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ムーンライト・エンブレイス  作者: 空空 空
セカンドホームタウン
55/67

1-54

続きです。

 それから数日後・・・・・・。


「ご心配をおかけしました・・・・・・」


 俺たちは再び街の出口付近で集まっていた。

リタもすっかり良くなったようで、自らを汚すことで変異した肉体の異常な回復能力で手のひらの傷も塞がっている。

いったいそれはいいことなんだか、悪いことなんだか・・・・・・。


「よしよし、集まったな・・・・・・」


 俺たちをここに集めた張本人であるリサが腕を組んで頷く。

また狩りに出るという様子でも無さそうだけど、一体なんの用事なのだろう。

リタもそれについては聞かされていないみたいだが、推測は出来ていると言っていた。


「それで・・・・・・いったいなんなんだ?」


 なんだかんだこの三人で集まる必要のある用件ということで、それなりに重要な内容の予感はしている。

今までだってそうだったし、たぶんこの手の危険の伴う仕事に適しているのはこの面子なのだろう。


「ああ。今日集まってもらったのは、他でもない汚染の調査のためだ」

「汚染の・・・・・・調査・・・・・・?」

「ああ」


 俺の言葉にリサはゆっくり頷く。

それから概要の簡単な説明を始めた。


「この間、瘴病の具現が現れた。これはもう否定しようのない事実だ。あれがもしこの地で発生したものなら・・・・・・ここには、もう住めないことになる」

「えっ・・・・・・」


 リサの言葉に、思わず声が漏れる。

驚き・・・・・・というよりは、なんだろう・・・・・・ただ、容易には受け入れられない言葉だった。


「仕方ないですよ、こればっかりは。元よりここに居るのは汚染の凄惨さを目の当たりにして来た人たちです。瘴病の具現が現れた時点で、ある程度覚悟はしていたでしょう。仮にあれがこの地で生まれたものでないにしろ、どちらにせよここには長く居られないという意味になりますから・・・・・・」

「そ、れは・・・・・・そうかもだけど、さ・・・・・・」


 そんなの冗談じゃない。

俺はまだ、そんな覚悟出来ていない。

この場所にこだわる理由はなくても、この場所以外では今までのように暮らせないだろう。


「まぁまぁ! あんま暗くならないでいこーぜ! もしかしたら案外大丈夫かもしれないし、ここを離れるにしてもいい場所が見つかるかもしれない。何もマイナスなことばかりじゃないさ」


 そうは言っても、と言いそうになるのを飲み込む。

リサだって、自分の言っていることが現実的でないのは分かっているのだ。

にも関わらずこう言ってくれた、それを一蹴するわけにはいかないだろう。


「・・・・・・そ、それで・・・・・・調査って言うのは・・・・・・具体的に何を・・・・・・?」

「簡単なことさ。完全に汚染に飲まれた土地は、瘴病の具現が来た時みたいに高濃度の瘴気で満ちている。明らかにダメな場所は、視覚的にすぐ分かるんだ。だから、それがどれほど迫って来ているのかを確かめる。汚染の地は今まで出かけてた方角とは逆方向だから、どうなってるか分からないんだ」


 逆方向。

つまり狩場や森へ向かう道とは正反対。


 もちろん俺は一度もそちらに行ったことは無いし、リサたちもわざわざ行くようなこともなかったのだろう。

何せそちらに向かったとて死んだ土地があるだけなのだから。


 リサは続ける。


「それなりに遠出になると思うが、今回はウルル達の力は借りない。流石にあのチビどもに汚れた空気は吸わせられないからな。だから・・・・・・そういうわけなんで、野宿ってことも十分あり得る。・・・・・・というよりそのつもりで居てくれ」

「・・・・・・分かりました」


 リタは野宿と聞いて、少し緊張した様子で頷く。

それは何故なのかは、考えればすぐに分かった。


 ただでさえ汚染の激しい方へ出向くのだから、魔物との接触は避けられない。

それどころか、瘴病の具現と再びやり合うことになっても何ら不思議ではないのだ。

夜の危険性も、ちょうどリコに説かれたばかり。

油断など出来るはずもない。


 そうして、リサは最終確認に移る。

いつになく真面目な様子で、こちらを向いた。


「さて、それでなんだが・・・・・・マナトはこれに同行してくれるか?」

「え・・・・・・?」


 問答無用で呼ばれたのだし、内容がなんであれ付き合うつもりでいたのだが・・・・・・。


「いや・・・・・・こちらとしてはもちろん来てくれるとありがたいんだ。お前の戦闘力は結構評価してるんだよ。だけどな、その・・・・・・お前はあまりにも健康だ。そんな奴をこんなことに付き合わせるべきじゃないだろ? だから、これに関しては強要はしない。お前自身に決めてほしい」


 そんなの・・・・・・。


「俺は・・・・・・」


 実際のところ、汚染のその恐ろしさを俺は経験を伴って知っているわけじゃない。

しかし、もしかしたら・・・・・・ケイドのように目が見えなくなったり、あるいはジュードのようにより重い症状を背負うことになるかもしれない。

いや・・・・・・もしかしたらリタのように・・・・・・。


「・・・・・・」


 そうだ。

リタはきっとどんなリスクがあったとしても行くのだ。

まだ病み上がりの体で。


 なら、行くか行かないかなんて、元より俺が悩むことじゃないだろう。

残り少ないかもしれないこの街の日常を、あの家で過ごしたい気持ちはある。

だが、だからって二人だけで向かわせるなんて・・・・・・それこそ冗談じゃない。


「俺も行くよ、もちろん。・・・・・・というか行かせてくれ」


 少し心が揺れたけど、それを感じさせてたまるかと、きっぱりと断言する。

その俺の葛藤に二人が気づけたかどうかは定かでない。

敢えてそれについてこれ以上語ることもなく、リサは頷いた。


「では・・・・・・」


 話がまとまったのを受けて、いよいよリタが街と外を隔てる扉を押す。

逆側の出入り口だから、既にいつも使う道とは景色がだいぶ違う。

今はまだ汚染の片鱗の見えないその景色に、俺たちは決定的な一歩を踏み出した。

続きます。

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