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モブの酔いどれ話  作者: 南の島のひと
9/10

9話:東より来る

遠く、東のイーストランドよりもさらに遠く、そのあまりの高さから、大地を分つ壁とも呼ばれる巨大な山脈『ヒマラヤン』。その壁を越えた先にある国『ネパン』。他の国々との交流が少なく、独自の文化を作り上げたこの国では、『武』に対する意識が高く、兵士のみならず農民から商人までもが一定の武術を修めている。


そんなネパンを飛び出し、自らの武を高めるための修行の旅に出た男が、長い旅の果てにハイランド王国に辿り着く。


「ここが噂のハイランド王国の王都か。」


一見、ボロの布を体に巻きつけたような独特の格好をした男は、王都の城壁を見上げながら呟く。


(さて、この街にはどのような猛者がいるのか、楽しみだ。)


門を通るための手続きを終えた男は、宿を探しながら、何と無く街を彷徨く。


(まずは情報を集めたい。適当な宿をとって、酒場にでも繰り出すか。いや、その前にギルドだな。路銀が尽きそうだ。)


適当な宿をとり、ギルドに向かう。


「流石、あれだけの城壁に囲まれているだけはある。」


ガラスや木材をふんだんに使い、堅牢さよりも快適に過ごせるよう建てられたギルドを見ながらネパンから来た男、イサンは思わず口に出す。

おもむろに扉を開き、中に入っていくと、他のギルドと変わらない賑わいを見せる。

イサンは掲示板を確認しながらいくつかの討伐依頼を手に受付に向かう。


「これらの依頼を受けたい。手続きを頼む。」

冒険者カードを差し出しながら受付の男性に声をかける。


「かしこまりまりました。シルバーランクであれば、討伐のついでにこちらの狩猟依頼も受けられてはいかがでしょうか?」


受付の男性から提示された依頼に目を向けると『ジャイアントフォレストクラブを求む。状態によって依頼料の増額あり』といった内容である。硬い甲殻と高い機動力を持ち、その巨体から振り下ろされるハサミの一撃は、若い冒険者の命を容赦なく刈り取ってきた化け物である。イサンであれば、難なく倒すことのできる魔物であるため、即決すべき内容ではあるが、普段であれば村や小さな町を襲う危険性から単なる討伐依頼が出るような魔物であるため、狩猟依頼であることに少しの疑問を持ち、黙り込んでしまう。


「あぁ、狩猟依頼なのはとらる酒場で食事として供されるためです。あまり知られていませんが、特殊な方法で処理してしまえばかなり美味らしく、その酒場では大変人気のメニューらしいですよ。」


「食べる?あの化け物をか?王国ではかわった食文化がるのだな…。」


「あはは…そうなりますかね。そこ以外では供されていないのであまり依頼が多いわけではありませんが、それでもほかの討伐依頼のついでに受けていただける方がいらっしゃいましたら定期的に出させていただいています。それで、引き受けていただけますか?」


「ふむ、面白そうだ。その代わり、無事に狩猟出来たらその店を紹介していただけないかな?私も食べてみたい。」


「いいですよ。それでは無事の帰還を願っております。」


ちょっと変わった依頼を受けたイサンは、城門を抜け深い森に入っていく。


(かなり気配の濃い森だな。英雄が多く住む街だとは聞いていたが、あまり近隣の討伐には乗り気ではないのか?)


あちらこちらから感じる魔物の気配に注意を払いながら森を進んでいく。途中オークやウルフ系の討伐を行いながら、その証明部位を回収していく。受付で聞いたジャイアントフォレストクラブが生息しているだろう方角へと進んでいくと、だんだんと周囲の魔素が濃くなっていくことに気が付いた。


(これは、まさか森の深部が異界化しているのか?まさか、潤沢な素材を得るためにあえて放置している?氾濫の可能性もあるのによくやる…)


ズンッ!!!


急に重い音が森に響いたかと思うと、森の木々をなぎ倒しながら、巨大な生物がこちらに向かってくる気配がする。そのまま森に現れた小さな生き物を捕食するために、イサンを押しつぶさんとジャイアントフォレストクラブが強襲をしかけんとした刹那


チンッと高い音と共にジャイアントフォレストクラブの命が刈り取られる


「他愛もない。」そう呟きながらイサンは転送陣を懐から取り出し、依頼票と共に今日の獲物を納品する準備を始めた。


転送陣。この世界において数年前に発明された魔法具で、対となる魔法具まで物資を送り出す便利な道具である。命あるものは送り出せはしない。しかし魔物が蔓延る世界では、その巨体を運搬するのに苦労していたが、この魔法具の発明により、飛躍的に運搬が楽になった。また、双方での転送が可能なため、食料や水を容易に届けられるようになったため、遠征等でも大いに活躍していた。


「便利なものだ。これで、受けた依頼は全て完了したな。あとは戻りながら適当な薬草や木の実でも集めて行くか。」

そう言って、王都に向かい歩き出す。


「受けていた依頼を完遂した。確認をお願いしたい。」

ギルドの受付に声をかけて、納品物と転送陣の割符を提出する。


「はい、イサンさまですね!今回は無理な依頼を聞いていただきありがとうございました!!マスターよりお礼も兼ねて少額ですが、依頼料に追加させていただきます。」


「大した手間では無かったが、それはありがたい。ところで、納品したジャイアントフォレストクラブを出す店を教えてもらう手筈になっていたと思うが、何という店だ?」


「はい、『居酒屋』という酒場になります。道は〜〜」


〜〜〜


「ここか。なかなかの、、、これは!まさか米の香り!?あぁ、懐かしいな。もう何年食べていないだろうか。ふふっ、楽しみが増えたな。」


受付に教えてもらった通りの場所に着き、店内より漂ってくる香りについ呟く。

店内に入り、従業員らしき女性に声をかける。

「ギルドの紹介で、夕餉をいただきにきた。見ての通り1人だが、席はあるだろうか?」


「いらっしゃいませ!本日、待望の食材が入荷したため、カウンター席のみのご案内になりますが、よろしいでしょうか?」


「?カウンター席??」


聞き慣れない言葉に戸惑っていると


「異国の方には馴染みがないと思われますが、あちらの厨房側の席になります。厨房からの香りを楽しみつつ、両側のお客様とお話を楽しむもよし、お一人の時間を満喫するもよしの先になります。」


「ふむ、面白そうだな。案内してくれ。」

「ありがとうございます!カウンター一名様ごあんな〜い!!!」

元気な声を耳にしながら、好奇心の赴くまま、カウンター席なる場所に案内される。


「とりあえずエールと、何かつまめるものを頼む。」

従業員に注文を通し、店内を見回す。


(冒険者だけでなく、商人らしき者や文官、貴族まで様々な立場の人間が訪れているようだ。人種も様々。こうも客層に統一性のない店は見たことがない。それだけではない。メニューも見たことのない物ばかり、内装も見たことがない様相だ。いったいこの店は何なんだ?まぁどこも幸せそうな感じなので悪くはないが。)


長い間旅をしてきた自分でも見たことのないあまりにも異質な店内に疑問を呈しつつも、どの客も一様に楽しんでいる様子が見てとれる。イサンは、店内見て、まだ食事もとっていないが、店の雰囲気は気に入っていた。


「お待たせしましたー!エールとカニ玉です!!本日、入荷したばかりの人気メニューですので、是非楽しんでって下さい!」


「っ!?冷たい!!なんと贅沢な、、、。だが、嬉しいサービスだ。これは、見たことのない料理だが、たまごと何やら赤い?、、、美味いっ!!この鼻に抜ける香りは!蟹??それも、かなり上等のっ!!!」


故郷の、それも海に近い一部の地域でしか食されていないはずの蟹料理。大陸の内部にあり、海からは遠く離れたこのハイランド王国にあるはずのない食材に驚きつつも、好物だった蟹を食べられた事で、イサンは困惑しつつも、嬉しさのあまり声をあげてします。


「おや、蟹を知っているのかい?その見た目から察するに、ネパンの人?もしかして、武者修行の方?」


口をついて出てきた言葉に隣の席に座っていた男が、イサンに声をかける。


「これはすまない。少し声が大きかったな。察しの通り、私はネパンから武者修行のために旅をしている。イサンと申す。しかし、この王国まで来られる人間はほとんどいないはずだが、よく知っているな?そちらは?」


「あー、ちょっと前にネパンから出てきた友人が居るんだよ。僕はモンブラン、みんなはモブって呼ぶから、是非そう読んで欲しい。」


「ほう、何という方だろうか?ここまで来れるという事はかなり腕の立つ人物なはず。いや、食事の席で少し無粋だな。モブさん、すまない。」


「気にしないで。それより、ネパンのひとならここよ食事は最高だと思うよ!お酒奢るからから、ちょっと旅の話でも聞かせて欲しいな!すいませーん、こちらのお侍さんと僕ににぽん酒お願いしまーす!!」


「おぉ、ありがたい。しかし、この店は聞いたことのないメニューばかりで、少々困るな。良ければ、ツマミも見繕ってもらっても良いだろうか?腐っていなければ何でも食べられる。」


「任せて、僕はここに週8で通っているから!!

おねーさーん、追加で『たこわさ』と『なめろう』、『あつあげ』をお願いします!」


「はーい、ありがとうございまーす!!!」

従業員の元気な声が返ってくる。


「?『あつあげ』があるのか?他2つは聞いた事がないが、こんな遠い異国の地に豆腐があると?」


「やっぱり知ってた?そう、この店だけら豆腐も作ってるよ。だから、もちろん『あつあげ』もある。『たこわさ』と『なめろう』は来てからのお楽しみだけど、きっと気にいると思うよ!」


「お待たせしました!ぽん酒です。」


従業員に供された飲み物を見て、イサンは驚く。

「これは、米の酒では!?ネパンの酒だ!!何故この地に?、、、まさか、ここでも作られて、いや、米があるなら、それでも秘匿技術のはずでは」


「ここは勇者さんの故郷の味を再現しようとした店だからね。ネパンの文化は勇者さんの故郷にだいぶ近いみたいで、米や酒を研究しにお邪魔してたみたいだよ。」


「勇者殿の。通りで。確かにかの御仁は良く遊びにいらしたいたな。しかし、その内情をご存知とはモブ殿はいったい?」


「僕はただの飲み友達だよ。それより、ほら『たこわさ』と『なめろう』が来たよ!ぽん酒に合うから試してみてよ!」


「『たこわさ】、、、蛸かっ!そしてこれは青魚だなっ!懐かしい、確かにこれらならぽん酒に合う。それも、味噌と恐らく生姜、あとはいくつかの香草が刻んであるが、、美味いな。何年経とうと故郷の味は格別だ。勇者殿が遠くネパンまで食を求めにきた気持ちが良くわかる、、、。」


「イサンさん、感慨深そうな所悪いけど、まだまだこの『居酒屋』の力はこんなものじゃないよ!今日は飲み明かそう!そして、最後は焼きおにぎりの茶漬けで締めよう!!」


「なんと!!それはいいな。狩猟依頼を受けて良かった。」


「あれ?イサンさんがジャイアントフォレストクラブ受けてくれたの!?ありがとう!!ずっと蟹玉食べたくでウズウズしてたんだ!今日ようやく納品されたと思って嬉しかったんだ!!!今夜の酒は僕が出すから馬鹿になるまで飲もう!!」


こうして夜は更けていく


いつのまにか100以上の方が読んでくれてて嬉しいですね。飲みながら気が向いたときにしか触ってなかったので、少し頻度上げます

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