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ムーンライト・エンブレイス  作者: 空空 空
セカンドホームタウン
62/67

1-61

続きです。

 二人を残して、街の中へ駆ける。

決して躊躇わず数瞬たりとも無駄にしないように。


 ちらりと一瞬振り向けば、マナトたちに人の波が押し寄せるのが見える。

いや、この表現は適切でない。


 彼らが目指しているのは、わたし。

そしてそれをマナトたちが阻んでいるのだ。


 マナトの能力にまだ分からないところはあるが、おそらくあの人数をずっと堰き止めることは出来ないだろう。

保って数秒。

その後、彼らがどうなるのか・・・・・・それは正直なところ分からない。


 マナトとリサが生み出す、ほんの一瞬の時間。

命を賭して作り出したと言っても過言ではない時間。

その時間を、コンマ1秒ですら無駄にしてなるものかと駆ける。


 そうして、強引に開かれた門の隙間に体を滑り込ませた。

こちらに迫っていた兵士たちの手は、わたしに届かない。


 街に立ち入ると、そこはすっかり変わり果ててしまっていた。

もともと粗雑なつくりだった建物は崩れ、それに連鎖するように区画がまるごと廃材の山になっている。

兵士の追跡と街の人々の逃亡の痕跡だろう。


「・・・・・・」


 想定していたよりずっと酷い状態。

わたしたちは急いだ。

可能な限りの最大限を尽くした・・・・・・にも関わらず、どうしようもなく遅すぎた。


 街に入ってすぐだというのに、残骸の影に死体。

直視に耐えかねて伏し目がちに見るが、そこに知っている顔が映るのを認識してしまった。


 当たり前だ。

この街の人で、わたしが顔を覚えていない人など居ないのだから。


 見つけてしまった亡骸の前から逃げ出すように駆け出す。

どのみち追手は来るだろうし、今はまだ助けられるかもしれない命を優先するべきだ。

急がねばならない。


 走りながら眺める街並みは、到底同じ街のようには思えない。

命が無残に転がり、崩れた建物の影に小さな炎が燻る。

地面にはおびただしい数の足跡。

数々の痕跡が、ここで起こったことの激しさを物語っていた。


 ほとんど知らない風景と化しているのに、歩みを進めれば自分がどこを走っているのかが分かる。

あそこはこうで、ここはこういう場所“だった”。

少し前まであったものが、今では既に遠い過去だ。


 しかし・・・・・・。


「思ったより兵士が少ない・・・・・・」


 いや、遺体の数を含めればそんなことはないだろう。

だが存外、生きている兵士の姿は見かけなかった。


 この街に戦える人はどれだけいただろうか。

しかし、ここまで抗ったのだろう。

わたしすら知らなかった底力だ。


 生存者なんて望めなさそうな、ぐちゃぐちゃに崩れ去ってしまっている区画を走り抜ける。

そうすれば、まだ建造物が形を保っている場所に出る。

そしてその区間は・・・・・・。


「ここは・・・・・・フォスタたちの・・・・・・」


 もう逃げたか、それとも兵士に連れ去られたか。

それは分からない。

しかし、全てが終わった後にマナトの安堵する姿が見られるかもしれないと足を速める。


 建物の損害は小さい。

まだ居るかもしれない。

生きているかもしれない。


 直線で距離を詰めていく。

眼前にほのかにチラついた希望に手を伸ばす。

しかしその手は、鈍く輝く金属に阻まれた。


「お、まだ生きてるのが居たか」


 煤けた鎧。

刃こぼれした剣。

兜の中から響くくぐもった声には疲れが滲んでいる。


「・・・・・・若い女か。使える、だろうな・・・・・・」


 どうやらわたしのことを知らないようで、臆することなくその兵士は剣を構える。


 だが。


 わたしが気にするのはその目の前の兵士ではない。

その少し後ろ、三人組の兵士がフォスタの家に入って行くのが見えたのだ。


 ただでさえ弱々しい希望の炎が、吹き込む風に揺れる。

それを、奪わせはしない。


「邪魔・・・・・・!」


 剣を構えた兵士に、魔法も何も使わずに飛びつく。

鎧を捻じ曲げて、怪力を持ってその胸ぐらを掴む。


「がっ・・・・・・なんだコイツ!?」


 完全に油断していたところに激しい衝撃を与えられた兵士は、叫びながら尻餅をついた。

そしてその声に、まるで動物が群れるように集まり出す。


 手負いを含んだ六名。

問題になる数ではない、のに。


「どうしてこういうときに・・・・・・」


 使える時間は無いに等しいというのに、本当に間が悪い。

だから・・・・・・。

間が悪い君達が悪いよ。


 体に流れる魔力。

大気に流れる魔力。

それらを感じ、集め、操作する。

魔法。

出来るだけ殺さないつもりだったけど、時間がないのだ。


 許しは乞わない。

命の価値は、明確に不平等だ。

それは君達がこの街の人々の命を蔑ろにしたように当たり前のこと。

まさかそのことを彼ら自身が知らないわけもないだろう。


 手中に、魔力を帯びた熱が渦巻く。

そこには炎の輝きが生まれる。

手始めに押し倒した兵士の頭を焼失させ、それを開戦の合図とした。

続きます。

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