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776列車 謎のツイート

 2084年2月18日(第-5日目)天候:曇り時々雨 西日本旅客鉄道(ジェイアールにしにほん)東海道本線(とうかいどうほんせん)守山(もりやま)駅。

 朝ご飯を食べ終わると、僕たちは常陸(ひたち)の部屋に行った。部屋の中は少し暗く、ホログラムが起動している。ホログラムに移っているのはツイッターの画面だった。

「これが俺の中の大問題だよ。」

そう言い一つのツイートを僕たちに見せてくれた。そのツイートはかなりの勢いでリツイートされている。そして、返信も結構な勢いで飛んできている。もう今の時点で返信は200以上来ている。

「ただの昔の写真じゃない。」

稲穂(いなほ)が言う。

 僕たちに見せられた写真に写っているのはキロ65形気動車「ゆぅトピア和倉(わくら)」。その傍らには一人の女性がピースサインを向けている。プライバシーに配慮してか、その人の顔はツイッターのスタンプで隠されている。このツイートを投稿した人は今僕らが見ている景色でこの写真を撮ったと言うことだろう。稲穂(いなほ)はこの列車を知らないはずだが、写っているものの雰囲気から古い写真と断定したのだろう。

「分かったわ。」

亜美(あみ)ちゃんが言う。

「分かったお母さん。」

「ええ。この写真新しすぎるのよ。」

「新しすぎる。」

何か分からず、僕と(もえ)、そして稲穂(いなほ)の声がそろった。

「考えてみてくださいよ。この「ゆぅトピア和倉(わくら)」は大阪(おおさか)和倉温泉(わくらおんせん)間を結んでいた気動車特急です。」

「そうだな。」

僕は「ゆぅトピア和倉(わくら)」という列車がどういう列車だったのか知っている。亜美(あみ)ちゃんの言うとおりこの列車は大阪(おおさか)和倉温泉(わくらおんせん)間を結んでいた。大阪(おおさか)金沢(かなざわ)間では特急「雷鳥(らいちょう)」に牽引され、金沢(かなざわ)和倉温泉(わくらおんせん)間は自分のエンジンで走る列車である。これは乗り入れ先の七尾線(ななおせん)が電化されていなかったことと、気動車列車の速達性向上のために執られた措置である。

「あっ。」

僕と(もえ)は顔を見合わせた。僕と(もえ)は「新しすぎる」と言うことよりも「古すぎる」と言うことで理解した。

「そうです。この「ゆぅトピア和倉(わくら)」が走っていたのは1986年から1995年の間。この写真は今から100年くらい前に撮られたものでなければおかしいのです。でも、この写真には昔の写真にあるような特徴が一切見られません。そのうえに画質が良すぎるんです。だから、この写真炎上しているんでしょ。」

「さすが、母さん。理解するのが速いよ。」

「つまり100年前に取られていないといけないものが今取られたって事。」

稲穂(いなほ)も理解したらしい。

「そうよ。ホラー写真。」

「イヤァアアアア・・・。」

「ごめん、からかいすぎた。」

「・・・。」

常陸(ひたち)。この写真が炎上してるって言うのは分かったけど、何で炎上してるんだ。」

「それはこっちが聞きたいぐらいだよ何で100年前の写真が今の画質で撮れるんだよ。そんな奇想天外なことが起こるわけ無いだろ。」

「そう・・・だな。」

「・・・それだけじゃないんだって・・・。」

そう言うと常陸(ひたち)は別のツイートを表示した。今度は485系「雷鳥(らいちょう)」が写っている。485系「雷鳥(らいちょう)」の後ろにはさっき移っていた「ゆぅトピア和倉(わくら)」がかすかに見える。ツイートには文章が添えられており、「今から「雷鳥(らいちょう)」(「ゆぅトピア和倉(わくら)」)で金沢(かなざわ)に行きます。湖西線(こせいせん)の普通列車が少ないので、仕方ないです。#鉄道旅 #最長往復切符」と書かれていた。

「リアルタイムな投稿だな。」

投稿された時間の場所には「2D」と書かれている。2日前に投稿されたものだと言うことを示している。

「おかしいだろ。今、湖西線(こせいせん)には「こせいエクスプレス」ぐらいしか走ってないぜ。しかも、近江今津(おうみいまづ)行きの。金沢(かなざわ)まで行ける特急列車なんか走っていないのに、文章おかしすぎるんだって。何で2日前に金沢(かなざわ)行きの特急「雷鳥(らいちょう)」が走るんだ。俺そんな情報掴んでないぞ。」

「・・・。」

北陸新幹線(ほくりくしんかんせん)新大阪(しんおおさか)までのびて以来、関西圏から北陸への移動は完全に新幹線にシフトした。今、関西や北陸に住んでいる人で在来線の特急列車で移動すると言うことすら常識ではない。それどころか、そんな長距離を走る在来線特急列車が走っていたという事実すら知らないのではないだろうか。「雷鳥(らいちょう)」という名前すら知っているかどうか怪しいものだ。

 それに、今世界のどこを探しても、写真に写っている485系もキロ65形も無いのだ。常陸(ひたち)君の言うとおり、2日前に「雷鳥(らいちょう)」と「ゆぅトピア和倉(わくら)」の団体臨時列車が走ったとしても、こうはならない。

「これを僕たちに見せてどうするんだ。」

「これを投稿した人にこれの間違いを指摘するんだよ。俺も、鉄道ファンとしてこんな嘘は許しちゃいけないからな。」

「・・・。」

何もそこまでしなくても・・・。

「私はやんないわよ。分かんないもん。」

稲穂(いなほ)はそう言って、常陸(ひたち)の部屋から出て行った。僕たちだけが残ったが常陸(ひたち)のしようとすることには「そこまでしなくても」という意見が多かった。

「分かったよ。俺一人でこの人の嘘を正してやる。」

常陸(ひたち)はそう息巻いた。


一口メモ

日本国有鉄道485系

481系からの系譜を受け継ぐ、特急型電車。直流電源1500V、交流20kV50Hzと60Hzに対応し、日本の電化区間であればほぼどこでも走行出来る汎用性を持った。長らく日本の特急列車の筆頭として運行され続けていたが、2017年ダイヤ改正で全ての定期運用を終了。その後、臨時列車「きらきらうえつ」、「ジパング」、「宴」、「華」として運行を継続していた。


「雷鳥」

大阪から北陸方面を結んでいた在来線特急。1964年に運行開始、長らく関西圏から北陸方面に向かう特急列車として君臨した。国鉄民営化以後運行開始した停車駅の少ない「雷鳥」、「スーパー雷鳥」・「スーパー雷鳥サンダーバード」の運行開始以後、準じ「サンダーバード」に統合され、2011年に愛称消滅した。

北陸新幹線の敦賀~新大阪間の開業の際、「雷鳥」の愛称復活を望む声が多かったが、最終的に「つるぎ」が延長運転する形に収まり、「雷鳥」の復活はかなわなかった。


日本国有鉄道キロ65形気動車

日本中を走っていた気動車急行キハ58形気動車に新しい車体を載っけることで運行開始した全車グリーン車のジョイフルトレイン。「ゆぅトピア」の愛称がある。この車両を使い関西圏から能登半島和倉温泉へ「ゆぅトピア和倉」として運行していた。しかし、末期に深刻な故障が発生。修理されることなく廃車となった。


「ゆぅトピア和倉」

関西圏から能登半島へ向かう列車の起爆剤として、キロ65形気動車で運行された大阪~和倉温泉間を運行する特急列車。金沢までは「雷鳥」に連結され、高速牽引され、金沢~和倉温泉間ではディーゼルエンジンで走行していた。七尾線の電化が完了すると役目を「スーパー雷鳥」の七尾線入線列車が代替し、廃止された。


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