表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

ゾンビなんて大っ嫌いだ。

2015年9月28日にツイッター上で放流した不定期連作を修正・改稿したモノです。



2015/09/28:AM

 ゾンビなんて大っ嫌いだ。

突然電話で『呼び出し』を受けた後、幾らかの準備を済ませてフォーラムのメンバーと合流した。

『装備』を漁り、必要な物資を交換し合った頃には残された時間はそう多くなかった。


『気が進まない、今からでもやめたい』

誰が用意したのか(大方彼だろう)、ソフトは優秀で

ヘッドセットに漏らしたぼやきを聞き慣れた機械音声が各国の言葉で翻訳してフォーラムに伝えてくれる。

すかさず『良いから撃て』の矢の催促

まぁ、撃ちますけれど。


襲い掛かってくる見るも無残なアレらに向けて


撃って、撃って、撃った


あ、噛まれた


いたいいたいいたいいたい


酷い叫び声、囲まれている。

慌てて大振りの鉈を引きずり出して、せめて血路を開こうとして


無理で、視界全てが、真っ赤に染まって


>>『Y弱ェ…』

>>『センスが感じられない』

>>『掃除するからちょっとリスポン地点にいろ』


いや、あの、もっと別のゲームしませんか、諸君?



彼からの意外な提案は、フォーラムに所属するメンバー全員に

公開していた通話・連絡可能なアドレスから様々な形で連絡された。


『この状況を打破する手段はまだ無いが、時間は我々の味方であるらしい』


 で、あるならば楽しく過ごそうと

早い話が『レクリエーション』の提供があった。

いくらかグレーゾーンだが。



2015/09/1()4():AM

 結論から言って、彼は『あれら』の内の一体を捕獲し、解剖した。

例の如くまったく疑う余地のない容赦のない無修正映像が動画共有サイトにアップされ

彼の所感や、得られたサンプルとともに

『献体(※同意の上では無いので正確な表現ではない)』となった

アメリカ人青年、『ケイン』の身分を証明する学生証も提示された。


 道徳・人倫・宗教等の見地から、彼を非難する声は当然あった

その上で、彼は自分の身分証も合わせて提示してこう言った。


『事態の収束後、或いは今すぐにでも私が罪に問われるならば、私は甘んじてその罰を受ける。』

『その時はそう遠くないだろう』と、眉一つ動かさず、隠すこと無く素顔を晒して。


『良識派』の反応が収まった後、促されるのを待って

『まず、Yの提供してくれた情報と写真から推測はされていたが』と前置いて

あの犬の話だろう、写真は死体の残骸の話だ。

清掃の時にビニール袋に纏めた物を、彼に請われて写真を撮り、提供している。


ん?()()()()()()()()()()()()()


『ゾンビ映画を愛する諸君には残念なお知らせだが、アレらは頭を銃で撃ち抜いてもワンショットキルとは行かない』

『狙うなら…』

と、胴体部分が青く色を変える。

一々芸が細かい。


『胴体部、特に活用されているのが脊髄周辺…つまり背骨周辺は尋常の有様ではない。』


 初めて【閲覧注意】の表示が数カ国語で写され

5からはじまるカウントが4・3と、大昔の映画の様に減っていく。


個人的には、見慣れたモノだった。


 バックリと切れ目が入り、割れた背骨周辺の組織は

ちょうど隣人が腐らせたパック入り精肉の様に

ところどころ明るい緑色に変色し、黒い斑点の様な穴が夥しく空いていた。


 うん、実家である程度見慣れているとはいえ、流石に鳥肌が立つ。

「寄生虫?」と書き込むと


>>『そのとおりだ、Y』と、即座に肯定が帰ってきた。

わぁい、まったくうれしくない。


 家畜や山の生き物を解体する際、一定の確率で目撃するモノがある。

それが『寄生虫』だ。

多くは内臓の中から、一部は表皮と真皮の間などに寄生していて

それはもう筆舌に尽くし難い生理的嫌悪を味あわせてくれる。


 画像の中で背骨を中心に広範に蠢くそれらは

凹凸の多い背骨に穴を穿ち、周囲の神経や筋肉に群がって

白い身体をくねらせてのた打ち回っている。

『m新種だ』と、力なく彼が言った


『m』というのは、フォーラムメンバーの一人で

これらの写真が示すモノを、真っ先に否定していた人物のHNだ

現在もログインしていて、反応は無い。


 mからの反応が無いので、彼は話を続ける。

写真と画像が切り替わり、指先や口腔、眼窩や肛門等の部位の変性を提示する。

口腔や肛門・眼窩等の粘膜部位と爪の剥がれた指先には

背骨や周辺の組織に見られた様な穴と

小さな赤い…卵の様なモノが無数に付着している。


『気分の悪くなった者はいるか?私は吐きそうだった。』

彼なりのジョークなのだろうが、はっきり言ってタイミングは最悪だ。

もう、なんていうか、ほぼ全員がログインしている筈なのにフォーラムに元気が全く無い。


「15分の小休止と、見たくない人には後で重要な部分だけまとめて伝えたら?」と提案する。

珍しく彼からのレスが1分以上間を開けて

>>『わかった、そうしようY』と

アレ?ひょっとしてちょっと落ち込んだのかコイツ

一生懸命準備してたみたいだもんな…


 15分の小休止は、『衝撃映像』に凍りついていたフォーラムに

画面越しであるのに目に見えて弛緩した空気を発生させた。

今のうちに無料で使える画像加工サイトのURLを彼に送っておく。

動画はどうにもならないが、写真や画像には簡単な操作で画像にモザイクをかけられる筈だ。


>>『これは?』

『もざいくかけてあげて』

>>『だがそれでは生態の説明に支障が出る』

『もう少し手心というモノを』

>>『手心?』


 嗚呼、いかん。

あまりにも普通に日本語が通じるから(電話越しには喋っても見せた)

相手が外国人だって忘れていた。


…手心という概念が理解できない冷血って事は、無いよね?


『ハンデ…じゃないか、生々しい画像を見せないための…配慮、わかる?』

>>『…閲覧注意?』

『今回に限り正解』

>>『命に関わる問題だが』


 真面目だなぁ、提示された身分証明は医大生という事だったが

LIVE動画で姿を見た感じ、針金の様に細身のインテリ系という印象を受けた。

元から細身にしても、見るからにやつれていたが。


『折角の情報を得たく無くなってしまう』

>>『それは』

『人間は感情の生物だから』

>>『…Yは神父様と同じ事をいう』


神父って誰だ、なんか複雑そうだな…


『あー…。責めてはいない、ごめん』

>>『後で手心を追加した資料を纏めるから、手伝ってくれれば良い』

『おーらい』


 15分が経った。

再開の前にまず、後でまとめた情報を提示する旨を告知し

その上で『可能ならば、全情報を共有したいので我慢して見て欲しい』と彼が言う。

命に関わるというのは、比喩ではない。

幾ら苦手でも、何かの役に立つかもしれない情報だから当たり前だ。

彼は、誠実だ。


 何人かがメッセージを残して離席し、再度同意を得た上で

きちんとモザイクを掛けた画像が提示される。

今度の画像は拡大された蚊だ


 不自然に膨らんだ腹部は拡大するとたしかに赤く、血液を十分に吸い込んだ個体の様に見えた。

が、人間の血とは少し違う。どちらかと言うと、アレはさっきの『卵』の赤褐色に近い。


>>『有り得ない』

と、mが否定する。

>>『こんな感染経路は有り得ない、細菌か何かだと言われたほうがまだ現実味が有る』

『それか、いっそブードゥーじゃないのか』と

画面越しのmの発言からは、ただただ困惑と拒絶だけが伝わってくる。


 切開された蚊の腹部から、一滴の赤褐色の液体が溢れる。

プレパラートの上に零れた液体は、妙な粘性で雫の形状を崩さない。


 血の雫が傷口で凝固した時の様に、球体のままの赤い液体の画像が動画に差し替えられる。

いつの間にか薄く膜の張ったその表面が、ごくごく微細に蠢くのが見えた。


『先ほどの穴の中の赤い球体と、この赤い液体は概ね同じモノだ。』

淡々と

『卵の様な形状の球体は、その実卵ではなく』

モザイクを掛けた画像、最初は何かわからないが、想像力がそれを補う。

補ってしまう。


『先程の虫の様なモノを大量に含んだ生理的液体で出来た…正確では無いだろうが、()()()()の様なモノだ』と

あの犬の首から零れた、妙に粘性の高いドロドロした血が脳裏に浮かび

口の中が胃液の気配で満たされる。


『虫があけた穴から約1ミリ程度の球として内部に…』

粘膜に空いた無数の穴と、そこにビッシリと付着した球が思い出される。

脳内の映像にもモザイクを掛けさせて欲しい、鳥肌が収まらない。


『これらが噛み付きや爪…は剥がれる様なので指での接触、肛門や

男性器、確認できていないが恐らく女性器もそうだろう。体液と混ざって他の生物に侵入する事で、感染すると思われる』


『マウスを使った実験では、表皮に直接触れた程度では感染しない。』

『皮膚に傷がある場合は危険だ。』

『眼球や口内・肛門等の粘液も同じく感染と、体内での爆発的な繁殖と脊椎周辺の変性が発生している。』


>>『待て、待ってくれ。そんな寄生虫は存在しない!私は専門家だ!』


 mがフォーラムの方にパスポートと、何か身分証の様な物の写真を提示する。

自分にはよくわからないが、mは実際に寄生虫の専門家なのだろう

フォーラムの誰も、その証明を疑ってはいない。


『私は寄生虫の専門家ではないが、新種という他無い』

>>『有り得ない』

『データが出ている。もしかしたら、コレは厳密には寄生虫では無いのかもしれないが、現状そう表現する他無い』

>>『その確認が不正確な状況で、寄生虫の仕業と言うのはやめるべきだ!』


『m、では何と表現する』

>>『それは』


 話が完全に逸れている、どんどんヒートアップしていく彼とmに

『もう病原とかで良いんじゃないか』と言ってみると

『『じゃあソレで』』とあっさり採用された。

お前らそれでいいのか


『寄生虫…改め病原は、生理的液体の中でなければ生きていけない恐ろしく弱い存在だ。』

『40度以上の高温下・-1度以下の低温では活動が停止し、常温に戻しても活動は再開しない。


『恐らく死んでいると言っていいだろう』


『液体から取り出して、外気に触れても同様に活動が停止し、再開しない。()()()()()()でも同じだ。』


 閲覧注意の上で添付された映像では全長4mmほどの大きさの白い回虫の様な個体が

膜を貼った液体の中では活発に動いているが、膜を割って外気に触れると

10秒ほどで活動を停止し、ピンセットで摘まれてマウスに接触してもぴくりとも動かない。


『生理的液体以外の液体の中でも、病原は生きられないと思われる。』


 水道水・蒸留水・生水その他清涼飲料水や酒類で実験した情報が提示され

確実ではないが、事実上の水道安全宣言にとてつもない安堵が湧き上がる。

それでも一応の煮沸や、飲食は避けようとは思うが


『この性質上、銃やその他の個人用の武器・兵器で病原に接触・感染した個体と戦うことは可能な限り避けるべきだと忠告する』

『Yが小型の個体を感染せずに粉砕せしめたのは本当に幸運なケースだったのだ』と付け加える。


『病原の体内での振る舞いだが、病原は人体の脊椎周辺でこの様に…瘤の様な物を作り、擬似的に大脳・小脳の様な機能を形成して』


 画像が添付される、一枚目はモザイクのかかった緑の球体

二枚目は切開されたソレの中に白いものと赤い液体が大量に写っている


『主に温感を頼りに他の個体…20度以上40度以下の体温を持つ生物を感知して行動するのが確認されている』


『この機能は殆ど未解明だが』

『異常な筋力を発揮するのに走れない、走ろうとして失敗・自壊するのが世界中でフォーラムのメンバーに確認されているのは』

『病原の集まりが身体を動かしているからだと推測される。』


『この瘤型変性部位は潰しても切っても即座に再生するが

熱処理で一部破壊した結果、捕獲した個体は暴れなくなった』


画像の左右の肩甲骨の中央付近が円形に緑でマーキングされる。


ふむ…銃や刃物で破壊しても再生するが、高温で焼けば…倒せる?


『ごめん、熱した焼きゴテや火で炙った鉈でなら殺せる?』

>>『そんな事をするのはYくらいだろうけど、不可能では無いと思う』

『やらんて』


誰が好き好んで近接戦なんてやるか、せいぜい緊急時に()()()()()()()()()()()くらいだ。


 まぁ、正直、こんなアホみたいな事を聞くだけあって、かなり気が楽になっている。

細菌とか、胞子とか、そういう対処不可能なモノで無いと言う事がわかっただけで

油断はしないにしても相当に気が楽になった。


『病原は生物の体内で働きかけて、限定的に生命活動を維持しようとする。』

『体温が下がりきってしまえば自分達が生存できないからだ。』

『その上で、そういった活動にも当然エネルギーを消費する』

身体の前面を映す。

解剖した学生の身体は、異常な程痩せ細っていた。


『寒冷地では、アレらの大量発生があまり確認されていないのは寒冷地では宿主が凍りつくからだと推測される。』

あ、これは日本の殆どが大丈夫なフラグだ。

特に関東・北陸・北海道


>>『すまない、いいだろうか?』

『m、なんだろう』

>>『疑問なのだが、何故そんな種が、これだけ爆発的に、世界中に同時期に広まる?』

『それは…』


 脳裏に、視界の隅に

あの日、灰色になったきりログインしていない『彼女』の発言がよみがえる。


 どうなったのかは、わからない。

それでも彼女は最後にそう言っていた。

会ったこともない、翻訳サイト越しにフォーラムでやり取りして、

公開された登録プロフィールページに書かれている程度の事しか知らない彼女は

連絡が途切れる寸前に、()()()()()()()()


()()()()()()()()()()()()()


 保護して、どうした?

『家族だったモノ』に襲われる恐怖と絶望の中で

彼女が世界中を呪いながら吐露した

最も古いアレらの情報を語るログには、ソレ以上の何も真相に繋がる事は残されていない。


「人間が、運んだんだ」

彼とm以外も遣り取りを行っていたフォーラムに

ぽつぽつと、思った事を書き込んでいく。

『多分、いろんな国の、いろんな人間が自分の国に持ち帰ったり、外国に』

タイムリミットは最長五日、そして感染爆発の場所は多分…

()()()()()()

悪意は無い、無かった筈だ。


 インドの惨状は、恐らく極まっている。

実際『病原』の原産はインドなのかもしれない。


 そこから、他国、というか自国に引き上げられるのは恐らくアメリカ人

それも軍人や外交官くらいだ

ソコから、広がってしまったという…確証はない。

蘇るのは古巣で聞いた、陸曹のボヤきだ


『アイツらは世界中にいて、一番にやって来て一番に()()()()()()


 インドが取り返しの付かない状態になった時、多分()()()()()()()()()()()()()

自国の飛行機で、自国の人間を、安全な自国に引き上げさせた。

多分検疫や情報封鎖は万全だった筈だ。

それでも、完璧では、無かったのでは、無いか。


 インドを中心にアジアに広がるというなら、わかる。

だけど、mのいるドイツやフランスにもアレらはいる。

他にも情報が全く無い、オーストラリアの飛び地から自国に連絡を取ろうとしても

まったく連絡が取れずネットが遮断されている中国みたいな例だって有る

でも多分、同じ様な事がおきたのでは無いか


 アメリカだけでは無いだろう。

でも、多分、世界規模で同時期に発生したのは

最長5日最短2日の感染者という爆弾は、ニンゲンの手で世界中にばらまかれたと考えるのが…辻褄が合うように感じる。


 自分程度が考えることは、基本数カ国語を操るフォーラムのメンバーには

すぐに察する事が出来る程度のモノだったのだろう。

誰も、何も、責めない。

責める事など出来はしない。

こんな非常識な『病原』が無ければ、人間が世界を行き来するのは

好ましい、誇るべき事の筈だ。


『確証のないことは、もう言わない。ごめん』と発信すると

幾らかの好評価が帰ってきた。

画面越しに、気を遣われたような気がして息苦しい。

重箱の隅をつつく様な犯人探しの空気が消える。


『私は、既に連絡を取り付けた幾つかの機関やメディア、生き残っている大学にこのレポートを送付するつもりでいる』

『既に同じ様な研究をしている所には、僅かながらの後押しとなり

何も対策が立てられていない所には、ある程度の指標や参考程度にはなるだろうと思っている』

彼は続ける


『諸君、完全な纏めは後でYと相談の上で完成させて発表するが

絶望しないで欲しい、戦わないで欲しい、身を守ってくれ、状況の許す限り籠城を続けてくれ。

私は微力ながら、これから完成させるレポートが

一秒でも早く諸君らを外に出られる状況を作る様に努力する』


『生き残ろう』と、彼は


 会った事もない外国の医大生、『ハンス』が呼びかける。

それを、見た。

笑ってしまうほど真面目くさった表情で、インテリの青年が

ただ真摯にそれを呼びかけるのを、見た。


顔面が痛い


笑っていなかったのだ、もう長い間


 爆発するような文字の羅列がフォーラムを埋め尽くすのを見ながら

その向こうで、遠い、会ったこともない人達の歓喜と涙を感じながら

痛む顔面をもみほぐす。


『生き残ろう』その為に出来る事をしよう、全てを。


>>『Y、改めて手伝って欲しい』

『おーらい』

>>『手心は加える』

『どんだけ働かせるつもりだ』

>>『手心は加える、便利な言葉だ』

『変なことを教えてしまった…』

>>『手心は加える』

『もういいよ』


『フォーラムの諸君にも協力を要請したい、すべての国で

情報を間違いなく伝達する為に』

拒絶の声は無い。


『この状況を打破する手段はまだ無いが、時間は我々の味方であるらしい』


 既に9月、冬に成れば北半球の国は…と、希望を抱く。

北半球が持ち直せば、支援や防疫の手も期待できる。


『それで提案なんだが、私の友人の遺品を諸君らに使って欲しい』

『本来は法的に怪しいモノだが、きっと我々には必要なモノだ』

そして提示される、数十のテキストとアップロードファイル。


『ケインが無断で拝借し、運用している大学のサーバーで遊べる世界中のデジタルゲームだ。ケインというのは…』


『私の、()()()。悪友でもあるが。』


提示された学生証、アメリカの大学生。

解剖された『アレらに成ってしまった青年』、その人


『私は、こういう遊びをしたことがない。』


『教会で禁止されていたし、神父様も嫌っていたから』


『ケインに薦められても、頑なに拒んでいた』


 第六感なんて言うのは、有りはしないと思っている。

霊感なんてものは無い。

さっきから感じている、この妙な一体感も

モザイク越しの写真の細部を想像力が補っているのと同じ様な物なのだと想う。


いつの間にか止まったLIVE映像の裏で、止まっていないマイクから嗚咽が聞こえる。


 みっともなく、さっきまで真面目くさっていた顔をぐしゃぐしゃに歪めて


『もっと友達と遊んでおけばよかった』と泣いている青年の姿が視える。


素直にソレを吐露できない知性を、投げ棄てることが出来ない青年が視える。


 思えばさっきから、翻訳ソフトを殆ど使っていない。

それでも

『だから、籠城中の娯楽として、コレらソフトを提供する代わりに』

泣き笑う、生きようとする青年の意思は伝わる。


『私と一緒に、遊んで欲しい。ケインの分まで』

友達が残してくれた玩具を抱きしめて

彼が、『ハンス』が絶望に決別するのを視た。




2015/09/2()8():AM


なんかいしぬ


はしるぞんびこわい


らっしゅってなに


>>『Y』

インカムでの音声チャットではなく、フォーラムの方でハンスからメッセージが届く


『ナンデセウ』

>>『いくらなんでも下手過ぎないだろうか、エイムくらいはきちんとして欲しい』

『自分も初心者だし…もう少し手心というものを…』

>>『遊んでいるのではないのだぞ』

『お前ソッチが素か』

>>『何の事だ!!』


すっかりコツを掴んで、どこかのフリージャーナリストじみたゾンビスレイヤーと化したハンスに詰られながら

まだ固い顔面をもみほぐす。

いやぁ、コイツほんと面白いわ。


>>『ところでY』

『ん?』

>>『キミは私をハンスと呼ぶが、私はキミを何と呼べば良い?』

『あー…それは…』

さて、何と応えよう


 姓を名乗るか、名を名乗るか

そう言えば隣人は、自分を何と呼んでいただろうか

去っていった縁を想いながら、新しい縁を結んで


今日もまだ、生きている。


>>『ところでもし今後、焼きゴテでアレらと戦ったら詳細を教えてほしい』

『やらねぇっつってんだろうがッ!!』


縁起でもないことを言うな、本当に、頼むから。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ