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【目指せアニメ化!】➡︎つづきからはじめる  作者: ござる
第1章 『1階 朝焼けと絶念の牢獄』
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第19話 ➡︎カナタの7日間を始める

 ——そして今、作戦は実る。




 右腕に力が溢れてくる。フライパンぐらいなら握っただけでオムレツみたいに折り曲げられそうだ。元の右腕より一回り太いせいで少しアンバランスだが、その辺はもう仕方ない。


「痛いぃ……! 痛いよぉ……ママぁ……ママァ!! どこなの!? 呼んだら早く来てよ!!!」


 ローゼスは子供のように泣きじゃくる。俺に子供ができるならある程度厳しく育てたいものだ。


「ねぇさっきの……鎧の人は!? どこ!? 君でもいいよ!! 僕を治してよぉ!!」


 赤髪のケモ耳にはとっくに離れてもらっている。俺に腕を貸してることを忘れてるから、俺の腕については何も言って来ない。それにしてもたった今ぶん殴った奴に助けを求めるとは、どこまでも自分勝手な奴だ。


「汚ぇな」


 ローゼスが俺に泣いてすがってくるせいで鼻水やら血やらが俺の服に付く。それを見下しながら俺は言った。


「これでおあいこと思うなよ? お前な、知ってるか? 借りには利子が付くんだぜ」


 右腕に力を込め、想像した。かめはめ波を撃とうとするみたいに、右腕に力が集まるのを。さっきローゼスが生み出した、美しい両刃で漆黒の槍を。


 するとバチバチッ! と音を立て、赤黒い稲妻が現れる。


 それが形を成すように、ローゼスが生み出したのと同じ漆黒の槍が生成される。なんか、ファンタジーしてる、って感じだ。


「ひっ!」


 ローゼスは慌てて盾を生み出そうと力を込める素振りだが、何も現れない。震えるその左手を見つめて集中するが、やはり現れない。


「どうして……?」

「やっぱりな。多分、秘力不足のせいじゃないだろ。レイナードが『槍を出してる時は盾は出せない』と言ってたのは、お前の技術的な話じゃない。”最強”は二つは無いからだ。つまり盾と槍は、同時にこの世界に存在できないってことだ」


 俺は槍を握り締めた。


 今ならこいつを殺すのは容易い。それこそサイコロでも転がして、順番に削ぎ落とすことだってできる。こいつが今までしてきたこと、俺達にしたことを考えれば、そのぐらいは当然だ。それに何故だか、死んでいったモヒカンやレイナードの顔が浮かぶ。


 だが——


 バコォォン!!!


「あびゃっ!!」


 俺は槍を握った拳でぶん殴った。


 広場の反対側の木まで一気にノーバウンドで吹き飛び、ズトォン! という音を立てて木に激突する。


 俺が木に激突した時の倍の木の葉が舞った。


 そのままローゼスは泡を吹いて気絶している。


「……悔しいが、俺はお前らと違って殺すのは気が引けちまうんだよ」

「カナタさん!!」


 事が終わるまで隠れているよう指示したフィンリィが、我慢し切れない様子で駆け寄ってくる。ポニーテールが嬉しそうに揺れていた。


「すごい、すごいです! カナタさん! 私、感動しちゃいました!」

「そ、そうか……?」

「数時間前に精神不変の原理(プラセボ)を知った人とは思えませんよ! 私もとても勉強になりました!」

「わかった、わかったから、近い……」


 目を爛々(らんらん)と輝かせて見上げてくるフィンリィ。基本的に距離が近いこの子は、恐らく無意識に人を籠絡(ろうらく)するタイプだ。まあ、俺にしてくれる分には大歓迎だが。


 集中を解けば槍は消えた。出し入れ自体はそこまで難しくない。今後はこれを使っていけるだろう。


 俺は泡を吹いて倒れてるローゼスに目をやった。なんとも言えぬ達成感がある。そして、希望が見えた気がした。


 全て失ったような気がしていたが、まだ、やれる。


 この成功体験が、俺にこの先へ進む勇気をくれる。


「……フィンリィ、俺は決めたぞ」

「何をですか……?」


 首を(かし)げるフィンリィを見つめた。


「タイムリミットは7日間だ。7日以内に、俺はこの脱獄を許された監獄(プリズン・タワー)を脱獄してみせる。一緒に来てくれるか?」


 パッと、オレンジ色の花が咲く。


「はい! 私でよければ!」




 それから俺たちは、夜明けを目指す者(オルトゥス)達の墓を立てた。この世界でも土葬はあるようなので、埋めてやることにした。墓標と言えるほど立派な物じゃないが、木の枝を立てて。


 ローゼスに殴られて折れた左手の指は、フィンリィの霊術で完治した。だが重労働ではあったし、2〜3時間かかったが、右腕が尋常じゃない腕力を発揮したことと、赤髪の獣耳にも手伝わせたことでなんとかなった。


 死なれても目覚めが悪いので、ローゼスには止血をしてある。俺たちが墓を立てている間目覚めることはなかった。なかなかヒヤヒヤしたが。


 夜明けを目指す者(オルトゥス)達が持っている血塊(マテリアル)は、一緒に埋めてやることにした。この腕があれば戦力的には申し分ないし、何より気が引ける。「死んだから使えそうなものは貰ってくぜ!」というのは何とも悪い気がするし、どうせそれをジャンジャン使う気にもなれない。


 森の広場はサボテンのように木の枝が立てられ、完全に墓地のようになっていた。そして墓を建て終わってようやく、俺たちは手を合わせた。


 手を合わせている間、極悪人達に何を想うべきか正直わからなかったが、とりあえず俺にとっては「ありがとう」としか言えなかった。


 そう言えば、どうでもいいが赤髪の獣耳はアドンという名前だと知った。”ウルファ族”という種族で、常人より五感が鋭く、筋力が高いが、代わりに秘力量は比較的少ないらしい。


 こいつも仲間に……するわけもなく、元々こいつには良い就職先を工面(くめん)してやることを決めている。


 もちろん、最近腰が痛いダダのところだ。


 フィンリィの監獄時計を見ると、時間は午後4時頃。店に戻ると、ダダは腰を痛そうにしながら品物の整理をしていた。


「おや、戻ってきたのかい小僧。さっきから行ったり来たりして、一体何をしたいっていうん……腕が生えとる!?」


 まあ、そうなるよな。


「あ、あの回復薬がそんなに効くとは……そんな秘薬ならワシの腰も治ったんじゃ……」


 俺はダダに貰った上着を着ていたので、腕の槍の紋章までは気づいていない。まあ気付いたとしても、俺が逆の立場だったらどう理解していいのかわからん。


「腰は治してやれないが、代わりにいい奴を連れてきたぜ。アドンって言うんだ。欲しがってた”若いモン”だよ。あんたんとこで働きたいってよ」

「へぇ……アドン、アドン……」


 ダダは例の如く監獄時計で調べている。


「ふーん……カッとなって2人殺して5人重軽傷……くだらないねぇ……」

「んだとジジィ!!」


 まあまあ、と(なだ)める俺。


「——だが、ヒッヒッ、良いだろう、気に入ったよ。何より頭が悪そうなところが良い。頭は悪ければ悪い方が良いからのぅ」


 随分酷いことを言っている。ん、じゃあ最初に俺に働かないか誘ったのは、俺が馬鹿そうに見えたからってことかジジイ。


 アドンは怒りでブルブルと震えているが、詐欺王の嚇かし(ホステジ)のせいで動けずにいる。


「……詐欺王の嚇かし(ホステジ)も効いてるようだ、採用だよ」


 アドンは心術が使えない。モヒカンより屈強なこの男が一発KOだったのは、心術による肉体強化がされていないからだ。だからこいつには安全に、ここで役に立ってもらう。隙を見てダダから情報を盗み、血塊(マテリアル)で俺に情報を流すよう伝えてある……まあこいつがダダからそんな真似ができるとは期待していないので、一応そういうていにしているという程度だ。それにしても、こいつの役回りはなんとも可哀想なような、逆に可愛く見えてくるような。


「それで、小僧たちは上を目指すのかい? そういやのぞき魔ごときと思って見てなかったが、どれ、罪滅ぼしの刻印(エクスピエイト)を見せてみぃ……へぇ……って1500年!? お、お前さん、一体何を覗いたって言うんだい……?」




 ——な、なんですとぉぉ??

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