【星新一風ショートショート】エフ博士の偉大な発明 「台風かき氷化計画」前編
今年2019年の台風で被害をこうむった住民のために、将来こんな発明がされたらいいなという夢をのせて書き上げました。そしてわたしの敬愛するショートショート作家、星新一さんだったらどんな発明をするのだろうと思って、オマージュとして星新一さんのような文体で書いています。前・後編のショートストーリーです。星新一さん好きにはおすすめです。
「やった!ついにできたぞい!」
エフ博士はそういって、白くて長いヒゲを満足そうになでた。連続の徹夜のあとなのだろう、目にはクマができ、ヒゲと同じく真っ白な髪の毛は、いつもよりましてモジャモジャになっている。
「やりましたね博士!これなら国民栄誉賞間違いなしですよ!ヘタしたらノーベル賞とっちゃったりして」助手のオー君も感慨深げにうなずいている。
「これこれ、この発明はそんな賞のためではないぞ!これは災害に苦しむ民を救うために発明したんじゃ!そのことをゆめゆめ忘れるでないぞ!」
ここ数年、エヌ国は大型台風による水害に悩まされていた。間違いなく地球温暖化のせいだろう。かつては百年に一度といわれた大型台風が、今では毎年のようにやってくる。そのたびに川は氾濫し、各地では洪水がおきていた。それを解決する発明がなされたということでエフ博士は一躍世間の注目を浴び、マスコミが押し寄せたのだった。
「え~エフ博士、今回台風を防ぐ発明をされたということで、早速ですがどんなものか見せていただきたいのですが。」国営テレビの記者が尋ねた。
「うむ。その前に台風ができる仕組みは知っとるな。南国の海で温められた水蒸気が地球の自転によって渦となり、それが発展して台風になるのじゃ。」
「ええ知っています。近年では地球温暖化の影響で多量の水蒸気が発生し、台風も大型化しているのですよね。」記者がうなずく。
「そのとおりじゃ。じゃから、結局のところ、水蒸気をまた冷やせばいい。というわけでワシが発明した装置はコレじゃ!」
博士が手を向けると、助手のオー君がうやうやしくベールをはがしていく。現れたのは一見、小型の原子爆弾のようなものだった。マスコミがざわついた。
「これは・・?原子爆弾ですか?まさか台風を爆弾でふっとばそうなんて考えてるのではないでしょね?そんな狂ったことするつもりですか?」
「ホッホッホ。そんなワケなかろう。台風のエネルギーはすさまじいものじゃ。こんな小型爆弾程度でどうにかなる物ではないわ。」
「この中にはな、液体窒素と特殊な液体が入っておっての。これが爆発して混ざりあうと、半径100kmのものが一瞬にして凍りつくのじゃ。これを台風の目の中に撃ちこんで、文字通り台風をかき氷のように凍らせてしまおうという計画じゃ。名付けて『台風かき氷化計画』じゃ!」
この発表は賛否両論を持って報道された。一部の意地の悪い評論家の中には「そんなにうまくいくワケないだろう」とか「こんなくだらない発明に国民の税金をつかうな」などと否定する意見もあったが、大半の国民は「これで台風をなくすことができるなら、こんなに素晴らしいことはない」と概ね肯定的だった。
そして、結局政府はこの発明を採用した。川や海に防波堤を造るのは多額の費用と途方も無い時間がかかる。それに比べてこの方法なら、爆弾を一発台風に撃ちこむだけだ。コストの面でもどちらが有利かは明らかだったのだ。
そしてエフ博士と気象庁、政府関係者の間で入念なテストがなされ、翌年の夏、いよいよ本番で使うときがやってきた。
「ふむ。今回の台風10号は比較的小さめの台風じゃの。試験運転としてはもってこいじゃわい。」
エフ博士や関係者が見守るなか、冷凍ミサイルを積んだ軍用機が台風に向けて雄々しく飛んでいった。はたしてうまくいくのだろうか?
後編に続く