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566列車 諸刃の剣

 2062年3月14日・火曜日(第7日目)天候:曇り時々雨 西日本旅客鉄道(ジェイアールにしにほん)山口線(やまぐちせん)津和野(つわの)駅。

「急げ。」

僕たちはあたふたしていた。起きた時間が6時35分だったのだ。荷物をまとめてすぐにホテルを出る。自分の歳など考えずに走り、津和野(つわの)駅に滑り込んだ。窓口で自分たちの切符を見せて、列車に乗り込む。列車は僕たちを待ってくれたのか、多少の遅れをもって出発してくれた。

津和野(つわの)6時47分→益田(ますだ)7時28分

40分ほど列車に揺られ、益田(ますだ)駅に到着。益田(ますだ)駅からは山陰本線(さんいんほんせん)に乗り、ひたすら東へ向かう。

益田(ますだ)7時43分→「快速アクアライナー」→出雲市(いずもし)9時56分

 朝方は知っていたせいか、僕たちはすぐに出雲市(いずもし)に着いた。「アクアライナー」に乗っている間ずっと眠っていたのだ。昨日の23時以降就寝は効いたらしい。

 出雲市(いずもし)からは特急「やくも」に乗り換える。「やくも」には長らく381系という振り子式電車が使われてきたが、老朽化に伴い車両が更新された。といっても、僕らからしたらかなりなじみのある車両に変わっただけである。

「来た、「ヨンダーバード」。」

「「ヨンダー」だな。これに変わってから「やくも」に乗るのは初めてだな。」

僕が続ける。

 かつて北陸特急「雷鳥」を置き換えた683系4000番台。通称「ヨンダーバード」。今はここで特急「やくも」として働いている。9両編成だった列車は4両編成にまで減車され、それで裁ききれないときは付属編成の増結で対応している。今日は基本編成の後ろに3両の付属編成がくっついている。

出雲市(いずもし)10時24分→「やくも14号」→新見(にいみ)12時33分

出雲市(いずもし)を出発。宍道湖などを望みながら、山陰本線(さんいんほんせん)を東に走る。伯耆大山から伯備線(はくびせん)へと入る。伯備線(はくびせん)はカーブが多い路線で、前に乗った381系特急「やくも」は車体を右へ、左へ傾けながら走っていたものだ。だが・・・。

「乗り心地良いねぇ。」

「さすが元「サンダーバード」。」

カーブにさしかかっても変な挙動をしない。それはそうなのだが、381系とは決定的に違うところがある。

 元々「やくも」に運用されていた381系は振り子式車両と呼ばれるものである。この車両の特徴は「カーブにさしかかると自然に車体を傾ける」と言うこと。カーブの多い中央本線(ちゅうおうほんせん)伯備線(はくびせん)紀勢本線(きせいほんせん)では381系の振り子がフル活用され、最大制限速度+20キロ(制限70キロなら381系は90キロで通過可能)という高速でカーブをクリアしていき、振り子のない特急型電車よりも速く目的地へ到達することが出来た。

 だが、この対曲線兵器振り子装置は諸刃の剣だったのだ。それがさっきの「変な挙動」という言葉につながるのだ。

 381系に搭載された振り子装置。これは遠心力によって車体が傾く。遠心力が小さすぎるとカーブでも振り子は作用せず、遠心力が大きすぎると直線区間でも作用する。列車は長い時間80キロ以上で走行出来るため振り子装置の作用のラグは大きいものとなってしまう。この「ラグ」が381系に足枷を付けた。中でも、車内にエチケット袋が備え付けられていたというのは最たる例である。そのために381系に運用する列車には不名誉なあだ名というものが付けられる事態にも発展しているのだ。

「前に381系に乗ったときはカーブを通り過ぎてから、振り子が動作する変な挙動があったからな。相当改善されてるよ。」

「そうね。智萌(ともえ)は吐いてたもんね。」

「そういえば、アレは大変だったな。あれ、僕たちと同じ「やくも」に乗ってたちびっ子も大変なことになってたな。」

「ああ、いたわね。そんな子。そういえば、あの子達は結局どうなったのかな。」

「ああ。確か、あのちびっ子のお父さんだったかな「スーパーまつかぜ」と「スーパーはくと」に乗って帰ることにするって言ってたな。子供は鉄道大好きっ子らしいんだけど、まさか酔うとも思っていなかったみたいで、「やくも」に乗って帰るのは辞めざるを得ないって・・・。まぁ、でも本当にどうしたのかは分かんないけどね。」

「私が智萌(ともえ)を介抱してる間にそんな話してたの。」

「ああ。まぁ。」

「鉄道の詳しいのかな。」

「そうなんじゃないの。」

最長往復切符往路備中神代(びっちゅうこうじろ)駅まで使用

備中神代(びっちゅうこうじろ)新見(にいみ)新見(にいみ)駅で運賃精算の上乗車


一口メモ

西日本旅客鉄道(ジェイアールにしにほん)289系5000番台

「サンダーバード」などに使われていた683系から交流機器を取り外し、特急「やくも」で長年運用していた381系特急型電車を置き換えた。また、転属に際して、低速域からの加速に重点の置かれたギア比に変更され、スピードのアップダウンの激しい伯備線(はくびせん)に対応している。しかし、振り子車両よりも所要時間が増大しているのは否めない・・・が、彼らの投入で「やくも」が「ぐったりはくも」と言われなくなったのは彼らのおかげでもある。


「やくも」

岡山(おかやま)出雲市(いずもし)間を結んでいる陰陽連絡特急の一つ。伯備線(はくびせん)の電化以後長らく381系という自然振り子式車両を使用していた。2010年代に入ると最後の国鉄車両で運行する唯一の定期特急列車となっていたが、北陸新幹線(ほくりくしんかんせん)敦賀(つるが)延伸時捻出された車両で381系が置き換えられたことで、国鉄形特急車両で運用する列車は無くなった。元「サンダーバード」、「しらさぎ」の車両を伯備線(はくびせん)で運用するため、彼らは加速重視のギア比に改造された上で「やくも」の運用に付いている。


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