現世でも勇者引きずってます
あれから1週間がたった。この1週間でわかったことを整理しようと思う。
俺は魔法などがない、いわゆる『現実世界』に転生している。ここでの俺の名前は立花 成世。私立の高校に通う17歳、高校2年生だ。家族構成は父、母、妹。妹は立花 碧。同じ高校に通う16歳、高校1年生だ。そして碧は女子中高生向けのファッション雑誌のモデルをしている。黒髪ロングで体型もスラッとしていて、「周りからあんな妹がいて羨ましい」といわれる。確かに可愛い。だが、実の妹である。別に可愛いからって何かあるわけじゃない。
今わかっているのはそれくらいだ。あと、この口調は少し珍しいらしい。今風な高校生になれるよう、口調を直そう。そう心に誓った。
そして1ヶ月がたった。
ピピピ…ピピピ……カチッ
「…んぅ…朝か…」
1ヶ月たてばこの世界にも慣れる。目覚ましも今は止めれるし、1人で起きることだって出来る。口調だって違和感ない。
顔を洗い、制服に着替えてリビングに行く。碧はもう起きているようだった。
「お兄ちゃんおはよー」
「碧、おはよう」
登校前の兄妹の会話なんてこれくらいだろう。碧は準備を完璧に終わらせ、メイクもバッチリしていた。ギャルっぽいのではなく、薄い感じの、ナチュラルな感じのメイクだ。
うん、今日も可愛い。
いつも登校は1人だ。友達がいない訳では無い。家の方向が一緒の人がいないだけ。碧はみんなと喋りながらわいわい投稿してるらしいが…羨ましくなんてないぞ!
学校に到着してからはクラスメイトと仲良くおしゃべり。勇者時代はフランクに話せる人がいなかったのでとても嬉しい。
授業はしっかり真面目に受ける。転生しても勇者だし。真面目に受けなきゃね。
放課後は友達と喋って時間を潰す。帰宅部だからね。
でも今日は珍しく喋らず帰るつもりだ。あんまり話しすぎると話題がなくなってしまう。それが嫌だった。
校舎の外に出て校門に向かっていると、声が聞こえた。
「ちょっと! だから剣道部のマネージャーにはならないって何度も言ってるじゃないですか!」
クラスメイトの白石 遥だ。白石は茶髪のショートボブが印象的な可愛い子。可愛すぎてクラスでおこなった「勝手に可愛い子選手権」で堂々の1位を獲得しているほどだ。剣道部のマネージャーに勧誘されてるのか。まあ、可愛いもんなー。
「そんなこと言わずにさー、頼むよー。ね?いいだろ〜?」
「ほんとにいやなんです!やめてください!」
…めっちゃ嫌がるじゃーん。マネージャーって大変そうだし、そりゃ嫌か。
にしても強引だな…。助けるか。勇者の血が疼くぜ!
「おい!ちょっと強引すぎないか?」
「立花くん!」
「あぁん? 関係ねーだろ」
「強引なのは良くないだろ。その手を離せ!」
「嫌に決まってんだろーがよー」
「わかった。なら俺に勝ったら勧誘を諦めろ。剣道で勝負だ」
「は?なんでお前と勝負しなきゃなんねーんだよ。お前関係なくね?」
……え?え?え?これってよく漫画とかでみるやつじゃん!ここ普通断らずに決闘受けるやつじゃん!なんで断んの?は?
「わかった、立花くんに勝ったら剣道部のマネージャーになるわ。負けたら一生勧誘しないで」
白石ナイスアシストー!!どうだ?どうだ?
「しゃーねーな。受けてやるよ。俺が負けるとは思えないしな!」
よっしゃーい。俺は元勇者だぞ。剣を握ったら誰にも負けない。
3分後
「ば、ばかな…県大会3位の俺が帰宅部に負けるなんて…」
「え?県大会3位なの?3位ってこんなに弱いんだね〜」
「ちっ、わかった、諦めるよ。もう勧誘しない。どっかいきやがれ!」
うっわー、かっこわるぅー。ってそんなことしてる場合じゃなくて。
「白石、大丈夫?」
「うん、ありがとう、立花くん」
やっば。白石間近でみるとまじかわいい。うわー、やべー、かわいいー。
「あ、あの、立花くん!」
「ん?どうしたの?」
うわ、声もやばい。あれみたい、鈴。鈴の音みたいに可憐で可愛いわ。
表面上は普通に答えているが内心ではこんなこと考えている。元勇者とは言え男子高校生だし。
「助けてくれてありがとう!お礼したいんだけど…いい…かな?」
かな?って聞く瞬間上目遣いになった白石。まじかわいい。え、天使じゃん。付き合いたい。
まあ、好きとかではないんだけどね!!!
「いや、いいよ。別に大したことしてないし」
ここで1度断るのが礼儀だ。俺は1ヶ月間でそう学んだ。
「いや!助けてくれたし!お礼!する!」
「ほんと?じゃあ、お言葉に甘えようかな。ありがとう」