ケーキを触るみたいに
揺れる車の中で、じんわり痛むお腹を抑えて前に座る父と母の声に耳を傾けた。
「ねぇ、お母さんチーズケーキ買ったのよ」
「……うん」
「帰ったら食べる?」
「……うん」
「あら、ふふ、あなた聞いた?」
「ああ」
「お腹はもう痛くないのかしら、ふふ」
母はおかしそうに笑っていたから私は痛いんだよ、本当なんだよとその言葉を否定しなかった。
その内黙ってしまった私を眠ったのだと思ったのだろう、二人は私に話しかけなかった。
お腹は痛いけれど、チーズケーキを食べたかったのも本当で、なにより仮病を疑っていても私を叱らなかった二人の態度が嬉しかった。
そのまま私は車に揺られて、短い家路の間ぎゅっと痛みと嬉しさを抱きしめて体を丸めた。