プロローグ
なにかコンテストに参加したくて書いてみたお話になります。
ストーリー進展の無い「死に回」を避けたいので更新頻度は低いですが、お付き合いいただけると幸いです。
15年間、何不自由なく生きてきた。
戦争は教科書の中の出来事で、貧困は地球の裏側の話だった。
自分のことを特別幸運とは思わずとも、絶対に不幸だとは思わない。
三食のメシと明日が当たり前にある毎日。
全部当たり前で、だからそれが失われるなんてことはないと・・・・・・。
「え、俺・・・・・・死んだ?」
思っていた。
目の前に広がる景色は、どこまでも続く白。
地獄にしては明るすぎて、天国にしては無機質すぎる。
地面の有無さえ分からない一面の白。
俺はそこに立っているのか、それとも浮いているのか・・・・・・。
体の感覚は希薄で、今自分がどんな姿勢をしているのかも分からない。
「あ、夢・・・・・・?」
「夢じゃないよ」
現実逃避に近い疑念をタイムラグ無しに蹴り飛ばされる。
姿こそ見えないが、その柔らかい声から女性のものであることは確かだった。
「キミは、召喚されました!」
ぱちぱちぱち〜、と小さな声がそれに続く。
「は?」
「だから・・・・・・キミは召喚されたの!」
「え、ここに・・・・・・?」
「ちがーう、別の世界。いわゆる・・・・・・異世界転生ってやつ」
異世界転生。
興味の有無に関わらず、誰しも一度は聞いたことのある言葉。
ということはやっぱり・・・・・・。
「俺は死んだ、のか?」
「まぁね。けど気にしてもしょうがない! 今のキミには、まだ次がある」
死んだ・・・・・・のか。
少し残念に思う。
幸い死に至るまでの苦痛は記憶にさっぱり無いが、だから「いっか」とはならない。
しかし、同時に好都合なようにも感じる。
図らずとも、自由が手に入るのだ。
誰も俺を知らない場所で、誰に何かを言われるわけでもなく生きていける。
この誰だか分からない声が言うように、俺にはまだチャンスがあるのだ。
「ところで・・・・・・あなたは?」
自分の死について整理も出来たし、今度は今ある疑問を尋ねる。
「私は世界と世界の中継地点そのもの。召喚された人は、みんな私を経由するの。キミたちからすれば・・・・・・神様みたいなものだね」
語る声色は誇らしげ。
なんか・・・・・・威厳がないというか、神様っぽくない神様だ。
「さて、それでね? キミはこうして異世界に行かなければならないわけだけど、召喚した人を失望させたくはないでしょ?」
「それは、まぁ・・・・・・」
「だからね、私は私に許された最大限の干渉をするの! あなたに、私の力の一部を託すよ。どの世界においても、破格の力だから・・・・・・役立てて!」
「え・・・・・・」
別に断るつもりもないが、いきなりのことに困惑する。
何か不思議な力が注がれるのを感じる。
しかし得体の知れないそれを体が拒絶することはなかった。
そればかりか、その力の性質、使い方を何を言われるでもなく理解していく。
まだ一度も使っていないそれを、指を曲げるのと同じくらい当たり前のものとして体が覚えていく。
「分かりやすいように、私の権能の一部を武器として形作ったから」
「あ、ありがとう・・・・・・」
何から何まで、至れり尽せりだ。
与えられた力は単純ながら、純粋に強力。
応用も効きそうだ。
これで唯一の懸念的が解決される。
見知らぬ世界で自由に生きていく力を手に入れたのだ。
「喚び出されたわけだから、役目はあると思うけど・・・・・・まぁそう気負わないで。役目が終われば帰ることになるし、キミがそれを望まないなら別に役目なんてほっぽり出してもいい」
「え、いいのか?」
実は元より召喚者の言うことなんて聞くつもりはなかったのだけど、まさか神様にそれを認められるとは思わなかった。
「私はさ、やっぱり関わった人はどこかで幸せでいてほしいって思うんだよ。役目のために呼ばれたからって、それに命をかけて欲しくない。自分のために生きて」
神様の言葉が、俺の胸に深々と突き刺さる。
「自分のために生きる」それは俺が何よりも望んでいたものだった。
ずっと、誰かにそう許してもらいたかった。
自分のために生きることを。
「だから・・・・・・」
神様の穏やかな声と共に、ただでさえ真っ白な視界が更に白み始める。
おそらく、転生が始まるのだろう。
どんな世界が待ち受けているのか分からない。
けれども俺は期待でいっぱいだ。
神様の声は続く。
「だから、キミは死なないでね」
「え・・・・・・?」
既に神様との接続が切れたのか、俺の驚きは神様に届かない。
“キミは”?
つまりそれって・・・・・・。
あの神様は、自分が送り出した者の死を見てきた?
だけど少し納得もする。
通りでサポートが手厚いわけだ。
ならば。
せっかく手にした自由、そうやすやすと手放してなるものか。
俺は生きる。
大魔王だか邪神だか相手は分からないが・・・・・・。
俺は戦わない。
英雄にならない、成り上がらない、そもそもパーティーを組まないから追放されない。
自由を謳歌するスローライフ路線を我が道とし、新たな世界で目を開いた。
お読みいただき、ありがとうございます。
まだ何も始まっていませんが、ここから面白くしていけたらと思いますので、どうかよろしくお願いします。