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続きです。
「いや・・・・・・急に済まない。家に尋ねたんだが居なくてね」
「いえ、こちらこそすみません。それで・・・・・・リサさんがわたしに用ってことは・・・・・・まぁそういうことですよね?」
「ああ、そういうことだ」
二人にとってはもう慣れたやりとりのようだが、昨日この世界に来たばかりの俺には当然なんのことか分からない。
新たな登場人物に困惑気味な様子に気づいたのか、宿屋のおじさんが俺に向かって手招きする。
それに従って会話するリタたちから離れると、おじさんはすぐに説明してくれた。
「あいつはリサ。見ての通りリザードマンだ。なんでも故郷では腕のいい狩人だったらしくてな。実のところこの街の食料はあいつらに頼り切りなんだ」
「狩人?」
「ああ。で、その手伝いをリタに頼んでるってわけさ」
「なるほど・・・・・・」
つまり二人の言う「そういうこと」というのは、狩りに出ることを意味するわけだ。
そしてその食料でここの人たちは食い繋いでいる、と・・・・・・。
「なるほど・・・・・・」
つまり、これはリタから貰ったお金でなく俺自身の貢献という形で代金を支払う手段になりうる、ということだ。
それがうまくいきそうか確認するべく、おじさんに耳打ちする。
「すみません・・・・・・その狩ってきた食料ってあのリサって人がみなさんに売ってるんですか?」
「ん? いや、採れたら採れた分だけ分配してるぞ。親切な奴だし、そうしなきゃ生きていけないやつばっかだって分かってるからな。まぁ・・・・・・だから、苦しいときゃみんな苦しくなるがな」
「なるほど・・・・・・」
つまり狩りについていってもお金にはならないと。
ならば確認するべきは・・・・・・。
「その・・・・・・もし俺が狩りを手伝って、ある程度役に立てたら、それって代金の支払いの代わりになりますかね?」
「代金って・・・・・・邪神の毒林檎のかい?」
「はい。俺自身の労働を対価に支払えるなら、リタのお金じゃなくてちゃんと俺が代金分払えるじゃないですか」
これでお互いに目下の問題を解決できるはずだ。
俺が食った分を俺が支払う。
この一本筋がちゃんと通る。
「なるほどな。確かにそりゃいい方法だ。しかし兄ちゃん・・・・・・その、お世辞にもいい体つきとは言えないんだが・・・・・・」
「あ、それについては・・・・・・」
この世界に呼び出されてから、結局一度も力を使っていない。
ここでそろそろ感触を確かめておくのもいいだろう。
俺の貧相な体を見て難しい表情をするおじさんに自信満々に言い放つ。
「それについては、問題ないです」
おじさんの表情から困惑の色は消えない。
が、絶対に大丈夫だという自信がこちらにはある。
その確信を胸に、軽く礼を言ってその場を離れた。
そしてもう一度リサたちの方へ向かう。
「なぁ、二人とも? その狩り俺にも手伝わせてくれないか?」
「え? あなたがですか?」
リタが寄せるのはおじさんと同種の困惑。
リサの視線からは「そもそも誰だお前?」が滲んでいた。
リサが困惑しつつも、その口を開く。
「いや・・・・・・まぁ人手が多いに越したことはないんだが・・・・・・」
いい人っぽいのに困らせてしまって、それは少し申し訳ないのだが・・・・・・しかし実力で証明してみせますよと親指を立てる。
リタとリサは二人して顔を見合わせて、そして・・・・・・とりあえずは俺の要望は受け入れてくれそうだった。
続きます。