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卒業

作者: 雪見団子

卒業

 

 私たちの通う小学校の休校が決まった。

 私の住む地域は少子高齢化が進んで私とえみちゃんが今年卒業したら小学校に通う子がいないからだ。

 2年前にはえみちゃんのお兄さんが一緒だった。私たちが1年生の頃は他にももっと生徒がいたけど月日が経つ事に人が減る一方で増えることは1度もなかった。

 そしてとうとう明日の卒業式で生徒は1人もいなくなってしまう。生徒がいなければ先生たちも学校に来る必要が無い。だから小学校はお休みにしてそのまま新しい生徒がいなければ廃校になって、私たちの思い出の小学校はもう二度と生き返らない。

 卒業して中学生になったら自転車で30分以上かかる中学校まで通わないといけない。 私の通うことになる学校全校で40人しかいないけど、えみちゃんが通う学校は1クラスで40人いるらしい。やっぱり都会はすごいな。

 えみちゃんは引越ししてもすぐに新しい友達を作って、私のことなんか忘れちゃうのかな。私は人とお話するの苦手だから友達もできないまま1人で過ごして1人で卒業するのかな。えみちゃんとお手紙でやり取りするって約束したけどいつか忘れられちゃうのかな。このまま私はずっと1人で生きていくのかな。

 それは、嫌だな。


 1人で考え事をしているうちに時計の針は22時を過ぎていた。

 いつもならもうとっくに寝ている時間だけどなかなか眠くならなかった。そしてとうとう23時をすぎた時、部屋の扉をノックする音が聞こえた。私は何も応えなかった。

 しかしドアは開いた。お母さんだった。

「夢衣、もう寝なさい。明日は卒業式なのよ」

「わかってる。今寝るとこ」

 心配してくれているお母さんに私はぶっきらぼうに言葉を返してベッドに潜った。

「おやすみ。電気消すわね」

そんな私にお母さんは優しくお休みを言って電気を消してくれた。

 暗くなった部屋で布団にくるまっている私の心を小学校を卒業するという恐怖がじわじわと染めていった。


 カーテンの隙間から入り込んでくる柔らかな陽光が部屋を明るく照らしている。

 いつの間にか眠ってしまっていたらしい。扉の向こうから足音が聞こえてくる。

 足音が部屋の前で止まると扉を叩く音が2回響いた。

 「夢衣、そろそろ起きないと間に合わないわよ」

 お母さんの声だ。

 「今起きたとこ。すぐ行く」

 お母さんは返事をすることも無く戻っていった。

 身体を起こして天井を突き破らんとするほど大きく伸びをした。

 昨日はとても悩んでた気がするけどそんな事が気にならないほどパッチリと目が覚めた。

 しかし、まだどこか眠っているような、夢の中のにいるような不思議な感覚もする。

 ボーッとしてると時間ばかり過ぎてお母さんに怒られてしまう。それに寒いし早く着替えてしまおう。

 私は寒さで震える手で真新しい制服に着替えると鏡で確認した。

 おかしな所はないけど何度見てもこの制服はダサい。もう少し可愛く出来なかったのかしら。

 私が考えたところでどうにもならないしそろそろご飯を食べて家を出ないと卒業式に間に合わなくなってしまう。

 着替え終わったので部屋を出てキッチンへ行くとちょうど朝ごはんが出来上がった所だった。

 「制服似合ってるわね。でも今度からご飯食べる前に着替えるのはやめなさい。朝から制服汚したら面倒でしょ?」

 と制服を着た私を見た母は言った。

 「そうする」

 頷きながらそう言って出来たての朝ごはんを食べた。それから歯を磨いて最後の身だしなみチェックをしてからスーツを引っ張り出してるお父さんと朝の家事をしてるお母さんに行ってきますを言った。

 2人は笑顔で行ってらっしゃいを言ってくれた。

 私は中学校の制服でランドセルを背負い家を出た。

 山沿いだからまだ雪が残る中ザクザク音を立てて歩いた。

 今日で最後の登校。

 小学生最後の日だ。

 いつもと同じなのにいつもと違う。

 新しい制服に身を包まれて、古いランドセルを背負っている。

 毎日通ってきた通学路も春からは滅多に通らなくなってしまう。

 えみちゃんとお別れをして、新しい友達を作る……。

 「ゆい〜」

 突然の呼び掛けに俯いていた顔をあげる。

 えみちゃんだ。

 「おはよう!」

 「おはよう! えみちゃんの制服可愛くていいなぁ。私のはダサい……」

 「そんなことないよ! ゆいのも可愛いよ。と言うよりゆいが着てるから可愛いのか」

 「もう! またそんなこと言って!」

 「あはは、でも本当に似合ってるよ」

 「ありがとう」

 そこで会話は途切れた。2人はしばらく黙って歩いた。

 私は覚悟を決めて口を開く。

 「えみちゃん?」

 「何?」

 「えみちゃんが引っ越したら、私手紙書くからね。スマホはまだ早いって言われてるけど高校生になって自分のスマホ持ったら連絡先教えるから。向こうで新しい友達できても私と友達のままでいて……。私はえみちゃんしか友達いないから」

 えみちゃんはクスッと笑った。

 「当たり前じゃない! 引っ越したらすぐに手紙書くわ。それに、夏休みになったらおばあちゃん家に遊びにここに戻ってくるからまた遊ぼう? 私達はだんだん大人になって変わっていってしまうけど、私たちの小学校やこの地域みたいに時間が経っても変わらないものもあるわ。私たちの友情も変わらないに決まってるわ。ううん、もっともっと素敵なものになっていくわよ」

 「ありがとう。ありがとう……」

 私の頬は熱く、目から止めどなく想いが流れた。輝く世界の中でそんな私を見るえみちゃんは笑っていたように見えた。目元に溜まったものは私の見間違えだろうか。いや、きっと見間違えではないと思う。

 私は学校に着くまでずっと泣いていた。それはもう物凄い泣き様で、出迎えてくれた先生たちはとても驚いていたらしい。後になってえみちゃんが手紙でイラスト付きで描いて教えてくれた。

 式に間に合わせて学校に来た私達の両親も泣き腫らした私の顔を見てとても驚いていたのは覚えている。この時に撮った写真はどれも他人には見せられないので押し入れの奥に封印している。2人の秘密だ。

 私は、変わることがずっと怖いものだと思っていたけど変わらずに残るものに気づけたおかげで今はとても幸せな中学校生活を送っている。

 今度の週末にえみちゃんと久しぶり会う予定だ。

読んでいただきありがとうございます。

これは先日Twitterで創作バトルをさせていただいた時の作品です。

Twitterアカウントは( @sousaku_dango )です。

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