597列車 貸し切り旅館
2062年3月27日・月曜日(第20日目):天候晴れのち曇り 大井川鐵道大井川本線千頭駅。
寸又峡温泉の旅館にはバスで行く。旅館群が近づいてくるとバスはこすりそうにもなる細い道を抜けていくようになる。そんな道を抜けて、たどり着く場所が寸又峡温泉である。
「こんな所バスで通り抜けてくるなんてしらかなった。」
萌が言う。たしかに、この場所は細いよなぁ。毎日車を運転してきた僕ではあるが、こんな所を少し大きめのバスで通る気は起きない。
僕たちはバス停からそれほど離れていないところにある旅館へと入った。
自分たちの泊まる部屋に通されると、僕らは畳の上に横になった。
「ふぅ・・・。」
「今日も今日で疲れたな・・・。」
「そうねぇ・・・。一日中電車に乗りっぱなしなのは変わらないけど・・・。」
「そうだなぁ・・・。」
「・・・。」
萌の寝ている方に目をやると萌と目が合った。
「ナガシィ・・・。」
「んっ。」
「私が若かったら、ナガシィは私のこと襲う。」
「はっ・・・。」
「襲うのかどうかって話。どうなの。」
「・・・。」
襲うのかどうかねぇ・・・。多分襲うんじゃないかな。多分ね。そう言ってみると、
「ハハハ・・・。別にナガシィには見られても良いよ。今日のお風呂混浴だったら一緒に入ってあげても良いよ。」
「混浴じゃないなぁ・・・。残念。」
「それはどっちの意味。」
「どっちも。」
スーツから浴衣に着替え、お風呂に入って、自分たちの部屋に戻る。僕が先に戻ってきたため、少しの間、萌を待つ。しばらくすれば、さっぱりしたと言いながら戻ってきた。
「ナガシィの大好きな石けんのにおいの萌ちゃんだぞぉ。」
「言いたいだけだろ。」
「まぁ、言っても今は襲ってこないって知ってるしねぇ・・・。」
「・・・。」
「まっ、襲っても良いけど、恐うんから私だけにしときなよ。捕まったら色々と洒落じゃ済まされないから。」
「心得てるって。」
さすがにそこまで馬鹿じゃないからな。
「コン、コン。」
「はーい。」
「永島様。お食事の用意が調いました。」
「ご飯できたって。」
「ああ、行こう。」
食事が用意されたのはそれほど離れていない部屋だった。部屋の真ん中に2人分の食事が並んでいる以外、食事はおかれていない。広い部屋を豪勢に使っている感じがする。
「こんな広い部屋であれだけしかおいてないって。もしかして、この旅館私達ぐらいしかいないんじゃない。」
「はっ、まさか。とりあえず、食べようよ。」
「私。」
「それは冗談だよね。」
「うん、冗談。」
食事を食べ終わって、別の部屋の脇を通ったりしても、どうも僕たち以外に人の気配がない。
「これってもしかして・・・。」
この旅館で過ごすこと1日。色々と確信に変わっていった。




