678列車 ・・・ほう・・・そうか・・・
2062年5月3日・水曜日(第57日目)天候:晴れ 東日本旅客鉄道奥羽本線弘前駅。
桜祭りを一通り見終わってから、私達はホテルに入った。さすがに今日から数日間はナガシィと同じ部屋に泊まるって事はないけど。
「ハァ・・・。人たくさんで疲れたね。稲穂もここまでお疲れ様。今日ほど電車に長く乗ったことないと思うから疲れたでしょ。」
「うん。おばあとおじいはこの旅行で毎日あれくらい電車に乗ってるの。相当疲れるわね。気が狂いそうと思われ。」
「ハハハ。気が狂いそうっていうのは確かにそうかもね。もう狂いそうじゃなくて、狂ってると思うけど。」
「それは笑い飛ばすようなこと・・・。」
「どうかした。」
稲穂ちゃん何か言いたそうだな。長年の勘がそう言っているのだ。
「いや。」
「いっちゃいなさいよ。おばあちゃんに。」
「・・・じゃあ。おばあっておじいと手をつなぐところあんまり見たことなかったから。」
「えっ。」
そりゃ、確かにあんまりつなぐことはないけど。
「ああ。そんなに珍しいかな。おじいちゃんは結構恥ずかしがりだから。こっちからつなぎに行かないとまずつなぐことはないかな。」
「おじいってそんなに恥ずかしがりなの。あんまりそんな風に見えないんだけど。」
「おじいちゃんにはおばあちゃんにしか見せない顔って言うのがあるって事よ。他の人がいるところは大体ツンツンしてるけど、私しかいない時はデレデレしてるんだから。」
「・・・なんか、同じ家族なのに隠し事をされてるような・・・。」
「フフフ。あっ、稲穂ちゃん。花輪線の中じゃ電車の話ばかりでつまらなかったでしょ。今は私の思い出話でも聞いちゃう。おじいちゃんの可愛いところもいっぱい聞かせてあげようか。」
「うん、聞かせて、聞かせて。」
僕たちは萌と別れてホテルの部屋に入った。
「常陸と一緒に旅行するのは久しぶりだよな。」
僕はそう言って荷物を置いた。
「ああ。ようやっとあの人ごみから解放された。」
常陸はそう言ってベッドに横になった。
「あの人ごみは繁忙期の「のぞみ」自由席と何ら変わらないって。」
「本当に、常陸は花より鉄道だな。」
僕はそう言った。
「だって、花なんてただ咲いてるだけじゃん。あんなのになんの価値があるのさ。」
「まぁ、そう言うなって。桜は春に咲いてほんの短い期間で散っちゃう。それが儚くもあり、美しいんじゃないか。今は分からなくても、そのうち分かるようになるよ。」
「そう言うもんかな・・・。」
「そう言うもんだよ。・・・さ、時間も遅いし、明日は早いし。そろそろお風呂入ってきたら。」
「・・・じいちゃん。」
常陸の声が聞こえる。
「なんだ。」
「その持ってる出補なんだけどさ。」
「最長往復切符がどうかした。」
「すっごく言いづらいんだけど・・・。」
「なんだよ。何かあったの。」
「・・・それ最長じゃないんじゃ・・・。」
「・・・ほう・・・そうか。」




