俺が入院しているスキに俺の実家がRPGの舞台になっていた件について
ゼトの日誌
『〇月×日――。勇者タクミの斬撃で命を落とした筈の私だったが、どの様な因果か、再びこの地で生を授かる事となった。ひとまず、使えそうな剣と鎧を見つける事としよう。〇月〇日――、生を授かる事となった理由が分かった。人々の負の感情――、恨みつらみ、憎悪、嫉み等の感情が、この地を覆った為、その負のエネルギーと私の生命の核が反応し、私が蘇ったのだ』
草原の日誌
『私は無敵だった。この世界で私と互角以上に戦える者はいないと思っていた――。そう、奴が現れるまでは――。私がこの世界で生を授かった時には、既に私は成人となっていた。身に付けていた物は古ぼけた布切れ一枚だったが、私の目の前には剣に盾、甲冑が無造作に置いてあったのだ。その剣や盾、甲冑を物珍しそうに眺めていると、黒装束を身にまとった集団が、ぞろぞろと現れてきた……』
森の日誌
『その集団は、黒い杖を持ち、どこの世界のモノか分からない言語を使い、それぞれ会話していた。その黒装束を身にまとった集団を黒魔術と呼ぶこととする。私が生を授かった場所、そこは痛いほどに白い白い光で満ちた、8つの鏡が合わせ鏡に並べてある空間だった。黒魔術氏がその8つの鏡の前に立ち杖を掲げた。そして今度は私の耳で私の脳ではっきりと理解できる言語で言うのだった。“冥界の王よ、よくぞ舞い降りでくれた”』
沼の表紙
神殿の日誌
『黒魔術師達の杖の先には、鋭利な刃があり、その先端には干からびたカエルの死体がひらひらと滑稽に踊っていた。知識を誰かから学んだ訳でもない私だったが、自ら理解できた。
“私はこの8体のカエルを贄にしてこの世に生まれたのだ。いや、目に見えたこれ等の他にも犠牲になった生き物がいたのかも知れないが”
私は黒魔術師達に問う。
“何故私の様な者を産み落とした?”
黒魔術師達は暗く、無機質且つ無表情な顔で、私に微笑みかけた。
“この世に混沌をもたらすためであります”
それから私は各地に点在する村々を襲った。剣や盾、甲冑を身に纏い、黒馬を従えて剣を振るった。陸という陸を走り各地に魔力を放って魔物を生んだ。火山道にも立ち寄った。そこで後の右腕となる、ルシファと出会った。ルシファとは即座に結託し、共に世に混沌をもたらさんことを誓った』
砂漠の日誌
『私は自分の住まいとなる城を建てた。争いの中で分かった事がある。人類の敵は人類。黒魔術師達も元は人間だったらしい。恨み、つらみ、僻み、嫉みなどの負の感情から、心が蝕まれ暗黒面に落ち、人間から黒魔術師になったらしい。城を構えたところ、様々な地方から旅人が私を討とうと集まってきた。だが、相手になる者は誰一人としていなかった。そう、あの日までは……』
市街地の日誌
『遂にその時は来てしまった。“あの日”が来たのである。あの日、ヤツが現れた。その人物が勇者タクミである』『あの日、勇者タクミが現れるまで、私に挑む者は赤子の手をひねる様に私に倒され、毎日の様に死体の山が築き上げられるだけだった。しかし、タクミだけは違った。私の攻撃を、見事に耐え抜いたのだ。私は問うた。「貴様、何者だ?」するとタクミはにやりと笑い、叫んだのだ。「俺は勇者タクミ!! ゼト! お前を倒しに来た!!」ヤツは光の剣一つで、私に挑んできたのだ』
都の日誌
『勇者タクミ――、ヤツは極寒の村で暮らし、農作物を育てていたそうな。ある日、私が生んだ魔物によって家族の命を奪われ、復讐に燃え、私を倒しに来たらしい。農作業で鍛えた足腰と腕力を持って、今までの挑戦者とは比べ物にならないくらいのスピードで、私に斬りかかってきた。まずヤツは私の右足、次いで左足に斬撃を与えた』
火山の日誌
『足への斬撃は鋭く、立つことができなくなっていた。しかし私は諦めない。簡単に倒されるかと、意気込み上半身だけで槍を使い、タクミを弾き飛ばした。ダメージを与えられたかと、少々愉悦に浸っていると、タクミは光の剣で攻撃魔法を使ってきた。左腕、右腕の順に光属性の魔法で攻撃してきたのだ。遂には私は両腕を失い、槍も斧も剣すらも装備できなくなった。そして――、勇者タクミは必殺の抜刀術で頭部を切り抜いてきた。そうして、私は絶命した。しかし、今は五体満足で息をしている。この国の人間たちや、前に話した黒魔術師達による負のエネルギーを受け、復活したのだ。この日誌は私自身の弱点を書いてしまった為、誰にも渡さないよう、バラバラに破いて、各地に投げ捨てるとしよう』




