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モブの酔いどれ話  作者: 南の島のひと
1/10

1話:英雄

「なかなか美味そうな匂いだ」


知見を広めるために帝国からハイランド王国へと旅をしてきたライラは、王都に宿を取り、荷物を放り投げると食事を求め、夜の街に繰り出していた。


「酒場…?店名は読めないが、今夜はここにするか」


ギィ…

扉を開けて中に入る。既にテーブルは日中の依頼を終えたであろう冒険者で溢れていた。


(ん?厨房が見える席があるな。王国独自の文化だろうか?)

初めて見る酒場の形態に違和感を覚えつつも、他に空いている席もないため、そちらに向かう。

カウンターに腰を下ろしたライラは、近場にいた店員に声をかける。


「まずはエールを。それと、何か軽くつまめるものを頼む。」


「あ、こちらから注文できるので、そのままカウンター越しにお声掛けください」


ライラは厨房から別の店員に声をかけられ、一瞬驚いたが

(なるほど、こたらの席であれば注文がスムーズなのか)

と考え、別のことに意識を向ける。


(さて、先程から美味しそうな匂いが立ち込めているが、どのような料理があるのだろうか?)

そう思うと同時に、


「お待たせしました!」

という声と同時にカウンターの向こうからエールが届く。


「いや、随分と早く出してくれた。ありがとう。それよりも、この店の作りは面白いな。私のいた帝国にはなかった形態だ。」


「ありがとうございます。ウチの店長の好みでやってるだけなんで、王国でもあまり無い形態ですけどね。あ、それとおつまみです。ウチの自慢の一品ですので、楽しんでください。」

と店員は言いながら料理を手渡した。


(これは何だ?四角い、小さなパイのようなものが盛られているが…)

初めて見る料理に戸惑いながらも1つ摘んでみる。


「美味い!サクサクの食感に中から溢れてくる肉汁と野菜の香りがたまらない。これは…チーズも入っているな。なんて贅沢な料理だ!」


「ん?お姉さん、ラビオリは初めてかい?」


ライラが初めての料理に感動していると、隣で飲んでいた男が声をかけてきた。見知らぬ男に声をかけられ警戒するも、視線を移すと興味が湧いたため、会話に応じる。年は30から40といったところか、シンプルな服装をしているが、腰に佩いた剣から、冒険者だとあたりをつける。

その男は見たことのない酒を片手に、見たことのない料理を2本の棒で器用に食べていた。


「ああ、今日帝国からこちらに到着したばかりだ。途中の村や街でもパスタとか言う変わった食事を堪能させてもらったが、この料理はどこでも見たことがない」


「それもパスタの一種だよ。たしか、小麦粉を薄く伸ばした生地で肉や香味野菜、スパイスを合わせたものを包んだ物だったかな?スープに入れたりソースと和えたり、それみたいに揚げたり色々あるよ。そうか、帝国は芋や腸詰を使った料理が多いからな。王国では小麦料理が多いんだ。是非堪能してくれ。」


「これもパスタなのか…やはり他国というのは面白いな。ちなみに、おすすめの料理なんかがあれば教えてほしい。初めての店なので、どれが良いのかわからないのだ。」


「んー、エールに合わせるならまずは唐揚げと塩豆がいいかもね。」

少し考えてから当たり障りのない返答をする男。ライラは男に従い注文する。


「お待たせしました!」

ラビオリとやらを堪能していると、元気な声でカウンターから料理が運ばれる。


「確かに美味いな!帝国にも揚げ物はあるが、油が良いのかコチラは臭くない。それに、これはなんの肉だろう?噛むほどに旨みが溢れてくる。間に挟む塩豆とやらも最高にエールに合うな!」


「だろう?店長の腕もいいが、王都は各地から高位冒険者が獲物を持ち込むから素材がいいからな。他では食べられないものばかりだ。」

ゆっくりと酒を楽しみながら男は嬉しそうに答える。


「ところで、そちらの酒と料理も初めて見るんだが、それはいったい?」

美味い酒と料理で少し警戒を解いたライラは好奇心のままに男に尋ねる。


「酒の方はウィスキーを炭酸って物で割った物で、こっちはカルパッチョっていう料理だな。どちらも詳しい作り方は知らないが、魔王大戦の後から流行り出した物だよ。平和になった象徴として、勇者さんが広め始めたみたいだ。」


「あぁ、『平和で文化的な生活があれば』みたいな事を仰ったみたいだな。実はその勇者様や当時の英雄達の話を聞きたくて、この国には立ち寄ったんだ。」


「へぇ、それなら本人から聞いてみるのが良いんじゃないかな?何名かは美味い料理目当てにこの店に飲みにくるよ。お、噂をすれば」


その言葉を聞き、男の視線を追うと1人の男が店内に入ってきた。大きく膨れ上がった筋肉に鋭い視線。シャツから伸びる両腕には無数の傷跡が残されており、歴戦の猛者を思い起こされる。


「嘘だろぅ…」

ライラが小さな声でそう呟く。

18年前、この世界では人類の存亡をかけた大きな戦いがあった。強大な魔物が蔓延るこの世界では、人類は常に脅威に晒されていた。その中でも、人類を主食とする一部の魔族によって構成された魔王軍よる侵攻が過激になったのが30年前。10年以上も続く人類と魔王軍との戦いに於いて、中心となり、遂には魔王を打ち倒したパーティがいた。他の世界から召喚された勇者を中心に様々な国・種族で構成されたそのパーティは英雄として世界中から称賛されている。魔王軍との戦いの中で、各地を飛び回っていた勇者パーティはその際、ライラの住んでいたアイリッシュ帝国にも訪れていた。彼女は幼い頃に勇者パーティを観て以来憧れ続け、今では高位の冒険者まで駆け上っていた。


(何年経とうと見間違えるはずもない、神斧ガイザス。こんな所で見かけることができるなんて…)


英雄の姿に感動したライラは自然とその動向を目で追いかけてしまう。


「お、モブじゃないかっ!久しいな!!隣空いてるかい?」

ガイザスは入ってくるなりカウンターへと向かい、ライラの隣に座っている男に声をかけた。


「おっちゃん久しぶり!こっちに居るのは珍しいね。空いてるよ。あ、兄さんエールとハイボールお願い!」

男はガイザスに軽く返事をしながら、自分とガイザスのエールを注文する。


「は?」

英雄と気軽に会話し始める隣の男。ライラは一瞬何があったのかわからなくなってしまう。


「モブお前…良く生のタコなんて食べられるな?この店でお前だけだろ、それ注文してるの」

呆けているライラに気づかず、ガイザスは男の隣に腰を下ろし、店員から受け取ったエールをあおる。


「おっちゃん、乾杯もせずに飲むなよ。それに、勇者さんも注文してるじゃない。」

ガイザスに軽く反論しながらジャッキを前に出し、乾杯し合う男。


「そうだ、こちらおっちゃん達の話を聞きに帝国から来たみたい。えーっと、そういや自己紹介まだだったね。僕はモンブラン。王都で冒険者をしてるんだ。皆んなからはモブって呼ばれてる。こっちのイカついのはガイザス。さっき話してた勇者パーティのメンバー。お姉さんのお名前は?」


「あ、あぁ。私はライラと言う。が、待て待て待て。どう言うことだ?え?いや、英雄とどういう関係なんだ?は?そんな気さくに…」

急な紹介に反射的に返事を返すが、いきなり流れに着いていけず、混乱するままに言葉を口にするライラ。


「あぁ、おっちゃんとは飲み友達なんだ。それよりも、ライラさん、どんな話を聞きたいんだい?」

思わぬ英雄の登場。店内からチラチラと視線を感じるが、大騒ぎにならないのは、何故だ?

ライラがは疑問に思いつつも口を開こうとする。


「お嬢さんはライラってのか。オレはガイザスだよろしくな!まぁ待てやモブ。まずは乾杯からなんだろう?」

口角をあげニヤリと笑いながらジャッキを突き出すガイアス。本人は笑顔のつもりだが、その相貌は猛獣のようである。


「こ、光栄です。」

と何とか口にしつつジャッキを打ち鳴らし乾杯に応じる。


「ここの料理は旨ぇからな!少し飲み食いしてから話はしてやるぜ!」

ガイザスはそう言うと、店員にいくつか注文をし始める。


緊張しつつも、食事が進む。途中タコのカルパッチョをお勧めされてライラとガイザスがドン引きしながら断る場面を挟みつつも、ある程度腹が落ち着いたところで、ガイザスが切り出す。

「それで、ライラ。オレに聞きたいことってのは何だい?」


「はい!実は魔王との決戦の話に幼少期から憧れておりました。書籍や魔道板の動画などで知ることはできますが、できれば本場でも聞いてみたいと思い、この地に来ました。まさか本人にお会いできるとは思いもしませんでしたが、よろしければお聞かせ願えますか?」


「それは構わないが…動画?」


「あぁ、おっちゃんは魔道板をほとんど使わないからわかんないか。ほら勇者さんが作った魔道具だよ。遠くにいる人とでもいろんなやりとりができるヤツ。便利だよね!」


「あぁ、確かイサムから送られてきたな。束縛される感じがしてオレは好かんが、若者の中では人気があるらしいな」


「そう、それ!飲み会の誘いがすぐにできるから、できればおっちゃんも起動だけはさせててくれよ!」


「そういう使い方もあるのか。そらなら持ち歩いておくかな。その話はさておき、魔王戦についてだったな?全て話せば長くなるからかいつまんで話すぞ?」


「はい!やらしくお願いします」

2人の話は色々気になるが、まずはガイザスの話だと思い、ライラは元気に返事をする。


「まずは魔王について話すか。どんなふうに聞いている?」


「はい!強大な魔力と肉体を有し、弱者であればその姿を見るだけで死に至ると…」


「ははっ随分と曖昧に伝わってんだな。まぁ間違ってはない。ヤツはな、全身が蛇のようなワームのようなモノの集合体が人の形をとった化け物だった。4本ある腕も、両手で抱えられそうにないほど太い足も全て蛇あるいはワームがより集まったような感じだったな。それぞれの手足には指のようなものはあるが、先端には口だけが空いていて、そこから毒性の強い粘液と各属性の魔法を吐き出した。胴体には巨大な口がついていて、その中は無数の怨念が蠢いていた。聖女が言うには深淵に繋がっていたそうだ。頭部には口や鼻、耳はなく複数の目と大きなツノが2本生えていたな。醜悪な姿だった。」


ゴクッ

気づけば静まり返った店内から、誰かが生唾を飲み込む音が聞こえた。ガイザス入店時からカウンターの話にこっそりと耳を傾けていた沢山の客が、英雄自らが語る伝説を聞き逃すまいと、誰1人として言葉を発しない。


「あっはっは!何だい?皆んなおっちゃんの興味津々?じゃあしょうがないね!てんちょー、僕の奢りでみんなにエール一杯ずつお願い!飲めない人にはブドウジュースを」

ただ1人、テキトーな雰囲気でいるモブだけが、軽い感じで店員に声をかける。

話の先を聞きたいが、せっかくの奢りということで一時話を中断し、酒が全員に行き渡るのを待つ。


「それじゃ続き行こうかっ」何でもないようにモブが促すとガイザスは続ける


「そうだな。やつとの戦いはまずはオレがしかけた。聖女が神の奇跡により、ヤツの粘液を防ぎ、賢者が魔法を相殺していた。だが俺にはそんな器用な真似はできない。だから、とりあえず突っ込んで斧を叩き込むしか出来なかった。他の仲間達の動きはほとんど見れなかったが、とにかく必死だった。神の軌跡を持ってしても奴の粘液を全ては防げず、鎧だけでなく少しずつ俺の四肢を侵していった。その度に聖女が回復してくれたんだが、痛みまでは消えない。手を失った直後に回復してまた失って、足が折れたと思ったら回復してまた折れてみたいな時間だ長く続いた。どれだけ戦っていたんだろうか。ヤツの形状が変化し始めた。その時だ、イサムが突然笑い出したんだ。そこから急に勝利がこちらに傾き始めた。それでも相手は魔王だ。2回目の変化の直後、何かの魔法を喰らって俺たちは吹き飛ばされた。だが、イサムだけは聖剣の加護に守られ、魔力を放出し尽くした魔王にかけやり、その首を落としたんだ。ってくらいの内容しか話せないな。すまないな、口下手で」


「すげぇ」

誰かが言った。

「何度も手を失うってどういう…」

別の誰かも思いを口にする。

店内が喧騒に包まれ始める。


「ガイザスさん!ありがとうございます。やっぱり英雄ですね!!その背中に近づけるよう頑張ります!!」

ライラは尊敬の眼差しでガイザスを見つめながら言葉を伝える。


「や〜、良かったねライラさん!おっちゃんもわざわざありがとね。さすが英雄!!」

相変わらず軽い感じでモブは言う。


「まぁモブに話を振られたからな、多少のサービスはするさ」

ガイザスはエールを傾けて答える。


そしてその日は暮れていく

初投稿


飲みながらダラダラとやっていけるかな

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