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続きです。
まだ距離があって、その詳細はっきりと分からない。
数は5、6匹程か・・・・・・あるいはもう少し居そうだ。
「えっと・・・・・・じゃあ作戦かなんかは?」
囮でもなんでも引き受ける覚悟で二人に尋ねる。
それに答えるのはリサだった。
「作戦って程のものは無いよ。狩れるだけ狩るだけだ」
「え、えぇ・・・・・・」
ここでまさかのノープラン。
いや・・・・・・所詮狩りと言ってしまえばそうなのだろうが、それは二人にとっての話なわけで。
初心者の俺からすれば、なんか役割というか指針が欲しかった。
だがまぁ・・・・・・。
「成せばなる、はず・・・・・・!」
胸の前に手を構えて、群れを注視する。
リタたちも同じように、草の葉に姿を隠すようにして身構えていた。
「しかし・・・・・・少し変だな」
「そう・・・・・・ですね」
あくまで群れを視線で追ったまま、二人が言葉を交わす。
「変って・・・・・・?」
「いえ・・・・・・あの群れ、相当な速度で移動しているんですけど、いくら気性が荒いとはいえワケもなくああなるとは思えないんですよね」
リタの言葉にリサも頷く。
間にある距離の所為で分かりづらいが、確かに走っているらしいことは確かだった。
「何かから・・・・・・逃げてる?」
動物が走る理由なんてそれこそ何かを追い回しているか逃げているか、そのくらいなものだろう。
「この辺りに大型の肉食獣は・・・・・・どうだろう?」
しばらくリサが考え込むが、結局思い当たる節はないようで・・・・・・。
「じゃ、じゃあ・・・・・・どうする?」
ここは大人しく二人に判断を仰ぐ。
リサは数秒の観察の後、すぐにそれに答えた。
「何かから逃げているとして・・・・・・しかし近くに他の動物は見えない。となるともう逃げ果せた後かも知れない。結局、やることは変わらないはずだ」
温和そうなリサの表情が引き締まる。
先程までトカゲのお兄さんくらいの感覚で話していたが、今の表情はすっかり獰猛な捕食者のものだ。
「じゃあ・・・・・・呼ぶ、ぞ?」
その手を矢筒に伸ばしながら、リサが呟く。
「呼ぶ・・・・・・?」
リタは俺の疑問に「すぐ分かりますよ」と言って、リサの言葉に対して頷いた。
リサは弓を手に取り、とうとうその矢をつがえる。
そして弓を引き絞った。
決して太いとは言えない腕は、しかし人とは比べ物にならない力を有しているようでその状態を容易く保持している。
鋭い目つきで群れを見つめ、そして・・・・・・。
「・・・・・・っ!」
射った。
狙いを定めるのに1秒もかからない。
放たれた矢は空を貫き、草葉をかき分け、決して近くない群れへと突き進む。
まるで吸い込まれるかのように、草原を駆け抜ける獣の体に突き刺さる。
「これが・・・・・・」
これが狩人の腕前か。
その鮮やかさに感嘆する。
俺だったら銃を渡されても弾丸を掠らせることも叶わないだろう。
矢で射られて尚、獣は歩みを止めない。
いや、それどころか。
「こっちに・・・・・・向かってくる?」
遠くの黒色が大きくなる。
矢をその体に突き刺したまま、こちらに突き進んでくる。
先頭になったそいつを追うように、群れ全体の進路がこっちに変わった。
「言ったでしょ、気性が荒いって。呼ぶっていうのはこういうことです」
人差し指をくるくる回しながら、リタが少し得意げに語る。
そしてそれだけ言うと、すぐさま駆け出した。
「おわっ・・・・・・!?」
まずその速度に驚く。
一歩目から最高速で、その速さは明らかにただの人間のものじゃない。
動きを目で追いきれないが、倒れた草がその進路だけは可視化していた。
「あれ・・・・・・魔法・・・・・・?」
「こんなことでリタは魔法を使わないよ」
リサは一瞬狩人モードを解除して笑う。
笑った後に、少し俯くようにして呟いた。
「そう・・・・・・あれは魔法なんかじゃないんだ」
「じゃあ、なんであんな芸当・・・・・・」
これが異世界人のスタンダードなのかと面食らう。
リサはそれに明確に答えることはなかった。
「本人から聞いてないなら、俺の口からは言えないよ。さぁ、キミもしっかり働いてくれ。飛んでくる矢に気をつけて!」
冗談めかして、爬虫類の手のひらで俺の背を叩く。
そうしている間にも、獣との距離は縮まり、リタはというと既に群れと接触したようだった。
リサの発破を受けて、いよいよ俺も行動に移す時が来たのだと悟る。
何にしてもこんな体験は初めて。
だからこそ。
「やってやろうじゃんか!」
まるで何かのアトラクションに臨むように、意気揚々と駆け出した。
続きます。