534列車 女3人「つるぎ」に乗る
北陸新幹線京都駅。
私は大きな荷物を持って、北陸新幹線ホームへと続く階段をゆっくりゆっくりと降りて行った。
「ハァ、重い・・・。」
梓は踊り場でそう言い、いったん荷物を置いた。
「キャスター付きの持ってくるんじゃなかったなぁ・・・。」
「どうする、今から戻ってエレベーター使う。」
そういうのに見かねた美萌が言う。
「今から戻るのに疲れるわ。少し休んでからまたホームに行きましょう。萌ちゃん。新幹線までは時間あるのよね。」
「うん、時間あるよ。「つるぎ812号」は9時22分発だから。今はまだ9時05分だし、まだ余裕で間に合うよ。」
私はそういう。今日、私たちは「つるぎ」に乗って金沢に行く。前に話していた旅行に行くのだ。今回乗車する「つるぎ812号」は敦賀、福井、金沢、新高岡、富山に止まる速達型タイプの「つるぎ」だ。
「やっぱ、電車よくわかる人がいると助かるわ。」
「・・・。よしっ、行こう。」
梓も立ち上がり、キャスター付きのケースを持ち上げて、階段を降りる。ホームに降り立つと私たちは12号車へと向かった。
「間もなく、52番乗り場に。9時17分発「つるぎ812号」富山行きが到着いたします。列車は前から1号車、2号車の順で一番後ろが12号車です。「グランクラス」は12号車。グリーン車は11号車です。自由席は1号車から4号車です。」
一部車両が営業していない「つるぎ」は今や過去のものである。
新大阪側から白いライトをつけ、W12系が入線する。「キィキィキィキィ」と大きいブレーク音を立てながら、列車は定位置に止まる。ホームドアが開いて、私たちは車内に入った。
車内に入るとグリーン席よりも大きい椅子が並ぶ。この光景を見るといつも「すごいなぁ」という感想しかわかない。
私たちが椅子に座るよりも前に京都を出発する。しばらく走るとトンネルを抜け、外には一面の銀世界が広がる。銀世界を眺めているとすぐにトンネルに入り、あたりは黒い世界へと変わる。それが何回か繰り返される頃には出発直後に出された軽食を済ませ終わる。列車は右へ傾き、駅を通過する。
「ここってどこ。」
隣に座っている梓が聞く。
「小浜だよ。」
私がそういうと、反対側に座っている美萌が「海が見えるよ」という。反対側の窓からのぞく日本海は冬の様相だ。荒々しい雰囲気が遠くからでも伝わってくる。そして、またトンネルに入る。
「・・・ねぇ、二人にちょっと報告したいことがあるんだ。」
「何よ、改まって。」
「まぁ、萌ちゃんのことだから、この旅行が終わったらナガシィ君と北海道でも行くって話なんでしょ。」
「まぁね・・・。前に行ってた最長往復切符の旅だけど、やっぱりすることに決めたわ。」
「そうかぁ・・・。やっぱりやるかぁ・・・。」
「私たちじゃ考えられないようなことするのね。」
二人の反応は意外だった。私からしてみると「バカなことはやめろ」って言われると思っていたのだが・・・。
「気を付けて行ってきなさいよ。日本中回ってくるんだから、体調管理はしっかりね。」
「日本各地のお土産待ってるからね。」
「ハハハ・・・。」
「でも、お金はどうするの。今後のためにあんまり使いたくないって言ってたよねぇ。」
「うん。それなんだけどねぇ。亜美ちゃんが最長往復切符でかかる経費全額負担してくれるっていう話になって。」
「ゼッ・・・全額。」
二人は声をそろえる。そうなるよねぇ。私も聞いたときはナガシィと顔を見合わせたし。
「全額って・・・まず切符代は全部。」
「本当の全部。切符代、ホテル代、観光経費、全部。」
「・・・はっ・・・。」
梓と美萌は目を点にして、顔を見合わせた。
「大富豪ってお金の使い方が違うわねぇ・・・。」
「違うって、梓。石油王・・・。」
「・・・ええ・・・。亜美ちゃんのことだから、私たちが言うのはおかしいんだけど、そんなお金使って親孝行でもしたら。」
「うん。そう言ったらね「もうすぐ、四季島の最高グレードに乗せる予定。」だって言ってたわ。」
梓と美萌はもう一度目を点にして、顔を見合わせる。
「・・・やっぱ、石油王・・・。」
「・・・違う、宇宙王・・・。」
北陸ロマンが流れる。
「間もなく敦賀です。福井ダイナ鉄道はお乗換えです。降り口は左側です。敦賀を出ますと次は福井に止まります。」
「ご乗車ありがとうございました。間もなく敦賀です。乗り換えのご案内をいたします。今庄、武生、鯖江方面へ参ります普通列車福井行きは9時57分、4番乗り場です。この列車強風の影響で現在3分ほど遅れて運行しております。乗り換え時間みじかくなっております。ご利用されるお客様、お手数ですが4番乗り場へお急ぎいただきますようお願い申し上げます。」
一口メモ
西日本旅客鉄道北陸新幹線
高崎~新大阪間を長野・金沢経由で走るフル規格新幹線。敦賀~新大阪間の開業を持って全通した。態勢は主に東京~金沢、富山~新大阪間で分かれており全線を通しで運行する列車は定期の「かがやき号」だけである。
「つるぎ」
富山~新大阪間で運行される種別。停車パターンが最も多く列車ごとに違うとまで言われる。12両編成で「グランクラス」は12号車、グリーン車は11号車、自由席は1号車から4号車。それ以外は普通車指定席である。なお、「グランクラス」でのアテンダントサービスは全列車で行われていない。