530列車 ママの提案
(後ろを振り返りますと、こちらに猫が向かってくるんですね。何かもらえると思っているのかな。ひしひしとこちらに近づいてきます。・・・「ニャー」。鳴き出しました。・・・あら・・・。「ニャー」。あらー、君私に用があるんじゃなかったの。これはちょっと恥ずかしいですね。)
「・・・。」
目が覚めた。起き上がって、自分の手元に置いてあるホログラムを起動する。ホログラムには時刻が表示される。16時22分・・・。昼寝のつもりが少し長い時間寝ていたらしい。
あれから1週間くらいたった。おじいとおばあの話は完全に稚内行きに限定されてきている。本当に究極の旅行をする気は無いのだろうか。
「コン、コン。」
「誰。」
「稲穂。ママよ。ご飯作るの手伝ってくれない。」
「分かったよ、ママ。今行く。」
自分の部屋から出ると部屋の前でママが待っていた。
「ひばり姉は手伝ってくれなかったの。」
「うん、お姉ちゃんは手伝ってくれないの。またまた「ゼロ様マジイケメン」って言ってるわ。」
「ひばり姉・・・。そんなにイケメンが良いの・・・。」
「あら、稲穂も好きな男の子がいるでしょ。その人は稲穂にとってイケメンじゃないのかな。」
「ッ・・・。」
えっ、何でそのこと知ってるの。
「フフフ。ママには何でもお見通しなのよ。稲穂はいっつも「イケメンのどこが良い」って言うけど、言ってることが矛盾してるわ。枕の下にある男の子の写真・・・。」
そこまで知ってるなんて・・・。恥ずかしすぎる。
「ごめん、ちょっとからかいすぎたわ。」
台所に行き、いつものように準備を始める。食材を切ったり、野菜を炒めたり、慣れた手つきで事を進める。
「ねぇ、ママ。おじいとおばあ本当に究極の旅行する気無いのかな。」
と聞いた。
「・・・。」
ママはそれに何も答えなかった。
「稲穂はその究極の旅行をして欲しいのかしら。」
私は何も言わずに頷く。
「そうよねぇ。稲穂はおじいちゃんとおばあちゃんの間で一緒に播州さんの旅動画を見てたし、いつも二人の「いつか行きたい」って言う会話を聞いてたからね。究極の旅行をして欲しいって思うのも無理ないか。稲穂・・・それは私も同じ。」
「えっ。」
「ママだって、二人には最長往復切符の旅はして欲しいわ。二人の「いつか行きたい」を聞いていたのはママも同じだからね。同じ鉄道好きとして、近くでそういう話をされているから、是非とも二人には最長往復切符の旅をして欲しいのよね。」
「・・・ママって電車好きだっけ・・・てっきり、旅行が好きなんだと思ってた。」
「ママは旅行も好きだけど、鉄道も好きなの。まぁ、ママがそうなったのは私の両親への反骨だったんだけどね。」
「・・・。」
「でも、行くかどうかを決めるのはあの二人。私達がやって欲しいと思っても、あの二人にそれを強要することは出来ないわ。」
「お皿取ってくる・・・。」
「えっ、あっ、ありがとう。」
私はママの言葉を聞いて愕然としていた。逃げるように食器棚のほうへと行った。「強要することが出来ない」かぁ・・・。ママもそう思ってるって事はもう・・・。食器棚の扉を開けると数枚皿が落ちてきた。前にしまった時にしっかりと置かれていなかったらしい。落ちてきた皿は大きな音を立てて床に落ち、そして割れる。
「大丈夫、稲穂。」
「う・・・うん・・・。」
「ママ、今大きな音したよ。」
大きな音に北斗がやってくる。
「北斗、こっちに来ちゃダメ。お皿の破片で怪我するかもしれないから。」
そう言っている間にひばり姉が現れ、全てを察して、北斗をだっこして離れていった。「稲穂お姉ちゃんお皿割っちゃったの。」そんな北斗の声が聞こえる。それよりも割れたお皿を片付けないと、そう思い、ほうきとちりとりを取りに行こうとした時、
「痛っ。」
左足に痛みが走る。すぐに何が起こったのか察した。
「ひばり、救急セット取ってきてくれない。」
「分かった。」
「稲穂、後のことは全部ママがやるからゆっくりしてて。」
手当を捨て貰ってから、私はソファーに腰掛けた。そうなると手に何も持っていないのが気になり始める。
「メイチャン。」
私がそう呼ぶと白い色のロボットが反応する。
「オ呼ビデショウカ、稲穂様。」
「私のスマホ取ってきてくれない。」
「承知イタシマシタ。」
ロボットは頭を下げてから、足を動かして、私の部屋へと向かっていく。メイチャンはすぐにピンクのスマホを手に持ち戻ってきた。
「オ待タセイタシマシタ。」
「ありがとう、メイチャン。」
「ゴ要望ガ有リマシタラ、マタオ申シ付ケ下サイ。」
頭を下げて、ロボットは定位置に戻った。ふと気付くと膝の上が重くなっている。
「稲穂お姉ちゃんのおっぱい柔らかい。」
「やめて、北斗君・・・。てか、ひばり姉は遊んでくれなかったの。」
「うん、ひばりお姉ちゃん遊んでくれないんだもん。ちょっとスカートめくってパンツ見ただけなのに。だから、稲穂お姉ちゃんと遊びたいの。稲穂お姉ちゃんが遊んでくれるって言うまでおっぱいもんじゃう。」
それは絶対に遊んでくれないやつだ。
「・・・もう・・・分かったから。胸触らないで。」
「稲穂、北斗晩ご飯の準備できたから、おいで。」
ママが呼びに来ていた。
「ええ。稲穂お姉ちゃんと遊びたいの。」
北斗の手が私の胸をぎゅっとつかむ。
「北斗君。遊ぶのは晩ご飯が食べ終わってからにしよう。その後いっぱい遊んであげるから。」
そう言うと「うん、約束だよ。」と行って、走って行った。
「ねぇ、稲穂。さっきの話の続きだけどさ、ママは稲穂の「旅をして欲しい」って言う気持ちを二人に伝えてみたらどうかな。それで二人が行きたくないって言ったら諦めましょう。」
「・・・分かったよ、ママ。そうすることにする。」