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ムーンライト・エンブレイス  作者: 空空 空
セカンドホームタウン
29/67

1-28

続きです。

 出迎えてくれる明かりは相変わらず淡白で、無機質。

何より光源が分からないのが不思議だ。

何故明るいのか、何が明るいのか、たぶん魔法に準ずる何かによるものなのだろうけど空間そのものが淡く明るかった。


 数日程度で部屋の様子が変わるだなんてことは当然無く、前来たときと同じ様子。

棚に並ぶ不思議な瓶や小道具が目を引く。


「着いてきてください」


 前回は入ってすぐのこの部屋で用事を済ませたが、今回は奥の方まで行くようだ。

リタに続いて暗がりの廊下に進むと、いくつかのドアが道沿いに並んでいるのが見える。

その向こうに人の気配はなく、だからその部屋の数の分だけ寂しげな印象をともなった。


「この部屋は・・・・・・」

「かつて先生たちが住んでいた部屋です。今では一番奥の二部屋・・・・・・わたしの部屋と、お姉ちゃんの部屋しか使われていません」

「そうか・・・・・・」


 ドアの数は全部で五つ、リタがナンバーナインなのを考えると・・・・・・部屋の数が足りない気がするが・・・・・・。


 そういえばリタの話では、先生を手にかけたのは三番目の生徒と四番目の生徒ということだし、一、二番目はそのときいったいどうしていたのだろう。

あるいは先生より早く亡くなったのかもしれない。


 一部屋当たりの大きさはそこまで広くないらしく、すぐに廊下の突き当たり、最奥の部屋の前までやって来る。

リタの話だと一個前の部屋に、確か・・・・・・リコ、だったかな・・・・・・彼女が居るはずなのだが、それらしい気配がない。


 リタが部屋の扉を開く。

入る前にその中を覗くと・・・・・・その、正直に言えば思ったより散らかっていた。


 部屋の三分の一くらいのスペースを占めるベッドに、積み重なった本。

入ってすぐの部屋と同じように小さな棚が置かれているが、そこにも様々な道具と本や、びっしり文字が敷き詰められた端の折れた紙が規則性なく並べ・・・・・・いや、詰め込まれていた。


「どうぞ、入ってください」

「お、おう・・・・・・」


 リタは先にその部屋に足を踏み入れて、すいすい進んでしまうが、この部屋に慣れていない俺はやや躊躇する。

足の踏み場がないというわけでもないが、温暖化にさらされた北極の如くだ。

地面に置いてあるものが本やらなんだか重要そうな紙やらだから下手に転んで何かを踏んづけてしまうのが恐ろしい。


 これ女の子の部屋だよな・・・・・・?と思いつつも、漫画とかでよく見る学者とかの部屋ってこんな感じだし、それを考えると魔法という学問の道に居るリタの部屋としては自然なことなのかもしれない。


 そろりそろりと隙間を縫って歩く。

とりあえず部屋の中央辺りまでは来られたので、そこで立ち止まった。


「あ、この部屋椅子無いんですよね。ベッドが椅子代わりなので・・・・・・そこに座ってください」


 椅子が無いというか、椅子を置くスペースがそもそも無いというか・・・・・・。

リタは俺にベッドに座るよう勧めた。


 いいのかな?とは思いつつも、本人からの許しは出ているので、そのベッドに腰掛ける。

リタも少し床に積もった本の上で手を迷わせて、そして一冊拾い上げて俺のすぐ隣に座った。

場所が狭いのもあって、普通に足が密着する距離感なので少しドギマギする。

触れた太ももは柔らかく、だけど太ももの名に反して肉が薄いので、その中の骨の硬さもたしかに伝わった。


 リタが自分の膝の上で、さっそく本を広げる。


「ちょっと待ってくださいね。出来るだけ大丈夫そうなページを探すので・・・・・・」


 そう言って、ペラペラと数ページずつ飛ばしてめくり始めた。

待っててくださいとは言われたが、普通に気になってしまいその中身に目を落とす。


 素早く切り替わっていくページには何かの図式や絵を交えて、ぎっしりと文字が敷き詰められていた。

その文字には見覚えがなく、そして当然読むことも出来ない。

ただ素早く切り替わるその速度に翻弄されるばかりだ。


 内心「読めないかぁ」と少し残念に思う。

単純に内容が気になるのと、この後の勉強を思ってのことだ。


「そうですね・・・・・・ここら辺なら・・・・・・」


 しばらくすると、リタさんが丁度良さそうなページを見つけて、紙をめくる手を止める。

そのページには三つの図式とその隙間を埋める文字の群れ。

パッと見で複雑な内容が語られているのがわかるようなページだ。


 しかし・・・・・・一足先に結果を知ってしまった俺からすれば、もはや内容は関係ない。

ならば、今のうちからその文字と言語についての考察というか、なんとなく予測をしてみようと思う。


 丁度半分くらいの位置で開かれた本を、リタが俺の膝の上に置く。

俺はそれを自分の手で持ち上げて、その中身に真剣に目を落とした。


 やはり目に入るのは見たことのない文字ばかりで、単語の切れ目すら分からない。

しかし、それでも“読もう”と目を走らせると・・・・・・。


「え、何これ・・・・・・気持ち悪い」

「・・・・・・? 何がですか?」


 少なくとも気持ち悪いという言葉が出てくるような場面でもないので、当然リタは怪訝な眼差しをする。

だが俺はもっと驚く。


 この状況をもっとも的確に表す文言を、俺はよく知っている。

幼い頃から何度も聞いてきた言葉だ。


 この未知の言葉を前にした俺の状況は、まさしく「読める、読めるぞ・・・・・・!」だった。


 読めないのに読める。

全然知らない文字で、知らない言葉なのに、読もうとすると自然と日本語で内容が頭に入ってくる。

目の前にある文字が日本語化するわけでもなく、対応する部分は依然分からないので、そのチグハグな感じが非常に気持ち悪い。


「・・・・・・ごめん、リタ。俺これ・・・・・・読めるわ」

「あぁ・・・・・・読めちゃいましたか・・・・・・」


 推測通り内容は複雑、少なくとも入門編ではないのは明らかだ。

書かれているのは、机上の空論というか、未だ実現していないけど理論上は可能なはず、という魔法についての考察。

難解には違いないが、たぶん結構内容も読めてしまっている。


「てか、リタ・・・・・・なんでこのページにしたの・・・・・・。なんか禁術とか書いてあるんだけど・・・・・・」

「あ、わわ・・・・・・! だめ! 禁止です!」


 俺の言葉に慌てて手のひらでそのページを隠す。


「ごめん、ごめん・・・・・・」


 俺は「見ていませんよー」と、目を閉じた状態で本を閉じてリタに引き渡した。


「はぁ・・・・・・。万が一読めてしまっても出来るだけ頭に入らないように難しいページにしましたが・・・・・・逆効果だったようです」

「いやいや、大丈夫だよ。とてもじゃないけど俺には使えなさそうだったし・・・・・・」


 というか誰にも使えてない魔法について書かれていたわけだけど。

見た感じ・・・・・・いわゆる重力に干渉する魔法だったようだけど、そこから更に光とかそういうのに派生していた。

なんというか、思ったより理系風味な内容かもしれない。


「はぁ・・・・・・」


 リタが再びため息をつく。


「これだから出来るだけこの方法は避けたかったんですよ・・・・・・」


 リタが立ち上がって、まるで隠すように棚の奥底に先程の本を押し込む。

その際に、棚から一枚の紙っぺらが滑り落ちた。


「あ・・・・・・と」


 ひらりと舞い落ちたそれを反射的に拾ってしまう。

それにリタも気づいて慌ててこちらを振り向いた。


「だ、大丈夫、大丈夫・・・・・・。なんか、ただの・・・・・・新聞?みたいだ・・・・・・」


 少なくとも魔法に関する学術書ではない。

さっきの本より隙間が多くて、見出し付近には一枚の写真が印刷されてる。

この世界もカメラで写真を撮るのだろうか。


「あ、それは・・・・・・」


 リタの表情から、先程のような慌てた様子は消え去るが、今度は少ししんみりしたような顔色に変わった。


 本の隠匿も中途半端に、俺の隣に戻って来る。

そんなだから散らかるのだ。


「あ、ごめん。返すよ・・・・・・」

「いえ、すみません」


 たぶんリタにとっては何か意味のあるものなのは間違いないし、内容にもあまり目を通さずに差し出した。


 リタはその一面の記事を眺めて、目を細める。


「これは、少し前に旅商人さんから買ったものでして・・・・・・その、この写真に写っているのは、ナンバーセブン、わたしとお姉ちゃんの先輩です」


 その中身に触れつつ、もう一度その記事を見せてくれる。

写真に人など写っていたっけと思って覗くが、やはりその写真は人を記録したものではなかった。


 こことは違う、ちゃんとした建物が並ぶ街の写真。

だが至るところの外壁は崩れ、そしてどこかからは火が上がっているらしいのが見えた。


 そして写真の主人公、その中央に写るのは・・・・・・巨大な龍。

鳥類を思わせる翼を地に垂らし、大きな噴水の天辺でその背中を剣に貫かれている。


「これ、は・・・・・・」

「セブンの・・・・・・というよりは、王都で猛威を奮った邪龍に、英雄がトドメを刺した、というような記事です」

「・・・・・・」

「わたしたちは、この記事で血は繋がっていませんが親しい姉の死を知りました」

「そっか・・・・・・」


 これが、生徒の行き着く姿なのだと、思い知る。

結末をこうも非情な形で見せられると、やはり胸が苦しかった。

リタたちから見たらどれほどか、それはきっと俺が語るべきではないだろう。


「すみません。偶然とは言え目に触れたので、話しておきたくて・・・・・・」

「いや、ごめん・・・・・・。ありがとう」


 決して目を背けることの出来ない真実。

それが、ここにはあるのだった。

続きます。

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