表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【目指せアニメ化!】➡︎つづきからはじめる  作者: ござる
第2章 『2階 蒼天と間隙の牢獄』
30/40

 第7話 ➡︎気づく

 『……ヒッヒッ! 土産話にしては早いじゃないか、坊主』


 返答は思いの(ほか)早かった。


「無駄話はいい。さっそく困ってる。2階のクロコダイラスを倒す方法か、バレずにすり抜ける方法はないか?」


『ヒッヒッヒッ! 坊主ともあろうもんが、そんなところで道草食ってるのかい。確か、盲目で耳が良い、とにかく硬い奴だねぇ。ただ、硬いだけだ。お前さんならなんとか出来ないのかい?』


「それが出来なくて困ってるんだよ。30日の帝国(カオスルゥナ)のカナは素通りしてた。奴の能力を教えてくれ」


『坊主と言えど、それは出来ないねぇ。カナとは契約があるのさ』


 契約だと? こいつら思った以上にしっかり組んでやがるのか。


『それに、素通りしてどうするんだい? お前さんはまだまだ懲役が残ってるだろう。あと200年近い懲役を減らさないと上がれないはずだが、もう目処(めど)は立ってるのかい?』


「200年近く減らさないといけない……? どういう意味だ?」


『おっと、もうそろそろやめておこう。5回話せる血塊(マテリアル)と言ったが、距離が離れるだけ話せる時間の総量は短くなる。2階くらい、自分でせいぜい考えるんだねぇ。そこで終わるような男なら、ワシも興味は無い。次はその先で連絡しておくれよ?』


「おい! ちょっと待……!」


 血塊(マテリアル)の輝きが消え、応答も無くなった。


 役に立ったのか立ってないのか。ほとんど嫌味を言われただけのような気もする。2階ごときで通話時間を使うのはもったいない、そこすら超えられないなら興味ない、ってか。


 いや、しかし、気になる事がいくつかある。


 もしかしたら——




—*—*—*—*—*—*—*—*—

*—*—*—*—*—*—*—*—*


 ——約2時間後。



 「ごめんなさい……」


 フィンリィはようやく目を覚ますと、しきりに謝っていた。


「酒を止めなかった俺も悪い。それに、フィンリィが酔ってなくてもどうなったわけでもない」


 マントを頭から被って、小さなマントの洞窟の中でシュンとしている。顔を隠してるのか、穴があったら入りたいのか。


 周りの連中もお通夜モードは続いているが、自暴自棄になって黙ってヤケ酒している奴もいた。


「おおい……ヒック、よく見たら可愛い嬢ちゃんがいるじゃねぇか! おい、いつから居たんだぁ? 一発ヤらせろよ」


 さっき酒を頭からかけてきた男だ。酔いもさっきより回っている。サイレントバードの靴を履きっぱなしだったせいで、足音に気付かずフィンリィの顔を覗き込まれていた。


「やらせるって、何をですか?」


 まったくこのお姫様は。記憶喪失は下ネタも一緒に消し飛ぶのか?


「楽しくて、気持ちぃぃことだよぉ?」

「やめろ、それ以上近づくな」


 俺とフィンリィの間に割り込もうとする男を睨みつけた。


「あぁん?? なんだのぞき魔風情(ふぜい)が、なにデカい口きいてんだ? あぁ? 俺は懲役250年! ”騎士団殺し”のジェイクさまだぞぉ? ヒック」

「だからなんだ、臭い息をかけるな」

「ひゃっはっはっ! 命知らずなガキだなおい! いいからこっちに来い!」


 フィンリィの腕を乱暴に掴もうとする。その腕がフィンリィに触れる前に、男の手首を稚児しい月(アドウェル)の右腕でガシッ! と掴んだ。



「やめろって言ってんだよ」



 男の腕が固まったように動かなくなる。


「……ッ! なんだこの馬鹿ヂカラは……!」


 男が体重をかけようが体をひねろうが、俺に掴まれた腕はビクともしなち。当たり前だ、腕力の差はそれこそ赤子とボディビルダーよりある。


 ふと、男が俺の右手の甲に刻まれた罪滅ぼしの刻印(エクスピエイト)を見た。


「ひぃ!! ちょ、懲役1500年!?」


 俺が手を離すと、男は床に尻もちをつき、腰が抜けて立ち上がれなくなっている。


 周りの連中も男の声を聞いて「何があった……?」と怪訝(けげん)そうな顔を浮かべていた。


 余計な情報を知られちまったが、まあいい。ここにもう用は無い。


「いくぞ、フィンリィ」

「は、はい!」


 ざわざわしている店内を余所(よそ)に、俺たちは酒場を後にした。


「カナタさん、一体どこへ行くんですか?」

「南の端だ。()()()()()()()来ちまう」

「……?」

「解ったことが二つある」


 フィンリィはキョトンとしたまま、俺の後を付いてきた。

 

 荒野のカンカン照りは朝から変わらない。だが、むしろ今の時間からすると正しい日差しだろう。


「ひとつは、あの時なぜ30日の帝国(カオスルゥナ)のカナはクロコダイラスを素通りし、俺たちの方に向かってきたか。それは、2階入り口近くに居た人狩りドルトとも関係がある」


「ドルト……あの弓使いですね?」


「ああ。あいつの罪滅ぼしの刻印(エクスピエイト)だ。残り年数が懲役を超えていた。それは、あいつ自身の問題でも、この階の仕掛けによるものでも無い。あいつは()()()()()()()んだ。30日の帝国(カオスルゥナ)のカナの精神不変の原理(プラセボ)によって」


「押し付けられた……?」


「本当はもっと早く気づくべきだった。俺の、稚児しい月(アドウェル)の腕の罪滅ぼしの刻印(エクスピエイト)を見た時に。腕を借りたあと最初に見た時、残りの年数は798年だった。おかしくないか? この塔は懲役の残りが一定以下じゃないと上に上がれないのに。矛盾のローゼスは元々5階に居たんだぞ?」


「そっか……!」


 フィンリィはハッとした表情を見せる。


「恐らく、アマルティアの天秤は1階から2階が800未満、2階から3階が600未満、3階から4階が400未満、4階から5階が200未満、そして5階から屋上へ上がるためには残りが0じゃなきゃいけないんだ。それなら計算が合う」


 ダダが最後に俺の罪滅ぼしの刻印(エクスピエイト)を見た時、残り年数は798年だった。タダはそこから「200年近く減らさなきゃいけない」と思っている。それは600未満でないと3階へ上がれないからだ。


「だが今度は、稚児しい月(アドウェル)の腕の罪滅ぼしの刻印(エクスピエイト)の計算が合わなくなる。5階まで行くには200未満じゃないといけないはずなのに、落ちて来たローゼスの懲役は残り970年以上だった。つまり、ローゼスは()()()()()()()()()()んだ。30日の帝国(カオスルゥナ)のカナに。人狩りのドルトもそうだ。だから残りが懲役を超えてたんだよ」


 あの時、奴が俺の肩に触れ、「頼んだよ」と言ったのは、それが発動条件だったんだ。そうやって俺に押し付けやがった。恐らく自分が立てる足音から生まれる”存在感”だとか”気配”の類を。ふざけやがって。


 多分、誰でもよかった。俺があの時ボーッとして道を開けなかったから触られただけだ。なんなら、俺たちを待ち伏せしていたのだろう。クロコダイラスが帰って行ったのは、カナが動きを止めて音を出さなくなったか、精神不変の原理(プラセボ)の使用をやめたからだ。


 そして俺より先に、前の奴らが喰われたのは、先に声を上げたから。俺に向かってきていたのに、その手前で声がしたからそっちに標的を移した。前の奴らが声を上げなければ、一目散に俺のところへ来ていただろう。間一髪だったんだ。


 それにしても、奴から感じたあの違和感は——


「そんな精神不変の原理(プラセボ)があるだなんて思いもしませんでした……流石です、カナタさん。では、もうひとつの解ったことはなんですか?」

()()()()()()()()()()()()さ」

「……!」

「奴の鱗はそんじょそこらの武器では歯が立たない。奴に対抗出来る硬度の素材が手に入る魔獣もいるらしいが、あまりに希少で完成するのは2年後だと言われた」


 どこぞのモンスターを狩るゲームのレア素材じゃあるまいし。そんな厳選をしてる暇は無い。


「それなら、バレずにクロコダイラスの横を抜けるしか……」

「いいや、倒す」

「でも、いくらその腕や槍があるからと言って、何度も生まれ変わられたら秘力が足りないのでは……?」


 フィンリィは再び首を傾げる。


「あるじゃねぇか。()()()()()()()が。しかも、この世で最も硬い、な。フィンリィ、今何時だ?」

「今……もうすぐ11時です」


 11時。それは昨日、俺が塔の入り口のプレハブ小屋を出た頃の時間。


 ダダは、「ただ硬いだけ」だと言った。それならもっと硬い武器を用意するだけだ。


 そう。


 この世で最も硬い武器。


 それは高名な秘術師の血塊(マテリアル)


 国宝級の血塊(マテリアル)を持った、()()()()様が、そのお宝をその身から外して、()()()()()()()()だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ