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続きです。
しばらく食後ののんびりした時間を過ごす。
こんな風にしていていいのかという気持ちにもなってくるが、実際にそれでいいのだから気にすることは無い。
未だ食事の時の椅子に座ったまま、今は床に直接座っているウルルたちに視線を落とす。
「ウルフルズって・・・・・・パンツ要るのか?」
「はぁ・・・・・・? ていうかまず何その呼び方・・・・・・」
その様を眺めていて、ふと湧いてきた疑問をそのまま口に出してしまった。
それは隣に座るフォスタの耳にも当然届き、だから頓狂な声が返ってくる。
「ああ、いや・・・・・・違うんだ」
違くないけど。
しかし決して、その・・・・・・やましい理由ではないので説明を付け加える。
「いや、さ・・・・・・その、毛が生えてるからさ・・・・・・暑いんじゃないかというか、ビジュアル的にもなんか違和感が・・・・・・」
「ああ、まぁそれは・・・・・・確かに・・・・・・」
フォスタも一応思うところはあったようで、納得してくれる。
犬ベースの獣人ということで、ころころもふっとしたふわふわの見た目なわけだが・・・・・・パンツに関してはその毛の影響でだいぶ膨らんでしまっている。
状態で言えばほとんどオムツに見えるくらいのボリューム感だ。
その膨らみと上向きに丸まった尻尾のせいで、某海産物一家の妹の如く常に丸出し。
ならいっそのこと履いてなくてもたぶんケモセーフで大丈夫だろう。
「ワーウルフって、普通はどうしてるんだ? パンツ履いてんのかな・・・・・・」
「それ・・・・・・これからワーウルフの知り合い出来たときに聞かないようにね・・・・・・」
フォスタがやや呆れ気味に笑う。
しかし実際どうなんだ、というのは無くならない。
俺がいまいち釈然としない表情なのを見てか、フォスタは一応の答えを返してくれる。
「その・・・・・・実際のワーウルフの下着事情については、うちも知らないよ。というか、ここの人全員が知らない。この子たちはリサさんが拾って来たから、誰もこの子たち以外のワーウルフに会ったことがないんだ」
「あー・・・・・・まぁ、そうか・・・・・・」
フォスタとここで暮らしている時点で、二人の親にあたる人物に何かあったのは明らかなわけで・・・・・・ならば拾われてきたというパターンも十分あり得る。
「ウルフルズも大変なんだな・・・・・・」
「・・・・・・だから何その呼び方・・・・・・」
元々昼食が遅めだったのもあって、特に何をするということもないままに日は落ちる。
夕飯を終えたばかりの部屋で、俺はウルルたちに炎の剣を見せびらかしていた。
「おぉー・・・・・・」
「あつい」
二人とも手品感覚で面白がってくれて、そんなふうに反応がいいものだからこちらとしても嬉しい。
そもそも最初は、あまりにも軽率に権能を使って見せることでこれが魔法ではないというのを補強しようという意図だったのだが肝心のフォスタは湯船の準備に行ってしまっていた。
軽く左右に振ってみたり、ちょっと火力を強めてみたり、それだけで二人は食い入るように眺めてくれるので、今は純粋にそれを楽しんでいる。
気分としては猫をじゃらしている感じだった。
しばらくそうしていると、フォスタが部屋に戻ってくる。
見かけるたびに何かをしている様子だったので、今では流石にお疲れのようだ。
単純に眠たそうにしている。
背伸びと一緒にあくびを一つ。
それからこちらに話しかけて来た。
「さ、二人ともお風呂入って来ちゃって。ちょっと・・・・・・今日はうち早めに寝たいかもだから・・・・・・」
フォスタは眠たげな目を擦り、ウルルたちに促した。
「何かすべきことがあるなら・・・・・・俺がやっとこうか?」
フォスタはもう休んだらどうかと提案するが、しかしフォスタは首を横に振る。
「いーや、特別することは無いんだけどね・・・・・・。ただ・・・・・・その、とりあえず家族が増えたってことで、うちが結構緊張しちゃってたみたいで・・・・・・。それでいつもより疲れちゃっただけ」
「それは・・・・・・なんか初日から割と我が物顔で済まない・・・・・・」
「いやいや・・・・・・うちも嬉しかったってことだよ。賑やかなほど楽しい。みんな楽しそうならもっと嬉しい。うちの・・・・・・家族だからね」
フォスタは柔らかく微笑む。
その目は微睡んでいるようにも、何かを懐古しているようにも見えた。
そうしてフォスタと話をしていると、突然誰かに袖を引かれる。
振り返ると、そこに居るのはフルルだった。
「お・・・・・・」
正直な話、内心ウルルだと踏んでいたので驚く。
少なくとも今日中にフルルの方から接触してくるようになるとは思わなかった。
そう思っていたのは俺だけではないようで、俺以上にフォスタが驚く。
「珍しいね、フルルがこんなすぐ懐くなんて。なんかおやつでもあげた?」
「いや、全然・・・・・・」
というか持ってない。
そんな俺たちの様子はお構い無しに、フルルは言う。
「ね、ね、一緒に入ろ?」
「え・・・・・・? 一緒に・・・・・・って、お風呂?」
「ん・・・・・・」
フルルは浅く頷く。
そうしてあまり変わらない表情でこちらを見上げて来た。
「えっと・・・・・・とのことですが?」
一応女の子だし、とフォスタに視線で確認をとる。
「マナトがいいなら、そうしてあげな。・・・・・・ついでに、一緒に入るならウルルに泳がないように注意しておいてね」
「あ、はい・・・・・・」
そのウルルはお風呂場に走って行ってしまって既にここには居ない。
ここに来てから、今のところ入浴は誰かと一緒なことばかりだ。
フルルに控えめに手を引かれて、俺も浴場へ向かった。
続きます。