563列車 「いそかぜ」ルート
2062年3月13日・月曜日(第6日目)天候:晴れ 西日本旅客鉄道山陽本線下関駅。
下関のホームにはディーゼルエンジンの音がこだましている。長いホームにぽつんと3両編成のディーゼルカーが止まっている。前に芸備線三次駅で見たキハ129系だ。両開きのドアは閉まっていて、その横に付いているボタンだけが緑色に光っている。
ボタンを押して、車内に入る。キハ40系にはあった段差はなく、車内はフラットになっているが、客車列車に対応したホームからは段差がある。階段を上るように扉を行くときはゆっくりとなる。
下関7時27分→長門市9時45分
「この列車は山陰線普通長門市行きワンマンカーです。次は幡生です。次の幡生ではホーム側の全てのドアが開きます。」
電子音声でそう案内される。キハ129系はしばらく山陽本線を走り、幡生から山陰本線に入った。
「見てみて、日本海だよ。」
山陰本線の眼下には日本海が広がる。僕らの持つ日本海の印象は荒々しいものであるが、今日の日本海は大人しい。それだけ、今日がいい日だということか。
長門市に到着すると次は美祢線に乗り換える。長門市を出発する前に美祢線のダイヤを見てみたが、結構スカスカだ。次に乗る9時56分の列車を逃すと次は12時03分。約2時間列車はない。
「来ましたよ。キハ120。」
嬉しくもないのに、萌はかなり嬉しそうな声でキハ120系を指さす。
「嬉しくもないだろ。」
「ええ。でも、みんな好きでしょ。」
「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い・・・だろ。僕は好きじゃない。」
播州さんの言っていたことをそのまま僕は萌に伝える。別にキハ120系が低性能だとか言うつもりはない。ただ、キハ120系が走っているところはとても遅い路線が多くなっている。車体が小さいキハ120系は山陰本線で乗ってきたキハ129系よりも軽い。路盤が強くない路線を走るのにただキハ120系がうってつけなだけなのだ・・・。
長門市9時56分→美祢10時33分
最長往復切符往路美祢駅で途中下車
キハ120系に30分ほど揺られ、僕たちは美祢駅で降りる。降りると萌はすぐさまトイレに走った。戻ってくるまで待っていないとなぁ・・・。
「お待たせ。」
「さっきのキハ120の中でトイレに行けば良かったじゃない。」
僕はホームの方を指さしたが、もうそこにはキハ120はいない。
「アレの中でトイレ行きたくないよ。」
「ちゃんと更新はされてるぞ。」
キハ120系も運行開始から平然と半世紀経っているからな。だが、
「ナガシィ、さっきトイレ行った後ウェットティッシュあるって聞いてきたでしょ。水が出づらいのは変わってないのね。」
「ハハハ。違いないね。」
よく分かってるなぁ・・・。
「ああ。終わった・・・。」
俺は帰されたテストの点数を見て落胆する。点数は77点。普段からラッキーセブンが二つでいいなぁと思うところなのだが、今日はそう思えない。この点数では二人の旅行に付いていくことはおろか、出掛けることも出来ない。俺の怖いお父さんとの約束だからなぁ・・・。
授業終了のチャイムが鳴って、俺は妹のいる教室に行った。
「稲穂。」
「稲穂。お兄ちゃんが呼んでるよ。」
ひょこっと顔を出すとクラスの女子が気付いて、稲穂を呼んでくれる。それに迷惑そうに返事を返しながらも、俺の方へ来てくれる。
「何、常陸兄。」
「テストどうだった。」
「今のところ全部満点よ。」
「いいなぁ・・・。」
「常陸兄はダメだったんだ。」
「ああ・・・。ああ、行きたかったなぁ。うまくすれば北海道にも行けるチャンスだったのに・・・。」
「・・・パパにここまで頑張ったんだって言えば、許してくれるんじゃないかな・・・。今回は珍しく一夜漬けでテストに臨まなかったわけだし・・・。」
「・・・一夜漬けだろうが何だろうが、結果が全てだよ。もう。それに、お父さんが許してくれるわけ無いだろ。満点なんてそもそもダメだったんだよ。」
「・・・そうかな。ママは「点数よりも過程が大事」って言うから。そう言うままにパパが影響されないって言えるかな。」
「満点は全部ブラフって事。」
「私はそう思う。」
「・・・それ信じるからな。」
「そうじゃなかったときに「裏切られた」とか言わないでね、常陸兄。」




