プロローグ.朝が嫌いだ
わたしは朝が嫌いだ。
目を覚ましてから体を起こすまで、相当な時間と意志力を必要とする。
そのために職場へ行くのが遅れ、遅刻しそうになった経験が何度かある。
それでまあまあわたしの仕事ぶりを認めてくれる上司からも「さすがにそれはちょっとダメだよ」と注意を受けたことがある。
そこでわたしは生活を根本から変えることにした。
電車通勤を辞め、職場の近くに引っ越しをした。
職場まで、歩いて十分。電車で四十分近くかけて通っていたころに比べると、朝が断然、楽になった。
それでまあ仕事の方も、上司との関係も問題なくなったのだけれど、今度は別な問題が浮上した。
新居を選ぶにあたって、わたしは二つのことを優先した。
一つはもちろん住みやすさである。
新居は近くにそれなりに栄えている街があった。そのくせに周辺は静かで、住環境も悪くない。
もう一つは職場への通勤時間の短さである。
なるべくなら徒歩圏内がいい。その点で新居は理想的だった。
職場まで徒歩十分。ちょっと駅は離れているけれど、まあ、そう遠くもない。
新居の下見で不動産会社の車に乗せられ、その物件を確認したわたしは、すぐに気に入った。
そしてスマートフォンのアプリで、職場までの徒歩の道のりを検索した。ほとんど無駄なく、距離のロスもなく職場へ向かう道だった。
これはいい、と思い、口では言わなかったものの、その物件に引っ越しをすることを、わたしはほとんど即決していた。
というわけでわたしは、実際に職場までの道のりを歩かなかった。
これが間違いのもとだった。
やっぱり、何でも一度は試してみるものだ。
不精なためにわたしはそれを怠り、朝が苦手なように、もう一つの苦手なものと直面する羽目になった。
そう、何が問題か、といえば。
職場までの道のりには、気味の悪いトンネルを通る必要があったのだった。