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ムーンライト・エンブレイス  作者: 空空 空
セカンドホームタウン
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1-2

「まず・・・・・・ですね・・・・・・。本来、異界から召喚する魔法なんて言うのは酷く馬鹿げたことなんですよ」

「それは・・・・・・不可能、ってこと?」

「いえ、理論的には世界と世界を隔てるのが物理的な距離でも、そうでなくても可能です」

「じゃあ・・・・・・」

「いえ、不可能です」

「は?」

「魔法という技術の名誉のためにああ言いましたが、そんなことほとんど不可能です」


 どこもかしこも建物で囲まれた日陰の通路。

その狭い道を二人で歩く。

どこに向かっているのかも分からない。


 そんな道中、召喚についての話を聞かされていた。

話を聞きながら、改めて彼女の姿を眺める。


 一目で安物と分かる薄茶色い生地で作られたワンピースの服。

靴も似たような材質の粗雑なものだった。

しかし、それなのに明らかに高級そうなローブを羽織っている。

素人目に見ても、そのローブだけ異質だ。


 首にはいわゆるチョーカーというのか、身も蓋もない表現をしてしまえば首輪をつけている。


 そして顔。

異世界人ということになるが、存外いかにも異国風という感じでもない。

そう見えるのは藍色っぽい色合いの髪のせいかもしれない。


 しかしだからこそと言うべきか、日本人では絶対にありえないその瞳の色が際立つ。

まるで宝石のような薄い紫色。

錯覚かどうかも分からないが、淡く発光しているようにさえ見えた。


「・・・・・・ですから、特級魔術師ですら短距離の転移魔法がやっとで、そもそも技術的な話の前に・・・・・・・・・・・・ちょっと、話聞いてますか?」

「え? ああ、うん・・・・・・」

「んもう・・・・・・」


 咄嗟についた嘘が通用するはずもなく呆れられる。

実際に嘘なわけだし、曖昧に笑って答えるほかなかった。


「まぁ・・・・・・もしほんとに異界人だとしたら魔術師の等級だの魔法の等級だの話をしても分かりづらいしつまらないですからね・・・・・・。そこはわたしが悪かったです」

「いや、はい・・・・・・すんません」


 流石に謝られてしまうとこちらとしても申し訳ない。

助けてもらった身だし。


「えっと、リタさん? これはどこに向かってるんで?」

「リタ、でいいです。わたしもマナトって呼びましたし」

「あ・・・・・・わ、分かった」


 リタ、という言葉を頭の中で繰り返す。

違和感というか、人を呼び捨てにすることに免疫がないのだ。

こればっかりは慣れるのに時間がかかるように思う。


「それで、今向かっているのはわたしの家です。お姉ちゃんも居ますけど気にしないでください」

「い、家? なんでまた?」

「そこに都合の良い魔道具があるんですよ。あなた相手なら嘘発見機に使えます」


 何やら嫌な言葉が聞こえた気がする。

別に言っていることは本当だし、心配ないはずなんだが・・・・・・。

やっぱり、ね?


「あの・・・・・・嘘ついたら電気流れるとかいう、そういう?」

「ふふ、そんな便利なものあるわけないじゃないですか。ただの血液検査ですよ。ほんとに・・・・・・演技だとしたら大したものですね」

「いや、だから・・・・・・本当なんだって・・・・・・」

「それを確かめに行くんじゃないですか」

「はぁ・・・・・・」


 思わずこぼれる、気のない返事。

何はともあれ、何も知らない俺はリタの言葉に従うしかない。


 複雑な迷路のような道を、リタの背中を追って歩く。

複雑なだけでなくどこも似たり寄ったりな景色で、だから余計に分かりづらい。


 思い描いた自由とは程遠いそれから逃避するように、空を見上げる。

俺の世界と変わらず、青い空。

しかし、この狭い通路から見上げる空に俺の世界とは違うものを見つけた。


「空の・・・・・・城?」


 ここから見る空は狭すぎて、その全貌は明らかにならない。

だが明らかに遥か高空に浮かぶそれは城だった。


 俺の言葉に反応して、リタがこちらをチラと見る。

その視線は鋭く、言い知れぬ迫力があった。


 何かまずいことを言ってしまったのだろうか。 

しかしリタはそれ以上何か言うこともなく俺から目を逸らしてしまう。

わざわざ聞く勇気も無かった。


 いくつかの階段を登り、建物の裏に回り込み、更に別の階段を登る。

リタはあれ以降何も話してくれない。

いや・・・・・・まぁ、俺の立場上仕方ないことなのだが。


 沈黙が始まると途端に居心地が悪くなる。

こういう気持ちになるのが嫌で自由に焦がれたというのに、結局自由までの道にはこういうのがつきものなわけだ。


 とりあえず早く疑いを晴らしたい。

晴れたところで怪しいのに変わりはないだろうが、俺の素性に偽りはないと明らかになればリタはさっきまでの調子に戻ってくれるような気がした。

そんな俺の気持ちが天に届いたのか、沈黙は長く続かない。


「着きました。ここがわたしの・・・・・・わたしとお姉ちゃんの家です」

「こ、こが・・・・・・」


 他の家と大して変わりないボロ家。

構造や材質自体はそうなのだが、しかしその大きさは他の住居の倍以上あるようだった。


「・・・・・・では、着いてきてください」

「あ、おう・・・・・・」


 リタが薄いドアを左手で押して開く。

中からは蛍光灯とも炎とも違う質感の光があふれてくる。

その謎の照明が照らすのは、やはり安っぽい金属の壁。


 リタに続いて、その部屋の中に踏み入った。

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