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続きです。
結局、なんの成果も得られなかった。
いや・・・・・・目的通りならきちんとそれを達成出来たのだが・・・・・・。
しかし、持ち帰れるのは決していいものじゃない。
あの街・・・・・・セカンドホームタウンは、そう遠くない未来、汚染に飲まれる。
それは、もうどうしようもなく真実なのだ。
「・・・・・・」
リサは未だ項垂れて、茫然自失としている。
ある程度は覚悟の上だったのだろうが、それでも尚この有り様だ。
リサは恐らくセカンドで言えばわりかし古参だと思うし、その分思い入れも強かったのだろう。
そういう知らせを、これからあの街に・・・・・・フォスタたちに届けなければならないのだ。
死んだ大地に背を向け、ただ己の無力さに打ちひしがれる。
他所者のはずの俺は、既に蚊帳の外では居られないほどあそこでの生活を愛していた。
こんなになってしまった今、初めてそれに気付かされたのだ。
「帰り・・・・・・ましょうか・・・・・・」
リタが「そろそろ・・・・・・」と、リサに囁くように言う。
リサは、それに力無く頷くしか出来ていなかった。
リタはそんな様子のリサに、肩を貸して立ち上がらせる。
「いや・・・・・・いや、済まない。自分で歩けるよ・・・・・・」
「はい・・・・・・」
リサがよろよろとリタの支えから自立する。
そして俺の方も見て、無理矢理表情だけは笑顔を作ってみせた。
「悪いな・・・・・・こんな情けない姿見せて・・・・・・」
「い、いや・・・・・・その・・・・・・」
「いいんだ。気は遣わないでくれ。これから・・・・・・きっと大きな仕事が待ってる。街の奴ら全員の、あいつら一人一人の人生がかかってる問題だ。そんなときに・・・・・・俺がこのザマじゃいけねぇよ」
そうやってリサは精一杯カッコつける。
カッコよくはないけど・・・・・・その姿は情けなくなんかなかった。
「では・・・・・・」
帰り道は、リタを先頭にして歩く。
俺とリサの前後はどこかのタイミングでいつの間にか入れ替わって、俺が一番後ろだ。
前を歩くリサの背中は逞しく、同時に弱々しくもあった。
決して長くない距離。
数十分で埋まってしまう距離。
到着すれば・・・・・・この知らせを、みんなに届けなければならないのだ。
絶望を。
だからだろうか・・・・・・いや、絶対にそれだけが理由ではないだろうが、俺たちの足取りは重い。
さっきはとうとう足を止めてしまったリサだったが、今ではすっかり街の大人としての態度で歩みを進めている。
俺よりずっと多くの不安と感情を背負っているだろうに、その足の運びには迷いがなかった。
しかし、突然先頭を歩くリタが立ち止まる。
「・・・・・・?」
リタも感情が爆発してしまったのかと思ってその様子を窺うが、どうもそんな感じではない。
リサも不思議に思ったのか、突然歩みを止めたリタの隣に並んで問いかけた。
「どうした・・・・・・?」
リサの言葉に、リタは目を細める。
進行方向を見つめたまま。
「いえ、少し街の様子が・・・・・・」
「街・・・・・・?」
釣られて俺も街を見る。
リサの横に更に並んで、まだやや距離があるため小さく見える街を見つめる。
そこにあるのは、街を覆う壁。
高くそびえる、魔物に対する防御壁。
だが、その門が・・・・・・。
「開いてる・・・・・・?」
そればかりか、その開いた門からぞろぞろと人が溢れ出してくる。
ここからでは蟻程の大きさにしか見えないが、しかしそれでも断言出来る。
この街の人じゃない。
そもそも既に街の人数を越していそうだし、何よりもその身に纏うものが明らかに違う。
通常の衣服とは異なる、硬質な光沢。
日の光を跳ね返す、銀色。
「・・・・・・鎧?」
その中にはちらほら通常の衣服の色が混じる。
あれは・・・・・・もしかしたら街の住人かもしれない。
「なんだなんだ・・・・・・?」
何が起きているのかはよく分からない。
ただ、どうしようもなく胸がざわつく。
すごく、嫌な感じだ。
なんだか、こう・・・・・・掻き乱されるような・・・・・・。
「・・・・・・」
それはリタも同じようで、訝しげな表情は段々と不穏な空気を帯びていく。
「少し・・・・・・嫌な予感がしますね・・・・・・」
そう言って、まだ遠くに広がる光景をリタは睨みつけるように見ていた。
続きます。