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続きです。
語るべき言葉を見つけられないまま、気づけばそれなりの時間が経っていた。
横に並んでの入浴が、二重に気まずい。
「あ・・・・・・」
しかし、その気まずさに囚われてリサが待っているのを忘れていたことに気がついた。
入浴としては十分すぎる時間を過ごした。
というかそこそこ長話だったのでのぼせ気味ですらある。
だが・・・・・・。
真面目な話の後なのもあって、なんとなく出て行きづらいのだ。
流石にこの空気感で股間を隠してふらふら立ち去るのは躊躇われる。
とはいえそうも言っていられないのが現状か・・・・・・。
仕方なく、いっそのこと男らしく立ち上がる。
もちろんリタに粗末なものを見せるわけにはいかないのでそこら辺に関しては徹底するが。
湯船から上がり、そそくさと脱衣室に向かう。
しかしそれを見て、リタも俺の後を追って来た。
何でだよ・・・・・・!
脱衣室に入る直前で、ちらりと背後を見る。
リタの表情に特別考えがある風でもなく、ただ俺が出たから自分も出ようと、それだけみたいだった。
しかし、リタが先ほどまでの真面目な雰囲気をさほど引きずっていないようなので、それでやっとしょうもない話を切り出す事が出来た。
「あの、リタさん・・・・・・」
妙にかしこまって敬称をつけてしまう。
いや、悪いことでもないのだろうけど・・・・・・ただ、なんとなく俺の小物っぽさが強調されてしまう気がした。
「はい・・・・・・?」
対するリタは堂々と、恥じる様子もなく仁王立ちで首を傾げる。
「その・・・・・・少しは隠してほしいっていうか・・・・・・目のやり場に困るっていうか・・・・・・」
さっきから、ずっと。
リタは不思議そうにしながら、まず自らの右腕に視線を落とし、そのまま自分の体に目を這わせた。
そして、やっと何かに気づく。
「え・・・・・・もしかして、わたしが来てからずっと微妙に挙動不審だったのって・・・・・・わたしが裸だったからですか!?」
「いや、それは・・・・・・まぁ、はい・・・・・・」
浴槽からはもう出ているというのに、このシチュエーションのせいで体温は下がらない。
リタは俺の言葉が本当に予想外だったらしく、唖然としている。
しかし後から状況を照らし合わせた結果、その真実に納得したようでその肩から力が抜けた。
「どうりで少し会話のテンポが妙だと・・・・・・。そんなこと気にしてたんですか・・・・・・」
「そんなことって言葉で片付けちゃいかんでしょ」
「その・・・・・・結構ウブなんですね」
「う・・・・・・」
なんだか少し舐められた気がして、言い返そうとする。
だがその言葉が咄嗟に出てこない時点で、リタの評価が真っ当なものであるというのは明らかだった。
「いや、まぁ・・・・・・そういう気持ちで見られてると思うとこっちもそれなりに恥ずかしいですが・・・・・・」
言いながらやっと体を隠すようにしてくれる。
その表情は特段照れているという様子でもなく、ただ風呂上がりだからやや頬が紅潮している程度だった。
敗北感・・・・・・とは違うか。
しかし、自分だけ恥を晒したような気持ちになる。
またさっきとは質の違う気まずさのなか、脱衣室に逃げ込んだ。
まぁ、すぐリタも続くのだが・・・・・・。
脱衣室には着替えと・・・・・・それからタオルだろうか、ともかく体を拭くための布が用意されていた。
どちらも二人分。
ダメとは思いつつも、若干リタの分の着替えに視線が吸い寄せられてしまう。
しかし丁寧に整えられたそれの一番上に、いつものあのローブがあるので特に見えちゃマズそうなものは見えなかった。
別に残念ではない。
リタの視線を時おり感じながら、普段の四倍くらいの速度で着替えを済ませる。
用意された着替えは、最初に身に纏っていたものより明らかに質がよくなかったが、特別皮膚が弱かったりもしないので問題ないだろう。
リタはというと、髪をタオルで纏めて、既に服もほとんど着終わっていた。
ここまで来たら別にもうなんともないので、なんとなく完全に着替え終わるのを待つ。
ローブはまだ暑いのか、着ることはせずに脇に抱えた。
脱衣室の出口の戸を開けて、リタに先に出るように促す。
そのリタに続いて、俺も外に出た。
建物の入り口の方まで戻ると、簡素な椅子に座って眠たそうにしているフォスタが居るのが見える。
さらに、やや長めの待機時間に耐えかねたのか、リサがウロウロしているのも見えた。
リサは出てきた俺たちを見つけると、すぐにこちらに声をかけた。
俺たちの間に微妙な距離感があるのを見て、少し残念そうな顔をしている。
「あ、いや・・・・・・これは、その・・・・・・ちょっと別の意味で若干気まずくなってまして・・・・・・主に俺が・・・・・・」
「は? 別の意味・・・・・・?」
俺の言葉に、ひとまずリサの表情から影が消える。
そこに具体的な事情を付けたそうか考えていると、先にリタが口を開いた。
「その・・・・・・マナトが、わたしの裸に緊張しちゃったみたいで・・・・・・。本題の方は・・・・・・その、裸のインパクトに負けたみたいです・・・・・・」
その言葉を聞いたリサが、俺に「マジかお前・・・・・・」の視線を向ける。
あいにくマジなのでため息を吐くと、リサの表情はわかりやすく晴れていった。
「く、はは・・・・・・そうか! そうだったか! 全く・・・・・・お前って結構、なんだ・・・・・・スゲーやつなんだな」
「え、俺が・・・・・・すか」
「そうに決まってるだろ! だってお前・・・・・・いや、関係ない。とにかく、お前がそういう奴で良かったよ」
リサの表情に滲むのは、喜びと安堵の色。
まるでリタの父親なんじゃないかってくらい、この結果を喜んでいた。
「さて、重要な問題も片付いたことだし・・・・・・次は俺の番だな」
心配していたことが円満に解決したリサは、意気揚々と浴場へ向かう。
俺たちに背中を向けたまま「通りに出てみるといい。今頃、鳥木も料理になってるんじゃないか」と言い残していった。
続きます。