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MAIN TRAFFIC6 -日本一の切符2062-  作者: 浜北の「ひかり」
Wakasa-Obama→Uresino-Onsen Episode
23/254

548列車 大乱闘カープブラザーズの後に

 2062年3月5日・日曜日(第-2日目)天候:曇り 西日本旅客鉄道(ジェイアールにしにほん)山口線(やまぐちせん)津和野(つわの)駅。

 綺麗な水が流れる小川には多くの錦鯉が泳いでいる。その鯉たちに餌をやると「それは俺の餌だ」と言わんばかりの大乱闘カーブ君の開催となる。ある鯉は鯉の上に乗っかり、ある鯉は滝登りをするかのごとく跳ねる。バシャバシャと水音を立て、水面に体を打ち付け跳ね上げた水が、僕らの足下をぬらす。

「みんなせっかちさんばっかりだねぇ。もうちょっと落ち着けないのかしら。」

「お腹が空いてるんだよ。きっと。」

「・・・ナガシィは私が足らなくなったら服着たままでも・・・。」

「チョットナニイッテルノカヨクワカンナイ.」

「何か見てたら、だんだんとかわいそうになってくるわねぇ・・・。もうちょっと買い足してあげようかな。」

そう言うと(もえ)は立ち上がり、鯉の餌を買いに行った。残ったのは僕と小川を泳ぐ鯉たち。

「いるか。カーブ君。」

そんな風に話しかけてみる。もちろん、カーブ君が「欲しいに決まってんだろ」と言うことはない。

 (もえ)が餌を持って戻ってくると、僕の右隣に座る。

「はい、カーブ君。ご飯の時間ですよ。」

「・・・(もえ)ちょっとちょうだい。」

「えっ、ナガシィも食べたくなったの。」

「ああ。まぁ、ちょっと。」

「しょうがないなぁ・・・。はい、あーん。」

「いや、それはちょっと・・・。」

 最後は袋の中身をザザッと豪快に落とし、大乱闘カープ君は閉会となった。

 さて、西日本旅客鉄道(ジェイアールにしにほん)津和野(つわの)駅まで歩いて戻り、止まっている客車列車に乗り込む。これは「SLやまぐち号」だ。西日本旅客鉄道(ジェイアールにしにほん)は長らく使っていた12系客車(現在は大井川鐵道が所有)の客車を置き換える為、新型の旧型客車35系4000番台を新造した。5両編成の先頭にはC57形蒸気機関車、通称貴婦人が立つ。

「ボォォォォォォォォオッ。」

汽笛一声、客車はゆっくりと走り出す。津和野(つわの)駅のホームでは「SLやまぐち号」を見送る人たちがしきりに手を振る。車内にいる乗客もその人達に答えるように手を振り替えして、ホームから離れていった。

「ご乗車ありがとうございます。この列車は「SLやまぐち号」新山口(しんやまぐち)行きです。」

ハイケンスのセレナーデが流れた後車掌の肉声アナウンスが流れ始める。関西圏でも自動放送による案内が多くなってきているが、こういう所の情緒を出す為には肉声に勝るものは無い。

 列車は山へと分け入る。峠道に苦労しているのか、列車の足取りは遅い。時折、貴婦人は鼓舞するように汽笛を鳴らす。貴婦人の決意が客車にいる僕たちの耳にも届いてくる。

「ちょっと後ろのデッキ行ってみようよ。」

僕は(もえ)を誘った。

 後ろのデッキに行くと、そこは鉄道ファンであふれていた。みんなカメラを片手に後ろへ流れ去る景色を撮っている。その人並みに声をかけ流れ通り抜け、二人で本当の最後尾に来てみた。これは客車列車ならではの光景だ。2本のレールが後ろへと流れていく。少しばかり視線をずらせば、この列車を追って国道を走る車の群れを見ることが出来る。そして、視線を上にずらせば、貴婦人が履いた黒い煙が流れていく。

「「北斗星(ほくとせい)」もこんな感じだった。」

(もえ)が聞く。

「ううん。「北斗星(ほくとせい)」は後ろがカニ24だったから。」

「ああ、電源車かぁ。それは残念。」

「・・・。」

「ボォォォォォォォォオッ。」

「・・・あっ、まさか。」

嫌な予感がした。僕は(もえ)の手を握り、すぐに車内へと戻ろうとする。

「どうしたの。」

(もえ)がそう言ったとき、風景が黒に変わる。トンネルに入ったのだ。行き場を失った煙が展望室を包む。そうなった瞬間、後部展望室にいた全員が一斉に車内に戻ろうとする。入り口のあたりは結構な混雑だ。そうこうしているうちに列車はトンネルを抜けた。

「ゴホッ。ゴホッ・・・。」

「ゴホッ・・・、そういうことだったのね。」

「昔の人が走行中の列車の展望室に出ないって言う理由が分かった気がするなぁ・・・。」

「本当・・・ゴホッ。」


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