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モブの酔いどれ話  作者: 南の島のひと
7/10

7話:下らない悩み

雷を統べ、嵐を身に纏うと言われる伝説の魔獣を敷布にし、エンシャントトレントの家具を配し、数々の魔道具が並ぶハイランド王城の一室で、男が一人叫ぶ


「っどうしてこうも頭が悪いんだっ!!!」


怒りのままに迸る魔力を溢れさせ、室内の調度品が悲鳴をあげるように軋む。あるいは、相応の格が無ければ砕けていたであろう程の圧が落ち着いた頃に、男は思考を巡らせる。


(我らがハイランド国王は領土の拡張を求めてはいないっ!帝国や周辺諸国と手を結び、千年先まで続く平和を求めている!!なぜそれがわからないっ!!)


魔王との対戦から早十数年、人類共通の強大な敵が居なくなり、その凄惨な時代を知らない或いは忘れ

、平和を享受してきた若い世代の貴族が台頭してきた。彼らは王国が持つ強大な軍事力を背景に、己が欲望を満たすため、他国へ侵略することを事あるごとに申請してくる。未だ彼の大戦で活躍していた世代が目を光らせているため、表立った動きは少ないが、それでも小さな会合や画策は枚挙にいとまがない程に繰り返されている。もちろん、王国でも対処はしているが、どの社会にも愚かな思想の持ち主が尽きることはなく、大戦を経験した人物の中にも欲に負け、若者を支援する愚か者が出始めている。


この数年、ハイランド王国に仕えているハートランド・アーセイメーはその対処に追われる日々を過ごしていた。


「失礼します!」


不意にドアがノックされ、部下の声が聞こえてくる。


「至急、報告したいことがあり参上しました。入室の許可をいただけますか?」


「入れ」


「失礼します!」


慌てて執務室に入って来た部下に労いの言葉をかけるでも無く、一瞥し報告を待つ。


「以前より監視しておりましたクワッセン・ダテルサーク子爵が中心となり若い男爵位並びに子爵位数名と共に、ローランドの街にて会合を行い、その中で東のイーストランド連合国に属する村から子女を略奪し、奴隷商に流す計画を立てていたことが判明いたしました!つきましては、これに対処する許可を得たく参上しました。」


「はぁ、、、許可する。止められなかった先代も含め、一族郎党晒してしまって良い。先の大戦でも、後方支援と称しながら民より巻き上げた資金以外は貢献の無かった一族だ。王国に何の不利益もない。それよりも、それぞれの地を治る代官の選出には私も関与する。まずは候補を入念に選出せよ。いいか?王の考えを理解し、王国を共に育て上げられる人材を選出することに可能な限りの時間を使え。」


あまりに杜撰な、実現性のない計画に辟易としながら、アーセイメーはこれから潰えるであろう貴族家よりも、先の事を優先するよう指示を出す。


「久々にやつに会いに行くか。」


下らない仕事ばかりで頭がどうかなりそうになっていることを自覚したアーセイメーは気持ちを切り替えるため、旧友の顔を思い浮かべて、密かに城を抜け出すことを決意した。




「いらっしいませ〜〜!!何枚様、、、アーセイメー様!お久しぶりですっ!ちょうどカウンター空いてますので、そのままご案内してよろしいですかぁ?」


元気な声で従業員に声をかけられ、いつも通り活気のある酒場『居酒屋』の入り口をくぐる。

「あぁ、久しぶりだね。いつも通りで頼むよ。」


城では考えられない程にフランクな敬語、決して上品とは言えないが、親愛の念のこもった言葉に安心感を覚えながらアーセイメーは答えた。


案内されるままにカウンターに向かうと、見慣れた男がいる。


「私も大概だが、お前はいつ来てもそこに座っているな。自分の立場をわかっているのか?」


いつも通りの風景に気を緩ませつつも、大戦前から交流のある男の変わらない姿に呆れながら声をかける。


「おー、セイメイ!久しぶりだねっ!!隣空いてるよ!一緒にどうだい?」


すでに従業員にやりカラトリーが準備されており、彼の隣で飲むことが決定されたかな様な雰囲気であったが、カウンターの男は念のため尋ねる。


「そのうまそうに食べているヘルオクトパス焼きを半分よこすなら考えてやる。」


かつて魔王を倒すために他の世界から召喚されて来た勇者。彼女の持つ異なる世界の知識にあった料理が供されるこの『居酒屋』のメニューの中でもアーセイメーの好物をねだりながら、男の隣に腰を下ろす。始めは常軌を逸した食材の数々に頭を抱えたものの、凡ゆる食料が、無くなった時代にやむを得ず口にして以来、度々食べたくなる一品であった。


「セイメイと飲めるなら喜んでっ。あ、おねーさーん!セイメイにもキンッキンに冷えたエールを〜!!」


男は嬉しそうに皿を寄せながら、アーセイメーのドリンクを勝手に注文していく。


「全く、勝手に決めるなといつも「好きでしょ?」言って、、、まぁ好きな組み合わせだな。」


アーセイメーの言葉を遮りながら無邪気に笑う男。苦笑しつつも、城内ではできないやりとりや、男なりの心遣いに喜色を示しつつ、苦笑しながら答える。


料理を堪能しつつ近況の話をしていると、男が急に尋ねる。


「そういや、入って来たとき眉間の皺が凄いことになっていたけど、どうしたの?」


不意に旧友に問われた内容に、つい愚痴をこぼしてしまう。


「あぁ、最近若い貴族やあまり大戦に関わらなかった貴族のなかから他国への侵略を訴える声が多数寄せられていてな。王がそれを望んでいない事は周知してあるのだが、大戦中の英雄を多く抱える王国の現状を利用して、自身の欲求を満たそうとするものが後を経たない。それ自体は潰して首を替えてやれば良い話だから、まだいいのだか、、、」


「そっか、『共通の敵』がいなくなったことでって悩んでるんだね?本当に倒して良かったのかって?」


「、、、相変わらず結論までが早いな。その通りだ。私たちのしたことが原因で人類が争いを始めてしまった。本当に正しかったのかと、、、」


「ていっ!」


バゴンッ!!!という音と共にアーセイメーの脳天に衝撃が走る。歴戦の猛者でもあるアーセイメーが認知できない速さで男にはたかれたのだった。


「セイメイはさぁ、あれこれ考え過ぎなんだよ笑だって、考えてごらん?あの時期にそんな事考える余裕なんてなかったでしょ?美味い飯食べて、酒飲んで酔っ払って、戦いなんて気にせず、普通に喧嘩して、未来に意識を向けて、過去をグチグチ考えてなんて余裕なかったじゃん?そこに目を向ける『余裕』を作ったのは勇者さんやセイメイ達だよ?それが正しくないなんてありえないから!僕はありがたいよ?ありがとうセイメイ!!」


ヘラヘラとした雰囲気を一変させて、拙い言葉だけれども、真剣な表情で気持ちを伝えてくる旧友に面食らっていると


「だから、今夜は飲もうっ!!おねーさーん、店の全員にお代わりっ!!今日はセイメイの奢りでお願いしますっ!!!」


「おー、流石っす!ご馳走様です!」

「いつも感謝してますよっ!」

「貴方様方のお陰で楽しんで帰れますっ!」

「下らねぇ貴族様に疲れたら、昔みたいに俺らと飲みましょーー!」

「後で俺らにも奢らせて下さーい」


純粋に、アーセイメーに感謝する声がところどころから上がる。


仲間と共に世界を旅していた頃を思い出しながら


「二杯目以降はモブの奢りらしいぞ」


「流石モブさんっ!!」

「ついてきやすっ!!」

「姉ちゃん!こっちエールタルで持って来てっ!」

「モブさん愛してる〜」

「アーセイメー様話がわかるっ」


などなど、アーセイメーがニヤリと言い放った言葉で今夜も『居酒屋』は賑わっていく、、

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