1-7
いつの間に眠ったのか、気がつけば日が上っていた。
見知らぬ土地での一晩というのに、ずいぶんよく眠れたものだ。
ただ、寝具の質のせいか体の節々が痛む。
この宿屋の一室には、すでにケイドの姿はない。
今が何時頃かは分からないが、日の高さからして早朝という様子ではなさそうだ。
「あー・・・・・・と」
とりあえずこれからどうしようか。
今のところ頼れそうなのはリタだけなわけだが、一人でリタの家まで向かえる自信はない。
どれだけ熱心に案内されようと、この街の構造を把握するには時間が必要だ。
硬いベッドの上にあぐらをかいて、首を掻く。
寝起きの頭は十分に働かず、何も浮かんでこなかった。
この世界について学んだ。
この街について学んだ。
で、通貨について学んだ。
「ん、まぁ・・・・・・」
まだ知らなければならないことは多そうだ。
だが、この街で生きてくなら案外これだけでも・・・・・・。
頭の後ろで腕を組んで、体を揺する。
特別意味のある行動ではないが、少なくとも凝り固まった筋肉にはいい刺激になっただろう。
そのまま揺れながら、このままもう一度寝ようか、一旦外に出てみようか考える。
確か支払った料金は一泊分だし、二度寝するなら一度下に行った方がいいかもしれない。
そうやって色々なことを考えるふりをして、時間だけが無為に過ぎていく。
丁度前の世界にいた頃の休日のようだ。
「あー・・・・・・くそ」
新しい生活が始まったのだから、前のことは頭から切り離さねば。
せっかく、あのつまらない現実から離れられたのだから。
頭を振って、意図的に目を覚ます。
とにかく、いつまでもこうしているべきじゃない。
ベッドから降りて伸びを一つ。
肩甲骨の辺りからボキボキと気持ちのいい音が体内に響いた。
丁度気持ちも入れ替わったところで、階段を登ってくる足音が耳に届く。
「・・・・・・?」
宿主のおじさんが二泊目の料金について何か伝えに来るのかと考えるが、どう考えても足音が軽い。
またケイドだろうか?
そんなくだらない推理が終わる前に、答えが先にやって来る。
部屋のドアを開くのは、リタだった。
「あ、リタ・・・・・・」
「おはようございます。いや・・・・・・早くはないですね。わたし来るの実は二回目ですし」
「あ、はは・・・・・・」
どうやらリタを待たせてしまっていたらしい。
別に責められているわけでもないのだろうけど、思わず笑ってごまかす。
「・・・・・・それで、何をしに?」
今日は一体何を教えてくれるのか、その期待を込めて尋ねる。
「そう、ですね・・・・・・」
それにリタは少し考えるようにして、その少し後にため息をついた。
「そうですね。とりあえず・・・・・・一つ確かめたいことがあるので着いてきてください」
あの一考の瞬間、一体何を思っていたのかは分からないが、とりあえず指針は決まったようだった。
ため息もしていたし、もしかしたらまた何か呆れさせてしまったのかもしれない。
いや、そういう風な表情をしていただろうか?
少なくとも今やそれについて確かなことは言えない。
「分かった。行こうか」
リタに準備は出来ていると視線で伝える。
リタはそれに頷いて、開いたままだったドアの外に向かって歩き出した。
狭い階段を、リタの背中を追って歩く。
「あ、そういえば・・・・・・結局ここの支払いって一泊分でいいの?」
「お金ですか? たぶんそれでいいと思いますけど・・・・・・ちょっと確認しましょうか」
まぁ、どのみちここにはまたお世話になりそうだけど。