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英雄之仮面 溶炎の隷

かつてルアフ国…いや、スラフ州は破滅の危機に瀕していた。それは、テオスという悪の秘密結社の一人である黒崎(くろざき) 黎兎(れいと)が……いや、正確には彼の精神に寄生した生命体、ルーグの企みによるものだ。

奴は一体どのような目的で暗躍していたのか、その詳細を明らかにすることなく、正義のヒーローであるジクティアたち『ガーディアンズ』たちによって倒され。

あれから8年が経過している街は復興され、今日もたくさんの人たちが平和に暮らしていた。

そう、2年前のあの日、人知れず事件が起きていたことを知らずに、皆は平和に暮らしているのだ。





色とりどりの花が並べられている店の中で、なにやら慎重にものも物色している男がいる。

少し強面で、筋肉がしまっており、茶色で少々うねりのある特徴的な髪を、後ろにまとめて縛られている。

彼の名は、信藤(しんどう) 和登(かずと)。スラフ州を救ったガーディアンズの一人だ。“レイシス”というコードネームで呼ばれていた。

戦いが終わってからは実家の農場を継ぎ、野菜ブランドの“(さかん)”を守っている。

今の彼の目の下には絆創膏が貼られているが、それは戦いで負ったものではなく、農作業中にドジをしてできた傷で、実に平和な時間が流れていることを実感させられるものだ。

「いらっしゃいませ、どういった花をお探しですか?」

爽やかな男性店員が尋ねてきた。

カズトはそれにビックリして急いで振り向いた。

と、それを察した店員は申し訳ありませんと一言言って頭を下げた。

いや……、いいんだ…といって頭を上げて貰った。

「……それで…どういったものをお探しですか…?」

「……あぁ……。」

彼にとって今日は特別な日だ。何故なら今日は、彼の交際相手との記念日だからだ。

まずは1年だ。だから、贈り物として花を渡そうとしているのである。

「そうでしたか…! おめでとうございます!」

店員は印象通りの爽やかな笑顔を見せてそう言った。

カズトはなんだか少しだけ照れくさくて、苦笑いをして見せた。




……彼は店員にすすめられた花束を購入し、店を出た。最初はこんなはずではなかったのだが、確かに花束の方が嬉しいのかもしれない。

赤や黄色などといった暖色系で彩られた花束を抱え、一旦自宅へと向かう。

街頭モニターには、人気絶頂のアイドルであるMoonのミユが映っていた。…炭酸飲料のCMだ。

「シュワッと弾ける! 爽やかレモン風味!新発売!」

信号が赤になり、それが青に変わるまでの間、ミユとミドリが映るモニターを眺めて待っている。

Moonのミユはカズトにとっての推しである。街で見掛ける彼女にいちいち鼻の下を伸ばしていると、戦いの記憶というのは今は昔の話なのだと思い知らされる。

なんて平和なせかいなのだろう。


突然、画面が荒れ始めた。人々はそれに気付くこともなく、普通に街中を歩いている。

それが収まると、一人の男が映り始める。

「平和ボケした愚かな諸君、ごきげんよう。」

誰も見向きはしなかった。

一種のCMか何かだと思っているのだろう。

「これから君たちは、俺の話を聞かざるを得ない状況になる。」

男は冷静にそう言うと、画面のなかで指を鳴らした。

2秒もの間が空くと、全員が立ち止まり、そして全員が街頭モニターに目を移した。

街の雰囲気を演出していた雑音はピタッとやみ、聞こえてくるのは風の音とスピーカーから鳴る音と、体の言うことが聞かないことで戸惑う人々の声だけだった。

「俺たちは“カオス”。世間は俺たちをこう呼ぶ。黒の皇帝を信仰する悪魔崇拝者だと。だがそれは違う。」

画面の男が続けると、みんながそれに耳を傾けた。

カオス…聞いたことがある。

今各国で話題の過激なテロ組織だ。

「俺たちの目的は、この世界を“変える”ことだ。そしてそれには、多くの贄を必要とする。お前たちには、それになってもらう。」

体は動かないが、各々がその言葉に対する反応を見せた。

怒号を飛ばすもの、罵倒するもの、怯え始めるもの。

様々だ。

「誰も、このサテル国政府すらも、俺たちを止めることはできない。何故なら………。」

男が取り出したのは、カズトたちにも馴染み深い“パワーナイフ”だ。

目を疑った。テロ組織が秘密裏に開発された最新兵器を所持している事実を目の当たりにしてしまったからだ。

「究極の力…アーマーロイド…!」

専用のパッドにそれを挿し、変身する。赤黒いアーマーはかつてのルーグを彷彿とさせた。奴と違う点で言えば、鎧が自らぼんやりと光を放っているところだ。

「名乗り遅れた。俺の名はジョーカー。新世界への切り札だ。 8年前に存在したアーマーロイド史上最強の力、“魔王”……。その力を源に、ノヴァ・インパクトを発生させ、人種選別を行う。時刻は翌日の18時。1分動けば、世界は新時代へ突入したことになる。楽しみにしているんだな、諸君。」

ジョーカーと名乗った男は、最後に不気味に笑い、そして画面はプツッと切れた。それと同時に、拘束されていた街の人々も自由に動けるようになった。

「…………くそ……!」

まずいことになりそうだ。

パワーナイフ…アーマーロイドシステムを使ってくる連中に対抗できる者は限られている。

カズトはいてもたってもいられなくなり、走ってその場を去っていった。




【番外】英雄之仮面 溶炎の隷




先にもあったように、カズトは実家の農業を継いでいるため、実家に住んでいる。都市部から離れて車で約1時間のところだ。

休みなくハンドルを握り、到着してすぐに車から降りる。早速目に入ったのは、荒らされた畑の光景だった。

収穫可能な野菜は踏み荒らされ、ビニールハウスもぐちゃぐちゃ。みんなで耕した土壌も見るも無惨に……。

チンピラどもがやって来て畑を荒らしただけだろうか? いや、そんなわけはない。大体想像がついた。

「待っていたぞ、ガーディアンズの1人…レイシスこと…カズト……。」

背後から声がした。振り向くと、そこにいたのは先程画面で見た男だ。スーツを正しく着こなせるくらいにはジェントルマンらしい。

ジョーカーの緑色の瞳がカズトの目を捉える。

彼の背後には、複数の兵士たち_ テロ組織だから真似事に過ぎないが…_ に銃口を突き付けられて身動きが取れないでいる農業の仲間たちがいた。

頬には殴られたことによってできたと思われる青いアザと、口から線を描くように赤い血の流れた痕があった。

「てめぇ…何してくれてんだコラ……!!」

相手を睨みつけるが、それでもジョーカーという男は怯まなかった。

「お前に聞きたいことがあってな。グメア…いや、今はホノカだったか。その女の居場所を教えろ。」

グメアとは、カズトがレイシスに変身するのに必要な相方の名前だ。

今はルアフの研究所で働いている。

「それと、お前の仲間…ジクティア、クレイ、ウルフ、ダーブロル……それぞれの居場所も。目的を果たすため、邪魔な奴は最初に片付けたいからね。」

「…。」

ジョーカーの手には、アーマーロイドの装着に使用するパワーナイフがある。端から実力行使をするつもりだったらしい。

「仲間傷付けられて…言うわけねぇだろコラ……!!」

パワーナイフ一式を持っているのは、カズトも同じだが、パッドがない。

彼はとにかく、そのナイフを取り出し、起動させた。

「カズトさん!!」

奥から聞こえたのは、農業仲間の一人の若者の声。

「ヨシタカ!」

彼はカズトに変身専用のパッドを投げ渡した。

カズトがそのパッドを受け取った瞬間、ヨシタカは敵の放つ弾丸によって太ももを貫かれた。

パッドを腕に当てる。自動的にベルトが巻かれた。

「てめぇ…土下座しても許されると思うなよ…!!」

ナイフをそれに挿し、変身する。

怒れる鎧の戦士・レイシス。

「はぁ。」

ジョーカーがぱんぱんっと手を鳴らし、部下と交戦させる。

どうやらアーマーロイドシステムを持っているのは、ジョーカー本人だけではないようだ。同じくパワーナイフセットを使い、簡易的な鉄の鎧を纏った男が5人でレイシスを囲う。

「…来い…てめぇら全員まとめて……ブッ潰してやる……!!!!」

剣を持った二人が率先して斬りかかる。対してレイシスは素手だ。

しかし、元々彼は武器を使わない戦法が得意なのだ。

かつてジクティアと敵対していたが、その時も素手で圧倒した。

まず、かかってきたその二人の剣をさばき、そしてチンピラのように荒々しく、怒りを込めた硬い拳を胸部に叩きつけ、ひよったところを蹴り飛ばす。

ものの数秒でノックアウトした兵士が地面に転がる。残りの3人は、1人が銃、2人が剣を取り出し、襲ってきた。

2人の近接攻撃担当を援護する形だろう。

まず近くにいた1人の武器を奪い、それでそいつを斬り捨てる。

もう1人は、敵の射撃のタイミングを見計らったところで自身の盾にした。

くたばったそいつを盾にしながら、銃使いに接近する。

予想外のことに敵は怯んだ様子だったので、盾役を投げ捨て、その隙に強力な回し蹴りを顔面に当ててやった。

5人全員ノックアウトだ。

「あとはてめぇだけだなァ……?」

ジョーカーは、息切れしている様子もなくまだまだ戦える様子の彼に驚く…かと思ったが、そうでもなかった。

「さぁ? どうだろうね?」

さらに6人がかりで襲ってきた。

「…何人で来ようとも一緒だ…。」

全員を戦闘不能にまで痛め付けるのに時間はいらない。

「一人を倒せばその度に人質を殺していく。」

ジョーカーがそう言った。

レイシスの動きがピタッと止まる。

「さぁ、殺れ。」

連中がレイシスを囲むと、一斉にかかった。当たらなければどうってことはない。そう思っていた。

「一人の攻撃を避ける度に怪我人が増えるぞ。気を付けたまえ。」

しかし相手は血も涙もないテロ組織だ。使えるのならとことん卑怯な手を使う。為す術もなく、ただ殴られ、蹴られ、斬られ、撃たれた。

顔にはさらに傷がつき、からだのあちこちにはきっとアザや斬り傷があるだろう……。

「仲間思いなのもキズだな。…下らない……。」

ジョーカーはそう言って人質の1人を蹴り飛ばした。

「てめぇ………!!」

あまりのダメージに膝を着いているレイシスが睨む。

「悔しいなら来い。」

レイシスを挑発し、激昂させる。

しかし彼は立ち上がろうにも立ち上がれない。体が重いのは、鎧のせいなんかじゃ無いだろう。

「……………。」

ジョーカーは内ポケットから拳銃を取り出し、人質の1人を撃った。

血液が吹き出て、撃たれた衝撃に倒れた。その人の体が意識と関係なく、ピクピクと動いている。

「……………………………て…めぇ……!!」

悔しさが怒りに変わった。立ち上がれない体を無理矢理起こそうとして、体が悲鳴をあげる。

「まだ息があるようだ。もう一発喰らってもらう。」

再び仲間に銃を突き付けられると、レイシスは喉が裂けてしまう程の大きな声をあげた。

やめろ、やめろと何度も叫ぶ。

やめろ、やめろ。

「やめろーーーーーーーっ!!!!!」


誰かに銃を撃ち抜かれた。

離したことにより、地面に転がる銃には、何かが貫通してできた穴があいていた。

「誰だ……!?」

射線を辿ると、そこにいたのは、白い翼の生えた少女だった。

「…かず…レイシス…!!」

彼女が目を丸くして彼を見た。

彼は逆に彼女を見て、表情が少し明るくなる。そう、彼女は__

「……………ミユたぁぁぁぁあん!!!」

紛れもなく、ネットアイドルMoonの彼女だ。

ミユは天空に舞い、光で生成された銃を作り、それで撃ったのだ。

その後ろから、青色の光がジョーカー目掛けて一直線に降ってきた。

地面を抉るほどの衝撃が辺りに響く。

「うぉおおおおお!!」

ガーディアンズきってのバカで、リーダーであるジクティアの右腕・クレイ。

彼の飛び蹴りを、ジョーカーは生身の両腕で防いだ。

「は!? マジ強ぇ!?」

クレイはそいつから離れ、青い光のエネルギー体をボールのようにさせてそれを投げ飛ばした。

当たった瞬間爆発し、さすがの威力に吹っ飛ばされる。

「……ッ! だが…丁度いい……!」

ジョーカーはやっとパワーナイフセットを使って変身した。



「レイシス…大丈夫……?」

あぁ神様仏様みゆたんみゆたん。

彼のなかにあったのはそれだ。何を隠そう、彼はMoonファンであり、いわゆるガチ勢だ。

今あるファンクラブの創立者であり、会長をやっているのが彼であるという程には。

かつてはミユもジクティアが率いるガーディアンズと共に、陰からではあるが世界を救った。彼女のその活躍があったから世界を救えたようなものだ。

「もう…少しは頭冷やしなよ……?」

「ミユたん…それにクレイも…どうして…!?」

「サテルの電波ジャック、ニュースで見たの。だから空飛べる私たちで来たんだよ。それに、ショウは今…忙しいし……。」

そうか、そういえば子供がいるとか聞いた。

あいつが人の親…ね。

「……へへっ…。嬉しいね…! …最推しに助けてもらえるなんてよ…!」

ミユは彼に回復魔法を使用し、戦える状態にまで動けるようになった。

「今は退いた方がいい…。人質だっているんだから…!」

「…あぁ、分かったよミユたん…。そっちは頼んだ…!」

「わかった…! 逃がし終わったら知らせるから!」

彼女は、レイシスの背中に拳をぽんっと当てると、人質の解放を始めた。

「……デュフ…いい匂いだったな…デュフ…。」

鼻の下を伸ばし、久々にミユと会話したことの感動に浸る。

「おい! こいつ俺一人じゃ無理だぞ!!」

一人で興奮していると、クレイが怒鳴ってきた。

レイシスは両頬を叩き、オタクの顔から戦士としての顔になる。

「いけねぇ…! せっかく格好つけれるって時に…! やるぞ、クレイ…!」

「おうよ…!!」

それぞれが構えをとると、人質を解放するまでの時間稼ぎではあるが、戦闘を始めた。

ジョーカーは確かに強く、二人の攻撃をさばいたり避けたりが上手い。

伊達にテロ組織を率いていなかった。

だがクレイは8年前より強くなっている。攻撃のキレが段違いだ。

レイシスもそれは同じだし、何より農業仲間たちのこともある。

「てめぇだけは絶対ェに許さねェ…!!!!」

ジョーカーの腕を掴み、行動を抑制する。

「ふん…! イキがるなよ雑魚が…!」

レイシスの胸ぐらを掴み、睨みつける。すると、レイシスの背後から青紫色のエネルギー弾が複数飛んできたのがわかった。

「へっ…独りぼっちのイキりガキが……。どっちが雑魚か教えてやらァ…!」

とっさにジョーカーを背負い投げる。

まんまと投げ出されたジョーカーは抵抗できず、モロで背中にエネルギー弾を命中させられ、爆発した。

当然、それに巻き込まれたレイシスも吹っ飛ばされてしまう。

地面に横になるジョーカーに、すかざすクレイが膝蹴りを入れようとした。

しかし寸でのところでかわされてしまった。

「いっでぇええ!!」

地面にモロで膝が当たり、膝を抱えてのたうち回っている。

「痛そうだな…。」

レイシスはそんな彼に他人事のように言った。

「二人とも! もう大丈夫だよ!」

ミユが遠くから叫んだ。

「行くぞ、クレイ!」

「いぢぢ……おう…!」

足を引きずりながらその場から離れようとするクレイを、ジョーカーは背後から撃ち抜こうと銃を構える。今度は普通の銃ではなく、アーマーロイドの戦士にも通用する特殊な武器だ。

「そう来ると思ってたぜ!」

クレイは拳にエネルギーを溜め、それで地面をぶん殴った。

すると、地面が青色の光を放ち、それがジョーカーの足下に向かっていく。到着すると、そこから光で構成された青色の龍の顎が現れた。

「ちっ……!」

危機を察したジョーカーは、撃つことを諦め、その場から撤収した。





山の中、三人は行く宛もなく歩いていた。

山中であるゆえ、木々が生い茂っており、視界が限られている。いつどこから連中が来るのか分からないため、警戒を要するだろう。

「やっぱ堪えんな………。新しい力ってのは………。」

カズトが腕を回しながら言った。

新しい力とは、先程の変身のことだ。

かつてのガーディアンズは変身する際、アーマーロイドという人造人間を必要としていた。

だが、ルーグとの戦いを終えた後、特殊な装置で被験者たちを人間に戻したのだ。

それから数ヶ月後、仲間でもある研究者のダイチから、新たなパワーナイフセットが支給された。それが現在使用しているものだ。

彼は開発者が遺したアーマーロイドシステムの全てが記されたカードリッジを閲覧し、それを設計した。そしてさらに、現在使用しているタイプを基にまた新しいタイプのものを開発した。

「こんなんじゃ“新型”は無理だな……。」

新型。

かつてダーブロルと呼ばれた仲間が使っていた、後に“ボブレイトルタイプ”と命名された変身アイテムを改造し、より強力な力を得ることができるものが、カズトの言う“新型”だ。

本来ならその変身機器は、小型の瓶のような機械を装置に挿し込み、電子音が鳴るまでレバーを押す。

ニュータイプのボブレイトルタイプは、カズトらが使用するパワーナイフも挿せるようになっており、彼らが今使っている新型のパワーナイフタイプを含めた、“従来のパワーナイフタイプ”を上回る力を得ることができる。

しかし、“新型”は両者とも身体への負担が大きい。

特にボブレイトルタイプは、一度使用すればどうなるか分からない。最悪、死ぬ可能性だってあるのだ。

「新型……。」

ミユの表情が曇った。それに気付いたカズトが、何かあったのかと問う。

「タクミが…それを使ったの……。グレイシャルで……。」

「は……!?」

基本フォームでさえ危険なのに、強化携帯で使ったとなれば、死亡確定だ。

エージもそれを知っていたようで、同じく表情に陰りを見せた。

「なんでだよ…なんであいつが…!?」

「……ルーグの遺伝子を取り込んだ、サイコ・シヴァって奴と対峙して…それで……。幸い命を失うことはなかったけど、今は昏睡してる…。」

「…んだよそれ……仲間なんだから連絡ぐらい…!!」

気持ちは分からなくもないとエージは思った。

カズトはなんとも言えない気持ちを拳に込め、近くにあった木をぶん殴った。

「……ッ……!」

拳が痛んだ。

じんじんと痛む拳を見つめ、どこに向けるべきか分からない怒りと静かに向き合う。

ミユがその拳を両手で包むと、もうやめて、と言った。

「……ジョーカー…あいつを野放しにゃできねぇ…。ショウたちのためにも…特にタクミは無防備なんだろ…? それに…俺の仲間を撃ったんだ…。…オトシマエつけねぇと…気が済まねぇ…。」

カズトは髪を束ねていたゴムを外し、ポケットに入れる。

「まずはどこにいるか探さねーと…。」

エージが言うと、少し間をおいてミユが続けた。

「アイツ、なにか言ってなかったの? なんの理由も目的も無しに、山にあるカズトの家を襲うとか考えられないし。」

そういえばそうかもしれない。

カズトは必死に思いだそうと試みた。

そうだ、アイツはジクティアたちを探していた。

__ 目的を果たすため、邪魔な奴は最初に片付けたいから……。

だとしてもここはサテルだ。

……ジクティアたちがいるのはルアフで隣の国のはずだが…。

「…そうか……!! あの野郎!!」

ピンときた。そうか、そういうことだったのかもしれない。

「どうかしたの?」

ミユがきょとんとした様子で見つめる。

「俺らが戦っていた当時、あの厄介な“魔王”の力を持っていたのはサテル(ここ)だった…。 連中、本当にその力を持っているかもしれねぇ…! あいつら…今度こそルアフに行くつもりだ!!」

つまり力を拾いにサテルに来て、ついでにカズトを始末しようと考えたということだろう。

急がねばなるまい。本当にタクミがボブレイトルタイプを使ったなら、あそこにはジクティアとダーブロルしかいない。おそらく動ける者が揃いでもしなければ、あいつには到底敵わないと思われる……。

ミユは白色の光の翼を広げ、空中に飛んだ。

「急いで戻ろう!」

エージもクレイに変身して青色のオーラで翼を作り、カズトを持ち上げた。

「…どのくらいでつく…?」

「…たぶん1時間。」

カズトの問いにエージが答える。

「きっつ……!!」

「文句言わない! 急ぐよ!」

ミユがそう言うと、そこを後にした。




カズトの予想は的中していた。そのうえ、ジョーカーはジクティアを誘き寄せる目的で街にエンディアたちを暴走させていた。

8年前のように、街中の至るところが爆発されている。逃げ惑う人々はあまりの恐怖からか声をあげていた。

「そうだ。もっと。なんなら一人二人くらい殺しても構わない。」

ジョーカーが放ったエンディアらは辺りを火の海にしていく。

政府官邸から呼び出されていた帰りだったショウと、彼の家族はその光景を目にしていた。

「ナツミ、サヤカを連れて逃げろ。」

「ショウ………!」

ナツミはショウの肩に手を置き、心配そうに見つめる。

「いいから…。」

彼はそんな彼女にあえて目を合わせず、目の前の状況を睨み付けていた。

「…帰ってきてね……。」

「当たり前だ。」

ナツミはサヤカを抱っこしてその場から走り去った。

ショウはそれを確認すると、パワーナイフを起動させてパッドに挿した。

平和のために戦う戦士・ジクティアに変身したのだ。

「やっときたか…。」

ジクティアの戦う姿を見たジョーカーがニヤリと笑った。

それに気付かず、ジクティアはひたすら赤と青のオーラを使い分け、エンディアを一体ずつ倒していく。

「…潰してやる。」

ジョーカーもパワーナイフを起動させ、同じようにして彼も鎧の戦士に変身した。

「…さて…待ちに待ったパーティータイムだ……!」

彼はそう言ってマチェットを取り出し、ジクティアの背後を狙った。

「誰だ…!」

「俺はジョーカー…。この腐った世界を変える最後の切り札だ…。」

彼は礼儀正しくお辞儀をしながら自己紹介をした。




『係りのものの指示にしたがって避難してください。』

電子音が研究所に鳴り響く。

気が付けば今この部屋にいるのは私だけだった。

なにが起きたのか…それは頭を使わずとも、悲惨なこの部屋を見渡せば分かることだった。

きっと何者かが強大な力で暴れまわっているのかもしれない。

割れた窓越しに外を見ると、街は既に8年前のあの日のようになっており、恐怖が沸き上がってきた。

『係りのものの指示にしたがって避難してください。』

壊れたスピーカーからノイズ混じりに聞こえる電子音は、等間隔あけて再度鳴るように設定されている。

私は膝から崩れ落ち、結局の自分の無力感に絶望していた。

また、こうなってしまった。

結局のところ、科学は暴走するために存在しているのか? 私はそれを否定したかった。

外から声が聞こえた。恐る恐る覗いてみると、そこにいたのは二人の男たちだ。片方は知らない男だが、もう一人は見慣れた2色の鎧をまとった男だ。

赤と青の英雄…そうか、また彼らは戦ってくれていたのか。

私はその姿を見て高揚し、決心した。


もう一度だけ、アーマーロイドになることを。





「うわっ!!」

ジョーカーはジクティアを圧倒していた。ジクティアは地面を転がり、そこから立て直して作戦を練る。

「どうした? 来ないのか?」

ジクティウェポンをソードモードにして構える。

すると、上空から飛んできた青い光の球がジョーカーに直撃して爆発を起こした。

「待たしちまったな!!」

「クレイ……! ミユも…!?」

クレイはカズトを上空から投げる。

彼はジョーカー目掛けて落ちてゆき、そしてナイフを起動させてレイシスに変身する。

「今回こそ殴れるな…! コラァア!!!!」

落下の流れでタイミングよく拳を突きだし、ジョーカーの溝を打つ。

しかし彼はケロッとしており、レイシスを返り討ちにした。

「いちち…! くそ…!」

地面に背中を強打したが、立ち上がって両肩をならす。

「大丈夫か…!?」

駆けつけたジクティアが彼を心配した。

「問題無ェ…!」

三人はジョーカーに体を向け、構える。

「ジクティア…わりぃけどアイツは俺にやらせてくれ…。」

「…?」

「アイツは…俺の仲間を撃ちやがった…。俺がやらなきゃ気がすまねぇッ……!!」

レイシスの声から感じたのは、激しい怒りだ。ジョーカーはそんな彼を見てヘラヘラしている。

「わかった…。無理はすんなよ…?」

「…あぁ…。わかってらぁ…!!」

ミユは三人の勝利を信じ、辺りに逃げ遅れた人がいないかを捜索し始める。

クレイとジクティアは街で暴れるエンディアを止めにかかり、レイシスはジョーカーと直接対決を始めた。

「ぶっ潰してやる!!」

怒りのこもった一言をぶつける。

「そのまま返してやろう…!」

だが、レイシスの拳はジョーカーに通用しない。なのにその逆は通用している。何故こんなに違うのかは分からない。だが、負けていいわけではないと、自分の両頬をつねった。

無理だと知っていても拳を当て、蹴りを当てることを止めなかった。

「おいおい、俺で手こずってどうする? 早くしないとヒーローのお仲間も危ないぞ?」

「…どういうことだ…?」

「俺たちは“カオス”…俺を含めた数十人の組織だ…。」

「………!!」



ジクティアが戦闘に入ると、2人の何者かが奥から現れたことに気付いた。

「ジクティア、とお見受けした。拙者は“ブレイド”。いざ勝負……。」

「俺は“ウォール”。てめぇを八つ裂きにしてやるよ。」

二人ともアーマーロイドシステム使用者で、パワーナイフを使って変身した。

「嘘だろ…。」

ジクティアはボソッとそう呟いた。



エンディアたちを一体ずつ倒しているクレイのもとに、1人の女性が立ちはだかった。

「…なんだおまえ…? あぶねーから逃げろ!」

「逃げた方がいいのはアンタさ。あたしに殺されないうちに、早く逃げた方がいい。ま、逃がさないけどね。」

彼女もまたパワーナイフを使って変身した。

「あたしは“レーザー”。覚えておきな。死んだら意味無いけど。」

「…可愛くねぇ……!」

クレイは構えを取ると、襲いかかる彼女と交戦を始めた。



ジクティアたちに助太刀するには、まず目の前にいるジョーカーを倒さなければならない。しかしダメージを与えるどころか、びくともしない。

これ以上仲間を傷つけられるのを防ぎたい彼は、あの手この手でジョーカーに挑むが……やはり効果はなかった。

「くそ…! どうなってやがんだ…!」

ジョーカーの蹴りがカズトのみぞおちに炸裂。その威力に後方へ吹き飛ばされてしまった。

上体を起こすと、ケホケホと咳き込んだ。

「俺を独りぼっちと罵ったな…? あぁそうだ。俺は独りだ。」

ジョーカーが笑った。

「なに……?」

「…幼い頃に兵器威力検査に巻き込まれ、両親が死んだ。俺は生き残ったものの、後遺症を患った。分かるか? 色の抜けた世界を見る虚しさが。……俺は国を呪ったよ。だが国はそれを隠蔽し、今や世界平和を唱っている…!」

感情的になりゆくジョーカーは、レイシスの首を掴み、睨み付ける。

「いいか、お前たちは俺を悪だと思い込んでいるようだがな、本当の悪なんてものはどこにもありゃしないんだよ…。例え一般人の住む小さな村で兵器査定をした国にとって、“それを正義と言う”のなら、そいつらのなかでは正義となる。だがな、俺たちにとっては紛れもない悪なんだよ!!」

仮面越しに伝わる彼の怒り、いや、こうなればもはや憎しみだ…は、同情できる程度のものではなかった。

「そんなクズどもを見過ごすほど…俺は優しくない……!」

彼はレイシスにそう訴えると、彼をボコボコに殴り飛ばした。

なにも言えない。彼はかつてサテルの兵士としてルアフを侵攻したことがあるため、国というものは初めから黒いものだと理解はしていた。だが、それだけである。

「今の世は腐っている。俺はこの世界を見限り、新世界(ニューワールド)を創る…。 選ばれた人間の理想郷(ユートピア)を!!」

ジョーカーは片腕を挙げ、堂々と宣言した。

悲惨な過去、栄光を掲げる未来。そこへ自身が導く。

自身のこの目標は正義である。

彼の顔には、その色が明らかに出ていた。

「気に食わねぇ……。」

「なに…?」

「お前は確かにひでぇ目にあったかも知れねぇがな……所詮はそんなもんだろうが…。」

「…………なんだと…?」

「確かにそう言われればこの世界は腐った奴しかいねぇ…。警察だって買収されちまう世界だ…いっそ世界が消えちまえばいいと思ったことも…正直何度かある……。だけどな……自分の好き勝手に人を殺しちまえば…てめぇもその“腐った連中”の仲間入りだろうがよ…。」

「…話しても理解できない凡人め。お前はクズに洗脳されているから、正しいことを言っている俺がおかしいと思えるんだ。」

ジョーカーはマチェットを取り出し、レイシスに近付く。

レイシスはよろつきながら立ち上がり、ジョーカーを睨んだ。

「俺にゃ…どっちが正義なんてのはどうでもいい…。俺は…人々を守るために戦うんだ…。」

「バカな。顔の知らない有象無象のために戦うだと? 間抜けだな…!」

「例え顔しか知らなくても、それすら知らなくても…それを理由に見捨てていい命なんて無ェっつってんだよ!!」

最後の力を振り絞り、レイシスは拳を振りかざした。その姿勢で生まれた隙を見逃さず、ジョーカーはマチェットで彼を__ 。





ジクティアはストロフフォームになっていた。

《ラビット!》

《ラビット!》

《アーマーロイド・ラータ!》

スロットを回し、音声が鳴った。

超高速で距離を詰め、青色の光を放つ拳を腹の中心にぶち当てた。

「うぁぁぁぁぁああっ!!!」

ブレイドと呼ばれた男が変身解除し、そのまま倒れる。

必殺技を決めて一人を倒した。

「…! ブレイドぉ!! てめぇよくも……!」

ウォールが腕を広げて特攻してきた。

再びスロットを回す準備をする。

《ドラゴン!》

《ドラゴン!》

《チャージロイド・キドラ!》

手の中に青色の光を溜め、一気に解き放つ。

龍の顎がまっすぐウォールへと突き進み、そして飲み込んでいった。

抵抗もむなしく、彼はそのまま無力化された。

残されたウォールという男も片付け、気絶した彼らに手錠をかけた。

「よし。」



「うぉおおおああああ!!」

エル・クレイは右手に青黒いエネルギーの塊を集中させると、それを一気にレーザーに叩き込んだ。

彼女はダメージによって大きな声をあげたが、あとずさって膝から落ちるだけだった。

そんな彼女に、エル・クレイは赤黒いエネルギーの塊を作り出し、レーザーにぶん投げる。

彼女は爆発し、強制的に変身が解除された。

「っしゃ……!」

持っていた手錠を彼女の手にかけてやった。





最後の力を振り絞り、レイシスは拳を振りかざした。その姿勢で生まれた隙を見逃さず、ジョーカーはマチェットで彼を仕留めようとしたが、何者かに邪魔をされ、マチェットが手から滑り落ちた。

「カズト!」

声のする方向にいたのは、グメアだった。

「…おまえ…なんで…!?」

「……これ…!」

彼女はそう言って新型のボブレイトルタイプの変身機器を手渡した。

「…見てたけど…こいつ倒すにはこれしかないかなって…。」

「…俺に死ねっていってんのかお前…?」

「そうならないために私がわざわざアーマーロイドに戻ったんでしょ! ほら、さっさと変身する!」

彼女に急かされるまま、レイシスはボブレイトルタイプの変身機器を太股に当てる。ベルトが自動的に巻かれ、固定した。

新しいパワーナイフは、常に赤色の光を放っていた。

トリガーを引いて起動する。

《ボルケーノ!!》

「うぉっ…?」

電子音が鳴る。グメアに言われてもう一度引く。

《フォルテ!!》

音声が変わった。神々しい雰囲気のある待機音が鳴った。さらにもう一度引く。

《フレイム・インフィニティ!!》

「……なんか強そうだな…。」

ナイフをくるっと回し、それを機器に挿す。レバーを引くと、身体中が炎上した。しかし全くもって熱くない。むしろ闘志が滾る。

グメアは金色の粒子となってレイシスと一体になった。

轟々と燃え盛る炎がある程度形を成すと、それは鎧となって彼の身に纏う。

レイシス・フレイムインフィニティフォーム。

『炎はマグマよりも高温なんだよ。』

「ほーう。じゃあボルケーノフォームより強ェってことだな…!」

マジョーラのような、オレンジや黄色や赤などの暖色系になっている鎧は高温のようで、レイシスの周りは陽炎のように揺らめいている。

「……姿が変わっただけだろ…!」

「さぁな? 俺も初めてなんだ…。どれほどのもんか…てめぇで試してやる…!」

「上等だ…!」

ジョーカーは拳を握ってレイシスに当てようとするが、彼はそれを手のひらで受け止めた。

「…あッづ…!!」

彼の拳部分にあった鎧は赤に変色している。

怯んだ所を腹に2発ほど膝を入れ、顔面に拳をぶちこんでやった。

当てられた場所から煙が出ており、彼の顔面の一部は火傷を負っていた。

「こっちから行くぜ…!」

飛び蹴りをかまそうとしたが避けられてしまう。背後を取られたが、また焼かれることを恐れたのか、攻撃をしなかった。

「オイオイ…。そんなんじゃ世界を変えらんねぇだろうが…?」

回し蹴りを脇腹に当てると、その部分が爆発した。

「…そこまで強くなるのかよ…!?」

「らしいな…。」

「まぁいい…接触しなければいいだけだろ…!」

今度はハンドガンを取り出し、発砲した。しかし、彼の鎧に触れるとそれは溶け、鎧の一部となった。

「嘘だろ…。これなら!」

今度はジクティウェポンと同じ威力の銃を取り出し、何発も撃った。その弾は凝縮されたエネルギーで、鉄の弾のようにはいかない。が、それなら炎がエネルギーを吸収してしまった。

「…うそだ…!」

ジョーカーは一気に顔色を青くさせた。

『フレイム・インフィニティは高濃度のエネルギーの塊。自分よりもレベルの低いエネルギーは全て鎧に吸収されるんだ!』

グメアがそんな彼に説明してやった。

「てめぇはここでしまいだ……!」

レイシスは機器のレバーをもう一度押し、エネルギーを放出させて右足に集中させた。

ジャンプして距離を縮め、接近と同時に右足を突き出し、高エネルギーを相手に叩き込む。

“フレイムインフィニティ・フォールバースト”だ。

技が命中した箇所に真っ赤で綺麗な足跡が残っている。その周りも暖色系に照らされており、その光は徐々に強くなっていく。そして、ついにそこを中心にしてジョーカーが爆発した。

巻き上がる煙と炎の中、彼の断末魔が響いた。

爆煙が空へと消える。炎が地を焼く。そんななか、変身解除された傷だらけの彼が、そのまま倒れ伏した。

レイシスたちの勝利である。

手錠を手にしながら、ジョーカーのもとへレイシスが寄った。

「………俺は間違っていたのか…?」

ジョーカーは空を見つめながら、レイシスにそう問う。

「無差別に人を撃つような奴に正しい奴はいねぇ…。てめぇはこれからムショの世話になるんだよ…。」

レイシスは変身を解除し、彼にそう言った。

「………俺は…月城仁(つきしろ じん)だ…。」

「……何故今名乗った…?」

「俺は捕まらん……。負ければ消滅する……。」

「何を言って…。」

ジンの体から緑色の光の粒子が現れ、そしてすぐに、それは消えた。

「…………おい…。」

「…ふっ…残念だったな…。俺を裁くことはできない…。」

「ちっ……てめぇ…!」

胸ぐらを掴もうとしたが、この光の粒子がその手に触れると、動きを止めてしまう。

理由はわからないが、とても悲しい気分になったのだ。

胸が締め付けられ、目の辺りがピクっとなる。

「……俺の村は地図から消された…。国にとっては負の歴史だからな……。だがその地を訪れば分かる…。そこにはかつて、人間が住んでいた形跡がある。いくら壊そうとしても、いくら隠そうとしても、そこに住んでいた人間たちが紡いだ時間は抹消できない。」

彼はそう言いながら、自分の使用していたパワーナイフを地面に置いた。

「有象無象を助けるお前に頼みたい…。もう国が……過ちを犯さぬよう……誰かの上部の正義で、また誰かが死ぬなんてことがないように……世を直してほしい…。」

「……てめぇみてぇな犯罪者に言われるまでもねぇよ……。 ………バーカ…。」

「…ふん…幼稚だな……。だが、そうだな…。…俺のような犯罪者が見ても…。」

ジンは言葉を切ると、力を振り絞って腕を伸ばした。

「空は綺麗だ…。」

彼は最期にそう言うと、消滅しきってしまった。

「…………ふん。」

カズトも変身を解除する。現れたグメアの目を見ると、彼女はふふっと笑った。





サテルの某都内にて。

世界が平和になるまで戦うと決めた。だが、いつになったらその日は来るのだろうか?

…あの時、グメアが居なければフレイム・インフィニティになれず、ジョーカー改めジンに倒されていたかもしれない。

撃たれた仲間は一命をとりとめており、今は入院している。

「かーずー!」

「…ユカ…どうかしたか?」

花織(はなおり) 由歌(ゆか)。彼女はカズトの交際相手だ。

「今の今までどこに行ってたのさ! ルアフが大変なことになってるって、サテルだってそうだし、連絡したのに返ってこないしさー!」

カズトの目を見てそう言う彼女の頭をポンポンと撫でてやる。悪かったと言って彼女の怒りを鎮めようとしたが、全く落ち着きそうな様子はなかった。

「まったく…! 記念日だっていうのに忘れてるしさー!!」

「……………?」

何か忘れている気がした。

「……!! 花束!!」

「え?」

「花束買ってそのあと…えーと…車のなかか!!」

彼は急いで家に戻ることにした。

「え、ちょ、かず!?」

ユカはそれについていった。

「もー!! 置いてかないでよー!!」

彼女の声は空にまで響いた。




「グメア。」

ショウが声をかけてきた。

ボロボロになった研究所の中で、ひたすら避難を誘導する音声が鳴っている。彼女はそこに戻り、その様子を眺めていた。

「ん?」

グメアがショウに振り向く。

「元に戻らないのか?」

「あー…。」

グメアは少しうつむくと、しっかりと彼の目を見やる。

「戻るよ、ちゃんと。私たち兵器が必要なくなる世界を皆で目指してるんだから!」

彼女は笑顔でそう言う。ショウはそんな心配要らなさそうな彼女の様子を見ると、ホノカとしての彼女の帰りを待つことにした。

「それじゃ、また会おうね、ショウ。」

「あぁ。サヤカとナツミと、3人で待ってるよ。」

彼は背中を向け、そして歩み出した。



物語はいつか終わる__ 。


【番外】英雄之仮面 溶炎の隷

執筆 2019,5,10

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