表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【目指せアニメ化!】➡︎つづきからはじめる  作者: ござる
第2章 『2階 蒼天と間隙の牢獄』
28/40

 第5話 ➡︎頼まれる

 矛盾のローゼスを1階に叩き落とした張本人。しかも、両腕が揃ったあいつを。


 5階から奴と戦闘しながら2階まで降りてきて、そこから1階へ叩き落としたのか。だからまだ2階に居る。そして上に上がる際にクロコダイラスは倒される。それに便乗しようというわけか。


「昨日、ローゼスって奴と戦争みてぇなバトルをしながら落ちてきたんだ。まだ体調が優れねぇようだが、治れば倒してくれるのは分かりきってる。前に奴が上に上がった時もぶちのめしていったらしいからな。奴の後をついてけば、そのまま5階まで行けちまうんじゃねぇか? ひゃーはっはっ!!」


 キーマは大口を開いて笑っている。確かに、これ以上のチャンスは無い。


 秘力の回復を待って槍で倒すこともできるが、問題は3回生まれ変わるという点だ。翔ける斬撃はMP(仮)消費5。2回使ったらお終いだ。技を使わずに倒すなら、10分以内に済ませる必要がある。どのくらいのデカさかわからないが、間に合わなければ死、だ。


 ここは蒼天と間隙(かんげき)の牢獄。つまり看守獣クロコダイラスの隙を突くことに囚われている牢獄。それをぶち破るには常識外の力が必要になる。現にそれが出来ずにほとんどの囚人がここで立ち往生してるんだ。30日の帝国(カオスルゥナ)がこの階に居るのは僥倖(ぎょうこう)と言えよう。


 突如——


 バタンッ! と扉が開く音がした。


 振り返ると、ウルファ族の男が慌てた様子で息を切らしている。


「ハァ……ハァ……オメェら……急げ。奴が……30日の帝国(カオスルゥナ)のカナが動き出した」

「なにぃ!? まだ大して秘力も回復してねぇはずだろ!?」


 キーマが驚きの声を上げ、周りの連中もざわめきだした。


「知らねぇよ!! でも間違いなくクロコダイラスんとこに向かってんだ!! 千載一遇のチャンスを逃しちまう!! お前ら!! 急げぇ!!!」


 シーン……と、一瞬静まり返る。


 そして——


「「「「うおおおおお!!!」」」


 全員が雄叫びを上げ、慌ててバタバタと立ち上がり始めた。酒や食器がガシャンガシャン割れてもお構いなしだ。そしてなだれ込むように入り口の扉に押し寄せる。


「おいカナタ! フィンリィ! お前らも上に行くんなら今しか無ぇぞ!」

「あ、ああ」


 周りがタイムセールに群がる強欲な主婦達のようで気後れしてしまったが、ここはこの波に乗らせてもらおう。


「フィンリィ! 行くぞ!」

「ふぁーい」


 ふぁーい?


 むさいオッサンの顔が火照(ほて)ってる。


「まさか……」


 目は(うつ)ろ。首がふにゃふにゃして顔がヤジロベエみたいに揺れてる。


 酔ってやがる。完璧に。ずっと黙ってると思ったら、一杯でこうなるとは。


「フィンリィしっかりしろ! 置いてかれちまうぞ!」


 こうしてる間に周りの連中は出て行ってしまい、残るは俺たちとキーマの3人だけだ。


「おでかけですかぁ?」

「レレレのおじさんか! いいから来い!」

とフィンリィの腕を引っ張った時——


 ボンッ! とフィンリィが煙に包まれた。


「え?」


 元の姿に戻っている。顔を赤らめた、酔って少し服が乱れて、青いブラの肩紐が見えているエロい美少女の姿。集中すれば1時間()つと言ってたが、逆に集中が切れると10分も保たないってことかよ。


「お前……その姿……一体どうやって姿を……」


 キーマが目を丸くしている。クソ、面倒な。勢いで誤魔化すしかない。


「説明は後だキーマ! 追いかけるぞ!」

「あ、ああ」


 フィンリィの顔を隠すようにマントを被せ、無理矢理外へ連れ出した。驚きつつも、キーマは慌てて一緒に飛び出す。先に出た連中とはまださほど離れていない。


 千鳥足のフィンリィを引っ張りながら、100人近い団体の行進を、3人で追う。


 思ったより距離があるらしい。


 ジョギング程度の速度だが、10分程度走っていた。1キロくらいは走っただろうか。


 団体の先頭が止まった。俺たちも最後尾でそれに合わせて止まる。


「まだ奴は来てないらしいな」

と誰かが言った。


 するとみんな荷物の中から靴を取り出し、履き替え始めた。


「何をやってるんだ?」

「ここから先はこれを履いていけ」


 キーマが俺とフィンリィにカラフルな靴を手渡してきた。


「サイレントバードの羽根で作った靴だ。吸音性が高ぇから、足音が消える。ここから先は奴の探知圏内だ。今は寝てるからまだ大声でなければ問題ないが、私語厳禁で行くぞ」


 手渡された靴に履き替える。力が入らず、体重の全てをこちらに預けてくる無防備少女にも、無理矢理履かせた。足踏みしてみても、スポンジを落としたみたいに音がしない。


 静かな団体の行進が、だだっ広い荒野を行く。


 少しすると、遥か先に白い塊が見えてきた。あれがクロコダイラスか。この距離であの大きさ、確かに規格外のデカさだ。


 そして団体が止まった。


(ここで30日の帝国(カオスルゥナ)のカナを待つぞ)


 キーマが小声で言った。前の団体も辺りを見回している。


 その時、ふと前の一人が最後尾の俺たちの方を見て驚いた顔をしてみせた。そして俺が行く道を空けるように退いていく。


 その様子を見た他の連中もまた、こちらを見て同じように道を開けていく。


 いや、俺じゃない。俺の後ろだ。


 俺も後ろを振り返る。


 誰か歩いてくる。


 レインコートのように全身を黄ばんだ白い布で覆っており、フードも目深(まぶか)に被っていて顔もわからない。わかるのは身長が俺以下、フィンリィ以上ということくらいだ。


(こいつが、30日の帝国(カオスルゥナ)のカナ……)


 ザッ、ザッ、ザッ。


 奴の足音だけが荒野に響く。キーマ曰くもうクロコダイラスの探知圏内だというのに、気にする様子も無い。


 俺は、そいつから感じるただならぬ雰囲気に、なぜか見惚れたまま呆然と立ち尽くしていた。殺気は無く、覇気も無い。ただ、なんとも言えない違和感を感じる。


 ザッ、ザッ、ザッ。


 そして、俺の横を通り過ぎる。


 通り過ぎる瞬間、その布の中からぬっと手が伸びてきて、俺の肩に手を置いた。


 そして、聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で、一言だけ呟いた。




 ——頼んだよ。




「え?」


 そのまま、俺の横を通り過ぎて行った。


 ザッ、ザッ、ザッ。


 サイレントバードの靴も履いていないのに、真っ直ぐクロコダイラスのところへ向かう。


(大丈夫なのかあいつ、あんなんじゃすぐ起こしちまうぞ?)


 と、誰かが小声で言った。そして、その予想はすぐに的中した。この距離で見ても、クロコダイラスが動き始めたのがわかる。


 その白い巨大なワニは宙を舞った。まさか飛ぶとは。色からしても、サイズからしても、シロナガスクジラのようだ。そのまま30日の帝国(カオスルゥナ)のカナへ突撃する。


 ——かと思われた。


 しかし、実際は完全にスルー。


 では、なぜ起きて、なぜ飛んでいるのか。


「お、おい……」

「なんだ……?」

「どうして……?」


 どうしてこっちに向かってくるんだ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ