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【目指せアニメ化!】➡︎つづきからはじめる  作者: ござる
第2章 『2階 蒼天と間隙の牢獄』
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 第9話 ➡︎整う

 今、好きと言ったか? 言ったよな? 好きって。


 お母さんでもない人に好きって言われることってあるんだっけ?


 いや、ない。少なくとも今までは。


「すすすす好きってどういう意味でしたっけカナタさん!?」

「し、知るか! 俺を誰だと思ってんだ!」


 フィンリィが赤くなって湯気を出している。恥ずかしがる許容範囲が小中学生レベルだと思ったが、かく言う俺も赤くなってるのがわかる。


 つまり、こういうことだろう。


 借金王の物乞い(レンタル)によって力を貸していることを忘れている。それによって俺に力を貸すことを当然の事として受け入れているんだ。看守という立場でありながら、力を貸すという事を受け入れるには、並大抵の理由では辻褄が合わない。そんな無茶苦茶を可能にする理由。それは(すなわ)ち——


 ——恋であると。


 これは借金王の物乞い(レンタル)(もたら)すランダム要素だ。恐らく、貸したことを忘れるために、強制的に記憶が作り変えられる。それはその人間にとって自然な形で形成されるんだろう。


 もしかしたら、借りる対象を指定しなかったのも問題なのかもしれない。「腕」だとか「力」だとか。だから触れたリリィの全てが……えーっと……全てが俺のもの……? なんだその背徳感マックスの響きは。


「……お前、ほんとに俺のこと好きなの?」

「『お前』って、あんた年下でしょー? まーいいけど」


 リリィは美しい藍色の髪をかき上げた。艶のある長髪がサラサラと流れる。


「好きじゃなかったらこんなとこ来ないわよ。あんたみたいな変態を好きになるなんてツイてないわー」


 リリィは(わず)かに頬を赤らめている。フィンリィが天使なら、リリィは女神だ。ジト目の女神。その女神が、俺を好きだと言っている。


 控えめに言って、最高である。


 だが、これもまた精神不変の原理(プラセボ)の強制力によるものに過ぎない。本当に俺のことを認めて好きになってくれているわけではない、まやかしだ。それにもし、このレンタル期間が過ぎたとき、借りていた期間の記憶が残っているなら、下手なことをすると殺されかねない。よからぬことはしない方が良いだろう。


 そんなこんなで、新たな期間限定の仲間が、そして同時に守るべきものが増えたわけだ。


 そこで気になるのは、彼女がどんな力を持っているのか、だ。


 それについては、2階に戻る道中、魔獣の森で充分に見せてもらった。細かいことはよくわからなかったが、要はこういうことだ。


 リリィがもたらす戦力は大きく分けてふたつ。血塊(マテリアル)の剣と、リリィの精神不変の原理(プラセボ)だ。


 血塊(マテリアル)の剣、名称はフォルティブレード。特定の領域内では最高峰の秘術師と同等の力を得る能力。その領域はあらかじめ決められており、それはこの脱獄を許された監獄(プリズン・タワー)の1階である。つまり、1階では最強でいられるが、1階を離れればただの最高硬度の剣だ。ここの認識は相違無い。


 実際にリリィの力として働きそうなのは、リリィの精神不変の原理(プラセボ)女神の世話焼き(ブレス)だ。これは沈黙領域を無視する力で、この脱獄を許された監獄(プリズン・タワー)でも魔術を行使することが出来る。看守向きでもあるが、有り難いことに脱獄者向きでもある。


 本来は天術も使用できるはずだが、単純に秘術師としての力が足りないらしい。沈黙領域でも普段使える術を使えるが、そもそも外でも使えないから無理、ということだ。罪滅ぼしの刻印(エクスピエイト)を作った天術は、1階でフォルティブレードの力を借りていなければ出来ないという。


 つまり、なんだかんだあるものの、彼女は魔術師ということだ。


 帰り道、彼女にフォルティブレードを持たせずに力を見せてもらった。1階の魔獣や、復活していた看守獣プーパは「火球(フレア)」という魔術でいとも簡単に一掃していた。夜明けを目指す者(オルトゥス)達がローゼスに放った小火球(ミニフレア)の上位互換らしく、火の球は両腕で抱えるくらいの大きさである。森に一直線の焼け跡を残して薙ぎ倒すほどの威力だ。


 俺からしてみれば霊術も魔術も天術も違いは無いが、今までに無い攻撃的な魔法使い、という認識でいいだろう。支援の霊術師フィンリィと、攻撃の魔術師リリィ。正直内容の違いはそこまでわからんが、とりあえず心強い。


「……なにはともあれ、俺たちは脱獄するまで仲間だ。力を合わせていこうぜ。リリィも、フィンリィと仲良くしてくれよ?」

「まーいいけど」

「よ、よろしくお願いします……」


 リリィがなんとなく不満そうにジト目でフィンリィを見つめる。フィンリィは見られて目を泳がせている。


 俺の能力的に、リリィはフィンリィに力を貸す理由がない。なんなら、恋敵(こいがたき)と思っている可能性もある。この俺を、こんな美少女が。なんとも現実味のない話だ。


 そう考えると、フィンリィも俺を好きになっても良いような気がするが、そうなっていないのは元々俺のことタイプじゃないからだろうか。傷付く。傷付くぞフィンリィ。


「3階に上がれなくて困ってるのよね。私ならそのワニ、1回は倒せると思うわよー」

「本当か!?」

「記憶喪失のあんたにはわからないかもしれないけれど、19歳で看守になるなんてチョーエリートなのよー。任せなさい」


 19歳なのか。確かに、最強になれる剣があるとはいえ、この塔の看守など大役には違いないだろう。1階での活躍を見ても、疑う余地は無い。


「……私も、一度なら倒せると思います」

「そうだな、リリィならやれそうだ」

「いえ、そうではなく、()()倒せるんです」

「……え? そうなの?」

「はい。あまり使いたくない術ではありますが」


 後方支援というイメージが強く、そんな攻撃的な力があるとは思っていなかった。RPGにおける白魔法でも最強攻撃呪文のようなものはある。恐らくそんな感じなのだろう。


 前回クロコダイラスに襲われた際は酔っ払っていたし、夜明けを目指す者(オルトゥス)の時は相手が人間なので躊躇したというわけか。そう言えば「殺してしまうかもしれない」と言っていた気がする。


「それは助かる。これならフィンリィ、リリィ、俺の一回ずつで事足りる」


 意図したものとは違うが、準備は驚くほど整った。


 フィンリィをチラッと見る。目が合うとフィンリィはニコリと微笑んで、首を可愛らしく傾ける。その頭の動きに合わせてオレンジのポニーテールが揺れる。彼女はこの塔で恐らく唯一の霊術師。記憶喪失のお姫様。


 リリィをチラッと見る。目が合うと、ジト目のまま(あご)を上げ、見下すような目線を向けた後でプイッっと顔をそらした。艶のある藍色の長髪が晴天に照らされて輝く。彼女はこの塔で恐らく唯一の魔術師。職務放棄の美人看守。


 最後に自分の右腕を見る。最上位魔族の腕。怪力と最強の槍。そして借金王の物乞い(レンタル)。借物競走の主人公。


 無茶苦茶な最強パーティの完成だ。


 リリィという大きなオマケのおかげで、逆に剣自体が必要なくなった感はあるが、心強い保険とでも思っておこう。


 俺は借りは必ず返す。それが恩でも仇でもな。


 クロコダイラスだけじゃない。俺に余計なもんを(なす)りつけやがった30日の帝国(カオスルゥナ)のカナ。奴にも追いついて、借りを返してやる。


「いくぞ!」

「はい!」

「はーい」

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