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ムーンライト・エンブレイス  作者: 空空 空
セカンドホームタウン
19/67

1-18

続きです。

 頬を撫でる風を感じる。

様々な感覚が希薄で、まるで魂だけで漂っているかのようだ。


 草が揺れる。

瞼の上を雲の影がゆったり流れる。

降り注ぐ陽光の穏やかな熱を認識してから・・・・・・。

俺の意識は浮上した。


「っは・・・・・・!」


 瞬間、一瞬で現実に引き戻される。

急いで上体を起こし、周囲を見回す。

だが、そこにはもう注意するべき危険は既に無かった。

太陽の傾きから、自分が思っていたよりずっと長い時間が流れていたことが分かる。


 俺が体を起こしたのに気づいて、リタの足音がやって来た。


「体はもう大丈夫ですか? 今日二度目ですけど・・・・・・」

「あ、すまない・・・・・・」


 またリタに魔法を使わせてしまった。

リサに言われたこと、もしかして大体破ってるんじゃないか?


「あ、そっか・・・・・・」


 気になるのはリサだ。

明らかに俺よりダメージを負っていたように思うし、あの巨鳥との決着時点で既に意識がなかったのだ。

もしかしたら、間に合わなかったかもしれない。


 俺の表情が曇るのを見て、リタはすぐに察する。


「大丈夫ですよ。リサさんならマナトより先に目覚めて、ビカクの処理をしてます。まぁでも・・・・・・」

「でも・・・・・・?」

「それはリサさんから直接確認してください」


 体に一切痛みが残っていないのを確認しつつ、立ち上がる。

肉体的な疲労か、あるいは精神的なものかは分からないが多少ふらつく。

リタが慌てて俺の肩を支え、俺もその厚意に甘えた。


 立ち上がって視点が高くなると、すぐにリサの居場所が分かる。

その側の台車には、解体されて死体から一歩食肉に近づいたビカクが乗せられていた。


「大丈夫ですか?」

「ああ。ありがとう」


 リタの確認を受け、その支えから離れる。

一度立って仕舞えばなんてことはなかった。

ある種の立ちくらみ程度のものだったらしい。


 リサを救えたのが嬉しくて、黙々と作業をするその背中に駆け寄る。


「よかった・・・・・・無事で!」

「はは、まさかお前さんに助けられるとはね。こればっかりは本気で説教してやるつもりだったが・・・・・・」

「う・・・・・・」

「・・・・・・けど俺が言えたことじゃないな。ありがとう、改めて・・・・・・助かったぜ」


 リサが振り向いて親指を立てる。

その元気そうな姿を見て、初めて深く安堵できた。


「だがなぁ・・・・・・」


 しかしリサは難しそうにして顔をしかめる。

指先で顎を撫でて、少し考え込むようにしていた。


「なにか・・・・・・問題が・・・・・・?」

「いや、な・・・・・・? 魔法とて万能じゃない、少し治せない傷を負ってしまって・・・・・・。それが結構狩人としては致命的なんだわ」

「え・・・・・・? それは・・・・・・?」

「右目を失明した。正直どれくらい狩りに影響が出るか分からない」


 リザードマンの顔は、瞳の締める割合が人の顔より少ないので一目でそれに気づけない。

しかし、言われて注視すれば、濁り光を失っているのは明らかだった。


「そ、それさ・・・・・・すみません」

「いやいや! お前が責任を感じるこたないよ! 今だから言えるが、お前が居なかったら確実に助からなかった命だ。それに・・・・・・狩りなら、もうリタに任せられそうだったしな」


 リサの表情が過去を懐かしむように変わる。

リサは、ずっとこうしてセカンドを支え続けて来たのだ。


「ヒトにゃ分かりづらいかもしれないけどな、俺も若くはない。まぁもう潮時ってことだ」

「・・・・・・」


 そのどこか寂しそうな表情に、俺は何も言えなくなる。

もしも・・・・・・と、そんな無意味な思考が渦巻くばかりだ。


 リサはそんな俺を元気付けるように笑う。


「まぁまぁ、もういいんだ。それよかもう昼もとっくに回っちまった。疲れただろ? ちっとばかし肉をここで食っちまおう! な? 持ち帰ったのは大体干しちまうから、贅沢な食い方出来るのは今日の内だけだ」


 ああ、もう・・・・・・なんで俺が慰められてんだか・・・・・・。

そんなふうにされたら余計に悔しくなって・・・・・・。


 リサの優しさに涙すら流しそうになる。

しかし流石に俺がここで泣き出しちゃダサいので、鼻を啜って押しとどめた。


「はい、食いましょう・・・・・・是非!」


 リサの言葉に笑って答える。

丁度、退屈になったリタもこちらに向かって来ていたときだった。

続きます。

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