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続きです。
いったいあの鎧の連中の来訪が何を意味するのかは分からない。
ただ漠然と、なんだか嫌な感じがしてそれに眉を顰める。
その言い知れぬ不安の正体を探るために思考を巡らせる。
着込んだ鎧から、明らかに何らかの戦闘を想定しているのが分かる。
だが、普通・・・・・・とは言わないまでも、ただの辺境の街にこうして出向くものだろうか。
だとするときっと何か理由が・・・・・・。
「あ・・・・・・」
一つ、一つだけ思いつく。
ここにああいう連中が来る可能性。
リタの方を向く。
その首輪を見つめる。
魔法の首輪。
リタの体の状態を調べ、随時その状態と位置情報を王都に送信し続ける。
それは全て、リタを・・・・・・先生の遺した生徒たちの生命に終止符を打つため。
もちろんリタは今目の前に居るし、特別魔法も使っていない。
つまり状態は安定しているはず。
であれば・・・・・・。
「リタ・・・・・・もしかして、リコに何かあったんじゃ・・・・・・」
「お姉ちゃんに、ですか・・・・・・?」
俺の言葉に、リタはしばし考え込む。
しかし、すぐにその首を横に振った。
「いえ・・・・・・それはたぶん無いと思います。王都はここから離れていますし・・・・・・わたしたちが出発した後にお姉ちゃんに何かあったとしても、まだ到着していないはずです。そもそも・・・・・・お姉ちゃんは首輪の回路を破壊していますから・・・・・・王都に情報は行き渡らないはずです」
「え・・・・・・は、破壊!? そうなの!?」
「はい」
そんなことが出来てしまうのか、と驚く。
しかしリコのことだ、確かにそういう情報が他所に流れるのをよしとはしないだろう。
しかし、それでは結局あれがなんなのかがさっぱり分からなくなる。
リコが首輪の機能を破壊したのが問題になって鎧連中の来訪を招いているとしたら、もっとずっと前にこうして訪れているだろうし・・・・・・。
こうして答えを失ってしまった俺とは対照的に、リタは何か可能性に思い至ったようだった。
「そうか・・・・・・王都、ですか・・・・・・。だとしたら・・・・・・」
どうも俺の発言が足がかりになったようだが、とてもそれを喜ぶことは出来ない。
何故なら、リタの表情が一層険しくなったからだ。
リタの中で、疑念は確信に変わる。
「すみません・・・・・・リサさんをお願いします」
「え? あ、えっと・・・・・・?」
今何が起きているのか、その説明も無しにリタは駆け出してしまう。
リタが地を蹴った際に跳ね上がる土。
それが再び地面に落下する前に、リタの背中はすっかり見えなくなってしまった。
「は、速ぁ〜・・・・・・」
相変わらず、驚異的なスピードだ。
だがそれに呆気に取られているわけにもいかない。
少なくとも、今セカンドで何かが起こっているのだ。
おそらく良くないことが。
もし、万が一の可能性として来訪者たちと戦う場合・・・・・・相手は人間になる。
だから、今までとは種類の違う覚悟が必要になるかもしれない。
だが、リタがあれだけ急いでいるのだ。
おそらくほんの少しの猶予もない。
「リサ・・・・・・!」
鋭い目つきで街の方を睨むリサに声をかける。
それにリサは視線は街に向けたまま頷いた。
「ああ・・・・・・なんだか分からんが・・・・・・急いだ方が良さそうだ」
目先にぶら下がる問題。
それが今は心のやつれを遠ざける。
今のリサは、すっかりあの頼もしいリサの姿だ。
「行くぞ!」
こうしてはいられないとリサが先陣を切る。
その尻尾を追って、俺も走り出した。
俺もリサも、リタ程の非常識な速度は出せない。
さっきまでは短すぎるくらいに感じていた距離が、酷く遠い。
何が起きているのか分からない。
その分からないという恐怖が、俺たちの気持ちを焦らせる。
走りながら、現在進行形で距離が縮まっていく街の方を見る。
気がつけば、鎧の群勢は街を取り囲むように整列していた。
近づけば近づく程、その人数の多さが如実になっていく。
数百人・・・・・・では済まないかもしれない。
明らかに何らかの意図に基づいてセカンドに訪れている。
街を取り囲む者たちだけでなく、開かれた門を幾人もの鎧が出入りを繰り返している。
入って行く人数より、出てくる人数の方が少ない。
それからしばらくすると、整列していた者たちの一部が慌てた様子で壁内に駆け込んで行くのが見える。
ある程度距離が縮まった今なら、その手に握られている剣もはっきり見えるのだった。
続きます。