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続きです。
リサの後ろを並んで歩きながら、リタに尋ねる。
「ところで・・・・・・狩りって一体どんな動物を狩るんだ?」
「ああ、それはですね・・・・・・」
言いかけてリタが止まる。
そして真っ当な疑問をぶつけてきた。
「別の世界から来たマナトに伝わるんですかね? 説明したとて」
「あ、あぁ・・・・・・そうさなぁ・・・・・・」
言われて俺も同じ疑問に囚われる。
今会話が出来ている時点で言語の壁は恐らく神様の手によって取り除かれているのだろうが、俺の世界に存在しない概念の固有名詞はスーパー自動翻訳を通したところで該当する表現がないだろう。
あまりにも正体不明な感じのものだったら嫌だなと内心少し臆する。
場合によっては狩るのも食うのも躊躇うような癖強ビジュアルかもしれない。
勝手に自分で想像して顔を顰める。
「あの、なんか・・・・・・特徴?とか教えてくれない?」
「そうですね・・・・・・」
リタは俺の要望にすぐさま応じ、適切な言葉を探し出す。
「四足歩行で・・・・・・黒い体毛。ツノ・・・・・・ツノがこう、こうやって生えてて・・・・・・」
身振りを交えての説明がややシュールで思わず笑いそうになるのを堪える。
しかし堪えきれていなかったのか、リタは俺の顔を見て少し恥ずかしそうにしてジェスチャーはやめてしまった。
「と、とにかく! 大型の哺乳類です!」
と、それだけ言い切って説明を閉じる。
まぁあまりトンチキな見た目ではないようで安心だ。
聞いた感じじゃほとんど牛と変わらない、いや・・・・・・ツノの並び的にはサイだろうか?
「あとは・・・・・・それなりに気性が荒いから気をつけな。それと体毛と皮膚の硬さだな。見たところ手ぶらだが・・・・・・刃物を使うつもりなら切るんじゃなくて刺しな」
俺たちの話を聞いていたリサが、狩人の視点から情報を付け足す。
まぁ能力の前にはあまり差異はないだろうけど、そのアドバイスはありがたい。
そういえばと思ってリサの姿を確認する。
リサは腰に刃渡り20センチ程度の刃物を下げ、背中には矢筒。
空と思っていた台車には大型の弓が乗せられていた。
これがリサの装備なのだろう。
恐らくリタが魔法でリサを支援して狩りを行う、という形か。
それでいくと可能性としては俺は囮役とかになりそうで少し恐い。
注意をリサから道に戻す。
道とは言ったが、当然整備されているわけではなくただ繰り返し通ったであろう台車の跡が刻まれているだけだ。
最初よりかは草の背が高くなってきたが、まだ大型の生物の気配はない。
というかサイも牛も野生の姿なんて見たことがないので、いまいちこんな草原に普通に居る様が想像出来ない。
「なぁリタ? もうここら辺にも居るのか?」
「・・・・・・そうですね。姿は見えないですけど、居ても不思議じゃないですよ」
「そっか」
居るのか・・・・・・。
あんまりいきなり出てこられたりしたら少しパニックになりそうだ。
けれど・・・・・・まぁ見晴らしはいいのであまりにも唐突にということはないだろう。
まだ遭遇には時間がかかりそうなので、ついでに気になっていたことをリタに尋ねる。
「なぁ? 今日の欠員の二人って・・・・・・誰なの? 俺会ったことある?」
確か今日は木こりに出ているんだったか・・・・・・。
とにかくそういう力仕事が得意で、そしてやや制御不能。
狂戦士タイプというか、脳筋というか、いわばそんな感じだろうか。
「ああ・・・・・・あの二人、ですか・・・・・・」
答えるリタはやはり苦笑い。
やっぱり関わると余計に体力を消耗するようなタイプで間違いないようだ。
となると・・・・・・たぶん俺はまだ会ったことがないのだろう。
「あの二人・・・・・・ウルルとフルルって言うんですけど、まぁちょっと・・・・・・ね。マナトは会ったことないはずですよ」
予想通りだ。
やはりまだ会ったことのない人物であるらしい。
しかし名前の雰囲気からして・・・・・・いや、名前でその人となりを把握出来るわけないのだが、どうしても・・・・・・。
「なぁ? その二人って・・・・・・」
言いかけたところで台車が止まる。
「おわっ・・・・・・!?」
突然止まった台車にぶつかりそうになり、思わず声を上げるが、すかさずその口をリタが塞ぐ。
そして自らがしゃがむのと一緒に俺も中腰にさせられた。
前方で、同じように姿勢を低くしているリサがこちらを向いて口を開く。
「二人とも・・・・・・準備は?」
「え・・・・・・?」
リタに覆われた口から、疑問符がこぼれる。
リサはそれを見て、口の前に人差し指を立ててから静かに告げた。
「居た。それもそこそこ大きい群れだ」
その言葉を受けて、鼓動が少し早まるのを感じる。
リタは俺が状況を理解したのを見て、手をどけた。
静かに、ゆっくりと、視界で揺れる草をかき分ける。
そこから覗ける景色には、草の海を割いて駆ける黒色の何かがはっきり見えた。
続きます。