550列車 西の横綱
2062年3月6日・月曜日(第-1日目)天候:曇り 九州旅客鉄道日豊本線別府駅。
「すごいよ。この煙の量。」
歳を忘れているのか萌はそう騒ぐ。だが、そうなるのもわからなくはない。この眺めは壮観である。あちこちから白い煙が上がる。空気は冷えていて、煙はソフトクリームを作るのが失敗したかのような光景を僕たちに見せてくれる。
「ソフトクリーム作るの失敗してるみたい・・・。」
「ソフトクリームに例えないで。」
「・・・えっ・・・。いいでしょ。ソフトクリームに見えるんだから。」
「ナガシィ、あんまり甘い物禁止。」
「はいはい・・・。分かってるよ。」
僕も自分の年を考えないたとえだったかな。そう思って、萌の方を見ると目が合う。そうしていたら、笑いがこみあげてきて、二人で笑いあう。
「鉄輪温泉見て回る。」
「いいねぇ。」
ゆっくりと温泉街をまわるのはいいものである。温泉番付けの中で別府温泉は西の横綱だったかな。番付けで一番強いところなのだから、歩いていても風格が満ち満ちているというものだ。
「別府温泉って本当にいいところよねぇ。一度来てみたかったんだ。」
「僕たちが行った九州の温泉って、湯布院だけだもんね。」
「湯布院かぁ。なつかしいなぁ。もう何年前になるんだっけ。」
「今68だから、半世紀ぐらい前の話かぁ・・・。僕たちも若かったねぇ。」
「ああ、懐かしい。あの時はナガシィ私のパンツ見に来てたんだっけ。」
「ちょっと、違うことを言うのはやめてもらえますかねぇ・・・。」
かなりエロい話をしていたのは覚えているけど、そんなことあったっけ。
「・・・そうね。それは違ったわね。でも、寝起きに私のブラ見たでしょ。」
「あったっけ、そんなこと。」
わからない。僕が覚えてないだけか。自分の記憶を探ってみてもそういうことは出てこない。萌のブラを見たときのことはかなり鮮明に覚えているのだけれども。萌ってあんまり大胆な下着は着ないから、印章薄いだけ。それはあり得ないな・・・あっ。
「あったな。そんなこと。」
「もう、エッチ。」
「・・・僕のことをエッチっていう割には、よく萌からくるよね。萌も負けず劣らずエッチなんじゃないの。」
そういうと、萌は多少顔を赤くしてから僕の肩をたたいた。勢いがついていて、ちょっと痛い。
「私がナガシィよりもエッチとか・・・ないから。」
小さい声で話しかける。
「ないねぇ。覚えとく。」
「湯の花を作ってるところあったよねぇ。亜美ちゃんのドロイドの運転する車で連れてってもらおう。」
「分かった。」
平日でしかも観光地には不釣り合いのスーツ姿で僕らは車の止まっている方向に変針した。
今日も別府で止まる。旅館に戻る時間までゆっくりと時間は流れて行った。




