531列車 去る2017年3月4日
「来る2017年4月1日。日本の鉄道網を支えているJRは発足30周年を迎えます。」
その口上から始まる動画を開いた。画面には雪を巻き上げて走る赤と緑の新幹線が右から左へ高速で駆け抜ける。画面が切り替わり、SLが走る場面へと変わる。走っているSLはJRじゃないらしいが、鉄道に詳しくない私にはその違いがよく分からない。このシリーズの動画を見始めた時、「真岡鉄道だな、これ。」とおじいが言っていた。その時は見ただけでよく分かるなぁと思ったものだ。
「またその動画見てるのか。」
そう言い左隣に常陸兄が座ってきた。
「良いじゃん。好きなんだし。」
「どっちが好きなんだよ。その動画のうp主。」
「知ってるでしょ。おじいと同じぐらいの歳だって。」
「ハハハ。」
常陸兄は私の左腕に付いているホログラムをいじり、勝手に画面を大きくする。見やすくなるのは良いのだが、これされるとホログラムの充電減るのが早くなるんだよなぁ。
「播州って人も馬鹿なこと考えるよなぁ。」
「馬鹿な事って・・・。常陸兄だって馬鹿じゃない。電車で東行ったり、隣の駅に行くのに13時間もかけて行くなんて考えらんない。」
常陸兄は乗り鉄って言う鉄道ファンだからなぁ。私からしてみるとかなり変人じみたことをよくやっている。電車で東京行ったり、隣の駅に13時間かけるのはまだまだ可愛いほうだ。今年の夏にはママに頼んで新幹線の列車種別をコンプリートしながら、札幌まで行っていたからな・・・。しかも、その本人は帰ってきて「「はやて」に乗れてないんだから、コンプしてねぇんだ」って言ってるし・・・。もう訳が分からない。
「良いだろ。勉強場所としては最適なんだからさ。」
「信じらんない。」
「稲穂は分かってくれると思うんだけどなぁ・・・。」
「分かるわけ無いでしょ。」
「お前、初登場がこんな暗い場所で何やっているんだとおっしゃる方もいらっしゃると思いますが、ただいまの時刻は21時30分。後ろにありますは東日本旅客鉄道の東京駅です。私このチャンネルの投稿者であります、播州亜多琉と申します。私自分のことをあだ名で呼ぶというのが嫌いでございまして、この後私が「播州です」と名乗ることは無いと思いますので、ここで名前を覚えていただけるとありがたいです。」
「隣良いかな、稲穂ちゃん。」
「良いよ、おばあ。」
右隣におばあが座る。
「おっ、「サンライズ」。」
常陸兄の目がきらりと光る。電車大好きの常陸兄には夜を越える電車というのに並々ならぬ関心があるのだろう。だが、私からしてみるとなぜ新幹線よりもこんな地味な電車なのだろうか。
「「サンライズ」はおばあちゃん乗ったことないのよねぇ・・・。おじいちゃんは乗ったことあるのに・・・。」
おばあもこんな地味な電車好きなのかぁ・・・。
「おばあ、何でこの「サンライズ」って言うのがそんなに良いの。」
「そんなの決まってるだろ。ロマンだよ、ロマン。新幹線なんて旅情なんて無いだろ。鉄道で旅するなら、やっぱり時間かけて、翌朝に目的地に着くって言うロマンが・・・。」
「常陸兄には聞いてない。」
「理不尽。」
「・・・うーん。そう聞かれるとおばあちゃんも困るなぁ・・・。」
そこまで言うとおばあはおじいを呼んだ。近くに来たおじいに私は「新幹線と寝台特急どっちが好きか」とぶつけてみたが、おじいからは「寝台特急」と即答された。
「何で。何でそろいもそろって新幹線じゃないの。」
「新幹線って、早いからな。」
「早いのが良いことじゃないの。」
「うん、でもそうじゃないんだよ。景色がどんどん後ろに流れていくのは見てて飽きないけど、寝台特急みたいに起きたら全く知らない景色が広がってるって言う楽しみはどこにもないからね。・・・うーん、飛行機で北海道に行くのと青函トンネル通って北海道に渡るのと同じような違いだな。」
「あっ、うん。分かんない。」
無理、私にはその感覚は理解できない。
18分の動画が終了すると私はホログラムを閉じた。
「次の動画には行かないのか。」
常陸がそう言うと、
「常陸兄は少し黙ってて。おじい、おばあ。本当に最長往復切符する気は無いの。」
「えっ。」
「する気があっても体力がねぇ・・・。」
「する気があってもお金がねぇ・・・。」
二人とも声を揃えて言う。おじいが「体力」、おばあが「お金」と言ったのは聞き取れた。ただ、どちらも「する気があっても」と言っていた。
「おじい、おばあ。私は最長往復切符の旅をして欲しい。昔私に言ってた広い日本を二人には見てきて欲しいなぁ。」
「・・・。」
「ああ、でも稲穂ちゃん。」
「・・・私の知ってる二人はそんな理由で行かないって決めるような人じゃ無いもん・・・。」
「その通り。稲穂の言うとおり。」
「・・・。」
二人は少しの間黙っていた。先に口を開いたのはおじいだった。
「そうだな。うん。」
「えっ、ちょっとナガシィ。旅程はゆっくりプランでも良いかもしれないけど、お金はどうするの。」
「今まで真面目にしてきたんだし、少しの散財くらいで罰なんか当たらないって。」
「・・・そう簡単な話じゃないでしょ。」
「そうだけど。僕の性格はよく知ってるでしょ、萌。」
「・・・ああ・・・、うん。」
おじいが先に席を立ち、おばあが席を立った。
「稲穂。二人が「最長往復切符の旅しない」って言ってたのは本当なのか。」
「本当よ。でも、これでしてくれるんじゃないかな。」
「まぁ、俺たちに播州さんの動画を見せてくれた人たちだもんなぁ・・・。俺も同じ鉄道ファンとして、二人には最長往復切符して欲しいしね。」
「・・・。」
後はこっちの仕事・・・だな。
登場人物
永島亜美の子供達
永島常陸:由来常磐線特急「ひたち」