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北海道営業部編

大学を卒業してM電機へ入社して、仕事にも家庭にも恵まれていた郷田俊。仕事では本社宣伝部に配属され、早くに社長表彰を2回も受賞し、可愛い妻と1男2女をもうけてバラ色の人生のスタートを切っていたが、一方で上司の策略に乗せられ、汚職事件に関わらさせられて、北海道営業部へ左遷させられることになった。

ここで少しM電機の事業形態を照会すると、創業は大正年間で戦後急成長した上場企業である。

創業者は社主と呼ばれ、日本で1番最初に、アメリカにも未だなかった独立採算制の事業部制度を採用し、「経営の神様」と呼ばれた松上孝之助である。3つの大きな部門(本社関係、事業部門、全国の営業部門)からなる。それぞれに関連会社を管理し、事業部を5つの事業本部が、全国の営業所を6つの営業部が統括し、それぞれに本部長が責任者として存在する。大阪と東京の2本社制度を取っている。

その営業部の1つである北海道営業部に郷田は現在在籍していをる。妻と話し合って単身赴任の了解を得て現在は単身赴任者寮に暮らし、通勤している。本社勤務の時は通勤電車で通っていたが、ここ営業部と寮は歩いて

10分程の距離なので、ラクラク通勤である反面、郷田にとっては学生時代に憧れていたサラリーマンらしい気分が少し物足りないような昨今である。

赴任して1か月が過ぎようとしたある日の夕刻に営業部長から席に来るように言われて、行ってみると

営業企画への正式な辞令があり、

「君は今日から北野課長の企画課へ行きなさい。君も大体は分かっているだろうが、営業部の企画の仕事は営業所の支援がメインです。そのことをまず頭において勤務に励んでください。」

「はい。分かりました。心得ます。充分にご期待に応えられるようにします。」

「早速だが、部長から既に君に仕事がでている。後でわたしの席の方でつたえます」

「では、私はこれから大阪本社である全社営業所長会議に行ってきますから、後は頼んだよ」

部長が行ってから、課長から支持を受けたことは、北海道内の販売網の充実と拡大という課題だった。

期限は一応の企画案を9月末を目途に部長にプレゼンテーション出来るようにとのことだ。

郷田は部長の期待の大きさとそれに応える難しさが分かるような気がした。まず何から手を付けたら良いかを検討する為に大学の先輩である札幌営業所の建材課の香川課長に連絡して、食事の約束を取り付けた。


M電機の事業は電気製品から照明器具、外装・内装建材、住宅関係の資材など幅広い。従って一言でその販路

の充実、拡大と行っても範囲が大きく、多岐に渡っており、容易なことではない。

だから、郷田は.先輩である香川に助言を求めたのである.15年勤務をし、様々な営業所を経験している香川なら何かしらのヒントは貰えるだろうと期待した。すすきので7時に待ち合せ居酒屋に入った。久しぶりに見る先輩はすっかり落ち着いた頼もしいサラリーマンらしい風防であった。

「久ぶりだな。どうだ札幌にも慣れたか。」

「はい。ご無沙汰してしまって。本当ならこちらへ赴任した時に一番先にご挨拶に行くべきところ、申し訳ありませんでした。」

「いやあ。そんなことは気にしなくてもいいよ。君の本社での活躍は知っているからね。それより、盛多さん件は大変だったね。とんだとばっちりを受けて」

「お恥ずかしい。先輩にも心配かけて。でも、もう忘れて一から出直しますので、今後はご支援宜しくねがいます。課長の立場で何かと大変でしょうが」

「何言ってるんだ。君との約束だろうが。我が社に入社したら協力するって」

注文した酒と料理が運ばれて、先ずは乾杯ということになった。

「ところで、今日の要件の本題にはいろうか」

「実は今日営業部長から特命を頂きましてその件でご相談させて欲しくて」

「何なんだい。その特命って奴は」

「一言で言えば、北海道営業部内の販売ルートの充実と拡大ということになります。要するに販売網の整備と販路の拡大です」

「おいおい、それは大変な課題だぞ。そんなに簡単なものじゃないよ。成功すれば社長表彰以上のものだよ」

「だからこそ、次期所長候補ナンバー1の先輩に知恵を借りたいなあと思って来ました」

「冗談じゃない。俺にそんな知恵があるわけないだろう。買いかぶらないでくれよ」

「お願いですから、北海道の各販売チェーンの実情からご教授ください」

「でもな、いくら何でも全ルートを担当してるわけでもないのに、それは無理だわ。営業部の企画課長に相談したかね。それが一番早いよ。何てたってあの人は北海道を殆どと行って良いくらい経験しているからね。もう5年無いんじゃないか。60の定年まで」

「ええ、そうなんですか!若く見えますね。それじゃ、課長にも意見を聞かせてもらいますが、先輩の担当されたルートだけでも教えてください。」

「そうだなあ。建材ルートだけでも代理店が20社販売店は300以上あるし、主に扱っている取引商品も違うからな。まずは、どこの代理店を巻き込んで成功例を作るのが良いんじゃないかな。」

「私もそれはそう思います。どこを最初に攻めるかですよね。」

「競合他社のあまり強くなく、我が社の経営方針に賛同される社長がいる代理店と傘下の販売店や工務店かな。俺んところでは、木ルートの収納家具系の造り付けタイプの製品の販売が強いところ。A社とD社かな」

「そこは販売店の数はどれくらいありますか。」

「2社で100社程度だよ。でもこれで北海道では、当社のシェアーは60近いよ。」

「じゃ、そこに狙いを定めましょう。先輩一度そこへ挨拶に連れて行ってください」

「構わないが相手は商売人の社長だから、余程自分所に利益があると、思われないとそうは乗ってこないよ。具体的な手段を提案しないと、中途半端なものでは説得は難しいぞ。」

「1週間ください。プレゼンの準備をしておきます。それと2人の社長に挨拶に行くときは是非同道ください。」

「いいだろう。内の営業にもプラスになることだから、所長にも行ってもらうよ。そのためにも自前に所長にも話をしておいきたいので、プレゼンの概要を話しておいたほうが良いよ」

「わかりました、では来週金曜に所長に、そして翌週に両代理店にということでどうでしょうか」

「分かった。先方に、主旨をつたえておくよ。」

食事をして、先輩のつき合いで使う店へ行った。

薄野の中どころにある雑居ビルの中の一軒スナック明美に入った


大阪と違い、垢抜けしたスッキリした店の作りで俊は落ち着けそうな雰囲気が気に入った。

「先輩良い店ですな。僕は好きですよ。良いところへ連れてきてくれて嬉しいです」

「へえ、ママこちらは今度北海道へへ赴任してきた僕の後輩であり、我が社のエース、郷田俊君だよ」

「まあ、明美と申します。これからもごひいきにお願いします。香川さんが同じ会社の方と来られるなんて珍しいと思ったわ」

「彼はここを、気にいてくれたらしいので、ちょくちょく来るから宜しくね。但し札ちょん(札幌で単身赴任のこと)だから、女関係は無しだよ」

「分かっています。内は直美ちゃんがしっかりしているから大丈夫よ」

その直美が俊のカウンターの前に来て挨拶をした。暫くし飲んで、歌って10時過ぎに、

「そろそろ引き上げようか、明日朝から会議なんで。君はもっと飲んで帰ればいいよ」

「いえ、自分も今日は帰って、今日のことを整理して考えますから」

というわけで、二人は明美を出て、駅と寮方面に別れて薄野の雑踏の中に消えていった・

次の日、郷田は朝一番に北野課長に相談し、意見を求めた。だが、北野は何も答えずに会議室へ入るように目で合図した。会議室でしばらく待つと北野が分厚いファイルを5冊持って来て、

「この資料に全部目を通したら、呼んでください。私は今日は札幌電機営業所の会議が4時まであるので、夕方に話を聞きましょう」と行って出て行った。

一人残されて郷田は「こんな資料なら、もう読んだのに今更何を見ろというのか」ブツブツ独り言を言いながら、資料に目を通していくと、依然何気なく読んでいたことに気づいた。その資料は現在の北海道営業部

の問題点がルート別に提示されていた。例えば札幌営業所の建材課は一部代理店の社長の意向が強く他の代理店の不満が多くあり、傘下の販売店もそれぞれにまちまちで営業所が政策を打ち出しても、思うように反映されない事が多い。事業部がキャンペーンを展開しても顧客に情報が届かないことが多い。代理店も賛同し、そのメリットがあると代理店や販売店に認識させるだけの説得力のある営業所が主体のセールを企画して、今後はM電機の政策に従った方が得だと販売店に認識させ、一部の代理店やその経営者の顔色を見ることを止めさせることが必要。営業所員の意識改革を先ずはすべき。それが出来ればセールの企画さえ立案して実施すれば良い。但し今までやったことのないセールの検討をしなければならない。その為には過去に営業部にも営業所にも関わりのなかった社員に企画立案の重要課題を検討させて、くらぶえいぎょう部がバックアップする必要がある。ということが、1冊のまるまる内容であった。郷田はこのファイルのまとめた担当者は誰か北野に聞いてみようと考えた。そろそろ5時に近く北野の帰りを会議室で待った。ノックするので覗いて見ると女子社員が伝言ですと、北野からの連絡を告げた。今日は電機営業所の打ち上げ会があり戻れないので、良ければ薄野のクラブツーショットに来てください。地図を届けさせているので、分かると思います。8時には行きますので何処かで夕食を食べてから、来てください。朋子ママと香織というホステスが

応対してくれるから宜しく。郷田は驚きその手際の良さに舌を巻いた。直ぐに営業部を出て、近くで夕食を済ませて、薄野へ急いだ。クラブツーショットはすぐにわっかた。入って行くとママが出迎えてくれた。

いらっしゃいませ!と華やいだ声があっちこちから聞こえて緊張してしまった郷田は、

「北野さんはまだ来ていませんか?」と尋ねると、ママがらしき女性が

「郷田さんでしょうか。北野さんからお聞きしています。お席へご案内しますので、来られるまで少しお待ち頂けますか。香織ちゃんご案内してね」

「はい、ママ。こちらへどうぞ」案内されるままに、郷田は席についた。

「香織といいます、宜しく」名刺を出したので、受け取った。

「お名刺、いただけません」と香織が言い、慌てて郷田は出した。何か落ち着かない郷田に

「何をお飲みになりますか。」

「ハイボールを」

「私も頂いて良いですか」

「どうぞ」

「バーテンダーに行って来ますね」

飲みものが来て、2人で飲んでいるところへ北野がやって来た。先ずは乾杯ということになり、ママも参加した。改めて、北野から郷田が紹介された後、

「資料は目を通してくれたかね。感想を聞かしてくれ。あれは私が纏めた私案だから、遠慮はいらないよ。君の感じたまま言ってくれ。」

「正直に言って、驚きました。代理店の問題点がよくわかりました。ただ私にはそれでどうやって販路の充実と拡大に繋げるか具体的な戦術はピンと来てませんが。まだ、実際に自分の足で聞きまくって、調査をして具体策を提示できればと思いますが」

「それでいいんじゃないかな。あせらずじっくりとやるべきことだと思うよ。今後も私で良ければ何でも聞いてください。まあ、今日はこの辺にして、ゆっくり楽しんで行きなさい。部長にも了解を取っているから安心して」

「ええ、部長もご存じなんですか。ありがとうございます」

2時間ほどいて引き上げることになった。帰りのタクシーを待っている時に、

今度北海道営業部の営業会議があるのでそれに出席するように部長が言っていたことを、告げられた。

「何日でしょうか?」

「来週の木曜日に大会議室で、13時からだよ」

「それまでに、調査等で営業所が協力できるであろうと推測できる事前調査の内容を纏めておきます。」

「出来るだけ早く纏めて部長に見せてから発表してください。所長会には事前に今回のテーマとして伝えておくから」

「分かりました。火曜には課長と部長に提出します」

ということで、別れた。

帰る道々郷田は自分の運の良さに思わず身震いを覚えた。こんなに大きいテーマを自分が今回果たせたならばきっと、大阪へ帰るのも遅くない将来のことになると確信を持った。その晩興奮気味で遅くまで眠れずに

考えが頭をよぎり、眠ったのは3時を過ぎていた。翌朝出勤して北野課長に昨晩のお礼を言い、早速先輩の香川に連絡して、昼の間に1時間ほど時間をとってもらった。3時に営業所へ顔を出すと香川がいてくれた。

「よう、こっちで良いかい」と所長の席の前のに応接セットに誘った。丁度在籍していた所長に紹介されて挨拶をした。所長は「君が噂の郷田君かい。よろしく頼むよ」と言われ「一生懸命頑張りますので、宜しくお願いします」と返事をした。先輩らしい気づかいだな。郷田はつくづく良い先輩に恵まれたと感謝していた。

「どうしたの。この間の話考えが纏まったのかい」

「いいえ、まだですが、ヒントは北野さんから頂きましたので、先輩に聞いてもらいたいと思って来ました。早速ですが、代理店の間で変な競争があって、M電機の意向即ち営業所の思うようにはなかなか行かないと、聞きましたが。本当か、その原因は何かを教えてください。」

「その件についてはノーコメントだな。私の立場では言えないことくらいわかるだろう。君が自分で当たって見て判断してくれ。代理店と販売店の照会はするよ」

「すいません。そうでした。紹介だけお願いします」

先輩から、紹介されたのは、住宅建材代理店 浜中建材(社長浜中)・堂園住建(社長堂園)、住建ルートの販売店 河合工務店(社長河合)・村田建材(村田社長)と、電機代理店  朝日電気(井出社長)・東山電機(東山社長)、電機ルートの販売店の久代電気(久代社長)・ハート電機(心石社長)の4社長である。紹介状代わりに先輩に一筆名刺に添えてもらって、営業所の担当者とアポイントを取ってから訪ねることにした。電機営業には先輩から担当課長に了解を取ってもらっている。次の日早速了解を得た順に訪ねて行った、住建ルートは代理店、販売店共に浜中派と堂園グループで考え方が固定され、代理店の意向が強く反映された古いタイプの経営傾向にある。メーカーの政策に沿って行くというより自身の経験が一番の傾向あり。電機ルートは新しいことには反応が早そうだが、資本力が小さいため代理店主導になっている。

ただ1点だけ、両ルートに共通していたのが、最近の顧客が新商品なら飛びつくという傾向から変わってきたという話であった。何へ変わっているのか。それが良く掴めていない。宿題らしきものがぼんやりしてきたので、営業所へ戻って各営業担当者を集めて所長会議を開いてもらった。そこで検討していくと顧客への調査を実施して欲しいとの要望が強く出て、営業部長の決裁で広告代理店に調査を実施させることが決まった。部長から郷田が窓口とし進行を担当するように指示された。

郷田は直ぐに札幌の大通支店に連絡して、担当者を呼び、その日の内に調査設計をし、1週間以内の実査から報告のまとめを指示し、大通本社にも連絡して、旧知の吉村(今は部長職)に応援を依頼した。

予定通り結果が出て、報告を受けて問題点がハッキリしてきたさ。調査でわあかったことは、最近の顧客は製品の良さはどこのメーカーも余り技術力の差はないと思っていて、購入時点に最も気にする点は、不具合や故障時の対応がどうか?ということ。すなわち、如何に早く、安く修理等の対応をしてくれるのか?ということであった。この点は郷田もピンとこなかったので、先輩に確認すると、

「それは、ある意味北海道らしい顧客の要望だね。多分他の地域では感じにくいだろうね。俺でも言われてみて初めてなるほどねえと思うよ。住んでみると分かるけど、北海道の広大さだよ。何しろ、四国と九州を

合わせた面積に相当するらしいからね。従って、通常でも直ぐに修理に伺うことが出来ない地域が多く、ましてや本社の言う3日以内の対応なんて、都市部以外では難しい現状だからね。なかなか約束出来ないのが現状だよ」

「それだ!先輩それをメーカーが応援して保証しましょうよ。」

「そんなことは、絵に描いた餅だよ。とても無理。当社の信頼が無くなることもあるよ。」

「だから、我が社でサービス会社を設立して、修理サービス網を北海道に敷くのですよ。そうして新たに新販売網を作り、顧客に宣伝するのです。そうすれば販売網の拡充につながり、顧客の信頼も上がるので、売上のアップが狙える一丁何石にもなるんじゃないでしょうか。」

「それはそうだが、部長の首がかかるほどの投資を本社が認めるかな。」

「自分が本社に掛け合います。何が何でもやって貰います。先輩もあらゆる手段を使って応援してください。」

「わかった。先ずは来年度より実施の計画のフォーマットと企画書を作成し、部長をはじめ北海道の全所長、代理店と販売店の賛同を得て本社の営業統括専務に提出することだな」

「わかりました。計画を立て、企画書は私が早急に作成します」


今まで考えたことのない戦略課題に郷田は胸が熱くなった.何としても代理店に賛同を得て進めねば。その為には先ず建材代理店の反目を失くし、手を結ばせることが第一だろう。そうすれば本来の本命ルートである電機も付いてきてくれるはずと思っている。ではどうやって何を説得するかは調査結果の問題解決が出来れば良い。手始めに部長を説得して修理サービス会社を設立することだ。営業部に戻ると、部長室に行き調査結果を説明してサービス専門会社設立の趣旨と概要を報告し、この前の指示された課題を解決する戦略であることを説明した。部長は期間がどれ位かかるか、また予算のトータルについて至急出すように命令した。部長の任期期間は噂では後2年らしいとのことなので、心配されておられるようだった。

すぐさま、席に戻り大通の担当者を呼び、関連情報の収集を依頼した。次に営業部の人事部に行き、部長に

関連会社設立への応援を頼んだ。人事部長は難しい顔で、費用次第だと返事して、本社の取締役人事部長がOKなら良いだろうが。全国でもサービス会社は未だなく、「サービスセンターがあるだけだからな」と

言った。郷田はだからこそ、早く立ち上げて全社をリードする必要と人事部長の功績になると説得した。

部長も軟化して、新関連会社設立への段取りを教えてくれた。また派遣すべき人材の選択は人事部長に一任することで一致した。返して営業部長に報告し、企画書を纏める作業に掛かった。1週間郷田はほとんど寝ずに取り組んだ。漸く出来たのでそれを見てもらいに、先輩と北野課長を営業部た。会議室に呼び出した。

3時間余り掛かって説明と質疑を終えて2人から了承を得て、郷田は「ふうー」、と息を吹いた。「良くこの短期間に纏め上げたね」と慰労された。次の日に2人と共に営業部長と人事部長に説明して了解を得た上で、いよいよ代理店への説明である。電機ルートへは北野と建材ルートは先輩と説明会を開いて、説得した。両方とも社長は感心して是非早い機会に設立の発起人会を開きたい旨申し出られた。販売店は代理店会として説得を任せた。いよいよスタートとなった。そらから1年後サービス会社がオープンした。郷田はマスコミに広報活動した。結果札幌以外のテレビ局や新聞社が記事にしてくれて、予想以上の反応があった。

それを活かして、郷田は新聞広告を展開した。その内容は

「私たちは、お待たせしません。修理サービスのご用命はM電機が保証する下記の看板のお店へどうぞ」

との見出しであった。反響は大きくお客様からの問い合わせが殺到した。営業所でも特にどちらかと言うと今回のようなキャンペーン実施に消極的であった所長のいる営業所はてんてこ舞いをしたようである。

サービス会社のオープン前日の広代理店、販売店もその影響の大きさに驚いて管轄の営業所へ問い合わせが多くあったようだ。ほとんどが修理に来て欲しいという内容で、他社メーカーの製品のお客様も多く、郷田たちの狙丹東市ゆもくひしんゅ通りだった。1万件を超す勢いで1週間が過ぎるころ、代理店から新規に系列に入りたいと希望する販売店が来て居るので、営業所に認可申請の手続き依頼が殺到していると連絡が多くあり、その後注文がうなぎ上りで、全道の営業所で年間の新規取引先開拓目標をオーバーする勢いだ。勿論M電機の北海道営業部全体として売る上げが当初目標の3倍以上になった。しかも2ルート以外の代理店からも是非サービス会社の担当品種の拡大をとの要請が多く、5ルート全体に広げることが決まった。

その年の暮れには、11月決算で全営業所が新記録を達成した記念の代理店、販売店の主なところを招いての招待会が開催されて、社長以下幹部が北海道に集まった。その席で営業部長の取締役昇進、北野課長のサービス会社副社長職栄転、先輩の課長から次長の昇進が内示された。多くの営業所長も栄転することになり、営業部全体がお祭り騒ぎになった。翌年の創立記念式の社長特別表彰の対象となりチームリーダーとして郷田は個人表彰もダブル受賞した。その表彰式の後、人事部長に呼ばれて行くと

「郷田君おめでとう。君が希望していた地区とは違うが今回の実績を活かして専務が名指しで君に指名したんだよ。九州営業部の企画課長に栄転だよ。」

「ありがとうございます。でも何故私が?」

「サービス会社があれから全国の営業部に設立されたが、九州だけは未だ無いのを専務が心配されていて、君に白羽の矢が当たった。いろいろ大変だが、頑張ってくれたまえ。移動は来月の6月1日付だよ。」

「人事部長、短い北海道勤務となりましたが。九州も自分にとっては未開の地です。家族の了承を得て、単身で乗り込みたいと思います」

「いやいや、色々とあったがこれも君への試練かも知れない。九州でも実績を積み上げて帰って来なさい。私も出来るだけのことはするよ。ただ、不満もあるだろが、将来の君に良い経験となると思っている」

「次回の辞令を心待ちにして、行ってまいります。それでは失礼します」とドアーを閉めた郷田は正直今回の辞令で大阪へ帰れるもの思っていただけに、がっかりして、うな垂れた。

それから、帰宅して家族報告して、あくる日北海道へ帰り、営業部長はじめ北野副社長、先輩に報告した。

先輩が音頭を取って、郷田の栄転を祝うお別れ会が5月も末の30日に開かれた。驚いたのは、郷田も良く知らない営業所長・課長や代理店の社長、販売店主も、集まり総勢100人を超すちょっとしたパーテイに

なったことだった。2次会、3次会と回って寮に帰り着いたのは、午前3時を回っていた。

俊は一人なって、今日3次会で行ったスナック千代のホステス直美のことを思い出していた。俊とは何度か先輩と一緒に飲みに行って話したことがあった。時には彼女の恋愛の相談役になったりして、それなりに楽しい日々であったと思う。しかし今日突然に

「好きです。九州に行かないで」と言われ困惑と驚きであった。俊は

「君わまだ若いから、僕よりもっと良い人が沢山現れるよ。僕には家族もいるし、会社人間の私を知っているだろう。無理を言わずに何にもないからこそ、、別れやすい状態で良い思い出を胸に抱かせて、転勤させてほしいんだ。分かるね。」

彼女の涙をハッキリ覚えてる自分を叱りつけるように

「さよなら」と別れてきた。俊にとって、一生で初めての異性との別離であったような気がした。

さあ、明日からまた一からスタートだと自分に強く言い聞かせる俊だった。


九州へは北海道から飛行機で2時間ほどだが、郷田は移動前に家族と会って、もう少しの辛抱を願いたくて、有休を取り、東京経由の新幹線で福岡入りした。早速九州営業部へ着任の挨拶に出向いた。

時刻は夕方の4時過ぎであったが、営業部長以下スタッフ一同が在籍していた。部長に今度北海道営業部から異動で来た旨挨拶をした。部長は

「君のことは良く聞いているよ。サービス会社の設立のために専務が名指ししたそうじゃないか。言わばエリートだね。私たちのような都落ち組とは違うから、活躍の場が少ないかも知れないが、よろしく頼むよ。

そうだ良い機会なので、全員に紹介しておこう。」と言うことで皆の前で紹介された。その後、各自から自己紹介があり、セレモニーは終わった。部長から改めて、自分の上司の次長と部下3名を紹介された。名前はそれぞれ五十嵐次長、小池主任、伊東(男性)、早田(女性)であった。特に赴任して当分は伊東君に世話係を頼んだ。伊東は

「宜しくお願い致します。早速ですが、これから、単身者寮にご案内しますが、如何でしょうか。」

「お願いします。」と言うことで寮へ向かった。寮までは歩いて10分程で、北海道と同じ程度であった。

道々郷田はもしかして、これはやりにくい所へ転勤して来たかもしれない。あの部長の挨拶が頭に残った。

しかし、考えてみれば北海道も当初は同じようなものだった。だからこそ、大いに燃えなければ自分は大阪へ帰らなければならないと・・・・・・・


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