ざまあみろ!
生活費の大半を占めている家賃を節約するため、オレはそれまで住んでいた住居を出て、このたび古いアパートの一室に引っ越した。
そこは家賃がほかよりずいぶん安値とあって、六畳ひと間と申し訳ない程度のキッチン、それと風呂、トイレだけである。まあ、学生のオレには手ごろな物件といえるのだが……。
ただほかに比べて安いのには、やはりそれなりの理由があるとしたもので、いざ住み始めてその理由がわかってきた。
その理由だが、深夜になるとドタバタと畳を踏む騒がしい音がして、それで目を覚まされたり、うるさくて寝つけなかったりする。
その迷惑な騒音は常に深夜と明け方、オレが寝ている向かいの壁際で二度発生していた。ただ壁の向こうに廊下や部屋はなく、実際にそこは建物の外の空間で、しかもオレの部屋は二階にあるからいかにも不思議だった。
ただしそれは騒がしいというだけで、住人に何かしらの危害を加えるようなことはなかった。
住み始めて一カ月。
オレはついにある思いに至った。
この怪現象。
どうやらその壁際が、この世のものでない者たちの通り道となっていて、彼らはどこかへの往き帰りにそこを通っているのではないかと。それもその足音からして、通る者の数はかなりいるらしい。
むろん姿は見えないが、それがわかれば対策を思いつくのは簡単だった。
この日。
オレは百円ショップに行って、画びょうを大量に仕入れてきた。
そして夜。
オレは彼らがいったん通り過ぎるのを待って、彼らの通り道である壁際に沿って、買ってきたすべての画びょうを並べた。
もちろん針を上向きにしてである。
――ウヒヒヒ……。
やつらは足の裏から血を流し、帰り道をほかに変更せざるをえないだろう。
――ざまあみろ!
これでゆっくり静かに寝られるというものだ。
深夜。
オレを踏んづけるものたちがいる。
それはドタドタと絶え間なく、布団の上からオレの体を容赦なく踏みつけながら通っていく。
この世の者でない怪しい輩たちだ。
やつらは帰り道を変えたのはいいが、どうもそれをオレの寝ている壁際へと変更したらしい。
翌朝。
オレは静かに画びょうを片付けた。