滅し、このくらい暗緑色の空に設計された街に光をもたらしている。


光とはつまり、明暗差・コンストラストとして我々は認識する。


闇の中の一筋の光。

光の世界に空く深い穴。


人は、絶対的なものを感覚的に認知できない。

我々は、対象と対象の間の差、つまり”差異”を比較することに価値を感じ、”差異”の大きさで幸せの分量を測るのだ。



屋上から眼下に広がる摩天楼の景色を眺めている一人の人物。

巨大な電波塔、アンテナ装置をバックに、その手にはコンデンサ・マイクが握られ、身に纏ったケープコートがビル風の上昇気流により生暖かい風に吹かれ揺れる。



『加速する世界の終わり。ねじ切れた円環。加速・上昇し続けるエスカレーター。ケイオスの意思に満ちゆくこの世界の終わりに、君は砂浜で拾った貝殻に耳を澄ます。俺は貝殻を通し、終わりゆく君にこう尋ねる。ーーー<潰れた月はショッピングモールの夢を見るか?>(エコーがかかる)』





ーーーーMID LIGHT WAVE(銀色のクソデカフォント)




 壁がトランスフォームを開始し、空間が開放されていく。

取っ払われた壁の向こうには藍色とマゼンタのグラデーションの空と水平線まで続くパースペクティブに線で仕切られたツルツルした床。


少し小さめのプールと、パラソルにリクライニングシート。小さなテーブルにはワインのグラスが置いてある。

リクライニングシートには、一人の人物が腰掛けていた。

その人物はカメラに向かって笑顔で話しかける。



『ーーーみなさんこんにちは。案内人のドゥっヘルメイスです。本日もみなさんの身に起きた不思議な出来事を紹介していこう。本日はこちらのお便りから』



カシャンーーーと世界が暗転する。



ツーーーーーーー

<*個人特定機密保護のため音声を雑音変換(Noise addition)しています。>



『私は今、ある企業で魔女になるためのオーディションを受けています』



信号機で止まる車の列、赤いテールランプが光の泡のように街を鮮やかに彩っている。

その声の人物は横断歩道橋の上で車を見下ろすように立っていた。顔は影で見えない。



『私には、可愛くて綺麗で頭も良くて、何をやっても器用にこなす、誰にでも自慢できる友達がいます』


『でも私はずっとその子が嫌いでした。いつも見下されている気分でした。たくさん勉強して、メイクも研究して、ダンスも習いました・・・でも、あの子は後から来たくせに、簡単に私を追い越していきました』


ビービービー!! と喧しいクラクション。

赤信号に赤いテールランプが眼下でいくつも点灯している。渋滞だ。


『・・・。』



『あいつが許せない!! アイツさえいなければ、私だって魔女になれた!!』


感情が加速する。

とめどなく溢れる未来への恐怖。焦り。それは声を通して視聴者の心へ訴える。


『いつも日の当たる場所で笑うあの子が嫌い。私のことなんだと思ってんの?! 私はアイツのために生きてるわけじゃない!! 私の人生は私のものなのに!!!』



『アイツさえ・・・!!』


吐き捨てるように言った。



「人は、絶対的な価値を認識することはできない。認識できるのは常に他者との”差異”。他者よりも有意義な生活を、他者より高価なアイテムを、他者より優れた美食をーーーそれが価値だ。価値は永遠であり不滅。欲望という歯車に囚われた、真に信用足る人間の姿だ」



場面は再びコンピューター街の摩天楼。

煌びやかに輝く銀亰タワー>をバックに、コンデンサマイクに向かってドゥっヘルメイスは囁く。


「君の願いは、何?」




「私の・・・私の願いはーーーー」


横断歩道橋の上。すでに交通する車も人もいない。

信号機と街灯のわずかな明かり以外がない、閑散としたスクランブル交差点。



ブオーン!!

ブオオオオオオオン!!!!



交差点で鳴り響く喧しいエンジン音。

交差点の中央には一台のバイクがライトを点灯したまま駐車されている。


その手には、”はなまる”が3個握られていた。


真紅の、血のような赤い鉱石。

それは周囲の光を吸収し、どんどん黒く濁り、やがて怪しい黒い光を放つ。





『ターンメイズ・アクセルメイクアップ』



黒い光はフラッシュのようにその人物を包み込み、やがて黒い卵の形状と化す。

ひび割れ、卵から生まれたのはヘルメットを被り、黒いバイクスーツを着た人物。


走るバイクとそれにまたがる黒づくめの人物。

動き続ける道路と高架線。線路を繋ぎかえるように切り替わる道路は、目的地までの最短ルートを作り出す。


道路頭上の道路標識の矢印の先には、<ジアノイア・コーポレーション コグニタム電機本社>の文字。



ドゥっヘルメイスはその後ろ姿を見守りながら口元に笑みを浮かべる。ビル群の逆光に照らされながら、願いを込めるように言った。


「<夜>はいつも君のそばにーーー」









ーーーーーーーーーーーーーー








 緑色の非常口のピクトグラムが並ぶ迷路のように入り組んだ廊下。

明かりはほとんど消え、暗い。


皆が冷蔵庫の中で就寝している時間帯。


那由多は一人、暗い廊下を歩く。


突き当たりに、わずかなあかりが扉の下から漏れている。

その光を頼りに、扉を開け放つ。




「もうやめましょう・・・」


「やっぱり良くないと思うんです・・・私」


那由多は暗闇に立つバイクに向かって話しかける。

バイクはフロントライトをつけており、誰も乗っていない。



(ーーー裏切るの?)


暗闇から小さな、雑音混じりの声が堪える。



「本人に返しましょう。私が盗ったことにしますから・・・返せばもうこんな気持ちにならなくて済む」


(あんたも”アイツ”のことが怖いんだろ? だから返してって言えなかった・・・”アイツ”はいつも自分が世界の中心にいるとでも勘違いしてる)


「そうです。私はあの人が怖い・・・! 学校にいる時からずっと怖くて、いつも言い返せなかった。自分に自信がなかったから・・・」


那由多は手の中にある”はなまる”を前に掲げる。


「・・・この”はなまる”は差し上げます。代わりに盗んだ”はなまる”はイミシアンさんに返しましょう。それならあなたにもメリットがあるはずです!」



(ーーー”アイツ”がよころぶ)


「構いません! ・・・取引に応じなければ私は、私たちの罪を告白します!」


那由多は冷や汗で滲む手をぎゅっと握りしめて勇気を持って叫んだ。

後悔はなかった。



『ーーーーーもう、遅い』



ゆらり、と闇の中で観葉植物の葉っぱが揺れる。

「え・・・」


闇の中、3つの赤い不気味な光、那由多は後退りする。



『もう後戻りできない。私も! お前もっ!』




ぶおん、ぶおおおおおおん!!!!!!


響き渡るエンジン音。

その音の衝撃波が、背後の天井まで続く巨大な窓ガラスを破壊した。





パリーーーン!!!!



響き渡る音と地響きで、冷蔵庫で眠る花子たちの何人かが目を覚ます。


「なんかすごい音しなかった?」

「ねぼすけさん! ほら起きてって!」

「なんだろ、怖いねー」


そう言い合う応募者たちの中、イミシアンが何やら焦った様子で廊下の先へは知っていくのを花子は見た。


「・・・。」


花子はその後ろ姿を追いかける。

緑色の非常口ピクトグラムの並ぶ通路を抜け、花子は扉を開ける。



「うっ・・・うう」


ーーーえっ! 那由多、さん・・・?



那由多が床に倒れていた。

幸い出血はしていなさそうだが、うずくまって腕を押さえている。

もしかしたら骨が折れているかもしれない。


駆けつけようとしたが、すぐにその足が止まる。


天井まで続くガラスが破壊されていた。

破片が教室机に降り注ぎ、いつも研修を受けている場所は無惨な姿となっていた。


他にも花壇の一部が崩れ、ヤシの木が倒れている。


そしてその光景をバックにして、巨大なバイクがフロントライトをつけっぱなしにしていて、隣には黒ずくめの格好をした人物が立っていた。



「誰・・・? 那由多に何したの!?」


その声はイミシアンのものだ。

黒づくめの人物は、顔の前に片手を開いて構える。

その指には真紅の赤い宝石、”はなまる”が指に3個、挟まっていた。


挿絵(By みてみん)

「”はなまる”・・・?」

イミシアンがつぶやく。


『そう。私が盗んだの・・・・あんたの”はなまる”をね!!!』


そう言って被ったヘルメットを外す。


その顔は、同じ魔女応募者のヴィイッツだった。

衝撃の事実を突きつけられるイミシアン。

いつもよくつるんでいたヴィイッツが、”はなまる”を奪った犯人だと知ったイミシアンは動揺を隠せない。


「ヴィイッツ!! なんで!?」


「私はいつもイミシアンちゃんの引き立て役。どんなに流行りを追いかけて研究して、頑張って目立とうとしても、いつもあんたが前にいる」


ヴィイッツは続ける。


「正直目障り・・・本当に!!」

今にも消え入りそうな、恨めしい声だった。

明らかにいつものヴィイッツではない。イミシアンはショックを受けていた。




<????カップの3(cup of 3)?????>




口の中にチャイ、ハムチーズサンド、ナツメグにとうもろこし、オレンジヨーグルトケーキの味が広がる。



「・・・っ!」


天井までの高さがある巨大なガラスの窓。そこに黒いどろどろした液体が上から下にポタポタと垂れ、割れたガラスと教室机の上に積み上がっていく。


なんとなく生物的な動きがあるが、ほとんど形をなしていないスライムみたいだ。

街の光が遮られ、影が膨らんでいく。



ーーーーエイカシア・・・!? もしかしてヴィイッツさんはあれに操られて!?



イミシアンは混乱を隠せないでいた。

まさかいつも学校の頃から一緒にいた、友達だと思っていたヴィイッツに裏切られた。

冷静さを欠いていた。


「復讐? バカみたい!! 今更そんなこと言われるこっちの身にもなってよ!!」


「黙れ!! アンタがいるとワタシは幸せになれない!!! 早くワタシの前からいなくなれッ!!! それが私の願いだ!!!!」


ヴィイッツが割れたガラスの破片を掴み、イミシアンに向かって歩き出す。

その時だ。



「グッ!!!??」


那由多はヴィイッツを後ろから張り飛ばす。

その衝撃で”はなまる”が2つ、ヴィイッツの手からこぼれ落ちた。那由多は床に落ちた”はなまる”を奪う。


「きゃっ!! 何あれ!? 喧嘩?」

「ちょっと、逃げたほうがいいんじゃない?」

ざわざわ、と花子たちが入ってきた扉から応募者たちが様子を見ていた。



「調子に乗るな!!!」

”はなまる”を奪い返そうと那由多の背中を蹴り付けるヴィイッツ。


「ヴィイッツ!!! やめて!!」

イミシアンがそれを止めようと叫び、駆け出す。


黒いヘドロのような塊は、ヴィイッツたちに迫っていた。

花子以外、誰も気づいているそぶりは見せない。


「っ! 待って!!」

花子は手を伸ばす。


ーーーー誰か会社の人・・・駄目、就業時間外だし間に合うわけない。エイカシアは魔女にしか見えない!


花子は目を見開き、エイカシアと対峙した。



「私が。何とかするしか・・・!」







「ーーーそう、君が何とかするしかない。<始まりのアルカナ>」



 天井には、逆さまに吊るされる人物が立っていた。

正確には吊るされているのではなく、天井に垂直に立っていた。まるで、天井に僅かな重力が発生しているように、その髪と服はふわふわと揺れている。


「と言いたいところだが、今回はどうも影の定着が甘いな。”失敗作”の処分はこちらで受け持つよ」


たん、と天井を軽く蹴る。




花子はハッとして天井を見上げた。




天井から誰かが落ちてくる。

花子はその人物と、目があう。


刀身が光を反射し、花子の頭上で鋭く線を引いた。



「っ!!!?」

思わず目を閉じる。



ーーー何も、起きない?


次に目を開け振り向いた時に見たのは、真っ二つになるエイカシアだった。


理想的な太刀筋は、余計な風並みを立てない。

謎の人物はエイカシアのそばに立ち、刀を鞘に収める。

エイカシアは自身が切られたこともわからず、ただ透明な空気へと消滅していく。



「・・・。」


花子はこちらに歩いてくる人物を見上げる。

格式のある帽子から除く赤い髪と端正な顔、黒いケープコートを羽織り、腰に刀をさす人物は花子に笑いかける。


「価値とはすなわち”善にして美しきもの(カロカガティア)”。君に価値はある?」


目元を細めて花子を観察する。

その視線は何だか物品を品定めしているようで、花子は嫌な気分になった。


「一人、骨が折れている者がいる。まもなくここに社員が到着するはずだ。ひとまず安心するといい」


「・・・あっ!」


花子は振り向いて倒れた人たちの方を見る。他の応募者たちイミシアンとヴィイッツを介抱しながらそのいきなり現れた人物のことを見ていた。那由多の方は痛そうにしている。言葉通り、腕の骨が折れているのかもしれない。



「ーーー”引き続き”楽しみにしている。さらばだ。見習い魔女諸君」



そういうと、その人物は靴で地面を2度軽く叩く。

突如床に黒い穴が開き、その人物は重力に従ってその穴へと吸い込まれていった。


気づけば穴は閉じ、ツギハギもなく何もなかったかのようにシンと静まり返った広場の空間が広がっていた。


いろいろな出来事に、皆あっけに取られていた。







*******








「「なまドゥッヘルメイス様よ〜〜!!! 生で初めて見た〜〜!!!」」



きゃーー!!! と黄色い声が飛び交う。


次の日の朝の時間。応募者たちの間では様々な噂と憶測で持ちきりだったが、その主な会話の中心といえば。


「噂ではドゥっヘルメイス様って、ナポリタン大食い大会を109年連続で優勝してるらしいの!」

「噂ではドゥっヘルメイス様って、アイススケートのしすぎで足からいつでもブレードを出せるようになったんですって!」

「噂ではドゥっヘルメイス様の右目って、お星様から取れたルビーを埋め込んでいるらしいの!」


「「素敵よね〜〜」」



「みんな噂話ばっかり・・・」


みんなの会話が面白くなさすぎてさっさとに朝食を片してしまう花子。

ふとビュッフェの果物コーナーに立ち止まる。


「そうだ、お土産持って行かなきゃ!」





休憩室にやってきた花子。

ベッドの上では、包帯を腕に巻いた那由多が身を起こして窓から外を見ていた。



「ネットって便利ですね! リンゴの剥き方って調べたら結構出てきて・・・かわいいからうさぎにしてみました!」


「ありがとうございます! すごい上手ですね花子さん!」



カゴの中の真っ赤なリンゴ。@

花子はうさぎの形にカットしたリンゴを皿の上に乗せて那由多に差し出す。



「ヴィイッツさんから持ちかけられていたんです・・・イミシアンさんに泡を吹かせてやろうって」


那由多はポツリと花子にこぼす。

花子とヴィイッツは皿のリンゴを摘む。


「<プレゲトン学校>の応募者は29名。その中でもカダリィさんとイミシアンさんが魔女の有力候補。それ以外の私たちには最初から希望は薄かったんです」


皿の上のウサギのリンゴが一個減る。


「最初はそれでも頑張りたいって思ってました。私は”納得”するためにここにきたんだって・・・でも、ここで過ごしているうちに暗い感情に支配されてきて・・・自分でも自分がよくわからなくなって・・・」


「・・・。」


「ただ、見返してやりたかった。今まで私を馬鹿にしてきた人間に、復讐したかった。魔女になったら、みんな私のことを認めてくれる・・・でも、逆にいえばそれだけ。私は、魔女になってやってみたいビジョンがなかったんです・・・」


「・・・スレッダニヴァーシュさんに憧れてるって言ってたじゃないですか。那由多さんにビジョンがないわけ、ない・・・。」


花子は悲しそうに言った。

皿の上のウサギのリンゴが一個減る。


「花子さんに渡したいものがあります」


那由多はそう言って、3つの”はなまる”を花子に差し出す。



「なんで・・・!」


「最初は波長があうと思ってたんですが。やっぱり違いましたね。花子さんは別の星からやってきた宇宙人さんだったんです」


那由多は続ける。


「これは私の最後の復讐・・・私はこれから、まっさらな心と体を手にいれるんです。後悔はありません。大往生です・・・」


「・・・那由多さん」


花子はそれ以上何も言えなかった。




最後のウサギのリンゴにフォークを刺す。



お昼時間が終わり、花子は講義に戻って行ってしまった。

那由多は誰もいない空間を見ながら、咀嚼したリンゴを飲み込み、つぶやいた。



「私は魔女を、諦めます」













「ヴィイッツさん。那由多さんがオーディションを辞退されました」




その報告は、フォロコーププの口から淡々と告げられた。

花子の隣の席は空席となり、その上には急須と緑茶の茶器セットが置かれ、直上の天井からは赤い傘が逆さまに吊るされている。




冷蔵庫の中を片付け終え、廊下を歩いてくるヴィイッツ。

その廊下の反対側から、イミシアンが現れる。



カチカチカチーーーーー


ヴィイッツは俯き、何も言わずスーツケースの取っ手を伸ばし、歩き始める。

そしてイミシアンの隣を、無言で通り過ぎる。



イミシアンの後ろ髪が、風にたなびく。

しかし振り向かない。



「”仲直り”なんてものは、運とタイミング。赦しとお互いの人生が重なって、初めて成り立つ奇跡みたいもの、らしいよ・・・」


ヴィイッツがいた冷蔵庫の前で立ち止まるイミシアン。



ーーーーーーでも私たちには、奇跡なんてないね。じゃあね。ヴィイッツ。



イミシアンは廊下の向こう側の角から現れたカダリィを睨みつける。


今は、前しか見えない。








「そういう魔法があるのなら」



花子はソーダマシンのボタンを押す。

ガコン! っと受け取り口に、palm coleの缶が落ちてくる。

何となしに窓の外を見ると、空にはヒトデみたいな飛行船が飛んでいた。



「ーーーこれって噂なんだけど、元<ジアノイアの魔女>スレッダニヴァーシュさんって、表向きは自主退職だけど、実際は辞めさせられたらしいよ」


「えー何それこわーい!」


「詳しい話はわからないけど、会社のトップのトップのトップの、そのまた上の上の上の上のすごくえらーい人たちの間で起こる、何か大きな陰謀に撒き揉まれちゃったんだって」


「こわーい! 私もお茶とか持って行く時気をつけなきゃ〜汗汗」


あははは! と給湯室のカーテン越しに聞こえる社員たちの声。



花子は聞こえてきた噂話につい気を取られ、缶コーラに伸ばした手を止めてしまった。










プルルルルル、プルルルルルル・・・


カチャッ!



『お電話ありがとうございます。ジアノイア・コーポレーション・コールセンターでございます。』




「・・・私は、あなたたちのあくを告発します」


電話ボックスの中の暗緑色のスポットライトに照らされる人物が受話器に向かって呟く。

電話ボックスの外は雨が降り、水滴がガラスの壁をつたい幾つも滴り落ちていく。


電話の主の声は震えており、その受話器を持つ手もわなわなと震えていた。



「お姉ちゃんは、あなたたちに殺されたっ!!!」



もう片方の手に握られた写真に光が当たる。

そこにはありし日のジアノイアの魔女であるスレッダニヴァーシュ。


そして共に映る、魔女応募者の一人。


電話を掛けているトンデモニュームの姿だった。









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挿絵(By みてみん)

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